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aikoはラブソングの名手だ。それは、4枚組シングルコレクション『aikoの詩。』を挟み、前作『湿った夏の始まり』から実に2年9ヵ月ぶりとなる通算14枚目のアルバム『どうしたって伝えられないから』でも変わらない。

島田昌典、OSTER projectに加え、トオミヨウをプロデューサーに迎えた新作のインタビューでは、彼女の年齢にフィーチャーした話題が多かったが、ラブソングを唄うことと年齢はあまり関係ない。もちろん、多くの人にとっての恋愛は、年齢を重ねるごとに苦味は増すし、自分の人生や死というものに向き合う場面も増えるもの。だが、aikoのラブソング――それはもう10代の頃から、命も恋も夜明けとともに消えてしまう霧のように儚くて不確かなものだという、生と愛の痛みや切なさを抱えていた――の根底にあるのは“愛の子”という名を持つシンガー・ソングライターにとって、決してブレることのない軸であり、普遍的なテーマなのだ。

その上で、真実の愛を求めている方には、このニューアルバム『どうしたって伝えられないから』を本気でお勧めしたい。特に、自粛期間中に自分と向き合い、“私にとって本当に大切なものってなんだろうな?”と探求したという方には、本作を頭からゆっくりと聴いてもらって、13曲目に収録されているラストナンバー「いつもいる」に、たどり着いてほしい。

僕は、真実の愛とは何か?生きるとは何か?本当に大切なものは何か?という人生の命題に対するひとつの明確な答えを与えてもらった気がした。aikoの数あるラブソングの中でも、本当に大きな意味をもつ重要な名曲だと感じている。

改めて、誰もが過去や現在、未来の自分を重ねてしまう13篇のさまざまな愛の物語を、アルバムのタイトルに引用されている“伝えられなかったこと”は何なのかを考えながら読み解いてみよう。

まず、ピアノの伴奏に真顔で呟くような語り口からはじまる1曲目の「ばいばーーい」は、タイトルからも分かるとおり、別れの曲だ。僕は男なのでついつい“あなた”視点で聴いてしまうのだが、“あたし”の声の温度の低さが怖い。“ごめんなさい”と言いそうになる。最初のキスや大切な思い出、合鍵などなど、<全部返せよ>と続く。“返してね”でも、“返して”でもなく、<返せよ>というフレーズ。そして、<さようなら>じゃなく、未練を振り切るように大声で放つ<ばいばーい>という別れの言葉。そこには“あたし”を裏切った“あなた”への静かな怒りが込められている。しかし、別れを告げられたのではなく、自分から別の道を歩いていくことを決意した “あたし”は苦くて悲しい気持ちを全て歌に書き留めたことで少し前を向いている。失恋ソングだがネガティブな終わりかたではないだろう。

ホーンが鳴り響くソウルポップ「メロンソーダ」は卒業してから距離が縮まった“君”との関係が描かれている。恋愛関係かもしれないが、制服のままメロンソーダを飲んでいる女友達が見える。勝手な想像になってしまうが、主人公は深夜ラジオ好きで、おそらく午前3時4時30分――金曜日は5時までだが――の「オールナイトニッポン0」を聴いてる。主人公がラジオの電源切って、ベッドに入る頃に、“君”は目を覚まし、朝の身支度を始める。医療従事者かもしれないなと思う。主人公はそんな“君”との関係を人生のプレゼントだと感じている。<繰り返し始まる続きをこの手で作るの>というフレーズもまた、続きを想像できるという意味で前向きであり、当たり前を無くしたくないという温かく力強い思いも感じる。

「シャワーとコンセント」は“君”と“僕”の最後の時間で、“僕”の視点で描かれている。ピアノもベースも歌声も弾んでいるし、ギターもドラムも饒舌だが、“僕”は言いたいことを言えないままでいるし、“君”はもう昨日までとは違う他人の顔になっている。<大好きだ>ってもっと言えば良かったと後悔してももう遅い。全ては終わってしまっているのだ。

続く、「愛で僕は」はウーリッツアーとシェイカーがウォーミーなムードを引き連れてくるジャジーなラブバラード。<君は僕の全てだ>と言い切り、起きてる間中、君のことを考えている点には少し危うさを感じるが、晴れたら手を繋いで出かけ、雨なら部屋で抱き合っていようという提案する“僕”と“君”が同じ気持ちなら幸せいっぱいの曲ということでいいかと思うが、恋愛ってそういうことじゃないんじゃないかと思ったりもする。“僕”はいつも君が好きだという自分の気持ちばかりで、“君”の気持ちを何も考えないんじゃないかなと思ってしまう。

そんなことを考えたのは、40枚目のシングル「ハニーメモリー」と39枚目のシングル「青空」が共に失恋ソングだったからかもしれない。もちろん、主人公は曲ごとに違うのはわかってるけど、「ハニーメモリー」の“僕”は<隣にいる君じゃなく違う花食べた>と言っており、少なくとも“君”を5回はズタボロに傷つけている。それなのに、<君がいないと味がしないんだ>と後悔している。恋愛におけるふたりの関係は当事者同士しかわからないことが多いけれども、間違った時は素直に<ごめんね>と謝り、毎日飲みに行かずに、大人しく家に帰っていれば良かったのに、この“僕”も全てはもう終わってしまっている。

