──まずは、11月にリリースされる2枚のシングル「Strong (Acoustic ver.)」と「Making Plans」についてお聞かせください。それぞれどのように作っていったのですか?
「まず「Strong (Acoustic ver.)」ですが、これはパブロとダリオというバルセロナのギタリストが演奏しています。すでにリリースされている「Strong」のオルタナティブなバージョンを作りたくて、彼らに相談したら快く引き受けてくれました。出来上がった音源を聞いて、すごく驚きましたね。スペインの情緒を感じさせる、私の好みにぴったりの仕上がりでした。これまでアコースティックバージョンはあまり挑戦したことがなかったので、このような形で私の新たな一面を見せられて嬉しく思っています。ギターの雰囲気に合わせてボーカルも少し変えてみましたが、それも楽しい試みでした。曲作りはLAで行い、バルセロナでギターのレコーディングをして、東京で歌入れをしています。3カ国を渡り歩きながらの制作なのでコミュニケーションには気をつけましたが、完成に近づくたびにワクワクしていました。「Making Plans」は、私の曲の中でも特に感情的で、ちょっと切ない雰囲気もある曲です。L.A.でアルバム制作をしていた3か月間、自宅でギターを使って作曲しました。シンプルな構成にして、余計なものを足さずに感情をそのまま伝えたいと思ったのですが、実際の制作も驚くほどスムーズでした。今度リリース予定のアルバムにぴったりの曲だと思っています」
──「Making Plans」は依存しがちな男女関係や人間関係の距離感について歌っていて、これまで以上に赤裸々な内容だと思いました。
「そうですね。今回はアルバム全体がとてもパーソナルな内容になっていて、恋愛だけではなく友情や家族との関係も描いています。パーソナルなことを歌おうと思うのは、頭の中で考えていることがいっぱいあって、それが自分の中で大きな部分を占めてしまうから。そうした思いを音楽にして外に吐き出すことで、気持ちを整理できるんですよね。最初は受け手のことをあまり意識していなかったのですが、私の歌詞に共感してくれる人がいると知ってからは、もっといろんな人に届けられたらなと思って歌っています」
──曲作りは、どんな時にインスピレーションが湧いてくるんですか?
「主に家にいるときにインスピレーションが湧いてきますね。そういった曲たちは、自分の部屋にいる「ありのまま」の私を映し出している気がして好きなんです。自然体ですし、自分の環境そのままの音が出るのもいいですね。最近は新しい音楽やアーティストに触れることからもインスピレーションをもらっています。ブラジルやスペインの音楽の影響も受けていますし、R&Bやソウルの要素も取り入れています。新しい経験や出会いが、少しずつ私の音楽に反映されているのだと思いますね」
──今回、アルバムのプロデュースはリロイ・クランピットが担当しているそうですね。
「そうなんです。彼がトータルプロデュースを務めてくれました。実は彼と出会った瞬間から、”この人と一緒にアルバムを作りたい!”と思いました。リロイはとてもクール、それでいて私の意見を聞き、しっかり理解してくれるプロデューサーです。制作中も、私のアイデアにすごく忍耐強く耳を傾けてくれて、ギターのイントロやコーラスのアイデアもすぐに取り入れてくれました。自分の感じたことや考えを共有しながら、彼のサポートのおかげで自由に作れたのは本当にありがたかった。プロデューサーによっては自分のスタイルにばかりこだわる人も結構いるのですが(笑)、リロイは私の意見を大事にして、作業を進めてくれました。とても感謝しています」
──さて、私たちUSENは、日本で最大シェアを持つ商用BGMベンダーで、飲食店やコンビニ、大型施設、オフィスなどにBGMを提供しています。500以上のチャンネルがあり、シチュエーションや場所に合わせて自由にカスタマイズできるんです。ミイナさんの楽曲も、「北欧ポップス」「ドリーミーポップ」「Urban Jazz&Soul」といったチャンネルで流れていますが、ご存じでしたか?
「はい。USENについては母から教えてもらいました。実はカフェで働いていたことがあって、そのカフェでもこういったプレイリストを流していたんですよ。自分の音楽が、今そうやってプレイリストに並んでいるのは本当に光栄ですし、すごく意味のあること感じています。ありがとうございます」
──「北欧ポップス」というカテゴライズは、日本独自のものなのかなと思うのですが、北欧に暮らすオカベさんはこうした捉え方についてどう感じていますか?
