コロナ禍に立ち上げたアート事業、ギャラリーへと発展

ビーズインターナショナルは1990年の創業以来、ストリートカルチャーを核としたコンテンツを提供し続けている。変化を常とするストリートシーンにありながら長年継続しているブランドが多く、新たなファンを作りながら異なる個性を持つブランドを進化させてきた。その一つが「ミッドセンチュリーモダン」だ。
同店は1940~70年代のミッドセンチュリー期にデザイン・製造された家具を軸とするインテリアショップとして1994年に南青山の骨董通りに開業し、2008年にビーズインターナショナルが商標・営業権を取得した。以降、12年に代官山に移り、17年には品川港南エリアに移転増床。特にミッドセンチュリー期を象徴する「イームズ」のシェルチェアは国内屈指の品揃えで、コレクターやライフスタイルにこだわりを持つ層の支持を集めた。「日頃から現地のディーラーとも密に連絡を取り合って、ミッドセンチュリー家具の中でもカリフォルニアにルーツがあるものをメインにロサンゼルス中を巡って買い付けています」とミッドセンチュリーモダンの金澤卓弥ストアマネージャー。人気のイームズシェルチェアは、現在は希少なシェルカラーがあり、そうしたトップピースも確保するなど、目利きと日頃からの現地との情報交換で強みを発揮する。他の国々の家具や小物も、「当店のフィルターを通してミッドセンチュリーの家具と相性の良いものを揃え、香りも強化したい分野」という。

ミッドセンチュリーの家具
ミッドセンチュリーモダンが強みとする「イームズチェア」。品揃えは国内屈指

一方、アートはストリートカルチャーの重要な要素だが、単体の事業としては展開してこなかった。転機は19年。ビーズインターナショナルが展開するブランドやストリートカルチャーの文脈でセレクトしたアイテムを提案するオンラインストア「カリフ」のオフライン店舗「calif SHIBUYA(カリフ シブヤ)」を渋谷パルコに出店した。しかし直後にコロナ禍となり、「コンテンツを進化させないと、お客様に来ていただけない」(山田悠介コンテンツ開発部・アート事業部マネージャー)と、取り入れたのがアートの視点だった。現代アートやストリートアートのシーンで活躍するアーティストとの個展をポップアップで開催し、「エクストララージ」や「エックスガール」などとのコラボレーションも企画。同社のチャネルマーケティングとしての戦略とも重なり、アート事業を推進するための準備室を立ち上げた。

「calif SHIBUYA」で開催された「YOSHI47アート展」
「calif SHIBUYA」で開催された「リッキー・パウエル写真展」

店舗でのアート展の実績を積み上げ、24年には渋谷パルコが運営するPARCO MUSEUM TOKYO(パルコミュージアム トーキョー)との協業で、グラフィティー界のレジェンドとされるアーティストERIC HAZE(エリック・ヘイズ)の展覧会「RE・HAZE(リ・ヘイズ)」を開催。ヘイズは70~80年代にキース・へリングやジャン=ミシェル・バスキアら先駆的なストリートアーティストと共に活動し、ストリートカルチャーを牽引した。90年代にはグラフィックデザイナーとしても人気を博し、ヒップホップアーティストらの数々のアルバムジャケットを手掛けた。自らの名を冠したブランド「HAZE(ヘイズ)」も展開し、日本ではショップも出店、ストリートファッションに大きな影響を与えた。当時、販売代理店を務めたのがビーズインターナショナルだった。過去のつながりもありヘイズの日本での活動30周年を記念して企画した展覧会は大成功。これもきっかけとなり、25年にヘイズと改めてエージェント契約を結び、アート事業部を正式にスタートさせ、日本・アジア諸国での活動をサポートすることになった。

