──いろいろなところでお話されているとは思いますが、改めて浅倉さんがディズニー作品を好きになったきっかけから教えてください。
「本当にすっかりハマったきっかけは、ディズニーランドが日本にできたこと。オープンして5年経ったくらいのときに初めて東京ディズニーランド®を訪れたのですが、一度行ったらまた翌日すぐに行きたくなったんです。それまでそんな風に感じたことはあまりなかったので“どうしてだろう?”と自分なりに考えてみました。全部を見きれなかったと感じたこと、その場所にある”人を楽しませるものの情報量の多さ”が理由なのかなと思いました。それからは、隅々まで知りたいという一心で通う日々が始まりました。年間パスポートを持って、20代の頃は週に4日くらい通っていましたね」
──週に4日 !?
「はい。仕事を終えてから友達と待ち合わせて、ピザを食べて、花火を見て帰るみたいな。そうやって通っていくうちに、東京ディズニーランドの魅力は、ゲートを入った瞬間に完全に現実から夢の世界になるということだなということに気づきました。僕もショーを作るビジネスをしていますが、東京ディズニーリゾートのエンターテインメントのすごさにはすっかり酔いしれてしまいました」

──東京ディズニーランドに行ったことがどっぷりハマるきっかけになったということですが、ディズニーの映画作品はお好きだったのでしょうか?
「もちろんディズニー映画は子供の頃から見ていました。アラン・メンケンさんが楽曲を手掛けている作品の数々も大好きです。何度も聴いてはそのたびに新しい発見がありますね。最近では『星つなぎのエリオ』を観て、改めて人の感情は作品によって動かされるものなんだと実感しました。心が大きく揺さぶられて、本当に泣いてしまいました」
──昔からご覧になっているのに、「人の感情って、作品で動かされるんだ」と改めて実感するというのはすごいことですね。
「ディズニーのすごいところは、時代にあわせて常に変化し続けていることだと思います。昔の作品にはゆったりとした時間の流れがありましたが、最近の作品はテンポが速く、シーンやストーリーが次々と展開していきます。そうした時代に合わせた心を動かす展開の作り方が本当にすごいなと思います。最近では、実写版の『リロ&スティッチ』もとても良かった。あと、時間が経ってから観ると改めて心に響く作品もありますよね。子どもの頃にはわからなかったメッセージが大人になってからドンと胸に飛び込んでくることも。この記事を読んでくださっている方にも、知ってはいるけれどまだ観ていない作品や、子どもの頃に観たきりという作品があるかもしれません。ぜひもう一度観てみてください……って、このままディズニー映画の話を延々と続けてしまいそうです(笑)」
──「ぜひ!」と言いたいところなのですが、少し音楽のお話に移りますね。そんなディズニー映画やディズニー音楽は、音楽家の浅倉さんにどのような影響を与えていると思いますか?
「信じれば夢は叶うという、ディズニーの世界に共通している考え方には影響を受けている気がします。それこそ今回のディズニーオルゴールのアルバムを全曲僕がプロデュースさせてもらえることも、夢のようなお話で。ミュージシャンとして30年以上いろいろなお仕事をしていますが、今回のオルゴールアルバムに関しては、99パーセントがディズニーファンの気持ちで、1パーセントだけ自分の名前のお仕事という感じで。とても光栄です」
──好きだからこそお仕事として関わることができたというのも、ディズニーの世界で教えてもらった考え方なんですね。
「そうですね。純粋にファンとして楽しみたい気持ちがあるので、本当はお仕事にしたくないくらいなんですけどね(笑)。願っていれば夢は叶うんだなと思いました」
──99パーセントディズニーファンの気持ちで手がけたという『オルゴールで聴く 東京ディズニーリゾート』ですが、東京ディズニーリゾートの楽曲をオルゴールアレンジするにあたり、全体を通してテーマにしたことや大切にしたことはどのようなことですか?
「僕はもともとシンセサイザーで音楽を作っている人間なので、最初にお話を伺ったときは、オルゴールとの接点を見出すのが難しそうだなと思いました。だけど、実は1992年に出した2ndアルバム『D-Trick』収録曲の「1000年の誓い」という曲のイントロがオルゴールなんですよ。くるくるネジを巻いているところに、いろいろな楽器が足されていって、そこに歌が入ってくるというイントロで。そのイントロを作る際、当時の自分は何をしたかというと、小さなオルゴールを分解して、オルゴールの一音一音を全部サンプリングして、それを集めてコンピューターのなかでもう一回オルゴールを作ってからフレーズやメロディを奏でたんです。そのことをふと思い出して。今どきオルゴールは打ち込みでも作れますけど、せっかく僕が監修をするわけだし、東京ディズニーリゾートの世界を再解釈できるわけだから、だったら特別なことをしたいなと思って、今回もその手法を取り入れました」
──ディズニー愛を、浅倉さんなりの形で示したかったと。
「はい。それと、オルゴールって、実際には複数台でのアンサンブルは作れない楽器なんですよね。だけどディズニーのファンタジーの世界の中だったらアリなんじゃないかなと思って。オルゴールの新しい聴き方を感じてもらえることにもなりそうだなと思ったので、複数台のアンサンブルを取り入れたところもこだわりの一つですね」
──これまでに何度も聴いてきたディズニー音楽をオルゴール作品にしたことで気付いたことはありますか?
「まず選曲にはかなり時間をかけましたね。どの曲がオルゴールに合うのかをじっくり考えたかったし、この曲は人気があるから入れたほうがいいねとか、いろいろな意見がありました。僕自身としては、オルゴールアレンジに適した曲を選びたいという思いもありました。そのなかで最もハードルが高かったのが「ジャンボリミッキー!」でした。小さな子どもから大人まで、誰もが一緒に踊りたくなるようなグルーヴ感のある曲なので、それをオルゴールで表現するのは大きな挑戦でした」