「このUSENの「北欧ポップス」に、私の知っているアーティストは残念ながらいなかったのですが、北欧のポップミュージックが日本で人気を集めていることはとても嬉しいですね。デンマーク在住の私の友人は、逆に日本の音楽や都市のポップスのプレイリストを楽しんでいるみたいです」
──ちなみに、北欧でおすすめのアーティストはいますか?
「デンマークではなくてノルウェーのアーティストですが、「Beharie」を特におすすめしたいです。彼の音楽は本当に素晴らしくて、特に「We Never Know」という曲を私はかれこれ1年以上ずっと聴いているのですが、それでもまったく飽きません。聞く度に新しい発見をもたらしてくれる名曲なので、日本のリスナーにもぜひ聴いてほしいと思います」
──北欧と日本で、音楽の楽しみ方に違いを感じることはありますか?
「私が住んでいる地域では、デンマークやノルウェーの音楽が多く流れています。最近では、デンマークのアーティストも英語で歌うことが増えて、ポップやインディーポップ、ラップなどいろいろなジャンルが人気ですね。日本での北欧音楽の受け入れられ方について詳しくは分からないのですが、音楽を通して国や文化を越えたつながりが感じられるのは素敵だなと思います。作り手の立場から言うと、リラックスできる環境はすごく大切です。例えばL.A.では1日3回くらいセッションがあり、朝から夕方までたくさんの人と会って音楽を作れることは刺激的だしエキサイティングはありますが、北欧のようにランチやディナーの時間も長く、スタジオでゆったり過ごしながら音楽を作れることの方が、私にとっては理想的な環境ですね」
──日本に来ると、せわしなく感じることが多い?
「いえいえ、そんなことはないですよ(笑)。今回、日本ではU-KIRINさんという数多くのアーティストを手掛けているエンジニアさんと一緒に仕事をしたのですが、せかせかした感じが一切なくて、とてもリラックスした状態で作業に取り組めました。プロデューサーのリロイもそうですが、心地いい時間を共に過ごせるかどうかは、私にとってとても重要なことです。デンマークじゃなくても、お互いを支え合えるようなメンタルで一緒にいられる人がいれば、どこでも楽しく制作できますね」
──ところで、2024年はミイナさんにとってどんな年でした?
「今年は特に忙しい年でしたね。アメリカでの初パフォーマンスもあって、オースティンではSXSWに初めて参加しましたし、リロイとのアルバム制作も、ようやくL.A.で最終トラックを仕上げるまで進みました。もちろん、日本での初めてのヘッドライナーショーやサマーソニック2024でのパフォーマンス、アジアツアーもあって。しかも日本のTVアニメ『花野井くんと恋の病』でオープニングテーマを担当したり、日本語でもCDをリリースしたり、とても楽しい経験ばかりでした。私はアニメが好きなので、自分の曲がそのアニメ作品から流れてきた時は心から感激しました」
──実は僕、今年のサマソニでミイナさんのパフォーマンスを見たんですよ。
「え、本当ですか?」
──はい。とても印象に残りました。バンドの編成もシンプルで、ミイナさんの声を引き立てるアレンジやアンサンブルも素晴らしかったです。中でもaikoさんの「カブトムシ」をカバーしていたのが印象的でした。MCで「お母さんに教えてもらって好きになった曲」とおっしゃっていましたが、この曲のどんなところに魅力を感じますか?
「「カブトムシ」は本当に印象的な曲です。コード進行は意外なのにも美しく、メロディーもユニークで素晴らしい。aikoさんは歌う時の感情表現も大好きで、聴いていてすごく引き込まれます。何よりあなたがサマソニでのステージを見てくださったことと、そんなふうに感じてくださったことがとても嬉しいです。本当にありがとうございます!」
──最後に、来年はどんな年にしたいか抱負を聞かせてもらえますか?
「新年の目標について話すのはいつもワクワクします。新年の誓いが好きで毎年目標を立てるのですが、全てが叶うわけではないんですよね……(笑)。今年は日本で単独ライブをやったりフェスに参加したり、日本で曲をリリースする目標も達成できたし本当に充実した年でした。来年は、もう少しリラックスすることも目標に掲げたい。普段は音楽が生活の大部分を占めているので、新しい趣味にも挑戦してみたいですね」
──例えば?
「スポーツを始めたり、縫い物や絵を描いたりするのにも興味があります。音楽はもちろん大事な趣味ですが、他にもいろいろ挑戦して、自分の時間を楽しみたいですね。でも一番大きな目標はやはり”音楽活動を続ける”ということ。たくさんの人に、これからも私の曲を聴いてもらえたら嬉しいです!」
(おわり)
取材・文/黒田隆憲
写真(インタビューパート)/平野哲郎