YouTube総再生1億回超、TikTokバズ連発のフィンガースタイルギター革命児マーシンが12月14日(日)に恵比寿THE GARDEN HALLにて来日公演を開催した。オーストラリアから始まり、北アメリカ、アジアを巡る世界ツアー「Art of Guitar Tour」のラストを飾った東京公演のオフィシャル・ライヴレポートをお届けする。1500人の観客を魅了した公演の余韻に浸れるセットリストのプレイリストも公開中だ。 

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MARCIN Art of Guitar Tour - Japan 2025 

2025.12.14 恵比寿THE GARDEN HALL 

オフィシャル・ライヴレポート 

文: 栗本斉 写真:Osamu Hoshikawa 


2024年に初来日して以来、その超絶技巧のギタープレイで音楽ファンを魅了して止まないマーシン。2025年にはFUJI ROCK FESTIVALに初出演を果たしてオーディエンスの度肝を抜いたばかりだが、早くも再来日が実現した。しかも今回は、前年のライブハウスからキャパシティが大幅に拡大し、東京では恵比寿THE GARDEN HALLのオールスタンディング公演となった。 

 

2000年生まれ、ポーランド出身のマーシンは、15歳で地元のオーディション番組で注目されて以来、着実にファンを増やし続けてきた。InstagramやTikTokといったSNSの総フォロワー数はおよそ1000万人。それだけに、日本においても熱烈なファンが急増中なのは当然と言っていいだろう。実際、会場には老若男女問わずたくさんのファンが集まっており、開演が近づくにつれてホール内での身動きが取れなくなるほどの大盛況ぶりだ。 

 

そんな期待が高まる中、オープニングアクトとして登場したのは、急遽ゲスト出演が決定したRJ PASIN。マーシンが彼に連絡を取り、楽曲の断片を送ってもらって共同制作したのが「Art of Guitar」だ。2025年7月に配信されたこの曲は、すでにSpotifyだけでも1000万回近い数字を叩き出している。彼自身も優れたギタリストであるだけに、30分に渡ってノンストップで披露されたパフォーマンスは、ハードロック・テイストを基調にしながらも緩急自在のエレクトリックギターでの速弾きプレイを披露。ダークな雰囲気を湛えながらも大いに盛り上がった。

 

インターバルの後、満を持して本日の主役マーシンが登場。真っ赤な照明が中央に立つ彼の姿を浮かび上がらせ、突如ギターのボディを叩きながらリズムを取り、アコースティックギターをかき鳴らし始める。大歓声がそれに応え、さらにマーシンが「トキオー!」と観客を煽りながら、フラメンコのエッセンスを取り入れたナンバー「Guitar is Dead」から「I Killed It」というアルバム『ドラゴン・イン・ハーモニー』のオープニング同様の展開で一気にヒートアップ。細やかな指使いとダイナミックなカッティングの絶妙な組み合わせに、一気に引き込まれていく。立て続けに、残響音を生かした静かなフレーズから激しいタッピングを披露するなど、早くも彼のギターテクニックを存分に見せつけられる。

 

日本語を交えながら「アリガトウゴザイマス!」と感謝の言葉を述べた後は、メロウなフレーズを弾き始め、シャーデーのカヴァー曲「Smooth Operator」へ。テンポダウンしているからこそ、彼のプレイが実に絶妙なリズム間の上に成り立っているのかがよくわかる。マーシンのシグネチャーモデルとして作られたというIbanezのMRC10というエレクトリック・アコースティック・ギターの響きも見事で、ボディ・タップからスクラッチまであらゆる技巧を演奏に盛り込む様は圧倒的。とはいえ、原曲のメロディの質感を壊すことなく聞かせるセンスもさすがだ。そのセンスの良さは、「今日は僕の人生で最も大きなライヴです!」と喜びに満ちたコメントの後に演奏された「Just The Two Of Us」でさらに際立つ。この曲はビル・ウィザースのヴォーカルをフィーチャーして発表したグローヴァー・ワシントン・ジュニアの名曲で、マーシンは日本のギタリストIchika Nitoとのコラボレートに選んだ一曲。自然と沸き起こる手拍子に導かれるように、グルーヴを生み出しながらタイトな演奏を決めてくれた。

 

