HYDEがソロ活動をスタートさせて25周年という記念すべき2026年の幕開けとしてコンサートツアー【HYDE Orchestra Tour 2026 JEKYLL】が2026年1月17日、福島県・けんしん郡山文化センターにて初日を迎えた。

HYDEのステージといえば激しさ全開のロックなライヴが真っ先に浮かぶが、2026年はそうしたアグレッシヴなモードは一旦封印、充電期間として、活動を〈動〉から〈静〉へとシフトさせることがかねてよりアナウンスされており、今回はまさにその具現となるオーケストラスタイルでのツアーだ。

 ダブルカルテットをはじめとした総勢22名のオーケストラを帯同し、全国12都市15公演に加え、彼が観光大使を務めるオーストリアのウィーンでの公演も開催される今ツアー。HYDEがオーケストラを帯同してツアーを行うのは2021年以来二度目だが、前回よりさらにスケールアップしたこの旅はHYDEというアーティストの傑出した魅力を広く再認識させるものとなるに違いない。聴き手の心に沁み込み、その奥深くを揺さぶってやまない極上の歌声と重厚なアンサンブル、派手な演出やパフォーマンスがなくとも十二分に彩り豊かな音楽体験がここにはあった。
 
 開演と同時にゆっくりと上がった黒幕の向こうにはオーケストラが位置する三段構えのひな壇がそびえる。そうしてツバ広のハットをかぶり、黒で統一したドレッシーな佇まいのHYDEが登場すると割れんばかりの拍手が会場いっぱいに轟いた。ロックモードのステージとは明らかに異なる佇まいにグンと高まる期待のヴォルテージ。初日ならではの緊張感も客席には少なからず漂っていたが、ビロードを思わせる艶やかで深みを帯びた歌声がHYDEの喉から放たれるや、そんなものはたちまち霧散したようだ。

「ようこそ、【JEKYLL】へ。HYDEです。郡山にようこそおいでくださいました。初日ですし、ホールも久しぶりで、とても新鮮です」
 
 柔らかな口ぶりでそう挨拶すると「今日は頭上を人が転がることもありませんし、座ったまま安心して最後まで楽しんでいってください」と自身のロックモードなライヴを引き合いに出して笑いを誘うHYDE。ちなみにツアータイトルに冠された【JEKYLL】とはこの春にリリースが予定されているニューアルバムのことだ。彼の1stソロアルバム『ROENTGEN』の続編として25年を経て制作されまもなく完成を迎える本作についても触れつつ、HYDEは『JEKYLL』の楽曲は全曲演奏すると宣言。「知らない曲も(みなさんが)宇宙でいちばん最初に聴くわけですから」と告げて、さっそくアルバムに収録の新曲「SO DREAMY」が初披露された。HYDEいわく「僕がレストランのオーナーになって、クリスマスシーズンに年に一度だけ来るお客さんをおもてなしするイメージで作った」というこの曲、ラグジュアリーなオーケストラサウンドと愛情と慈しみをたたえたHYDEの声音が融け合った温かな音像にうっとりと聴き入る場内。音源に先駆け、まっさらな気持ちでその世界観に触れられるのも今ツアーならではの醍醐味だろう。

 厳かな低音域の声からよく伸びるテノール、心地よいファルセットに、微かな息遣いまでダイレクトに感じさせるウィスパーヴォイスまでダイナミックにグラデーションするそのヴォーカリゼーションを駆使し、映画音楽のごとく情景をドラマティックに浮かびあがらせながらコンサートは進む。スタートしたばかりのツアーゆえ、セットリストを詳らかにすることは控えるが、『JEKYLL』の楽曲のみならず前作の〈動〉のアルバム『HYDE [INSIDE]』からの楽曲、ラルク アン シエルの代表曲や中島美嘉、ジェジュンらへの提供楽曲にYOSHIKI、MY FIRST STORYらとのコラボレーション楽曲なども幅広く披露、HYDEの手がけた名曲たちがオーケストラアレンジによってドラスティックに生まれ変わってゆく様にまんまと驚嘆させられたことは記しておきたい。

 なかでも、♪郡山に〜来た〜近いね〜、などと即興で歌いながら、郡山発祥の菓子パン・クリームボックスを頬張って見せたり、郡山出身の大俳優・西田敏行が出演している大好きな映画を紹介したり、ご当地ネタを交えつつの前奏から、一気になだれ込んだ「DEFEAT」の破壊力と言ったらなかった。〈動〉のライヴでも熱狂必至の鉄板曲だが、挑発的に暴れるオーケストラ、それに輪をかけたHYDEの凶暴なまでの妖艶さは、もしかするとライヴハウスで体感していたもの以上かもしれない。着席したまま、ひたすら聴くことに徹して浴びせかけられる「DEFEAT」はちょっとクセになりそうだ。

 「25年前、ここから始まりました」と静かに口にして歌い奏でた2001年のソロデビュー曲「EVERGREEN」、タイトルそのままに今なお色褪せない清洌な美しさから一転、 『JEKYLL』に先行して彼の誕生日である1月29日にリリースされるニューシングル「THE ABYSS」では奈落の淵で絶望に暮れる歌の主人公をありありと体現。HYDEが示してみせた始まりと現在地の鮮やかなコントラスト、25年という歳月のなかで彼が獲得した凄まじいまでの表現力とシンガーとしての進化にも舌を巻かずにはいられない。ラストには、昨年のツアー【HYDE [INSIDE] LIVE 2025 WORLD TOUR】にて凄絶なパフォーマンスが大きな反響を呼んだあの曲が披露されたが、アプローチをガラリと変えた演出、全身全霊を懸けた歌とエモーショナルなステージングは圧巻の一語。オーケストラツアーというイメージの枠を遥かに超えたHYDEだからこその音楽表現にひたすら息を呑み、目をみはった。

「ありがとうございました。ありがとうね」

 鳴り止まない満場の喝采にHYDEは感謝の言葉を繰り返した。初日を無事終えられた安堵もあっただろうか。愛おしそうに客席を見つめる笑顔がなんともやさしい。さらに公演を重ねれば重ねるほど演奏も歌もいっそう磨き抜かれていくのだろう。静かなるHYDEを心ゆくまで堪能することができるこの機会をみすみす逃す手はない。


文:本間夕子
photo by 石川浩章

photo by 石川浩章
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