王道のバラードから情熱のフラメンコ、民族音楽風、もはやアクロバティックとも表現したくなるトリッキーなジャズまで、ジャンル/スタイルを次々と変えていく楽曲群を、ものの見事に歌い切っている。プロデューサーの武部聡志をはじめ、岸田勇気、一青窈、マシコタツロウ、半﨑美子、岩里祐穂、村松崇継、松井五郎、清塚信也、鯨庭、松本俊明と、参加陣も超豪華。Wakana本人は謙遜しているが、その稀有な歌唱力と表現力があるからこそ、これだけのメンツがバック・アップを買って出たのだと思えてならない。
7月6日にはビルボードライブ横浜、20日にはビルボードライブ大阪にて、「Wakana Billboard Live 2023〜そのさきへ〜」が開催される。期待しかない。観るしかない。

――武部聡志さんプロデュースによるアルバム『そのさきへ』の作家陣が、すごいことになっていますね。武部さんつながりで、気づけばこうなっていたという感じなのですか?

「そうなんです(笑)。制作時にはいつも思うことですが、久しぶりのオリジナルアルバムということもあって、“いいものを絶対に録ってやる!”と思いました」

――楽曲も、ものすごい振れ幅の大きさです。

「難しかったですね。まず曲を何回も聴いて、どうアプローチするかを考えるんですけど、今回はその作業を1日で終わらせると決めていて。引きずるとダメなんです。そういう形で1曲ずつ捕らえていきました。でも、どれも難しかったです」

――曲に呼ばれるような感じなのでしょうか。それとも、自分から入り込んでいく感じなのでしょうか。

「“曲が呼んでくれる”というのが正しいと思います。私は言葉というより、メロディが引き連れてくるものを捕らえて歌うんです。メロディの響きっていうところに、いつも重点を置いています。でも、武部さんはそこを見抜いていて、レコーディングの時に“この言葉はきちんと歌って”とよく言われました。ついライヴ感を出し過ぎてしまうのかなと思います。レコーディングは今でも難しいです。」

――そうなんですか?

「ライヴでの少し荒々しい表現よりも、レコーディングではより丁寧に言葉を伝えることが重要になるので、そういう部分での難しさを感じます。でも今回のレコーディングでは、すごく達成感を感じられた瞬間が何度もあったんです。私はコロナ禍の3年間、改めて自分の歌の研究をしたんですね。ボイトレの先生に食らいついて、どう歌えばもっと届くのか?と、トライ・アンド・エラーを繰り返していました。このアルバムで、ようやく自分なりに納得がいくところに落ち着けた気がして、うれしいです」

――「Rapa Nui」はケルト・ミュージックのようにも聴こえる曲ですが、タイトルはスペイン語なんですか?

「ラパヌイ語という、イースター島の言葉なんです。でももう、失われかけている言語らしくて。一青窈さんがイースター島にひとり旅に行った際に、とても美しい言葉だからと書き留めておいたうちのひとつだそうです。一青さん、マシコさん、武部さんというトリオに、私はバラードが来るのかなと思っていたら、意外にも軽快な無国籍感覚の曲で。そして一青さんの歌詞が乗ることで、一気に印象が変わって。実は私は最初曲を聴いたとき、和風っぽく感じて、武部さんに言ったら“え?和風?本当に??”みたいに言われました(笑)」

――「殻」はラテンですよね。Wakanaさんが、カスタネットを持って踊っているイメージが浮かびました。

「それ、言われました。“ボニータ!”って言いながらフラメンコをやっている感じとか(笑)」

――そして、Wakanaさんが歌詞を共作している「KEMONO feat.清塚信也」が、とんでもない曲なわけですが(笑)。

「こんなに難しいメロディーをこんなにも速弾き出来てしまう清塚さんが凄まじいですよね。ピアノで電子音っぽい雰囲気も出したり、本当に自由自在なんだなと。レコーディングも立ち合わせていただいたんですが、素晴らしいプレイでした。不思議な曲なんですけど、清塚さんの技術あってこその曲でもありますね」

――すごいのは、Wakanaさんの歌もです。

「いやもう、速すぎて(笑)」

――弦楽器のソロ・パートのようでもあり、リズムという意味ではパーカッションのようでもあります。すごすぎます。

「最初はもっとBPMが速くてまともに歌えなくて、いくつか落としたらなんとか歌えたんですけど、武部さんと“ちょっと遅いね”という話になって、そこからまたいくつか上げて。最終的にちゃんと口が回る限界値で落ち着きました」

――「Flag」でのヴォーカルには、スケール感を感じました。

「この曲で、さっきお話しした3年間の模索の答えが見つかったんです。自分のターニング・ポイントになった曲ですね。こういう声を出せるようになれたことはうれしかったですし、ひとつ先に進めた気がしました。だから、難易度が高い「KEMONO」や「Butterfly Dream」も、無理だと思わずにやってみようという気持ちになれたのかもしれません」

――その「Butterfly Dream」をはじめ、ご自身で作詞している曲もありますが、他の作家さんの曲とはやはり、向き合い方が違ってきますか?

