昭和音楽大学とACPC(一般社団法人コンサートプロモーターズ協会)の産学連携講座として『ライブビジネスと社会』と題し全14回の予定での講義、第2回目の講師はACPC(一般社団法人コンサートプロモーターズ協会)会長でもあり(株)ディスクガレージグループホールディングス代表・中西健夫。満席の学生を前に「ライブ産業の歴史と現状」のタイトルで講義はスタート、“(ミュージシャンとして)プレイヤー、(音楽関係の)スタッフ、どちらを目指す方もいると思うが、どちらもやってきた人間として”との自己紹介から、現在はコンサート業という中西がまず話し始めたのがライブ・エンタテイメント市場のこと。“コンサート業界がなぜ活況を呈しているのか”という事前に寄せられた学生からの質問を取り上げ、コロナ禍前よりかなり市場規模が大きくなっている事実、その7割を超える規模が関東と近畿圏に集中しているという現実について語る。その上で“巷に流れている音楽そのものをもっと流していく必要がある”と、今年初開催の『MUSIC AWARDS JAPAN』の話へ。

自身がアメリカのグラミー賞に初めて赴き、日本でもグラミーのようなアワード創設に向けて働きかけ始めた時のコロナ禍。夢が潰えるとも思ったそうだが、主要な音楽業界5団体がひとつにまとまり新たに団体を立ち上げることになり、“日本の音楽業界の底上げになるのかもしれない“と歩み始める中、BTSの世界的ヒットを受け“次はJ-POPを世界に”とアワードがあることの意義を説く。今年のグラミーは舞台となるロサンゼルスが大きな山火事に見舞われながらも、音楽で山火事を救おうという思いからグラミーが行われたこと。“本当にピンチになった時ほど音楽の力が発揮されるのではないか”という中西の見聞を基にした話に学生の眼差しも熱くなる。中西が思い描いている夢が今後の『MUSIC AWARDS JAPAN』で実現する時、ここで聴講した学生と現場で出会えるようにと願う。

 続いて中西がスペシャルゲストとして迎え入れたのが山本彩。松本隆作詞活動55周年記念コンサートで聴いたという山本の歌唱を”これまでも歌い手ではあったがさらに歌い手になった正統派”と大絶賛してから、学生からの質問を元に2人での対談が展開していく。“アイドルからアーティストへ移行した時に葛藤などはあったか?”との問いには”アイドルはイメージがすごく大事で貫くことも大事だが、シンガーソングライターになった瞬間にそれが変わって、重点を置くべきは作品であり自分が表現したい歌や言葉”と。しかしながらアイドル時代に触れないのは過去の自分を否定することにもなるから、その時代も今の自分に活きていると思うと共に必要な時間であったと笑みを見せる。

 楽曲作りに関する質問には、ほぼ曲先行で生み出しギターを弾きながらの曲制作で“機械がダメなんですよね”と笑顔。時代遅れかもしれないが歌詞はノートに今も手書きし、アナログでの制作を大事にしようと思っていると語り、同意する学生の手も挙がる。さらに曲作りのヒントを探るべくなのか、学生からも質問が挙がっていたという“山本彩の1日のルーティンを聞こう”と中西。“ワンちゃんとの生活で散歩にはじまりご飯を食べ、仕事の日は仕事に行き、仕事でない日はボイストレーニングや整体など自分自身のケアに充て、夜はなるべく早く家に帰って筋トレに勤しみ湯船に浸かる”とのこと。外食にもあまり出かけないという山本に対し“どちらかと言えばストイックでは?”と中西。“そうでないと不安なだけで、自分に厳しくありたいわけではない。ミスしないように、成功するようにやらなくちゃという。心配とかが怖いからやるんですよね”と語る山本に対して“僕も一緒かもしれないな、臆病者だから段取りしてないとね“という発言に大きくうなずく山本。

 “これからシンガーソングライターとしてどうやっていきたいか”の問いには、“何か1つのことだけをやる良さもあるが、他にもやりたいことや挑戦したいことがあったらやる方がプラスになると思う。アイドルとはエンターテイメントという仕事だと思っていたので(アイドル時代に)エンタメを取り込む力を培ってきたと思っているから、趣味と音楽を結びつけられそうなことを探して積極的にやっていきたいと思う”と語る山本に、“すごくいいと思う、趣味を仕事にもしていこう”と中西。“いろんなものに興味ある方が絶対に人生も楽しいし、極めるものは極めて多趣味であるべき”と説く。実際、中西自身が大好きなサッカーをビジネスにしたことで趣味が仕事になると辛くなることもあるが、辛くなったら一歩置いてサッカーを見るとまたサッカーが好きになる、そのトライと繰り返しが楽しいという実話に“ゲームや野球、お笑いなど趣味も多いので何かができるように力をつけていきたい“と明るく前向きに語る山本。

 “若い時はがむしゃらでとにかく怖いものがなく、度胸でできたことや挑戦できたこともいっぱいあった。今のほうがよっぽど怖いことも多い。若いうちにしかできない失敗もあるし、失敗を恐れずにトライ&エラーをする。今思うと恥ずかしい思いもいっぱいあるが、それが自分という人間を豊かにもしてくれる”という、20代を振り返りながらの山本の等身大のメッセージが胸を打つ。”そうだよね、失敗したっていいんだよ!“と中西も力を込める。“やりたいこと、なりたい自分がいてこの授業を受けていたり学校に通っていると思う。今できることをとにかく、自分を信じてやってほしい。その先で立ち止まったり違うかなと思ったり、周りと比べてどうなのかなと思うことがあっても、すぐに結果が出る選択は中々ないから。いろんな選択をしながら、いっぱい失敗して。失敗から得られることの方が多いから、エラーをしながら自分を構築していって欲しいです。”最後にそう語った山本のメッセージに、学生たちの目がきらきらと輝いていた。

・レポート:Chie Takahashi
・撮影:富谷 英次、写真提供:昭和音楽大学

▼Release
配信『刹夏』(7月30日リリース)
Streaming&Download
https://sayakayamamoto.lnk.to/setsuna
▼Music Video
https://youtu.be/TMstofGVMBM

山本彩 Official Web Site

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