──オルゴールにすると、どうしても音数は減ってしまうし、テンポも下がってしまいますもんね。
「そう。だからオルゴールにする際の方法としてまず一つあったのは、すごく静かな、子守唄のような「ジャンボリミッキー!」にすること。だけど、ディズニーファンの僕としては、この曲は絶対に踊れる曲であってほしいという譲れないポイントがあって。じゃあオルゴールで踊れる曲にするにはどうしたらいいかと考えたときに、パーカッションのような楽器が入ればリズミカルになるなと思った。そこで思いついたのが、蓋つきのオルゴールは蓋を開けたり締めたりすると、パカパカって音が鳴るということ。さらにネジを巻く音もパーカッションに見立てたら、踊り出したくなるグルーヴのある曲に仕上がりました。蓋をパカパカ開けたり締めたりする音や、ネジを巻く音を使ってオルゴールのアプローチができたというのは、すごく面白かったです」
──すごいひらめきですね。選曲のお話がありましたが、浅倉さんがどうしても入れたかった曲は何でしたか?
「11曲目の「ナイトフォール・グロウ」。東京ディズニーランドで雨の日の夜にしか見られないミニパレードの曲です。週4で通っていたような僕でもこれまでに2、3回しか見たことがない特別なパレード。雨の日のパークにきらめく光がとても幻想的で、そんなシーンがオルゴールの音色に合うだろうなと思って選曲しました。パレード自体も特別な体験だし、それをオルゴールにしたら、もっと特別な響きになるだろうなと思って」
──素敵ですね!
「最後の「ミート・ザ・ワールド」もどうしても入れたかった一曲です。今はもうクローズしてしまいましたが、東京ディズニーランド開園当初からあったアトラクションの曲です。アトラクション自体もとても魅力的でしたが、特に印象的だったのがそのテーマソング。『メリー・ポピンズ』や『くまのプーさん』など数々のディズニーの名曲を生み出したシャーマン兄弟が、このアトラクションのために書き下ろした名曲で、尊敬と感謝の気持ちを込めて収録しました」
──そんな思いの詰まった今作のなかで、先ほどの蓋の開閉音をパーカッションに見立てたエピソードのように、“隠れミッキー”ならぬ“隠れ浅倉ポイント”があれば教えてください。
「聴いてくださった方から多くの声をいただいたのが、「マイ・フレンド・ダッフィー」。ダッフィーのたどたどしくも愛らしい佇まいをオルゴールの音色で感じたと言っていただきます。伴奏に対してメロディーの発音タイミングを少しだけうしろにずらすことで、一生懸命メロディーを奏でているイメージを表現できたと思います。キャラクターやシーンをオルゴールの音色や鳴り方でアレンジしていく作業はとても楽しかったです」

