服作りに携わる社員有志がプロジェクト化

ファッション産業が環境汚染に大きな影響を与えていることはすでに業界の共通認識となり、多くのアパレル企業がSDGs(持続可能な開発目標)に取り組むようになった。ジュングループでも、トレーサビリティーに徹する素材メーカーとの生地開発、羽毛製品の回収とリサイクル羽毛による商品企画、店舗への再生可能エネルギーの導入や内装への廃材活用、里山の再生などを進めている。とりわけ深刻な衣料の廃棄問題に関しては、循環型システムの構築に向け、各ブランドが在庫や残布の再生、自社商品の回収・リサイクルなどに取り組んできた。「JUNRed(ジュンレッド)」や「MTOR(ムウ ト アール)」では、倉庫に眠っていた在庫などをリメイクしたアイテムを開発し、好評を得ている。これら企業・ブランドとしての取り組みがある中で、社員の有志によりスタートさせたのが、今回の循環型ファッションプロジェクト「RE H(リ アッシュ)」だ。
「新しいものを生み出すことが当たり前のファッション業界で、環境課題に向き合い、今あるものを無駄にせず循環させるための取り組みをしていきたい」と、プロジェクトメンバーの小林祐子さん(ロペピクニック事業部ディレクター)。プロジェクト立ち上げのきっかけとなったのは、ジュングループが本社を移転した一昨年から毎週実施している同じ職種の社員によるミーティングだった。ブランドの垣根を越えて集い、新たな企画や事業の創出へ向けて意見を述べ合う。その中で商品企画やデザインなど服作りに携わる社員たちが循環型ファッションをテーマにしたプロダクトチームを発足し、検討を重ね、リメイク、アップサイクルを推進するプロジェクトを誕生させた。

プロジェクトメンバーの小林祐子さん

「当初は残布の活用を考えていたんです。ただ、プロジェクトを進める過程で、廃棄する状態にある商品が弊社にもあることを知り、メンバーで倉庫まで足を運んだところ、まだまだ活用できるアイテムもあると感じ、これらを生まれ変わらせようと思いました」と小林さん。サブスクリプションサービスのレンタル用に提供したアイテムや、ジュングループの店舗スタッフに制服として支給したアイテムなど、毛玉や穴などの難が出て再販・再利用できなくなった商品が倉庫には眠っていた。サブスクリプション向けは顧客が気に入れば買い取ることができる仕組みだが、着用を重ね、クリーニングしても再販できない状態になるものも出てくる。またジュングループではスタイリング力を養う目的で、入社3年目までの社員にブランドの服を制服として支給してきた。この着用後の回収量も相応になる。これらを廃棄せず、生かしていく手法として焦点を当てたのがリメイク、アップサイクルだった。プロパー商品のような量産ができないため、アパレル中古品の販売・リメイクを専門に手掛ける国内企業と協業し、同社が扱う古着と廃棄前のアイテムを掛け合わせ、新たな価値を備えた商品として展開する仕組みを整えた。

「リワーク×ヒューマニズム」のプロダクト

プロジェクト名兼ブランド名は、作り直す、再生することを意味する「REWORK(リワーク)」と、人それぞれの個性や価値観を尊重するという「HUMANISM(ヒューマニズム)」の基本姿勢を組み合わせ、「RE H(リ アッシュ)」とした。プロジェクト始動のリリースには、ブランドフィロソフィーとして「誰かではなく私の手で、もう一度光を宿すこと。アップサイクルをトレンド化するのではなく、コミュニケーションの出発点とすること。個性や価値観を尊重し、時代、世代、経歴、国籍に捉われない新しいプログラムを『RE H』は提案します」というメッセージがある。商品として生まれ変わらせる「私」の集まりとして、またそのプロダクトを購入・着用する「私」との共感のハブとして、リ アッシュを機能させていく。

