ブランドのフルラインナップを集積
ヨー ビオトープ青山店が入居するのは、建築家の安藤忠雄が設計したショップ、オフィス、住居の複合ビル「ラ コレッツィオーネ」。打ちっぱなしのコンクリートとガラスが直線と曲線で組み合わされた建物は重厚で、敷地内に入ると階段や通路が入り組み、迷路に迷い込んだような感覚になる。2階に立地するヨービオトープは、ウインドーに「ë BIOTOP」のロゴマークを控えめに配し、静かにその存在が立ち現れるイメージだ。「ブランドの世界観を1文字で表現したかった」と曽根英理菜ディレクター。渾名(あだな)のように呼べるブランドネームを意図し、女性の身体の丸みを表す「e」とバストトップのような「̈(ウムラウト)」を組み合わせ、昔のロシア語のアルファベット「ë(ヨー)」とした。
内装のデザインは、表参道の「Mame Kurogouchi(マメクロゴウチ)」や京都の「agnès b. GION(アニエスベー ギオン)」などのショップデザインで知られるデザイナー、柳原照弘氏が手掛けた。店内は極々シンプルだ。白を基調とした壁や天井、グレーのコンクリートの床や柱が直線で構成された空間に、コットンのカーテンや木材の什器、アート作品のような丸みを帯びた真っ白い椅子などが配置され、ギャラリーのよう。商品は曽根さんが言う「表に着るウェア」が右壁面のラックにのみ掛けられ、インナーやランジェリーは什器に収納し、あえて見せていない。もともとの硬質な空間に天然素材を融合させ、陳列量を最小限に抑えることで生まれた「余白」が、ブランドのミニマルでありながら柔らかく優しい印象と呼応する。森林をイメージしたオリジナルの香りは、癒しの空間を演出している。
9月30日にオープンした店舗では、23年秋冬コレクションに店舗限定アイテムを加え、ヨー ビオトープのフルラインナップをお披露目した。
インナーやランジェリーの新作は、肌当たりの良さやストレッチ性など女性の身体にストレスをかけない素材はもとより、透けたときのデザイン性にも配慮したアイテムが揃う。60番手のスーピマコットンを単糸使いし、ハイゲージで編み立てた生地を使った「Cotton triangle bra(コットン トライアングル ブラ)」は、滑らかで心地よい肌触りとソリッドな質感を両立した。同素材の「Cotton bare bra top(コットン ベアブラトップ)」はフィット感が心地よく、ランジェリーとしてもトップスとしても着用できる。「Mesh shorts(メッシュ ショーツ)」は、ストレッチ性が抜群でありながら、しっとりとした質感で滑らかな肌当たりのパワーネットを使い、シンプルかつクリーンな印象に仕立てた。いずれも白と黒のベーシックなカラーとなっている。
肌当たりの良さを追求し、カシミヤやシルクを使ったアイテムにも取り組んできた。「Cashmere sheer turtle top(カシミヤ シアー タートルトップ)」は、カシミヤならではの柔らかい肌当たりと軽さが心地よい1着。デザインを極力入れず、素材の透明感を生かすことでスタイリングの幅を広げる。シルク使いでは、女性らしさを際立たせるシルエットの「Silk U dress(シルク ユードレス)」が注目。バイアス裁ちにすることで身体に美しく添い、Uネックはデコルテをすっきり見せる。2色展開で、オフホワイトはサンドウォッシュ、黒はワンウォッシュと加工方法を変え、生地の表情、質感を生かした。
ミニマルなデザインに込められた徹底したこだわり
オリジナルアイテムでは、ファンシーラメニットの「Glitter mini skirt(グリッター ミニ スカート)」が初登場。オープン記念の青山店・ECサイト限定アイテムだ。経・緯糸ともラメ糸で編み上げ、品の良い光沢の柔らかな風合いに仕上げた。ミニ丈はレギンスやパンツとの重ね着もでき、ウエストはゴム仕様なので体型に合わせて好みの位置に調整できる。同素材のトップと合わせて、ワンピースのようにも着られる。カシミヤの新作ではニット帽も登場。「Cashmere knit hat(カシミヤ ニット ハット)」は、耳まで覆えるゆったりとした作りで、繊維長が約15.5マイクロンの上質なカシミヤを使い、顔に触れる部分の肌当たりも優しい。「スタッフにも人気のアイテム」という。植物由来の天然原料を使い、ハンドメイドで調香、調合した香水やロールオンタイプのオーデコロンも、ヨービオトープらしい「さりげなさ」が心地よい。
店舗限定アイテムは、ヨー ビオトープのファンにとってやはり大きな魅力だろう。オープニングでは2アイテムを揃えた。1つは、ブランドのデビュー時からルックを撮り下ろしているフォトグラファー、松原博子氏とのコラボレーションTシャツ「HIROKO MATSUBARA for ë BIOTOP COLLABORATION T-SHIRTS(ヒロコマツバラ フォー ヨー ビオトープ コラボレーションティーシャツ)」。21年秋冬から23年春夏までの4シーズンのビジュアルから曽根さんがセレクトした7点をコンパクトT(4型)とベーシックT(3型)にプリントで表現した。やや透け感のある肌触りの優しい綿素材を採用し、オリジナルボディーで製作。洗うごとにビンテージのような風合いに変化していくのも魅力だ。
