3つの「UN」を守りながら、ブランドの進化と深化へ「更新」する

アンスリードは、フェミニンなモード感で20代女性を中心に人気の「MURUA(ムルーア)」を手掛けた萩原桃子が2016年に立ち上げたファッションブランド。アシンメトリーなど斬新なデザイン、国内の職人の手になる複雑なプリーツ、絶妙なバランスで立体的なフォルムを形成する構築的なタック、服に優美な変化を生むドレープを取り入れたアイコニックなディテールを特徴とし、厳選した生地を使い、職人のクラフトマンシップにより1点1点作り込まれたハイクオリティーなウェアは、さながらアートピースのよう。デビュー以来、30~50代の大人の女性を中心に厚い支持を集めているのは、モードなファッション表現に加えて、体型を美しく見せるシルエットやストレスフリーな着心地も追求し、デイリーウェアとしての新しい価値観を体現してきたからだろう。
その背景にあるのが、「UN STANDARD」、「UN SIMPLE」、「UN SIMILAR」という3つのアンチテーゼだ。「標準的ではない=常識にとらわれない」、「単純ではない=一見シンプルに見えるものでも、どこかに意外性や違和感を持たせる」、「類似しない=既視感のあるものではなく、アンスリードならではの視点を提案する」。当たり前と思われていること、既成概念に疑問を持ち、個性や感性の自由な在り方を大切にすることで得た視点で、「今までありそうでなかった価値観」を服に体現し、着る人の個性を引き立てるスタイルへと収斂させていくことがアンスリードの真骨頂だ。

2021年春夏コレクションより
2021年春夏コレクションより

荻原の退任に伴い、24年春夏シーズンにデザイナーは交代したが、3つの「UN」に象徴される思想からブレることなく、新たな挑戦をしてきた。「現在のデザイナーはブランドの立ち上げ時からデザインチームの一人として服作りに携わってきました。根幹にある思想は変えず、新たな表現に取り組んでいます」と、アンスリードPRの望月奈々美さん。それまではきれいめなドレスなどフェミニンなスタイルが主体だったが、オーバーサイズのTシャツやオールインワンなどメンズライクなアイテムを取り入れ、カラー展開もベージュやブラック、グレージュなどをベースに挿し色を使うなど、「従来のアンスリードにはあまり無かった要素をプラスすることでブランドとしての進化・深化を図っている」。また、もともとストレスフリーな着心地を重視した服作りを行ってきたが、ブランドデビュー時から「細身で着丈が長い」というイメージがあることから、改めて見直しているのがサイズ感だ。「より多くのお客様にブランドを楽しんでいただけるよう、アンスリード独自のシルエットや構築性を維持しながら、着用しやすさとのバランスを意識した調整を進めている」。

2025年春夏コレクションより
2025年春夏コレクションより

「更新」への10の視点と、クリエイターらによるブランド哲学の再解釈

ブランドの哲学を守りながら、ファッション表現や服作りへのアプローチを少しずつ更新し続け、今秋冬にはデビュー10周年を迎える。記念すべき年だが、過去を振り返るのではなく、次の10年、20年へ向けて自らを大きく「更新」し、新たな基盤を築く年と位置づけているのは、このブランドらしい。更新への取り組みとして、ブランドコンセプトの3つの「UN」を含む10のキーワードを設定、10の視点でアンスリードの思想を捉え直し、可能性を検証するプロジェクト「10 KEYS OF “UN”」をスタートさせた。
①UN STANDARD(新しい基準をつくる。UN3D.は、常識のその先から始まる)、②UN SIMPLE(思考から生まれるかたち。削ぎ落とすことで、輪郭は研ぎ澄まされる)、③UN SIMILAR(唯一であること。比較ではなく、存在そのものが個性になる)、④UN SEEN(まだ出会っていない美しさ。ディテール、影、構造、内側に宿る魅力)、⑤UN EXPECTED(心を動かす出会い。服が、人が、自分を前へ進める瞬間)、⑥UN EDITED(進化し続ける。完成ではなく、更新を選ぶ姿勢)、⑦UN WORN(着ることで息づく。服は、日常の中で完成していく)、⑧UN FORGETTABLE(心に残る記憶。人生の一場面に寄り添う服)、⑨UN CONNECTED(心地よい距離感で。それぞれが自由に、確かにつながる)、⑩UN YOU(あなたとつくるUN。UN3D.は、着る人とともに変化する)。
これらキーワードに基づき、アンスリードとは異なる背景を持つブランドやクリエイターと共に様々なプロダクトを開発し、2月から続々と発表している。