エリック・ヘイズ展覧会「RE・HAZE」の様子
エリック・ヘイズ展覧会「RE・HAZE」の様子

この頃、山田さんはアート展の企画に携わる一方、ミッドセンチュリーモダンのバイイングにも同行していた。ロサンゼルスを回ってビンテージ家具を買い付ける中で、その後のミッドセンチュリーモダンとアート事業の展開につながる光景と出会った。「古い倉庫をリノベーションした空間に家具とアートがずらりと並んでいたんです。そこにお客様が自由に出入りして入札していく。その光景を目にして、こんな空間を作りたいと強く思った」。
偶然にも、理想的な物件が見つかったのは、それから間もなくのこと。中目黒の山手通りと目黒川沿いの通りの間に伸びる小路に面した、かつてはベスパを中心とするバイクの整備工場・ガレージとして使われていた100㎡超のスペースだ。「天井高があって、これだけ大きな空間は中目黒ではまず出会えない。元工場のインダストリアルなムードがユニークで、ビンテージ家具やアート作品はもちろん、空間そのものを体感していただけると思ったんですね。ここにミッドセンチュリーモダンのデザインプロダクトとアート事業部がキュレーションしたアートを日常の暮らしとつなぐ場を作ることになりました」と山田さん。アート事業の拠点は「カリフアートギャラリー」と名付けた。

25年6月に中目黒に出店した「カリフアートギャラリー」「ミッドセンチュリーモダン」

アートやデザインをより身近に、ライフスタイルをより豊かに

空間は、現場作業とともに歳月を重ねた無骨なコンクリートの床、入り口や間仕切りに使われていたビニール製の大きなアコーディオンカーテン、エンジンなど重いものを移動させる構造材「H鋼(エイチコウ)」、そしてダクトなど、インダストリアルな構造やディテールをあえて残してリノベーションした。建物が刻んできた歴史や物語、構成するマテリアルの質感などが感じられ、そこにビンテージ家具やアート作品が並ぶことで、何か掘り出し物との出会いがありそうな雰囲気を醸し出す。約100㎡の半分をミッドセンチュリーモダン、もう半分をカリフアートギャラリーが使い、展覧会などが無いときはインテリアの売り場を拡張し、フレキシブルに空間を活用する。

約100㎡の空間をギャラリーとミッドセンチュリー家具の売り場として使う(展覧会の開催時は半分のスペースがギャラリーになる)

25年6月にオープンし第1弾として開催したのは、エリック・ヘイズによる展覧会「家具とドローイング展」だった。ヘイズの新作ドローイング10点と共に、ミッドセンチュリーモダンが収集してきたビンテージのイームズシェルチェアやテーブル、信楽焼の大壺にヘイズがペインティングを施した作品のほか、職人の手で製作されたタフティングラグなどを展示・販売した。ミッドセンチュリーの名作家具とストリートアートのミクスチャーは、カリフアートギャラリーならではだ。また、ストリートアート&ミューラル(壁画)アートフェスティバル「JAPAN WALLS(ジャパン・ウォールズ)」の参加アーティストの個展やグループ展も開催。ジャパン・ウォールズは世界各地でミューラルアートのフェスを開催している「WORLD WIDE WALLS(ワールド・ワイド・ウォールズ)」の日本版で、その10周年となる今年、エクストララージがオフィシャルスポンサーとして参加した。

イームズシェルチェアにペイントするヘイズ
エリック・ヘイズによる「家具とドローイング展」
「ジャパン・ウォールズ」の10周年を記念したグループ展「Japan Walls 10th Anniversary “Retrospective”」
ヘイズがペイントしたイームズシェルチェア