もう1つは、ヨー ビオトープの一番人気アイテム「Sheer tight skirt(シアータイトスカート)」の限定カラー。白が定番だが、昨年開催した京都でのポップアップで大好評だったベージュを復刻した。ストッキングに使われるナイロン素材を使用し、軽くて透明感があり、ストレッチ性に優れ、速乾性も備えているのが特徴。マキシ丈のスカートにミニ丈のスカートを重ねたデザインで、マキシ丈はスリットでセクシーさを出しながら品を感じさせる長さに設定している。シーズンレスで着用でき、旅行にも持っていける軽さ、防シワ性などが共感を呼び、買い足す顧客も多い。新作を発表すると完売するヒットアイテムだ。
バイイングアイテムも多くは別注で展開し、ヨー ビオトープの世界観へと収斂させている。「GABRIELA COLL GARMENTS(ガブリエラ コール ガーメンツ)」はデビュー以来、6シーズンにわたり別注してきた。今回はラムレザーを使い、大きなパターンで切り取ることが難しいその性質から、小さなパーツを組み合わせ、裏地を付けないことで軽いジャケットやコート、スカート、パンツに仕上げた。東京コレクションで話題を呼んだ「FETICO(フェティコ)」は今回が初別注。インラインをややミニマルにアレンジしたニットのドレスやジャカードのフレアパンツが揃う。
アクセサリーでは、高橋れいみ氏によるジュエリーブランド「R.ALAGAN(ララガン)」にはバロックパールを使ったシルバーチェーンのネックレス、フランスのハンドメイドビーズブランド「Sisi joia(シシ ジョイア)」にはビンテージのガラスパーツを使用したネックレスなどを別注。オープニングでは、初セレクトとなるイタリアの装身具ブランド「Lorenzi Milano(ロレンツィ ミラノ)」による貝製手鏡も揃えた。
デイリーでおしゃれ、買い足せる、洗える
ヨー ビオトープは当初、ビオトープのランジェリーラインとして企画された。「肌に近いものなので、自分の目で見て、触って確認する」ことを前提としていたが、準備を始めた段階でコロナ禍に突入。仕入れが難しくなり、オリジナルのランジェリーを作ることを考えたものの、ノウハウがなかった。そこでジュングループのアパレルの生産背景を生かせるインナーウェアの開発からスタートさせた。「インナーは毎日着るものなのに、表に着る服ほどの選択肢がありません。服に応じてインナーを変えてもいいんじゃないだろうか。インナーの選択肢が広がれば、表に着る服の選択肢も広がり、ファッションの楽しみも広がっていくのではないかと思ったんです」と曽根さんは話す。
最初に作ったのはブラトップだった。インナーとしてはもちろん、見せてもいい。ファッション寄りのインナーを中心に、チューブトップやボディースーツなど10型を揃えた。商品開発の基本としたのは、「デイリーにおしゃれに着られる」「買い足せる」「自宅で洗える」こと。ミニマルなデザインやカラー、肌に最も近いものだからこその着心地をサポートする生地の質感や機能、気軽に買い足せる価格を体現したアイテムは、母体のビオトープ3店舗(東京、大阪、福岡)とポップアップショップ、ECで展開すると、いきなりファンをつかんだ。「インナーを作り込む間にランジェリーも専門メーカーとのご縁があって、オリジナルアイテムを開発できました。ランジェリーコレクションを発表できたのは、ブランドをローンチして1年半後」という。以降、インナーから広がる選択肢としてのウェア、小物、アクセサリー、香水と領域を広げ、現在の商品構成につながっている。
ビオトープは高価格帯の商品が中心になるため顧客層も30~50代中心だったが、ヨー ビオトープが加わったことで20代の客層も開拓された。ヨー ビオトープの顧客層も20代前半~50代前半と幅広い。前述したシアータイトスカートなど気に入ったアイテムの別カラーや新作を「買い足す」リピーターが多いことは、女性たちにとってのブランドのリアリティーを物語っている。「お手持ちのアイテムにもさりげなく馴染むことを意識しています。環境に配慮した素材を使うこともしていますが、そもそも大切に着られる服であることが、結果的にはサステイナブルなのかなと思います」と曽根さんは話す。
これまでもシーズンコレクションの立ち上がりでは、ビオトープ店舗でポップアップを展開し、空間演出にもこだわってきた。フルラインナップとなる青山店では、初めてブランドの世界観を体現した空間ができた。そのスタートを飾った23年秋冬コレクションのキービジュアルに採用した貝は、パワーストーンのように可能性を開花させる意味があり、「店のお守りのような存在」という。「ヨー ビオトープというブランドが様々な人たちと出会って、才能を開花し、成長していける場にしていきたい」と曽根さん。親和性のあるブランドのポップアップなどイベントも考えているが、まずはフルラインナップによる世界観を浸透させ、実店舗のベースを築いていく考えだ。
写真/野﨑慧嗣、ジュン提供
取材・文/久保雅裕
久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディターウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。