  • COTTON RESEARCH CLUBとの第2弾コラボ「倉敷染」のTシャツ。第1弾では「有松絞り」し、日本の物作りにこだわる
  • UNITED NUDEの新作モデル「Delta 3D Sandal」をベースに、「Rico Sanda」と「Delta Sun」の要素を融合した「Delta 3D Sandal LTD.」
  • 52 by HIKARUMATSUMURAがアンスリードの服との相性を意識して再構築した「FLAT TOTE」とサボテンをモチーフにした「SABOTEN CHARM」

「A BATHING APE(ア ベイジング エイプ)」でディレクションを担当してきた山野辺一徳・勧二兄弟によるメイド・イン・ジャパンのブランクボディブランド「COTTON RESEARCH CLUB(コットンリサーチクラブ)」、建築的なアプローチによる靴作りで靴の概念を塗り替える「UNITED NUDE(ユナイテッド ヌード)」、「BAO BAO ISSEY MIYAKE(バオバオ イッセイミヤケ)」のデザインを手掛けたデザイナー松村光によるライフプロダクトブランド「52 by HIKARUMATSUMURA(ゴジュウニ バイ ヒカルマツムラ)」、アメリカを代表するワークウェアブランド「Dickies(ディッキーズ)」、他にもコラボを控えている。挑戦・実験を続けるブランドとの対話と物作りを通じてアンスリードの進化と深化へとつなげていく試みだ。

Dickiesとは、袴風のシルエットにダブルウエストデザインを取り入れた「W WAIST WIDE PANTS」も製作
初コラボとなるDickiesと共に、ビッグシルエットのワイドパンツをオールインワンに再構築した「BIG PANTS AIO」

一方、アンスリードのブランド哲学を異なる視点に適用したときにどのような可能性が生まれるのかを探るプロジェクト「UN3D. OTHERS(アンスリード アザーズ)」も始動した。カテゴリーに縛られず、多様なブランドやクリエイターの視点でアンスリードの哲学を解釈してもらう実験的なアプローチだ。その第1弾として、山野辺兄弟によるメンズコレクションを26-27年秋冬シーズンから展開する。「デザイナーズブランドに必要なのは強い個性だけではなく、時代を超えて機能する強い哲学だと私たちは考えています。アザーズは哲学の実証実験であり、近未来へ向けた思想的な基盤作りでもある。その意味で今回のメンズコレクションは、初期に展開していたメンズラインの復活やウィメンズからの派生、カテゴリーの拡張ではなく、同じ哲学から生まれたもう一つの構造体」と望月さん。今後もジャンルを問わず、ブランドやクリエイターとの協業を進めていく考えだ。

山野辺兄弟による「アンスリード アザーズ」のメンズコレクション
山野辺兄弟による「アンスリード アザーズ」のメンズコレクション

今春夏は「地層」がテーマ、過去から未来へと連続する時間の積層を表現

現在展開中の26年春夏コレクションは、10周年の始まりと10年間の時の積み重ねから着想し、「STRATA(地層)」をテーマに据えた。幾重にも堆積した地層に刻まれた時間の流れ、その質感や重なりの美しさをアンスリードらしい知的でモードな構造体としての服へと再構築した。有機的な曲線とサイケデリックなムードを融合し、未来的なフォルムに昇華させることで、過去から未来へと連続する時間の積層を表現したコレクションだ。

26年春夏コレクション。「TIE-DYE STRIPE AIO」のルック

「TIE-DYE STRIPE AIO(タイダイストライプオールインワン)」は、ストライプに幾何学柄をミックスし、タイダイで地層を表現したアートな一着。インパクトのある色柄だが、上身頃を無地のカットソーで切り替え、顔まわりをすっきりさせることで派手な印象を与えない。立体的なタックデザインはゆったりとしたシルエット、快適な着心地を生む。
オリジナルグラフィックをプリントした「STRATUM GRAPHIC T-SH(ストレイタムグラフィックティーシャツ)」は、過去から未来への時間の連続を象徴するアイテムだ。グラフィックデザイナーが地層の積み重なりやデジタルの波形のイメージをポップなカラーリングで表現したアート作品をボディにプリントした。ユニセックス仕様でメンズサイズも展開する。
地層のイメージを異素材ミックスによるフレアスタイルに体現したのは、「STRATUM TENT FLARE OP(ストレイタムテントフレアワンピース)」。ウエストから裾へと広がるテントシルエットは体型をカバーし、スタイルアップして見せる。カーブを描いて大きく開いた背中もデザインポイントだ。

