オニツカタイガーの全ラインをクルーズする
銀座店を出店したのは2018年のこと。オニツカタイガーの旗艦店の1つとして地下1階から地上2階の3層でシューズ、アパレル、アクセサリーをトータルに展開してきた。その地下1階で提案していた「NIPPON MADE(ニッポンメイド)」を隣接するビルに集積し、プレミアムラインのアパレルやシューズなどと合わせ、日本製をメインにMDを編集したのが新館だ。既存のオニツカタイガー店舗の1階はオニツカタイガーを象徴するシューズを集めた「ヘリテージコレクション」、地下1階は日本製のアパレルやアクセサリー、2階はファッションウィークで発表したシーズンの「コンテンポラリーコレクション」で構成する。2館のフロアごとに世界観を作り込み、来店客はシューズだけではないオニツカタイガーの魅力をクルーズ感覚で楽しむことができる。
ニッポンメイドは08年にスタートさせた日本製のラインで、オニツカタイガーのアイコニックなシューズを国内の職人が熟練の技術で加工し、アップグレードすることで日本のクラフトマンシップを世界に伝えていく。発売以来、順調にファンを獲得してきたことから、さらに国内での浸透拡大を進め、海外への発信も充実させていくため、インバウンドも多い銀座店の新館の「顔」に据えた。
外装はクリーンで落ち着きのある白を基調としたデザイン。凹凸の外装パネルを使うことで、日中は日光によって影の見え方が変わり、夜はビルの屋上まで伸びた両サイドの間接照明により昼間とは異なる表情を見せる。屋上に「Onitsuka Tiger」のロゴサインを配置し、隣接する既存店の建物上部の虎のアイコンと呼応させることで、2館で1つの銀座店を体現した。エントランスの外壁周りには真鍮金物のフレームを施し、門構えをモダンに表現している。
物作りのストーリーが通うアップグレード
イドのシューズが整然と並ぶ。あえて作り込んだ造作を多用せずシンプルな空間を生み、電球色系の照明を採用することで、1点1点の商品が際立つ設計となっている。左壁面ではユニセックスモデルを中心とした商品、右壁面ではウィメンズを展開し、「MEXICO 66 DELUXE(メキシコ ロクロク デラックス)」や「TIGER ALLY DELUXE(タイガー アリー デラックス)」など代表作が揃う。
メキシコ 66は、1966年にアスリート向けのトレーニングシューズとして誕生した「LIMBER(リンバー)」をベースに、アッパーのサイドに施されたクロスしたラインが特徴のレトロなデザインを生かしたモデル。02年にオニツカタイガーブランドとともにメキシコ 66として復活した。リンバーがメキシコ五輪を目指すアスリートに支持され、初めて独自のラインを搭載したことから、「メキシコ」と発売年の「66」を組み合わせたネーミングを採用した。生まれ変わって以来、ファッションアイテムとして国・地域を超えて人気が広まり、オニツカタイガーの超定番となっている。これを熟練職人の技術でさらにアップグレードしたのがメキシコ 66 デラックスだ。製品染めや洗い加工、刺繍など手仕事のプロセスを加えることで、独特の質感や風合いなど新たな価値を生み出す。洗い加工で上品なシワ感や履きこなされた形状を表現したモデルや、刺繍で歌舞伎の隈取を表現したモデル、アッパーやインソールなどの素材をアップデートしたモデルなど様々だ。
タイガー アリー デラックスは、アッパー全面にスエードをあしらったレトロランニングスタイルのタイガー アリーの進化版。アッパーにヘアリーレザーやデニム、炭染めを施した生地を使い、ミッドソールの削り出しや製靴後の洗い加工でクラシックなテイストに仕上げたモデルなど個性的だ。
他にも、裁断工程で余った革を再利用し、生地と生地の間に革の裁断かすを挟み込んで縫製後にニードルパンチを施したボロ材料をアッパーに使用した「FABRE DELUXE LO CL(ファブレ デラックス ロー シーエル)」、職人が1足1足手作業でつま先とかかと部分にエナメル加工を施した「TIGER SLIP-ON DELUXE(タイガー スリップオン デラックス)」、ウィメンズではリンバーをベースにゲル状の衝撃緩衝材を搭載することでクッション性と安定感を増した「LIMBER UD PRESTIGE(リンバー ユーディー プレステージ)」など、1点1点に物作りのストーリーが通う。
新館のオープン記念で製作したのは「TIGER SETTA NM(タイガーセッタ エヌエム)」。日本の伝統的な雪駄をベースに、ソールにはスニーカーで使用している弾力性のある素材を用い、つま先部分は少し上げた形状にし、フットベッドに硬度の異なる素材を2層に組み合わせることで、軽量かつ歩行時の快適な履き心地を実現した。23年春夏のミラノコレクションで発表したアップグレード版を、銀座店限定デザインへと進化させた。鼻緒のホワイト、ソールのブラックのバイカラー仕様で、ソールのかかと部分に「Onitsuka Tiger GINZA」のロゴ入り。限定80足で販売し、アイコンのメキシコ 66 デラックスシリーズとともに売れ筋となっている。
オニツカタイガーの「プレミアム」を集積
