片山久美子(かたやま・くみこ) CITYSHOPコンセプター・バイヤー
青山学院大学仏文学部卒。2006年からセレクトショップバイヤーとしてのキャリアを積み始める。16年にベイクルーズグループへ入社。17年から「CITYSHOP」コンセプターとして、ファッション部門の買い付け、オリジナル商品の企画など総合的なディレクションを手掛ける。

苦戦で培われたトライアンドエラーの土壌

CITYSHOP(シティショップ)が提供するのは、現代女性が「自分らしく」あるためのファッション、フード、ビューティー、カルチャーなどと出会える場。渋谷キャストの顔となるグランドフロアでデリカテッセン、らせん階段で結ばれた上階でセレクトショップを展開している。2フロアによるカルチャーミックス型業態だ。南青山時代も同じフロア構成だったが、「セレクトショップとしては後発で、お客様も買い付けしているブランドもデリの印象が強く、数年間はなかなか認知が進まなかった。私たち自身もお客様が求めているものをつかみ切れておらず、シティショップの在るべき姿を模索することになった」と、片山久美子さんは振り返る。

「毎日が必死だった」と言うほど苦戦が続く中で培われたのがトライアンドエラーの土壌だった。一客一客と向き合いながら、「必要なピースを探しては、パズルのようにはめ込んでいったというか。シーズンを追うごとにブランドやアイテムの取捨選択が進み、シティショップのイメージがクリアになっていった」。

大きな転機となったのは、2018年の「TOGA PULLA(トーガ プルラ)」とのコラボレーションだった。異なる素材やテイストを自在にミックスさせる同ブランドの物作りはシティショップのコンセプトと親和性が高く、熱いファンが多いことも来店を促し、店に対する認知が広がった。パイソン柄×黒と白×パープルの「メタルスニーカーサンダル」と、スエードとシルバーという異なる質感の素材を組み合わせた「メタルショートブーツ」を展開し、完売となった。「お客様が求める、ここにしか無いもの」を作り込み、そのローンチの仕方なども学んだという。次へのきっかけをつかみ、同年に渋谷キャストへ移転した。

セレクトアイテムも「お客様のために作り上げる」

新たな旗艦店となった渋谷キャスト店は、売り場面積も233㎡へと拡大。中央の階段から吹き抜けのゆったりとした空間は木の梁が印象的で、石やスチールの重厚でクラシカルな什器やグリーンを配置し、自然と無機物のミクスチャーで、デリのコンセプトとリンクするニューヨークのモダンな空気感を演出している。

渋谷キャストの2層で展開する「CITYSHOP(シティショップ)」
     
現代女性が「自分らしく」あるためのプロダクトを厳選

MDはセレクトが45%、オリジナルが55%で構成。移転前よりオリジナル比率が15%ほど高まった。セレクトアイテムも別注を中心としたラインナップで、ショップの個性を訴求する。現在5店舗を展開しているが、渋谷キャスト店のみの取り扱いとなる「Maison Margiela(メゾンマルジェラ)」や「LEMAIRE(ルメール)」といったメゾンブランドも魅力だ。オリジナルもセレクトも一品一品にシティショップのコンセプトが通った商品を作り込み、ミックススタイルとして発信している。この姿勢を強めたのは、コロナ禍がきっかけだった。

「20年の3月から6月まで店を開けられず、新店をオープンしても営業ができなかったり、出店自体が延期になってしまったり。どうやってスタッフを守り、シティショップを存続させていくのか、すごく考えさせられた」と片山さん。アパレル業界の大量廃棄も要因となっている環境問題への対応も迫られている中で、「ファッションは本当に必要なのか、自分がファッションを続けていく意味は何か、シリアスに見つめ直しもした」という。その結論として、「今はもちろん、3年後も、5年後、10年後もスタイリングによって楽しめる、トレンドに左右されない、変わらない価値を備えたものしか買い付けない、作らないと決めた」。オリジナルはもちろんのこと、セレクトもコレクションをそのまま買い付けるのではなく、「シティショップのお客様のために作り上げていく」ことを基本に据えた。

