「アウトドア×コンディショニング」のシナジー

「ザ・ノース・フェイスは『NEVER STOP EZPLORING(あくなき探究心)』をタグラインとし、ヒマラヤ登頂など未知の領域への挑戦から、初めてアウトドアをする子供たちの好奇心までカバーできるブランド。一方、ニュートラルワークス.は『24時間365日を豊かにする』ことをコンセプトとし、身体を整えるコンディショニングウェアを中心にアスレチックからライフスタイルまでの領域をカバーしています。どんな挑戦も身体と心が良い状態でないと成し得ません。その意味で両ブランドの親和性は高い」とゴールドウインの大坪岳人ニュートラルワークス.事業部長はいう。
これまでザ・ノース・フェイスの直営店は、立地条件やターゲットに応じてコンセプトの異なる店作りをしてきた。ザ・ノース・フェイスを核にゴールドウインの複数のブランドをクロスオーバーしたコンセプトストア「ザ・ノース・フェイス プラス」も展開するほか、マリンウェアブランド「HELLY HANSEN(ヘリーハンセン)」との複合店も鎌倉に出店し、地域を重視した店作りに取り組んでいる。一方、ニュートラルワークス.はゴールドウインの中でも若いブランドで、ショップ事業としてスタートし、ゴールドウイン社内のブランド商品をセレクトして販売していた。2021年からオリジナルアイテムを展開し、東京・日比谷、恵比寿、大阪・梅田に単独で出店するブランドへと成長してきた。ザ・ノース・フェイスとニュートラルワークス.、2つのブランドを掛け合わせることで、「1×1が3にも4にもなる」価値を創発していく考え。その際に特に意識しているのは「地域」だ。
「ザ・ノース・フェイスもニュートラルワークス.も、直営店の出店はショッピングのみを目的とする人たちが来街する地域に絞ってきました。渋谷や原宿は象徴的で、これら地域だけでもザ・ノース・フェイスは異なる切り口の店舗を複数出店しています。ただ、そうした地域が再開発に伴い減少しているため、ここ数年は出店エリアを生活と仕事の場へとシフトしています。例えば恵比寿は渋谷区ですが、買い物だけをするために訪れる地域ではなく、基本は生活と仕事の場です。ニュートラルワークス.の恵比寿店は、その戦略に沿ったもの」と大坪さん。同じ観点で吉祥寺は出店候補に挙がっていたという。「吉祥寺は幅広い世代が混在する生活と仕事の場で、大手チェーンもあるけれど、新旧の個店もたくさんある。渋谷・原宿や新宿とも違う、音楽やアート、漫画、食など多様なカルチャーがミックスされているエリアでもあります。ザ・ノース・フェイスもニュートラルワークス.も店舗が無かったエリアだからこそ、新たにライフスタイルに根づいていくカルチャーを提案できるのではないかと思いました」と出店の経緯を話す。
吉祥寺にザ・ノース・フェイスの店舗が無かったとは意外だが、奥多摩や高尾山、さらに山梨や長野など自然へのアクセスが良く、アウトドア人口が多いことからブランドの需要は既に存在する。ザ・ノース・フェイスを取り扱う古着店や、本国から仕入れて日本で販売する並行輸入店の人気ショップも存在し、ファッションとして購入する層もいれば、アーカイブのコレクターも多い。また、特にコロナ禍を経て、スニーカーで通勤する人が増えるなどビジネスウェアのカジュアル化が進む一方、心身の健康への関心もより高まった。「ライフスタイルの変化・多様化が進んだ中で、吉祥寺界隈に暮らしている人たち、来街する人たちに対して、スポーツ専門店ともファッション専門店とも異なる、この地域だからこその店作りをしていく」としている。

汎用性の高いベーシックに機能が凝縮されたアイテム群

総売り場面積は約160㎡。1階と2階はほぼ同面積で、3階は少し小さいが、開放感が魅力のテラスが屋外に拓けている。エントランスとなる1階のテーマは「ライフスタイル」。ザ・ノース・フェイスとニュートラルワークス.のアパレルや雑貨に加え、ヘルシーな飲食品も扱い、日常生活からビジネスまでを網羅する。2階は「アウトドア/アスレチック」。2ブランドから軽登山やランニングなどライトアクティビティーからコンディショニングまでをサポートするプロダクトを集積している。3階は「キャンプ/キッズ」の括りで、キャンプ関連のウェアやギアを軸に、キッズのアウトドアウェアを充実させた。いずれのフロアも木やモルタルなど再生可能な素材を使い、随所にグリーンを配置。自然でクリーンな空間に2ブランドを融合させている。電力も再生可能エネルギーのプラットフォーム企業、アップデーターのグリーン電力「みんな電力」を使用し、環境に配慮した店舗運営に取り組む。

