奥深い宝石の世界を楽しみながら散策

東京・銀座はファッションはもとより、ジュエリーも新旧の専門店や国内外の様々なブランドの本店、旗艦店が軒を連ねるハイクラスな大激戦区。客にとっては選択肢が豊かで、比較購買の楽しみも増すが、ショップやブランドには独自性や専門的な対応力が強く求められる。一方で、訪日外国人客を含む購買力・意欲ともに旺盛な来街者の多さは、やはり魅力。ギンザ シックスはその集客力が期待できる立地だ。競合は数多あるものの、ダイヤモンドなど貴石を中心とするショップが一般的な中で、BIZOUX(ビズー)はカラーストーンを軸にすることで差別化され、今年3月末に出店したギンザ シックス店も好調なスタートを切っている。コンセプトは、ずばり「Play with Color!」だ。

売り場面積は約50㎡。モスグリーンを基調とした空間の壁面にヨーロッパの回廊に見られるアーチをイメージした展示コーナーが連なり、程よいアンバーなライティングは博物館の空気感を醸し、コンパクトな空間ながら宝石の奥深い魅力を散策するように巡れる。ビズーのジュエリーをデザインするクリエイティブディレクターが空間デザインを手掛けた。

アーチで縁取ったコーナーには希少な宝石を使ったジュエリー

エントランスに据えたのは、円形のショーケース。実に約150種類、約250個のルース(裸石)を誕生石で分類し、展示している。メリーゴーラウンドのようにケースに沿って回りながら誕生石を探したり、宝石の種類や特徴を楽しみながら知ることができることから、「Gem-Go-Round(ジェムゴーラウンド)」と名付けた。

「一般的にはシーズンの打ち出し商品など店が売りたいものを店頭にディスプレイしますが、ジュエリーショップ自体に敷居の高さを感じてしまう人が多いので、まずは気軽に宝石に親しんでほしい。そのきっかけとして、多くの人が興味のある誕生石を集積した」とジュエリー事業本部・事業推進部長の山田智子さん。ジェムゴーラウンドを入り口に、自分の誕生石のジュエリーを求める人はもちろん、「将来、お嬢様が成人したときなどのために誕生石のジュエリーを購入するお母様もいる」という。

誕生石ごとにルースを集積した「Gem-Go-Round(ジェムゴーラウンド)」
展示されているのはまさに多彩なルースたち
オープン記念でジュエリー購入者に進呈した「GEM-COLORED PENCIL(ジェムカラードペンシル)」。宝石の色から着想した12色の色鉛筆と塗り絵のセット(終了)
               
オープン記念の宝石標本カプセルトイ「GEM CAPSULE TOY(ジェムカプセルトイ)」。来店客・先着150人がガチャガチャを回せる(終了)。マシンを覆うレザーは土屋鞄製造所がランドセルの技術で縫製

ジェムゴーラウンドは「神秘的な宝石の世界」を体験する場でもある。「TRY」と記されたコーナーのルースにルーペやペンライトで光を当て、光源の種類によって変化する色を体感できる。

例えば、6月の誕生石であるアレキサンドライトは「昼はエメラルド、夜はルビー」と言われ、光を当てると「カラーチェンジ」するのが大きな特徴。ムーンストーンはペンライトの光で石の中に青い光が浮かび上がる「シラー」が起こる。オパールは見る角度によって虹のように「遊色」し、ルビーインカイヤナイトはブラックライトで石の中のルビーだけが「蛍光」する。

他にも一つの宝石の中に複数の色が混在する「バイカラー」のトルマリンやタンザナイトなど、特に初心者には発見満載のスペースだ。「日本では誕生石が21年12月に63年ぶりに改定され、スフェールやクンツァイトなど10石が追加されました。ビズーではもともと取り扱っている石ですが、誕生石になったことで再注目されています」という。