このあたりからマーシンのプレイはテンションが上がっていく。強力な最新ナンバー「How Music Works」では、曲芸かと思うほどの目まぐるしい手さばきでギターを操り、「Bite Your Nails」ではフラメンコを思わせる怒涛のカッティングで圧倒させていく。もはやアコースティックギター1本とは思えない壮大ささえ感じられる。4つ打ちのビートが高らかに鳴り響くと、マーシンはステージ下手に置かれていた白いストラトキャスタータイプのエレクトリックギターに持ち替え、これまでとは違うロックテイストが強めの演奏を披露。アームを駆使したフレーズを反復したかと思えば、オリエンタルなメロディをライトハンド奏法で派手に見せつける。そして、オープニングに登場したRJ PASINを呼び込んで激しいコラボレーションへと突入。まるでヘヴィメタルのギター合戦を彷彿とさせる迫力で、向き合って演奏する様子に彼らの信頼関係を感じられた。

 

共演を経た後は、再びアコースティックギターを手に取り、バッハの「Toccata」の演奏が始まる。パイプオルガンの荘厳な演奏で知られるクラシックの名曲が、ギター1本でも原曲を凌駕する演奏ができるなんて、バロックの時代には誰も想像もつかなかっただろう。一変し、ジャスティン・ティンバーレイクのカヴァー「Cry Me a River」では、サンバのビートに乗せて軽やかにプレイする。こういった少し肩の力を抜いた演奏も素晴らしい。そして「“頑張って!”と言って」と日本語のMCを交えて挑んだのが、最大の難曲ともいえるパガニーニのヴァイオリン曲をアレンジした「Paganini's Caprice No. 24」。これほどのテクニカルな楽曲をレパートリーにするなんて、相当の自信がないとできない。ダイナミックな演奏の後は、アルペジオが印象的なジャジーな雰囲気で余韻を作るステージングも上手い。

 

ギターのチューニングを自在に変えながら、細やかなパッセージを弾き、「ポーランドの作曲家ショパンの楽曲です」と紹介してから演奏したのは「Nocturne」。誰もが聴いたことがあるロマンティックなメロディを、テクニカルな装飾音を交えながら美しく響かせてくれた。長い拍手に包まれ何度もお辞儀をした後は、一転してヘヴィなリズムと情熱的なパッセージを展開する「Classical Dragon」へ。アルバムではティム・ヘンソンをゲストに招いた一曲だけに、アコースティックギターでループを作った後、ステージ上手に置いてあったティムのシグネチャーモデルであるエレクトリック・ガットギターで音を重ね、ひとりデュオのパフォーマンスという荒業で場内を沸かせた。

 

しかし、クライマックスはここからだった。「アリガトウゴザイマス」「チョット水ダケ」などと流暢な日本語を交えて笑いを取った後は、「クラシックの曲です」と言って披露したのが「Beethoven's 5th Symphony」、いわゆるベートーヴェンの「運命」だ。“ジャジャジャジャーン!”という有名なフレーズを弾く度に大歓声が沸き、ステージ上を動き回りながら原曲のパッションを抽出したかのようなプレイに没入していく。まさにマーシンの本質を感じられる一曲だった。そのまま、自身の特異な奏法を解説しながらの「Toxicity」で、ハードかつアクロバティックな演奏を繰り広げていく。怒涛の展開にとにかく圧倒された。

 

いったんクールダウンしたマーシンは、某コンビニの入店音をギターで弾いてお茶目な一面を見せつつ、「この曲は僕のお母さんに」といって弾き始めたのがシューベルトの「Ave Maria」。こういったクラシック・ナンバーの演奏に、彼のルーツが垣間見られて非常に興味深い。テクニックだけでなく、いかに音楽を美しく響かせることができるか、という意識を持っていないとこんな演奏はできないだろう。

 

さて、いよいよラストスパートとなった。何度も感謝の念を伝えながら「ファイナルピースです」といって弾き始めたのが「Carmen」。ビゼーのオペラ『カルメン』の「ハバネラ」をモチーフにした一曲だ。これがまた彼のスキルをすべて注ぎ込んだかのような演奏を繰り広げ、いつしか会場全体に手拍子が響き渡っている。ホール全体の音圧に圧倒されながら演奏が終了。「アリガトウゴザイマシタ!」と言い残してステージを去ったが、すかさずアンコールの大合唱が起こり、再びマーシンが登場。「ダイスキ!」を連呼しながら、本当のラストナンバー「Kashmir」を演奏。レッド・ツェッペリンの名曲をタイトかつハードに決めて大団円を迎えた。

 

一瞬たりとも見逃せないパフォーマンス。今回のステージはまさにそんな印象だった。さらに付け加えるなら、満員のスタンディングが少々狭く見えてしまったこと。マーシンのスケールとキャパシティはこれでは終わらないということをあらためて確信できるライヴだった。2026年もますます飛躍するのは間違いないだろう。どんなサプライズが待っているのかはわからないが、今後もマーシンの動向に注目してもらいたい。

【公式SNS】 
Instagram:https://www.instagram.com/marcin.music/  
YouTube:https://www.youtube.com/@MarcinGuitar 

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