セレクトアイテムは、以前はブランドのデリバリー状況に合わせて店頭展開していたが、ブランドと共に作り上げた新作を月に2回、ローンチするシステムに切り替えたのが20年4月のこと。このエクスクルーシブで表現したいスタイリングに向け、オリジナル商品を開発していく。というと、ベーシックで値頃な商品を想像するが、「シティショップでは単にシンプルで買いやすい服が売れないんです」と片山さん。とはいえ、「個性的過ぎるものは中心顧客層の30代後半から40代の女性にとって心地良くない」ことから、オリジナル商品ではエクスクルーシブとのレイヤードで生きるデザインディテールや素材、シルエットなど「シンプルでもひと癖ある」ことにこだわる。例えば、メンズのタイプライター生地で背中が大きく空いたロングドレスを作るなど、相反する要素を融合し、ジェンダーを超えたモードに仕上げているのが特徴だ。

2023年春夏コレクションのルックより
2023年春夏コレクションのルックより

そうした服作りやスタイリング提案、店頭表現を着実に進めていくために、常に確認することとして「ウーマン&ジェントルマン」「ヘルシー&モード」というコンセプトがある。凛々しい女性像がイメージされるが、「メンズライクにもレディライクにも寄り過ぎない、モードだけど、どこか抜け感があって瑞々しい」スタイルを追求している。「パターンバランスに少し違和感を持つ」ような大きめのサイズ感も持ち味だ。

シンプルに終始しない、工夫を凝縮した服作り

23年春夏コレクションのテーマは「WATER」。人間にとっての水のように必要不可欠なものだけを集め、提案していきたいと、しなやかさ、透明感、きらめきなどのイメージを服に投影した。「消費サイクルではない時間軸で、無駄なく美しい普通服」をコンセプトとする「WARDER(ワーダー)」と初めてコラボした別注のセットアップは象徴的だ。ブルーでギザ綿のツイル生地を染め、見た目の張り感と軽やかな着心地を両立させた。

オーストラリアのライフスタイルブランド「SUKU HOME(スクホーム)」は、デザイナーの母国であるインドネシアの伝統的な手染めと手縫いによるホームウェアが人気。今回は初めて型を別注。インラインのパジャマのトップスの袖を半袖から長袖に、パンツをショート丈からロング丈にアレンジした。ビンテージやユーズドの生地をウェアへと再構築する日本のブランド「MALION Vintage(マリオンヴィンテージ)」にも注目。メンズライクとレディライクを融合したデザインが特徴で、クロシェレースとカットワークレースのパッチワークによるホルターネックのトップス、インラインのカットワークレースを組み合わせたロングスカートを黒染めするなど、シティショップのために作られたアイテムが揃う。

「WARDER(ワーダー)」のセットアップ
「SUKU HOME(スクホーム)」と作り込んだ手染め・手縫いのウェアに、写真右はシティショップオリジナルのレースアップスモック、左は「MALION Vintage(マリオンヴィンテージ)」のカットワークフリルスカートをコーデ

デニムも単にシンプルにこなさない。「Lee(リー)」とのコラボレーションでは、自動車整備工の作業着として1913年に開発された「ユニオンオール」を軽量化し、動きやすいディテールや機能的なポケットなどにこだわったジャンプスーツ別注をした。「Wrangler(ラングラー)」とのコラボでは13オンスのブロークンデニムを使い、ワッペンを散りばめたジレを製作。オーバーサイズで、Tシャツはもちろん、ジャケットやコートとのレイヤードも面白い。ワッペンはラングラーが蓄積してきた約1000点の中から片山さんがセレクトして1点1点を組み合わせ、「ビンテージっぽいものにはしたくなかったので、2枚だけ本物のビンテージワッペンを忍ばせている」。