1階では「ライフスタイル」をテーマにザ・ノース・フェイスとニュートラルワークス.のアイテムをミックスして提案
ゴールドウインが環境保全の取り組みとして推進する服のリサイクル活動「GREENCYCLE(グリーンサイクル)」の回収ボックスも設置。メーカーやブランドを問わず服を回収し、原料等へと循環させる

1階のアパレルは23-24年秋冬の新作や定番を中心に、日常生活でのファッション性や機能性が意識されたアイテムをゾーニングした。スポーツとユーティリティーをキーワードにファッションアイテムとスポーツの機能性をミックスするブランド「nanamica(ナナミカ)」とTHE NORTH FACEがコラボした「THE NORTH FACE PURPLE LABEL(ザ・ノース・フェイス パープルレーベル)」は、まさに吉祥寺店と愛称の良いアイテム揃えだろう。「Denim WINDSTOPPER Field jacket(デニムウィンドストッパーフィールドジャケット)」は、リサイクルポリエステルとコットンによるオリジナルのデニム生地を使い、自然なムラ感と深みのある色合いを表現。1960年代のデニムジャケットをベースに、アウトドアのディテールをミックスしたデザインは、タウンユースに活躍する。
「THE NORTH FACE MATERNITY+(ザ・ノース・フェイス マタニティプラス)」も注目だ。ザ・ノース・フェイスでは妊娠、出産、育児をする女性に向け、19年にマタニティラインをスタートさせた。22年には男性の視点も加え、ユニセックスラインを強化。23年秋冬では赤ちゃんを抱っこしながら着用でき、温かさを保てる中わたジャケット「CR Insulation Jacket(シーアールインサレーションジャケット)」を提案している。「双子が産まれた社員が赤ちゃんとお出掛けするときなどに『あったらいいな』と思うウェアを探したが、見つからず、自ら開発したもの」という。ニュートラルワークスでは、海の産業廃棄物の一つである漁網をリサイクルナイロンに再生し、リサイクルウールと混紡した糸を使った「FISHAND(フィッシュアンド)」シリーズも展開する。古くから漁師たちに着用されてきたフィッシャーマンニットを今の技術で再現し、ミニマルなデザインに仕上げた。

「Denim WINDSTOPPER Field Jacket(デニムウィンドストッパーフィールドジャケット)」
マタニティプラスの「CR Insulation Jacket(シーアールインサレーションジャケット)」
廃漁網をリサイクルした「FISHAND Sheeps / Fisherman Sweater(フィッシュアンド シープス/フィッシャーマンセーター)」

レジ横から店奥に広がるスペースでは、ザ・ノース・フェイスとニュートラルワークス.の開発力を生かしたビジネスカジュアルを展開。「ジャケットとパンツを中心に動いている」という。
ニュートラルワークス.の「RABI/TAILORED JACKET(ラビ/テーラードジャケット)」は、縫い目なく仕上げる圧着技術でフラットな表情を追求し、裏地のない一重仕立てにより軽量で快適な着心地を実現した。ポリウレタンを使わないポリエステル100%の生地は、撥水性、速乾性、ストレッチ性に優れる。ユニセックス仕様で、家庭洗濯もできる点も受け、21年に発売して以来の人気アイテムだ。
「CPO SHIRTS(シーピーオーシャツ)」は、表地に上質感のあるウールフラノ、裏地に薄手ながら保温性の高いオクタフリースを使用。ゆったりとしたシルエット、左胸の大きめなポケットが特徴で、襟の内側や袖口、裾などは擦れを防ぐナイロン布帛で補強した。タウンでも在宅ワークでも着用できる汎用性の高いウェアだ。
「BALMACAAN COAT(バルマカーンコート)」は、表地に3層のリサイクルナイロンを使い、マットな上質感を表現した。ポケットはフラップで雨の侵入を軽減し、ポケットインポケット構造で小物の収納にも便利

「RABI/TAILORED JACKET(ラビ/テーラードジャケット)」
「CPO SHIRTS(シーピーオーシャツ)」
「BALMACAAN COAT(バルマカーンコート)」

2階はランニングや室内での運動、軽登山などライトアクティビティーに着られるデザインや機能を備えたウェアやシューズ、バッグ、ギア、リカバリー用のプロダクトなどを集積した。
ザ・ノース・フェイスの超定番で、吉祥寺店でも動きが良いのが「Alpine Light Pant(アルパインライトパンツ)」。リサイクルナイロンとポリウレタンの混紡糸で織った生地は、ニットのような伸縮性があり、テーパードのシンプルなデザインながら立体的なパターン設計により「誰でもすっきりとしたシルエット」で穿(は)け、スムーズな足上げを実感できる。
ニュートラルワークス.で好調なのが「WHIFF(ウィフ)」シリーズだ。「汗をかいてもウェアを弱酸性に保つ加工を施したニットで、ポリエステル100%の糸で編み立てており、軽量性が特徴です。身体にストレスがかからないんですね。消臭性、快適性、速乾性の利点を生かしてアイテムを増やしています」。また、パッカブルの「COMPACT BACKPACK(コンパクトバックパック)」は、コンパクトサイズながらiPadやスニーカー、着替えなどを収められ、ジムにも仕事にも行ける。本体をたたんでインナーポケットに収納すれば、旅行などにも持って行ける小さなスグレモノだ。

