丹羽俊介(にわ・しゅんすけ)PMC代表取締役/クリエイティブディレクター
大手セレクトショップなどを経験後、2005年、「ミーン」を立ち上げる。ミニマルなデザインで、立体的で着やすいカッティングやシルエットの美しさを引き出すデザインを得意とする。ファッションブランド「ミーン」のデザインとPMC PERMANENTのディレクションを担いつつ、外部ブランドなどのデザインや店舗ディレクションを手掛け、外部ディレクター、アートディレクター、スタイリストとしても精力的に活動中。
長く大切に着られる、人が着て初めて完成する
PMCは現在、クリエイティブディレクターの丹羽俊介さんが手掛ける5ブランドを展開している。
それらに通底しているのは「長く大切に着られる服作り」「着て初めて服が完成する」という考え方だ。
この志向による服作りは、主軸の「ミーン」から始まった。
自然や旅からインスピレーションを得たアースカラーをベースに表現したナチュラルウェアとして2005年にブランドデビューし、10年目にリブランディングした。
大量生産、大量消費、さらに大量廃棄がもたらす環境への負荷……ファッション業界が抱える課題の根本要因は、服に対する価値観そのものにあるのではないか。
考察の過程で着目したのがドイツのプロダクトデザインだった。
「ドイツにはミニマルなデザインが多く、その根底には物を長く使うという考え方が文化としてあります。例えば家電にしても、デザインのディテールが少ないほうが飽きなかったり、壊れにくかったり、使いやすかったりしますよね。これは服にも通じると思うんです」と丹羽さん。
「ミニマルなデザインの服は見た目の印象は控えめだけれど、着たときに素材の良さやシルエットの美しさなどを実感します。人が着て初めて完成する、人の内面の豊かさを引き出す、"人"を主役としたデザインを追求することに決めたんです」。
以来、ミニマルをベースとしながら、フレンチオーガニックコットンを使ったシンプルで機能的なシャツのブランド「BRăILA(ブライラ)」、ヨーロッパを中心に収集したミリタリーやワークウェアをリサイズ、リメイクする「BLAW(ブラウ)」、不要な要素を可能な限り削ぎ落したシルバーアクセサリー「P.M.C.(ピー・エム・シー)」も展開。そして22年には、デニムやスウェット、Tシャツなど「誰でも知っていて、いつでも着たいと思うアイテム」に焦点を当てたプロダクトブランド「PMC PERMANENT ICONIC(PMCパーマネント アイコニック/以下、アイコニック)」を立ち上げた。
- シンプルながらディテールにこだわった「ミーン」
- 着たときに美しいシルエットを生むよう計算されたパターンが特徴の「ブライラ」
- ワークウェアなどをリサイズ、リメイクした「ブラウ」
- タイムレスに楽しめるシルバーアクセサリー「ピー・エム・シー」
アイコニックは「いつまでも変わらない、PMCを象徴するアイテム」と位置づける。
その象徴として製作したのは、デニムのブルゾンとパンツだ。
岡山のデニムメーカーで数々の素材の企画・開発やデザインに携わってきたスペシャリスト、矢野義明さんによるプロダクト。
ブルゾンもパンツもトレンドに関係なく、愛着を持って長く着られることを前提に、「ビンテージ感よりもきれいさを重視している」と矢野さんは言う。
シルケット加工を施した国産デニムを使うことで上品な光沢を醸し、すっきりとしたシルエットは様々なコーディネートに対応する。
「ポケットは隠しカンドメで補強、裏も美しく感じられるようパイピング処理を施す、パンツの裾はあえてルイスミシンで仕上げる」など細部にまでこだわり、試行錯誤を重ねて作り上げた。
- 「PMCパーマネント アイコン」のコーディネート
- 「PMCパーマネント アイコン」のデニムブルゾン。グレーは糸もグレーできれいな仕上がりに
これらブランドのサンプルを作り、小売店向けに必要な分だけ小ロットで生産する一方、消費者向けにカスタマイズしたり、生地選びからのビスポーク(注文服)にも対応する。
さらには外部ブランドの縫製も担うなど、多様な取り組みが連携する拠点として22年12月に立ち上げたのが「ワンストップアパレルファクトリー(以下、ファクトリー)」だ。
客やブランドと一緒に「伴走型」の服作り
ファクトリーには大きく4つの機能がある。自社や外部のブランドのデザインやパターン、ディレクション、プロモーションのビジュアル制作、店舗の内装などを手掛ける「PMC OFFICE(PMCオフィス)」、縫製工場の「ATELIER PMC(アトリエPMC)」、転写プリント工場の「PMC HIGHINCOME(PMCハインカム)」、自社ブランドの販売やギャラリー、レンタルスペースの機能を担う「PMC PERMANENT(PMCパーマネント)」だ。
同じビル内にこれらの機能を備えることで、小ロットのアパレル生産から販売までをワンストップで可能にした。
アトリエにはデニムやキャンバス地などの厚物を縫える巻き縫いや二本針、インターロックなどのミシンが充実。企業向けは1型30~50枚の生産だが、すでに様々なブランドが活用し、常に数百枚が動いているという。
今後とくに力を入れていくのが、アイコニックで展開を始めたデニムのブルゾンやパンツのカスタムオーダーとビスポークだ。
サンプルを基に、客の好みや要望に応じてステッチの色やボタンを替えるなどカスタマイズしていく。