ギャラリーではアート展以外にも、プロダクトデザインに特化したイベント、アパレルブランドのポップアップストアや展示会など多様に展開している。「アートやデザインをより身近に、ライフスタイルをより豊かに。その実現に向けて、まずは興味を持っていただける機会を増やしたいので、様々な切り口で企画を立案しています。その結果として、クロスカルチャーな展覧会・イベント構成になっています」と山田さんは話す。
今年2月に開催した、LAを拠点に活動するデザイナー兼アーティストのショーン・ウォザースプーンと東京を拠点に活動するクリエイティブディレクターのUchi(ウチ)が展開する日本のブランド「SWJP(エスダブリュージェーピー)」によるポップアップイベント「THE GARAGE BY SWJP(ザ ガレージ バイ エスダブリュージェーピー)」も興味深い。販売スペースでは、SWJPの26年春夏コレクションをはじめ、ミッドセンチュリーモダンと協業したカスタムチェアなどを展示・販売した。コラボレーションチェアは、世界トップクラスの職人による手仕事。古着を張地として再生して椅子用に裏打ちし、刺し子を施すことで実用性とデザイン性が共存する「用の美」に仕上げた。刺し子による加工は日本の「襤褸(ぼろ)」文化に着想を得たもの。江戸時代から受け継がれてきた「布を大切に、繰り返し使う」という精神と、優れた補修技術を現代に再解釈した。ギャラリースペースでは、ショーン自身のプライベートガレージをイメージし、ビンテージカーやショーンの趣味のコレクションを展示。「隠れ家」に招かれたかのような特別な体験を楽しめる遊び心あふれる空間を演出した。

ポップアップイベント「THE GARAGE BY SWJP」
ポップアップイベント「THE GARAGE BY SWJP」

直近では、フレーム(額縁)とビンテージポスターの展示・販売会「GARAGE SALE(ガレージセール)」を6月に開催した。表に出る機会が少ないまま保管されていたフレームに焦点を当て、改めて価値を付与する試みだ。額装専門店やポスターコレクターと協業して揃えた貴重な品々をかつてのバイクガレージに集積。フレームとポスターを自由に選んで組み合わせ、一点物として完成させる「偶然の出会い」を楽しめるイベントだ。
ギャラリーはレンタルスペースとしても運営し、前述のポップアップストアや展示会をはじめ、撮影やワークショップ、トークイベント、カンファレンスの会場など多様に活用できる。ミッドセンチュリーモダンの家具の貸し出しも行い、撮影のプロップとして使えるのも嬉しい。「映画関係のイベントを企画して、イームズチェアに座って映画を鑑賞する試写会などもやってみたい」という。

フレームとビンテージポスターの展示・販売会「GARAGE SALE」

暮らしにアートとデザインを取り入れるカルチャーを根付かせたい

オープンして1年が経ち、ミッドセンチュリーモダンの顧客やイームズなどミッドセンチュリー物のファンはもとより、「裏路地なのですがトラフィックは多く、中目黒を散策中に看板を見つけて興味を持って入店されたり、犬の散歩のついでに立ち寄られたりと、お客様は増えましたね」(金澤さん)。ギャラリーの客層も加わり、アートやデザインに興味のある人たちが多く来店している。「ミッドセンチュリー物は家具を探している人にとってはニッチなのですが、プロダクトが好きな方々に強く愛されていると感じます。90年代に憧れて見ていたミッドセンチュリーの家具が、ようやく買える歳になりましたと話すお客様が少なからずいます。そうした思いに応えながら、若い世代にも憧れの原体験を持ってもらえる店になっていきたい」と金澤さんは話す。
ギャラリーでは今後、9月にワールド・ワイド・ウォールズのアーティストのジークレー作品展を実施する。本来は現場でなければ見られない壁画を高品質なアートプリントで再現し、ミューラルアートの魅力をより広く発信していく。10月には、約170人のアーティストの作品をプリントした約1m×1mのスカーフによるフィリピン発のアート展「Manila Calling(マニラコーリング)」を計画する。フィリピン、スペインを巡回し、日本のカリフアートギャラリーがトリを務める。
「様々な企画を実行しながら、カテゴリーを超えてアーティストたちと会話を重ね、発掘も進めています。ワールド・ワイド・ウォールズのアーティストたちともコラボレーションを通じて信頼関係を築き、ゆくゆくはエージェント契約をして日本で広めていきたい。『ミッドセンチュリーモダン×カリフアートギャラリー』という場が、ここを訪れる人たちのライフスタイルの一部になり、アートとデザインを暮らしに取り入れることがカルチャーとして根付いていけば素敵だなと思っています」と山田さんは展望する。

写真/遠藤純、ビーズインターナショナル提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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