ブランドコンセプトを表現したロゴマーク

2023-24年秋冬のファーストコレクションの製作には、「ADAM ET ROPÉ(アダム エ ロペ)」、「JUNRed(ジュンレッド)」、「MTOR(ムウ ト アール)」、「ROPÉ PICNIC(ロペピクニック)」の4ブランドから有志5人が参加し、全13型に「それぞれが自身の思い、個性を表現した」。
例えば、「Docking Spindle Sweat(ドッキング スピンドル スエット)」は、花のグラフィックのパーカとプリント柄のビンテージスウェットを大胆に合体させた。切り替えの左ウエスト部分にあしらったスピンドル(紐)がアクセント。ゆったりとしたサイズ感なので、ユニセックスで着用できる。
ボトムをトップスに転換したのは「Short Knit Bolero(ショート ニット ボレロ)」。ブルーフォックスのボトムを素材と捉え、ヒップラインでカットしてショートボレロにアレンジした。カットしたウエスト部分はボレロの前留めベルトに生かし、袖をゴムで引き締め、袖下部分はスリットを入れたフレアー袖にすることで適度な甘さをプラスした。

デザイン画
「Docking Spindle Sweat(ドッキング スピンドル スエット)」
基になったアイテム
基になったアイテム
ニットパンツのどの部分をどう生かしたかを示した資料
「Short Knit Bolero(ショート ニット ボレロ)」
基になったアイテム
デザイン画

「Vintage Denim×Corduroy Shirts(ビンテージデニム×コーデュロイシャツ)」は、メンズのコーデュロイシャツをベースに、襟や前立て、フラップ、袖、後ろヨークにビンテージデニムを組み合わせた。袖にはデニムパンツを転用してゆったりとした筒袖に仕上げ、デニムの接ぎ部分は裁ち切りにすることでこなれ感をプラスした。
小林さんがデザインしたのは「Kid’s Docking One Piece(キッズ ドッキング ワンピース)」。廃棄予定だった大人物の古着TシャツとB品の柄パンツを組み合わせた子供のためのワンピースだ。Tシャツは裁断することなく、タックや折り上げのみで子供のサイズに仕立てた。サイズアウトしたら解体して大人用Tシャツとして再度着用できる。「子供の成長とともに、服を楽しみ、大切にする気持ちも育みたいという思いを込めた」という。
価格はジャケットなどのアウターが3万円台半ば、プルオーバーが1万6000~8000円ほど、ボトムが2万円台。1点物でありながら、リーズナブルな価格設定も魅力となっている。

デザイン画
「Vintage Denim×Corduroy Shirts(ビンテージデニム×コーデュロイシャツ)」
基になったアイテム
基になったアイテム
デザイン画
「Kid’s Docking One Piece(キッズ ドッキング ワンピース)」
基になったアイテム
基になったアイテム

商品のテイスト、活動の幅を広げる

リ アッシュの商品は、6月に開催したジュングループの23-24年秋冬物の展示会でお披露目した。同じ型の同じ色柄の廃品や古着の枚数が一定ではないため、反応の良かったものは同じデザインを異なるアイテムとの組み合わせで表現するなどしてバリエーションを加え、ジュンの公式オンラインショップ「J’aDoRe JUN ONLINE(ジャドール ジュン オンライン)」で8末より販売予定。「まずはリ アッシュというプロジェクトを認知していただくことが大事」と、発信方法を工夫してECでの販売につなげていくほか、商業施設などへのポップアップ出店も視野に入れる。

「RE H」のお披露目となった6月の展示会

認知を広げていくことと並行して、「商品のテイストの幅を広げていくことが課題」とする。「アップサイクルの取り組みには興味があるけれど、商品のテイストが自分には合わないという人もいると思うんですね。ファーストコレクションはカジュアルに寄った内容なので、きれいめなアイテムへも選択肢を広げたい」と小林さん。例えば、キャリア層の通勤着としても着られるなど、より幅広い層がエントリーできる商品の開発を24年春夏物で検討中だ。そのためにも、「今のメンバー以外にもリメイク、アップサイクルに興味を持っている社員はいるので、ブランドの枠を越えていろんな人たちにチャレンジしてもらえたら、もっと楽しくなる」とする。

オリジナルアイテムを展開する一方、企業等との協業にも積極的に取り組む考え。リメイクやアップサイクルによるユニフォームやステージ衣裳の製作などを通じ、リ アッシュの活動の幅を広げていく。「すでに保育園の先生が着用していたエプロンを子供たちが使えるものにアップサイクルしたいといった相談も受けている」という。今後のブランディングが注目される。

写真/野﨑慧嗣、ジュン提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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