よりオリジナリティーを求める客に対しては、採寸し、型を起こしてオンリーワンのアイテムに仕上げる。
生地は現在、オーガニックのデニム、ビンテージライクのデニム、シーアイランドコットンを揃え、さらに選択肢を増やすことでビスポークジーンズの満足度を高めていく考えだ。
「お客様と一緒にデザインしていくというか、会話しながら服を完成させていく。伴走型の服作りを通じて、お客様が服を大切に着続けることにつながっていけばと思うんです。サステイナブルだからカスタムやオーダーに取り組むのではなく、長く大切に着たいと思える服を作る経験によって、結果的にサステイナブルになっていくという考えです」
- 2階にある「PMCアトリエ」。岡山の産地と同レベルの厚物用ミシンが揃う
- サンプルを基に色や縫い方などを比較し、オーダーを体験
- 厚物に対応するミシンが充実
ハインカムはシルクスクリーン印刷、転写プリントの設備を備えた工場。
ここで作られたオリジナル商品のショールーム兼販売スペースでもある。
ハインカムは中目黒で創業40年余りのプリント工場で、小ロット生産を軸にベテラン職人の山本太郎さんが腕を振るってきた。
PMCもプリント物を発注する取引先だったが、「建物の老朽化に伴い、移転か廃業かを考えているという話を受けたんですね。ファクトリーの計画を伝え、一緒に中目黒で物作りをしていこうと意気投合したんです」。
ちょうどその頃、PMCが入居するビルの1階が空き、「運にも恵まれてプリント機能も備えたファクトリーになった」。
現在は協業形態で、23年4月からPMCの事業体になる。
ブランドや企業、個人客からシャツやトートバッグなどへのプリントを請け負い、すでに著名ブランドのイベント用ノベルティーを受注するなど好調に推移している。
- 駒沢通りに面した「PMCハインカム」
- シルクスクリーン印刷機、転写プレス機を備える
- ベテランの職人が一つひとつの製品を仕上げる
PMCパーマネントは、もともとはPMCのブランドを提案するショップだったが、ファクトリーのオープンを機にコンセプトスペースに転換した。
「長く使えるもの」を基本に、そのプロダクトのコンセプトやシーズンに応じて編集する。
PMCブランドの販売はもとより、アパレルや雑貨などのブランドによる展示会やポップアップ、クリエイターのギャラリーとしても活用できる。
ブランド側が企画し、ファクトリーで生産した商品を展示・販売することも可能だ。
インスタグラムで人気のブランドがそのような活用の仕方をして、即完売になったケースもあるという。
これからブランドを立ち上げたいという個人や小規模なブランド、テストマーケティングをしたいブランドにとっては、小ロットで生産でき、販売の場も提供するファクトリーはうれしい存在だ。
PMCオフィスでは丹羽さんが培ってきたノウハウやネットワークを生かし、ブランドの立ち上げ支援も担っている。
- ハインカムの隣りにはコンセプトスペース「PMCパーマネント」
- ブランドの展示会、ポップアップに活用できる。取材時は「ブライラ」のシャツを展示
- 10階の「PMCオフィス」はPMCのシンクタンク
ファクトリーはビジョン実現への第一歩
PMCは1989年に丹羽さんの父が興したパッケージデザインの会社で、プロダクト・マーケティング・カンパニーの略称。
丹羽さんが引き継いでからは、「PはPersonやProductなど、MはMediaやMarketingなど、CはCreativeやCompanyなど様々な要素が交わるところというイメージでPMCを名乗っている」。
それらの要素をコンテンツ化して集積した場がファクトリーだが、「実現したいビジョンの、まだ第一歩」という。
将来的には「一棟の建物内で衣食住を網羅したい」と丹羽さん。
ファクトリーの各機能があり、ショップがあり、スクールがあり、レストランやビューティーサロン、ホテルもラウンジもある。
ライフスタイルを構成するコンテンツの複合型施設を構想している。
そのべースとなるファクトリーを継続していくために重視しているのがスクール。
アトリエの縫製を担う人材を育てる場である。
「サステイナブルへの取り組みが当たり前になった中で、これからを考えたときに今、何をするのか。僕が辿り着いたのは人材の育成でした。縫い手を育てることによって、安定した服作りが可能になります。で、作ったものはショップでしっかり販売していく。小ロットの服作りと販売の積み重ねで、結果的に必要とされるものが大量に売れている状態になる。そういう取り組みが巡り巡って社会のためになったり、環境への負荷の軽減に役立っていくというイメージです」
食や宿泊の施設は、インバウンドへの対応も想定している。
PMCオフィスでは店舗の内装もディレクションしていることから、「住空間の提案にも生かしていきたい」とする。
この複合型のビジネスモデルを東京で確立し、地方都市にも広げていくことで、各地の伝統工芸などと協業でプロダクトも開発し、新たな地産地消を生む。
さらに、そうしたプロダクトを紹介するショールームをパリで展開することまでがPMCのビジョンだ。
その第一歩を「最も得意とするアパレルからスタートした」。
今後の展開が注目される。
写真/野﨑慧嗣、PMC提供
取材・文/久保雅裕
久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター
ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。