「青空」はまだ過去を振り返ることができないくらい、おそらく突然に終わってしまった恋の話。まだ茫然自失としている。服を脱ぐときに薬指の指輪がニットに引っかかる描写が妙にリアルでドキッとさせられる。

エレキギターのリフが印象的な「磁石」の“あなた”と“あたし”も“あたし”が背中を向けて、遠く離れていってしまっている。ただ、憧れていたはずの“あなた”との関係に悩んで、何も言わないままに別れを決めた“あたし”は、ひとりになって、朝の眩しさを感じている。部屋で塞ぎ込んではいないし、下も向いていない。

ストリングスとハープ、クラリネット、ヴィブラフォンなどのオーケストラがドリーミーにダンスさせてくれる「しらふの夢」は、10代の頃から知っているふたりの再会の時か。あなたの言葉、仕草、表情を忘れないようにお酒を飲まずに、全部記憶に刻んでいる。<今晩はあなたのところに朝までいたい>と願う二人がこの後どうなったかはここには描かれていない。ピアノとヴォーカルのみで始まる、クラシカルでチャーミングなワルツのような「片想い」は春休みに始まり、夏休みにこんがらがった学生時代の恋。タイトルの「片想い」は文字とおりの片思いではなく、付き合っているはずなのに、片想いのような気持ちだという複雑な心境。出会いは忘れたけど、“あなた”のにおいだけ覚えているという主人公は、<いつも片思いみたいな気持ちだったよ>ということを伝えに行くことにする。相手がどう思ってるのか、本当のところがわからないという主人公の想いは、きっと誰しもが感じたことがあるだろう。

アルバムはいよいよ終盤へと向かっていく。これは本作全体的に言えることだが、別れの曲であっても絶望ではなく、少しの希望が描かれている。恋に振り回されて自分を見失いそうになりながらも、一生懸命に前を、自分の人生の続きを見ようとしている。また、これまでは、どんなに幸せな時でも終わりを考えてしまう思考があったのだが、「NO.7」では<明日が終わりが来たらなんて考えるのはもうやめよう>と歌い、お互いにお互いがいることを誇りに思い、あなたとずっと一緒にいるために、お菓子とお酒を控えようと決意もしている。歌詞の最後の<夜明け>とは実際の時間の夜明けではなく、“あなた”と“あたし”の新しい世界の夜明けなのではないかと思う。

そして、眠れない夜に過去の辛い恋愛を思い出す「一人暮らし」を挟み、「Last」では、ついに“あなた”に面と向かって<ずっと約束してほしい/ずっとここにいて欲しい>と真っ直ぐに伝えている。主人公も嬉し涙を流しているけれども、聴いてる方も涙を誘われる。サウンド的にはマイナー調で、それは心と声の揺れを表現しているのだろう。最後の<一緒にいられると思ってなかった>の後のロングトーンは永遠に続くのかと思うほどの喜びと驚きと感動に満ちており、ラストナンバー「いつもいる」でそんなふたりの穏やかで優しい日常が始まる。<全てが命ある/今夜も愛なのね>と歌い、<ダメな日があっても/日々は続くよ>と続く。もう1行1行挙げていきたいくらいなのだが、最後の<あなたの隣で笑ってる/それが生活/ずっと一緒にいること>というフレーズ。特に、恋や愛や夢や運命や人生ではなく、<それが生活>と締めくくったところにグッときてしまった。素晴らしい人に出会って、幸せな日常を送っていくことよりも満ち足りた人生なんてあり得ないわと言っているようで、それこそが生きる目的そのものなのではないかと教えてもらったような思いがする。

(おわり)

文/永堀アツオ






[section heading="aiko、フジテレビ系「Love music」で憧れのKANと対談! "]

aikoが3月7日(日)オンエアのフジテレビ系「Love music」に出演する。

番組内では、3月3日発売のニューアルバム『どうしたって伝えられないから』収録の「メロンソーダ」をフルサイズで初パフォーマンス。そして、aiko自身が最も影響を受け、リスペクトするアーティストであるKANとの対談も実現。aikoが作詞作曲を手掛けた「メロンソーダ」は、2019年、FM802開局30周年春のキャンペーンソング。

「メロンソーダ」のオリジナルは、aiko、上白石萌歌、谷口 鮪(KANA-BOON)、橋本絵莉子(チャットモンチー済)、はっとり(マカロニえんぴつ)、藤原 聡(Official髭男dism)からなるスペシャルユニット、Radio Darlingsがボーカルを執り、KANがコーラスをアレンジ、かつ秦 基博とともにコーラスでも参加しているが、そのセルフカバーバージョンが『どうしたって伝えられないから』に収録された。

「Love music」のスペシャル対談では、「メロンソーダ」の話題はもちろん、楽曲制作や、ライブパフォーマンスについてaikoとKANが語りあう。フジテレビ系「Love music」のオンエアは、3月7日(日)の深夜24:30から25:25まで。

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