写真右下の3つはルビーインカイヤナイト
ブラックライトを当てると内包したルビーだけが赤く蛍光する

ダイバーシティー、サステイナビリティーを起点に

ギンザ シックス店のオープンに合わせて企画したのが、旗艦店限定コレクション「Designed by BIZOUX Atelier 2023(デザインド バイ ビズー アトリエ 2023)」。ビズーのデザイナーたちが石の「個性」にインスピレーションを受け、デザインした一点物ジュエリーだ。創業以来、世界中から収集してきたルースからデザイナーが厳選し、第1弾として3アイテムを作り上げた。

「Plongereclat(プロンジェエクラ)」は、オーストラリア産のボルダーオパールが発想の源。その波打つ形状、マーブル模様のようなブルーとグリーンから海を連想し、「この海に飛び込んだら、色と光のしぶきが宝石になって飛び散ってしまうかも」と、しぶきが跳ねるその瞬間にフォーカスした。ボルダーオパールにダイヤモンドやエメラルドなどでしぶきが跳ねる様をアシンメトリーに表現し、ネックレスとピアスに仕上げた。

もう一品は、バイカラートルマリンによる18金ピアス「Scintiller(サンティエ)」。ルースの2色の色彩とクリアでシャープな反射から、デザイナーは「自然光線」という着想を得た。「有機的な美しさと幾何学的なエッジを併せ持つモダンなジュエリーに仕立てられたら」と、「きらめく」イメージをデザインに凝縮。鮮やかなピアスに収斂(しゅうれん)している。

プロンジェエクラのボルダーオパールとデザイン画
「Plongereclat(プロンジェエクラ)」のネックレスとピアス
サンティエのバイカラートルマリンとデザイン画
「Scintiller(サンティエ)」のピアス

インバウンド需要を見据え、ビズー初のグローバルライン「BIZOUX VACANCES(ビズー バカンス)」も旗艦店限定で展開する。「端正に研磨され、美しく輝く宝石」と「あえてラフに研磨することで、本来の色味を楽しめる大粒の宝石」を上下に組み合わせたピアスや、バイカラーの宝石によるブレスレットなどを全て一点物で制作した。

「例えば、上にはプレシャスなアイオライト、下にインクルージョン(内包物)のあるソーダライトを組み合わせたピアス。一般にソーダライトは枠に10金やシルバーなどが使われますが、アイオライトと同じ18金を施し、全体としてしっかりとしたジュエリーに仕上げています。カットの異なる2種類のタンザナイトを使ったピアスは、どちらが上か、下かではなく、人と同じでそれぞれの個性を生かすことを前提に一つのジュエリーに仕上げたもの」と山田さん。ダイバーシティーの上に生まれる価値が表現されているのだ。

カットの異なるタンザナイトを贅沢に使い、ボリューム感のあるピアスに仕上げた
初のグローバルライン「BIZOUX VACANCES(ビズー バカンス)」

この物作りの背景には、透明度が高い、色が濃いなど価値の高い石に売り買いが集中し、低いと評価された石は安値で売られたり、放置されてきた業界慣習への反省がある。採掘された天然石のうち、ジュエリーとなって市場に出るのは数パーセントとも言われる。「形がまちまちだから使えない、内包物の価値が低いから要らないなどは人が決めていることで、価値の高いものだけを求めて採掘し続けた結果、閉山した鉱山も多くあります。環境問題もある中で、全てが等しく貴い資源と捉え、ジュエリーとして素敵、可愛いと感じてもらうためにどうしていけばいいのかを考えた」。結論として、不揃いのシルエットやインクルージョンを「個性」と捉え、天然石ならではの自然美を生かしたジュエリーを企画し、グローバルメッセージとして発信していくこととした。

ビズー バカンスのブレスレット

環境負荷の低減や宝石ロスのゼロへ向けては、SDGsの「つくる責任・つかう責任」への取り組みの一環で、ビズー全体で「人工宝石」の活用を進めている。採掘されたままの原鉱石を素材として活用し、研究所(LAB)で天然石がマグマの中で生成される過程を忠実に再現し、再結晶させて「宝石へと育てていく(GROWN)」。このラボグロウンのカラーストーンを使ったリングやネックレスなどを旗艦店でも提案している。アレキサンドライトやパパラチアサファイア、スタールビーなど、天然石と変わらない美しさは必見だ。