「Wrangler(ラングラー)」のデニムジレ
「Lee(リー)」のユニオンオール

オリジナルでは、オックステーラードジャケットが目を引く。シーズンカラーのフューシャピンクを採用。ややビッグシルエットにすることでメンズライクな着こなし、柔らかで落ち感のあるレーヨンポリエステル生地によって着用時のリラックス感を実現した。シワ感のあるオーガンジーを使ったジャケットも好評だ。シンプルなデザインを大きめのサイズ感で仕上げ、縫い代にパイピングを施すなど、エレガントに寄せず、カジュアルなモードを表現した。1枚仕立てで裏地や肩パッド、芯地がないため軽く、シャツ感覚で着こなせる。

フリンジベストは、張りのあるリネン糸で大きな網模様をかぎ針編みしたアクセサリー感覚のニットベスト。シャツやジャケットなどとレイヤードすれば、スタイリングのアクセントになり、揺れるフリンジが軽やかなニュアンスを演出する。オーガニックコットンを使ったワッシャー仕上げのタイプライター生地によるレースアップスモックは、襟と袖口のフリルが醸すふんわりとした甘さをレースアップのエコレザーの異素材感が引き締める。

毎シーズン人気なのがサテンスカート。サテン生地に洗いをかけることであえて光沢を抑え、バイアス仕上げで程よい伸縮性があるため、身体に沿うラインだがリラックスした着こなしを実感できる。

見た目はカチッとしていながらリラックスした着心地のオックステーラードジャケット
アクセサリー感覚でコーデできるフリンジベスト
写真左はオーガンジーテーラードジャケットに人気のピンタックワイドパンツ、右はメッシュフ―ディーにサテンスカート

SNSで強めた顧客とのつながり

新進気鋭を含むブランドと作り込んだエクスクルーシブ、着回しの利く、ありそうで無かったオリジナルアイテムが月2回ローンチされるのは、やはり大きな魅力。この仕組みを機能させていくために取り組んだのが、ローンチ前の販促活動だ。1ヶ月前にECサイト「ベイクルーズストア」で新作を発表(旗艦店ではサンプルを展示)して予約を受け、2週間前にライブコマースで商品を紹介し、店頭に商品が入荷する1週間前に各店舗のスタッフがスタイリング画像をインスタグラムに投稿し、発売日前日にはインスタライブを配信する。

「コロナ禍で実店舗の営業ができなかったため、ECやSNSに改めて力を入れました。1ヶ月間で段階的に商品の魅力を伝えることによって、お客様は買い物の計画を立てやすくなり、発売日を楽しみにするという習慣ができていったんです。画像や動画を観ながら予約もできるので、発売前に売り切れてしまうアイテムもあります。一方、私たちも事前に商品知識を共有したり、各店舗が店頭で同じ世界観を表現していけるよう準備することに集中できるようになりました」

     
スタッフによるインスタライブ。DMで顧客からの質問などに対応

特にインスタグラムはスタッフ全員がアカウントを所有し、DMもオープンにした。フォローからの予約、購入、来店だけでなく、SNS上で気軽に質問や相談もできるようにしたことでコミュニケーションが促進され、「お客様とのつながりがすごく強靭になり、グンと顧客化が進んだ」という。23年4月現在で全客数に占める顧客比率は78%と、19年比で倍増している。この濃密で強い関係ができたことで、顧客はオンラインで購入しやすくなり、「セレクトやエクスクルーシブに合わせられる高感度で比較的買いやすい価格帯のオリジナル商品が売れ、開発も強化している」。結果としてオリジナル比率が高まり、売り上げもセレクトを超えるまでになった。

「コロナ禍を経て、自分たちがやらなければならないこと、お客様とのつながり方が明確になり、好調に転じました。よりパーソナルな視点でMDを考え、商品開発や買い付けをするようになったことで、シティショップの世界観に必要なピースが厳選されてきていると実感しています」と片山さん。服作りのストーリーと販売のストーリーが掛け合わされ、一人ひとりの顧客にとってのスペシャルな購買体験を生む。この繰り返しによって、シティショップ自体のブランド化が進んでいる。

写真/遠藤純、ベイクルーズ提供
取材・文/久保雅裕

関連リンク

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

Journal Cubocci

一覧へ戻る