──「マイ・フレンド・ダッフィー」は収録曲のなかでもひときわ温かさを感じました。
「ありがとうございます。ヴィンテージなオルゴールのみで作りました。とてもシンプルなオルゴールの音色での表現を、みんながダッフィーっぽいと言ってくれるのはうれしいです」
──今おっしゃっていたように、キャラクターや物語、パークの場面などを改めて解釈し直して、それをオルゴールで表現していくという作業だったわけですが、いかがでしたか?
「大変でしたけど、今まで培ってきたものが出せるという意味ではすごく楽しかったです。打ち込みの機材など、普段使っている環境もそのまま使えるので。例えば「ファンタジースプリングス組曲」は、東京ディズニーシー®のファンタジースプリングスのために作られた楽曲で、テーマポート内にある「魔法の泉」でも聴くことができる曲なのですが、この曲の編曲にあたっては、水一滴から波紋が広がって、世界がふわっと広がっていく様子を表現したいなと思って、オルゴール一音が延々と続く余韻を入れました。本物のオルゴールでは、そういう音はおそらく洞窟とかに持っていかないと出せないと思うんですが、シマーリバーブというエフェクトを足すことで、その余韻を表現することができました」
──まさにオルゴールというアナログなものと、浅倉さんの持つ技術とアイデアの融合でできたものなんですね。
「12曲のマスタリングを終えたものを聴いたときに、曲ごとにこんなに音色もアプローチも違うオルゴールアルバムって、今までにきっとないんだろうなと思いました」
──浅倉さんとしても良い手応えを感じられているんですね。
「はい。東京ディズニーリゾートを大好きな方が聴いて、なんかいいなと思ってくれればうれしいですが……まだちょっとドキドキです。どの曲にも大切な思い出があって、きっと皆さん一人一人にもあると思うので、このアルバムを聴いたときに、皆さんの思い出が頭の中で再現されたらステキって思います!」
──それでいうと、この12曲のなかで、特に浅倉さんにとって思い出深い曲は何ですか?
「10曲目の「エヴリ・ウィッシュ・ディザーヴ・ア・ドリーム」。東京ディズニーシーの「ビリーヴ!~シー・オブ・ドリームス~」のテーマソングです。コロナ禍で、パークがしばらく閉園してしまったり、再開してもショーができなかったりした時期を経て、僕が再び見たショーが「ビリーヴ!~シー・オブ・ドリームス~」でした。このショーは“願い続けることが大事だ”というものがテーマなのですが、自分が実際にエンタメに関わる仕事をしていることもあって、このショーはすごく力になりました」
──浅倉さんに力を与えた大切なその曲を、オルゴールではどのように表現したのでしょうか?
「3台のオルゴールが目の前で会話をしながら音楽を奏でているかのようなアレンジにしました。ときには1台だけで演奏して、他の2台はそれを見守るように演奏に参加していたり。3台それぞれの音色の癖や演奏の癖も考えているので、イヤフォンでじっくり聴いてみると目の前に3台のオルゴールを感じられると思います」

──今作を作ってみて、“オルゴールアレンジ”というものの魅力や面白さは、どのように感じましたか?
「オルゴールって一見すごくシンプルで簡単そうじゃないですか。でも実際に向き合ってみると、とてもデリケートな楽器でした。音楽の要素には、音の高さに加えて、長さと強さがあって。ピアノだったら強く弾く、弱く弾くと使い分けることで表現もできますが、オルゴールはまず強弱が付けられないんですよね。しかも弾かれた瞬間に音が鳴り、それを止めることができない仕組みなので、長さもコントロールができない。そのなかで音が濁らないようにきれいに響かせながら、メロディをくっきり聴かせるために、いろいろな工夫をしましたね」
──確かに……そう思うとすごく難しそうです。
「だけど、作っていくなかで見つけたテクニックがあって。それは、複数台のオルゴールを使い分けるということ。“この曲はあなたが主旋律をやって”“あなたは低いパートが似合うから”と、音の長さや音量など、個性にあわせていくつかのオルゴールを組み合わせて作るというのは、このアルバム制作を通して僕の技術になりました。次にまたオルゴールアルバムの話が来たら作業は早いと思います(笑)」
──頼もしいですね。先ほど、12曲それぞれアプローチの違う曲が集まったとおっしゃいましたが、このアルバムの魅力を、ご自身ではどう感じていますか?
「東京ディズニーリゾートにあまり詳しくない方には、ディズニーらしい世界観を感じていただけたらそれだけでとてもうれしいです。一方で、ディズニーファンの方やパークが大好きな方は、これを聴きながら眠ろうとしてももしかしたら目が冴えてしまうかもしれません(笑)。それほどまでにディズニーキャラクターの雰囲気やきらきらしたパークの景色を音に込めました。でも、楽しかった記憶を思い返しながらゆったりとうとうとできる……そんな幸せな時間もありますよね。このアルバムがそんなひとときのお供にもなってくれたらうれしいです」
──寝るときのBGM以外に、このアルバムを聴いてほしいシチュエーションや、届いていてほしい方はいらっしゃいますか?
「僕は犬を飼っているので、動物病院に行く機会がよくあります。動物病院ではオルゴールの音楽が流れていることが多いですよね。そういった少し緊張感のある空間で、ふとこのアルバムの音が流れてきたら、きっとリラックスしてもらえるのではないかと思います。僕が通っている動物病院で『オルゴールで聴く 東京ディズニーリゾート』が聴こえてきたら、うれしくてちょっとびっくりしちゃうかも(笑)」
(おわり)
取材・文/小林千絵
写真/平野哲郎
©Disney

『オルゴールで聴く 東京ディズニーリゾート』DISC INFO
2025年11月19日(水)発売
UWCD-6074/3,300円(税込)
Walt Disney Records
©Disney