ジェンダーフリーも、ミッションの一つとして掲げている。年齢や性別、国、身分に関係なく、「自分らしさ」を表現できる社会の実現にいかに貢献していくか。そのためにジュエリーの製造小売業である自分たちができることとして、「ジェンダーフリー」のシリーズを展開している。ジュエリーは女性が身に着けるものという固定観念が残る中、あえてメンズでもユニセックスでもない、誰もが「美しい、身に着けたい」と思え、「一生大切に」できる素材やデザインを採用。多様なファッションに対応するファインジュエリーに仕上げた。

アンティークジュエリーの要素を再解釈し、シンプルにアップデートした「ジェンダーフリー」
アレキサンドライトやサファイアなど天然石と変わらない美しさの「人工宝石」

客とジュエリーの個性の最良の出会いをサポート

旗艦店では売り場横のバーカウンターのような落ち着いた接客スペースでセミオーダーにも対応している。リングの場合、豊富に揃うカラーストーンから石を選び、枠のデザイン、地金の色を決め、サイズを測り、表面加工を選ぶ。納期は6週間程度。一方、ダイヤ以外の新たな選択肢として、カラーストーンのブライダルリングを提案しているのも旗艦店の特徴。例えば2人で眺めた海や夕日の色などの思い出や好みから2人のテーマで色を決め、宝石もエメラルドやサファイア、ルビー、トパーズ、アクアマリンなど12種類からセレクトできる。オープンして間もないが、好評を呼んでいる。

      
お気に入りの石で自分だけのジュエリーを作れるセミオーダーが人気
フォーマルにも、普段使いにも素敵なブーケをモチーフにしたパヴェリング
カラーストーンの婚約指輪シリーズも展開

「専門知識を備えたスタッフが、お手持ちのジュエリーはもとより、ワードローブ、お仕事や趣味など様々なことを丁寧にヒアリングしながら、パーソナルカラー診断をして、お気に入りの一品作りをサポートします」と山田さん。カラーストーンだけに「以前、飼っていたペットの目の色を思い出すブラウン」「旦那様にプロポーズされたバラ園の赤」などパーソナルな思い出が、選ぶ色と結び付いていることが多いという。だからこそ、「接客におけるコミュニケーション力と専門力がとても大事」になる。ギンザ シックス店のオープンに向けては、店長もインドなどの産地に同行し、宝石を自身の肌の上に載せて身に着けたときのイメージを確認しながら1点1点買い付けた。現場目線で仕入れた宝石だけに、ジュエリーとなって店頭に並ぶまでのストーリーを顧客に伝えられることも魅力となっている。

        
一人ひとりの要望に対応する接客カウンター

他にもビズーの定番アイテムが揃う。「Bellezen(ベルエゼン)」は、簪(かんざし)をモチーフとしたリング。昨年出店した京都店の限定アイテムとして製作したが、その人気ぶりから旗艦店でもラインナップに加えた。大粒のアコヤ真珠を主役に、ブルーサファイアやグリーンサファイア、ダイヤモンドなどの貴石、デマントイドガーネットといった希少石、計10石の宝石が調和したマルチカラージュエリーだ。日本の美意識をアシンメトリーなフォルムに凝縮し、簪の揺れる感じが表現されている。華美に過ぎず抑制の利いたデザインは、「国内外を問わず人気」という。

簪にインスピレーションを得た「Bellezen(ベルエゼン)」

客層は30~40代を中心に、日が経つに連れ幅広い世代が来店し、インバウンドも増加している。男性客が一人で来店し、自分用にジュエリーを購入するケースもある。「今のところ全体的には自家需要が圧倒的に多く、以前ほど男女のボーダーもなくなってきていると感じます。ジュエリーは気持ちの豊かさのために身に着けるもの。その最良の出会いをサポートしていくため、旗艦店だから何でも揃えるのではなく、新しい提案に挑戦していくスタートの場と位置づけ、MDの鮮度を高めていきたい。その意味では、お客様と共に次への可能性を拓いていくショップ」としている。

写真/野﨑慧嗣、ドリームフィールズ提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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