2階はオニツカタイガーのドレスシューズライン「ジ・オニツカ」を中心に構成。「デザイン性と履き心地の良さをしっかりと兼ね備えていることが、オニツカタイガーにおけるラグジュアリーの意味」と、シューズはもとより、ウェアやアクセサリーにも長年培った技術を踏襲し、機能性の追求が強く意識されている。
ジ・オニツカの定番シューズとして男女ともに厚い支持を集め続けているのが「DERBY(ダービー)」だ。タイムレスに多様なシーンで履きこなせるシンプルなデザインに、多様な機能を融合している。アッパーには日本の職人が神戸牛の革から丹念に仕上げたレザーを使い、かかと部分には20mの高さから卵を落としても割れない衝撃緩衝材「αGEL Foam(アルファゲルフォーム)」を搭載。アーチの沈み込みやかかとのぐらつきを軽減するインナーソール、耐久性とクッション性を兼ね備えたラバースポンジによるアウターソールなど、履く人の気持ちに寄り添った心地良さを重視している。ローファーやブローグタイプも人気で、ローファーはメンズとウィメンズでは金具の形や色を変えるなどディテールにもこだわる。ウィメンズに特化したウェッジヒールモデルの「WEDGE-O(ウェッジ オー)」も、細身のシルエットでかかとは高いが「一日中、履いていても疲れにくい」と好評だ。
アクセサリー類は、「長く大切に使えるものを意識」し、新館ではジ・オニツカのラインナップの中でも神戸牛のレザーを使ったアイテムに絞り込んだ。
もう一つ注目なのは、今年4月にローンチしたウィメンズライン「OTIGER(オータイガー)」。全て日本製で、着心地の良さはもちろん、フェミニンかつエフォートレスなデザインが新鮮だ。フレッシュオレンジをシグネチャーカラーとし、ベージュや黒も展開する。第1弾コレクションはジャケットやコート、ドレス、シャツなど12型を揃え、植物性レザーやリサイクルコットンを使用するなど環境に配慮した素材使いも特徴となっている。
ジャケットはノーカラーで、ケープ風にたっぷりと入れた袖のスリットがフェミニンなイメージを与え、シルバーメタルの1つボタンがクールな印象。トレンチコートはフレアスリーブのカフスやファスナーの開閉により様々な着こなしのアレンジができ、先染めのオーガニックコットンを高密度に織り上げた生地を用いることで洗練された印象のまま長く着用できる。ショートスリーブトップは前後にデザインされたVラインのカッティングが美しく、肩が少し隠れるフレンチスリーブ調にすることで上品なバランスに仕上げた。
オニツカタイガーのアパレルはユニセックスを軸としてきたためオーバーサイズが多かったが、オータイガーでは肩幅や身幅など女性の体型に対応したサイズを展開。「オニツカタイガーにはこういうアイテムもあるんだ」と新たな発見に驚く女性客が多く、特にジャケットやシャツが30~40代を中心に動いている。10月にはシューズも発売予定。
プレミアムなファッションブランドへ
銀座店の既存店舗の1階では、23年春夏のコレクションが大きなルックのビジュアルとともに展開され、壁一面にヘリテージラインのシューズが並ぶ。
2階はオニツカタイガーのコンテンポラリーラインのアパレルやシューズを中心に、虎を大胆にプリントしたグラフィックTシャツなどのクラシックラインなどを集積。シューズはキッズも揃え、家族での靴選びやギフトショッピングも楽しめる。シューズで特に好評なのは「DELECITY(デレシティ)」。ソールは50年代のバスケットボールシューズの要素を取り入れた、厚くふっくらとした形状がユニーク。アッパーは80年代のテニスシューズをベースにスタイリングしやすく再構築した。2つのアーカイブを融合したプロダクトは、存在感がありながら軽量なのも魅力だ。「特にZ世代の間で男女を問わずファンが増えている」という。
ニッポンメイドを展開していた地下1階は、引き続き日本製をメインに売り場を編集している。シューズはオニツカタイガーのアイコンモデル、アパレルはワンマイルウェアの「VERSATILE ESSENTIALS(バーサタイル エッセンシャルズ)」をメインに提案し、バッグなどグッズも揃える。コーディネートを考えながらの買い物を楽しめる。
オニツカタイガーは14年にメルセデス・ベンツ ファッション・ウィーク東京に参加して以降、毎シーズン、コレクションを発表してきた。22年はミラノファッションウィークに初参加し、23年春夏も同ウィークでコレクションを発表。ファッションとスポーツ、ヘリテージとイノベーションを融合させたコンテンポラリーなコレクションを展開している。シューズやスポーツといったカテゴリーにおける専門性を持ちながら、「プレミアムなファッションブランドとして新たな挑戦をしていく段階にある」と同社。そのブランドを構成する各ラインの世界観を体感できるのが2館1体の新生オニツカタイガー銀座店だ。
オニツカタイガー銀座
住所:東京都中央区銀座7-8-7
営業時間:11:00-20:00
写真/遠藤純、オニツカタイガー提供
取材・文/久保雅裕
ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。