軽登山をサポートするザ・ノース・フェイスのウェアやギアを集積したゾーン(2階)
ライトアクティビティーの楽しさを伝える2階の売り場
コットンライクなポリエステルニットで、トレーニングやワークアウトにお薦めの「COMMELINA/ LONG SLEEVE CREW(コメリナ/ロングスリーブクルー)」
ザ・ノース・フェイスの超定番パンツ「Alpine Light Pant(アルパインライトパンツ)」
「COMPACT BACKPACK(コンパクトバックパック)」。パッキングプラットフォーム「Loopach(ルーパック)」のタグを搭載。アプリ連携により社会問題に取り組んでいる非営利団体などに寄付できる
「WHIFF/ KNITTING LONG SLEEVE CREW(ウィフ/ニッティングロングスリーブクルー)」は汗をかいてもウェアを弱酸性に保つセーターニットを使用

3階は、大きなウインドーから外光が注ぐ空間に、家族でキャンプを楽しむためのザ・ノース・フェイスのプロダクトが揃う。キャンプシーンのビジュアルプレゼンテーションが印象的で、テントや寝袋、焚火台や鍋、マグやボトルなど必須のアイテムが棚やラックなどに展開されている。エントリー層には選びやすい売り場構成だ。このフロアの主役はキッズ。ジャケットやトップス、パンツなど、キャンプやアウトドアだけでなく、家族でのお出掛けにも着て行けるウェアが充実している。オープン後は「家族連れはもとより、祖父母からお孫さんへのプレゼントとして、また出産した友達への贈り物としてウェアを購入するお客様が多い」という。晴れた日には、1階で販売しているオーガニックジュースなどを3階のテラスで楽しむのも心地よいだろう。

売り場奥へとキャンプグッズを展開
キッズとキャンプに焦点を当てた3階の売り場
3階にあるテラス
キッズのアウトドアウェアやバッグを選びやすく陳列

「これからの豊かさ」「地球環境の未来」を想像する場に

取材時はオープンして1週間ほどだったが、「客層はファミリー層を中心に赤ちゃん連れから年配の人まで幅広くご来店いただいている」と、好調な滑り出しだ。ただ、「店には物を買うだけではない意味がある」と大坪さんは話す。「店舗まで行く時間とか、店内で過ごす時間とか、お金では買えない価値が実感されるからこそ来店される。体験価値を提供していくことが大事」と、今後は週末や休日の店内や店外でのイベントを「手厚く企画していく」。
そのキーワードとして挙げるのは「地域」だ。緑が多く残る吉祥寺界隈の自然と触れ合いながらスポーツを楽しむ、店舗を活用してカルチャーを体感する場を提供するなど、顧客とスタッフ、顧客同士がコミュニケーションをしながら、吉祥寺店が新たなカルチャーを発信していく起点となることを目指す。
ザ・ノース・フェイスは、これまでも競技向けのトレーニングを主目的とした「ウルトラランニングクラブ(URC)」をファミリー層向けにアレンジし、提供していく。ニュートラルワークス.では吉祥寺店のオープンに合わせ、公園などの身近な場でスポーツを楽しむ切り口の一つとしてニュースポーツを提案。木製の棒を投げてピンを倒して得点を競うフィンランド発祥の「モルック」、羽子板のようにラケットとボールでラリーを楽しむブラジル発祥の「フレスコボール」によるレクリエーションを予定している。ニュースポーツを楽しむための遊具を扱う新コレクション「PLAYN(プレイン)」も立ち上げた。

1階では「PLAYN(プレイン)」を提案。モルックとフレスコボールの用具

より地域を意識した取り組みとして、ごみ拾いをしながらランニングを楽しむ「プロギング」も定期的に実施する。「ごみを拾う人と袋を持つ人が走るだけでなく、コミュニケーションをすることで、カロリーを消費するだけでなく、心も健康になる」という。
「お客様が買い物だけでなく、用がなくても来たくなる場を作っていきたいですね。モノもコトも、その人の生活に加わることで生活自体がもっと豊かになるような提案を、きちんと掘り下げて行っていきたい」と大坪さん。そのプロセスを通じて、「これからの豊かさ」と「地球環境の未来」を想像するきっかけとなる場へと店を育てていく考えだ。

写真/遠藤純、ゴールドウイン提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディターウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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