2025.12.27 凛として時雨@日本武道館
 
12月27日、凛として時雨が「失神蠍 TOUR 2025」のツアーファイナルとなる日本武道館公演「Tornado in Budokan」を開催した。日本武道館でのワンマンライブは2013年以来、実に12年ぶり。特別な演出を設けることなく、ブレずに研ぎ澄ませ続けた3ピースのバンド演奏をそのままオーディエンスにぶつけるような、実に凛として時雨らしい一夜だった。

お馴染みのSEとともにメンバーがステージに姿を現し、オープニングを飾ったのはインディーズ時代の名曲「想像のSecurity」。これまでも何度となくフロアに火をつけてきたナンバーでトップギアからスタートすると、続いて10月にリリースされた最新作『Lost God of SASORI』の収録曲「Sα.SO.RI.」で武道館が真っ赤に染まる。「竜巻いて鮮脳」でのピエール中野の地鳴りのようなツーバスでさらに勢いを増すと、「laser beamer」ではピッチシフターを用いたTKのエフェクティブなギターが文字通りレーザービームのように広い場内を駆け巡っていく。3人から放たれる失神級の爆音の塊に圧倒されつつ、TKのシャウトと345の伸びやかなハイトーンのコントラストが楽曲のドラマ性を加速させる、これぞ凛として時雨のライブだ。

「凛として時雨です。今日は最後までしっかりと、焼き付けて帰ってください」とTKが挨拶をすると、各楽器のスピーディーな絡みがスリリングな「JPOP Xfile」から、ここで早くも「DISCO FLIGHT」へ。ディレイのかかったTKのギターによるスケール感が武道館にぴったりで、ライブ前半のハイライトを作り出した。

345のベースがグルーヴを生む「Enigmatic Feeling」、ストロボがサイケな高揚感を作り出した「a symmetry」、『Lost God of SASORI』からのヘヴィなミドルチューン「sick mind B rain」を続けると、ゆったりとしたアルペジオから始まったのは「Acoustic」。

今年はインディーズで発表したファーストアルバム『#4』のリリースからちょうど20年目にあたり、「Acoustic」はその中の一曲。初期の代名詞だった「予測不能の曲展開」を体現する仕上がりで、その新鮮さは20年経った今も決して色褪せない。〈ガラスみたいな 12月が Acoustic響くよ〉という歌詞もまた、今の季節にぴったりだ。

ここでTKと345が一度ステージから去って、ピエール中野のコーナーへ。「武道館、非常に楽しいです。ありがとうございます。12年前にやった武道館は15分くらい喋って、ラジオ局からレギュラーのオファーが来ました。でも今日はコンパクトにまとめたくて、早速だけどコール&レスポンスをやりたい」と言って、「セイ、ヴァイブス!」「ヴァイブス!」、「ウルトラソウル!」「ハイ!」、「チョコレイト!」「ディスコ!」、最後は「俺やっぱりX JAPAN大好きなんで、武道館でXジャンプ飛びたくないですか?」と呼びかけての「ウィーアー!」「X!」のコール&レスポンス4連発。ストイックな演奏との落差もまた、凛として時雨の変わらない魅力である。
 
そんなMCから一転、デザインされたライティングも加わっていつも以上にド派手なドラムソロを聴かせると、TKと345がステージに戻り、「replica」からライブ後半戦がスタート。中野によるタイトルコールから始まった「nakano kill you」で再びギアを上げ、ソリッドなアンサンブルを聴かせる「感覚UFO」を畳み掛けると、重厚なバラードの「滅亡クラフト」が演奏され、場内には静かな感動が広がっていく。かと思えば、再びダンサブルな「アレキシサイミアスペア」が続き、このジェットコースターのような構成も生のライブならではだと言えよう。
 
345が「また武道館でワンマンができて、しかもこんなにたくさんの人が来てくださって、本当にとても嬉しいです。ありがとうございます」と、ファンやスタッフ、メンバーにも感謝を伝えると、続いて披露されたのは「abnormalize」。この10年はアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』とのコラボレーションで多くの名曲が生まれたが、「abnormalize」はその始まりとなった、バンドにとって重要な1曲。次に『Lost God of SASORI』から演奏された最新曲「Loo% Who%」もアニメ『グノーシア』のテーマ曲で、こうしたコラボレーションでバンドの世界観がさらに更新され、リスナーの裾野を広げてきたことも伝わってくる。そして、ここで満を持して披露されたのが「Telecastic fake show」。TKの歌い出しとともに345と中野が腕を振り上げてオーディエンスを煽るとフロアが爆発し、この日のハイライトを作り出した。

最後のMCではTKが「もうファーストアルバムを出してから20年経ったみたいですよ。よく僕とバンドしてますね」とメンバーに笑い、場内から盛大な拍手が送られる一幕も。さらに、時間は一瞬のように過ぎていくからこそ、そのときの記憶を抱きしめることが重要だと語ると、「いつかまたこういう景色を思い出せればいいなと思ってます」と話して、最後に演奏されたのは『#4』の収録曲「傍観」。〈どこかで見た様な風景 どこかで見た様な夕景〉と歌われるこの曲は、刹那的な瞬間を熱量高く楽曲に閉じ込める凛として時雨にとっての、まさに原風景のような1曲だと言っていいだろう。カオティックなアウトロを終え、345と中野が先にステージを去り、TKの絶叫とノイズとともに幕を閉じるまで、一瞬で過ぎ去った竜巻のようであり、永遠に記憶に残るような一夜であった。

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