「STRATUM TENT FLARE OP」
「STRATUM GRAPHIC T-SH」

定番もシーズンカラーなどで新たな表情を見せる。繊細で上品な光沢感を備えたクリスタルプリーツのオールインワンは、春夏の人気アイテム。体のラインを拾わないシルエット、ストレスフリーの着心地に定評があり、1枚でもTシャツやタンクトップと組み合わせてもスタイルが決まる。夏の一番人気は、「ROUND BOX COCOON PT(ラウンドボックスコクーンパンツ)」。薄手で軽く、それでいて耐久性のあるタイプライター生地を使ったシリーズで、今季はテーマの一つである「アーチ」を立体的に表現した。同素材のトップスとセットアップでも楽しめる。ブラック、グレー、ブルー、イエローの4色を展開するほか、バイカラーもある。通年で人気なのは「ASYMME LAYERED PT(アシメレイヤードパンツ)」。一見してスカートのようだが、生地をアシンメトリーに重ねてタックワークでボリュームを出したワイドパンツで、様々なトップスと合わせやすく、万能パンツとして好評だ。

  • 「CRYSTAL PLEATS AIO P」
  • 「ROUND BOX COCOON PT」
  • 「ASYMME LAYERED PT」

デザイナーが交代して以降、デザインチームにも新たなメンバーが加わり、それまでは無かったデニムアイテムも作るようになった。今季の推しは「WAVE LINE SIDE RIB DENIM PANTS(ウェーブラインサイドリブデニムパンツ)」。反応染めにより色落ちしにくくし、リジッドな表情を長くキープできる生地に仕上げた。特徴的なのはウエストの両サイドに配置したリブ。「大人の女性のお客様が多い中で、ウエストが気になるけどデニムにウエストゴムは抵抗があるという方もいます。そこで両サイドに緩やかなカーブを描くリブニットをはめ込むことで穿きやすくしたんですね。ネガティブな要素をポジティブなデザインで解消」し、構築的なデザインと実用性を両立したモードなデニムパンツだ。

「WAVE LINE SIDE RIB DENIM PANTS」

クリエイティブとビジネスが両立する持続可能なデザイナーズブランドへ

アンスリードの直営店は現在、都内、横浜、名古屋、大阪に6店舗。その核となっているのが南青山の旗艦店だ。ブランドを設立した16年に出店して以来、30~40代を中心に、自分らしい価値観やスタイルを大切にする女性たちの支持を集めてきた。「更新の年」と位置づける今年は、ブランドの世界観を空間全体で体現する青山店で新たなプロジェクト「CURATED SPACE(キュレイテッドスペース)」を6月に始動した。ファッションだけでなく、ビューティーやアート、カルチャーなどカテゴリーを超えてブランドやクリエイターのプロダクトを提案し、新しい体験価値を生む空間を目指す。

  • 店舗空間はブランドカラーのブルーとシグネチャーモチーフのトライアングルを軸に構成。中央に配置されたブルーの石のオブジェが印象的
  • 両サイドにはどっしりとした木の柱が立つ
  • フィッティングルームには、16年の出店時にアーティストの佐々木可菜子が描いた絵画

「コラボレーションしたブランドのインラインのポップアップストアはもとより、アーティストの個展など、様々な企画を毎月実施する予定です。青山店を単に商品を販売する場所にとどめず、新たな感性や価値観に出会えるプラットフォームとして発信していきます」と望月さん。第1弾としてフォーカスしたのは、デザイナーの稲井つばさが21年に立ち上げたジュエリーブランド「duoctria(ディオクトリア)」。1つの対象を複数の視点で表現するキュビズム的思考から構築されたジュエリーは、見る角度や着け方によって表情が変化する多面性が魅力だ。また、キュレイテッドスペースにはビンテージセレクトショップ「lilamusée(リィラミュゼ)」を常設する。普段は来店予約をするかポップアップストアでしか触れられない、リィラミュゼの目利きで買い付けたヨーロッパのアンティークとビンテージを体感できる。
「更新の年」を経た27年春夏シーズンから、ブランドは新たなフェーズへと進む。国内市場だけでなく、グローバル市場も視野に入れ、アジア圏を中心に「ブランドの価値を共有できる販路を慎重に広げていく」考え。海外では現在、台湾・香港のセレクトショップに販路を持ち、特にトウキョウベースが運営するセレクトショップ「STUDIOUS(ステュディオス)」の中国店舗での取り扱いが増加中だ。アンスリードはその思想や前衛的なデザインの印象が強いが、引き続き服の構造美や独自性を磨きながら、今後は実店舗における購買体験の向上や、ブランドの世界観や商品背景をより深く伝えるメディアとしてのECの充実、国内外の販路開拓など販売面も強化する。「クリエイティブとビジネスが両立する持続可能なデザイナーズブランド」へと歩みを進める。

写真/野﨑慧嗣、マークスタイラー提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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