「基本的に歌との向き合い方は何も変わりませんが、書いていただいた曲は、そこに込められた想いをしっかりと紐解く時間が大切になります。「標」は、半﨑美子さんが作詞作曲してくださった曲で、これは私の亡くなった父への想いを歌にしていただいたんです。半﨑さんに父の話をしたときは号泣してしまったんですが、半﨑さんも泣きながら聞いてくださって。“歌にするのはまだ早いかもしれないんですけど”と私が言ったら、半﨑さんは“私はWakanaさんの想いを書きたいです”と言ってくれました。自分の想いが大きくてどうしても歌もヘヴィになっちゃうんですけど、武部さんがそれもちゃんと見抜いていて、ディレクションが秀逸でした。とてもいい仕上がりになったと思います」

――Wakanaさん作詞のタイトル曲「そのさきへ」には、どのような心情が込められているのですか?

「このアルバム全体を通して伝えたいメッセージを、全部この曲に詰め込みました。この曲を初めて聴いた時に、涙が止まらなかったから、私は“絶対に「そのさきへ」をタイトルにしないといけない!”と思ったんです。とにかくもう、仮歌の段階で泣いて歌えなくて、“歌いたいのにどうして?”って思いながら、歌詞も泣きながら書いたんです。今、世界というものを冷静に見ると、理解が追いつかないような、とんでもないことがたくさん起きているじゃないですか」

――本当にそうですね。

「絶望する人もいると思うんですよ。だから、“あなたも私もひとりではなくて、常に誰かがそばにいるよ”って、そういうことを伝える曲にしたかったんです。私の歌の人生で、ずっと続いていくテーマになると思います。そして、「そのさきへ」の次に続く「あとひとつ」というアルバム最後の曲は、1日1日を積み重ねて今日を迎えられた喜びを、みんなのために歌いたくて歌詞を書きました。私の音楽の根本にあるのは、“みんなで一緒にその先へ、明るい場所へ歩いていこう”っていうことなんだなって、この2曲で強く感じました」

――ここまでのソロ・キャリアの集大成とも言えるアルバムなのではないでしょうか。

「やはり、この3年間がすごく大きかったですね。初めてレコーディングで納得できたし、常にライヴ感を意識してしまう私が、武部さんのおかげで、“レコーディングというのはこうあるべきなんだな”って思えました。ありがたいことに、これまで様々なレコーディングさせていただいてきましたけど、自分の声に悩み続けていたんだなと、今振り返ると思います。それをこの3年で、定めることができたことがうれしいです」

――7月には、Wakanaさんが得意なライヴですね。

「(笑)。大好きなんですけど、でもライヴはすごく怖いものだとも思っていて。人前に出ることも、声を発することも緊張するんですけど、その分、楽しさ100倍!という感じなので、それを味わうためにライヴをしています。終わった後で、何を得たのか、何が楽しかったのかを思い出すのも好きですし。でもやっぱり怖さもあるし、緊張しますね。だって、みんな聴きながら何を考えているのか、本当のところはわからないじゃないですか(笑)。でも、その感覚も楽しくってライヴをやっているんだと思います」

――会場は、スペシャル感のあるビルボードライブです。

「今回は、ピアノとギターに加えて、マニピュレーターさんを入れた演奏になります。アコースティックだけではなく、弦の音や打ち込みの音も取り入れた、よりアルバムの再現性というものを強く意識したライヴにしたいと思って。アコースティックのコーナーも作るんですけど、“アルバム通りの音も出したいよね”っていうことで、そうなりました。楽しみにしていてください!」

(おわり)

取材・文/鈴木宏和

RELEASE INFORMATION

Wakana『そのさきへ』

2023年531日(水)発売
初回限定盤ACD+DVD)/VIZL-21896,600円(税込)
Victor Entertainment

Wakana『そのさきへ』

Wakana『そのさきへ』

2023年531日(水)発売
初回限定盤B2CD+フォトブック+ポスター、LPサイズ仕様)/VIZL-21906,050円(税込)
Victor Entertainment

Wakana『そのさきへ』

Wakana『そのさきへ』

2023年531日(水)発売
通常盤(CD)/VICL-658213,300円(税込)
Victor Entertainment

Wakana『そのさきへ』

LIVE INFORMATION

Wakana Billboard Live 2023 ~そのさきへ~

日時:202376日(木) 
1stステージ>開場17:00 開演18:00 / 2ndステージ> 開場20:00 開演21:00
会場:ビルボードライブ横浜

日時:2023720日(木)
1stステージ>開場17:00 開演18:00 / 2ndステージ> 開場20:00 開演21:00
会場:ビルボードライブ大阪

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