──今回のオファーはドラマ「ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~」のプロデューサーから直々にあったとのことですが、最初はどう思いましたか?

「本当に信じられなかったです(笑)。私の母は日本人なのですが、彼女はそれほど感情を表に出す人ではないのに、このオファーのことを報告したら、ものすごく驚いて興奮していたから、すごく大きなお仕事だと実感するにつれて気持ちが引き締まる思いです」

──月9という言葉はご存知でした?

「日本でドラマの主題歌を担当するのがどのくらいすごいことなのかは知っていましたが、中でも月9がすごいというのは母に聞いて知りました。?これ、本当に実現したらすごいことだよ?“って。途中で話が頓挫してしまったり、皆さんの気が変わってしまったりしたら……と思うと、実際にドラマの中で曲が流れるまではずっと不安でしたね(笑)」

──ドラマの内容についてはどう思いましたか?

「映像やストーリー展開など、今まで私が観てきたドラマと違ってクールでスタイリッシュだと思いました。日本の有名な俳優さんもたくさん出てきますし、母と一緒にわいわい言いながら楽しみました。実は、ドラマの舞台となっている横浜での撮影現場にもお邪魔したんです。震えるほど緊張しましたね(笑)。細部までこだわったセットにも感銘を受けたし、実際に俳優さんたちが演技されている様子を見ることができて感動しました。しかも撮影現場が、私が今年参加したLocal Green Festivalの会場だった横浜赤レンガ倉庫のすぐ近くだったんです。不思議な縁を感じましたね」

──サウンドプロデューサーは小袋成彬さんですが、楽曲制作はどのように進めていったのでしょうか。

「小袋さんはニューヨークロンドン、私はコペンハーゲンに住んでいますので、まずはリモートで楽曲の方向性、具体的な制作プロセスなどを話し合いました。今回はジャジーな要素があって、生演奏によるアンサンブルを基軸としたトラックになるというアイデアを最初に聞けたのも良かったです」

──実際のトラックを聞いた時にはどう思いましたか?

「すごくドラマチックなトラックだと思いました。一曲の中で様々な展開がありますし、よく聞くとすごく複雑なんですよ。いろんな楽器の色々なフレーズが散りばめられていて、サウンドそのものもとてもユニーク。私自身が何かインプロビゼーションを加える余白が十分あったおかげで、自分のやり方を色々表現することができたのも、そういう試行錯誤の時間を十分にもらえたことも嬉しかったです」

──全編日本語詞の曲を歌うのは初めてだったそうですが、実際にやってみていかがでしたか?

「スタジオに入る前はとてもナーバスになっていました。普段、母親とは日本語で話す機会も多いのですが、そこで使われるボキャブラリー以外の言葉もきっとたくさん使うだろうなと。きっと多くの方が経験していると思うのですが、日本語で話す時と英語で話す時とでは自分の声が少し変わるんですよ。日本語で歌った時の声質が、英語で歌った時とどう変わるのか。色々と未知数の部分が多かったのですが、自分のコンフォートゾーン――心地よく感じられる居場所――から一歩外に出ることができたのは貴重な体験でした。レコーディングも小袋さんはリモートでの参加だったのですが、細やかなサポートをしてくださったのでとても心強かったですし。何より、いつか日本語の歌詞にも挑戦したいと常々思っていたことが実現できたのも嬉しかったです」

── ドラマもこの曲も記憶が重要なキーになっています。ミイナさん自身は、何か大切にしている記憶はありますか?

「なんだろう?(笑)そうですね、高校生に入って音楽を作り始め、その頃からシンガー・ソングライターになりたいと強く思うようになって。SoundCloudなどに楽曲を投稿しつつ、様々なレーベルにコンタクトを取るようになりました。最初のうちは、なかなか話も進まず落ち込むことも多かったのですが、あるとき今の所属レーベルのスタッフからEメールをいただいて。その文面自体は短くてシンプルなものでしたが、振り返ればそれが自分にとって音楽活動をステップアップさせる瞬間だったなと。なので、その時の自分の気持ちやシチュエーションはずっと大切な記憶として心に残っていますね」

──では今回の楽曲制作は、ミイナさんにとってどんな学びがありましたか?

「これまでは全て自分で作詞作曲をして自分で歌ってきたわけですし、プロデューサーに依頼した場合でも全てのプロセスに直接関わってきました。でもこの楽曲では自分はシンガーとして関わり、楽曲提供をしてくださったプロデューサーの小袋さん、ラッパーの Daichi Yamamotoさんはもちろん、番組のスタッフやレコーディングスタッフを全面的に信用しなければ完成させることはできませんでした。特に日本語の歌詞の内容や、私自身の日本語の発音に関しては、自分で良し悪しをジャッジすることはできないわけですし。こういう制作プロセスは自分にとってとても新鮮で、たくさんの学びがありましたね」

──2023年は、日本とデンマークを行き来する機会も増えたと思うのですが、それぞれの国の違いについてどんなことを感じましたか?

「今年は全部で4回日本を訪れました。違いは本当にたくさんあるけど……まず景観の違いに毎回驚きますね。コペンハーゲンには高層ビルが全くなくて、移動手段に自転車を使う人が多く、都心でもすごく静かで落ち着いた雰囲気があります。東京はそれとは対照的。高層ビルもたくさんあるし、人も自動車もたくさん。色々なことが街中で起こっているから、ひっきりなしに騒がしいですよね。それはそれで大好きなので、自分は両方の素晴らしさを満喫しています」

──日本のカルチャーに対しては、どのくらい関心がありますか?

「小さい頃から毎年1回は日本を訪れていましたし、ロンドンにいた時もニューヨークやフィリピンで暮らしていた時も、母がその国の日本人コミュニティに出入りしていました。私自身も日本人学校に通っていたのもあり、日本人の友人は常にたくさんいましたし、日本文化にもずっと慣れ親しんできましたね。子供の頃から聴いているのは宇多田ヒカルさん。「First Love」や「Automatic」はとにかく好きでしたね。それからレミオロメンの「粉雪」も、iPodに入れて毎日のように聴いていたのを覚えています。もっと子供の頃に遡ると、部屋にはドラえもんやアンパンマンのポスターが貼ってあったし(笑)。ジブリ作品も夢中になって観ていました。日本人学校ではよく邦画も見せてもらっていましたし。そういえば、今年は草間彌生さんのポスターを手に入れたんです!彼女のアーティストとしての生き方にはとても感銘を受けます。いつか美術館で彼女の作品をじっくり眺めたいですね」

──2023年を振り返ってみて、ミイナさんが印象に残っているのはどんなことですか?

「今年はたくさんの出来事がありました。中でも、音楽の仕事として日本を訪れることができたのはとても印象に残っています。日本でライブをやることは一つの大きな夢だったし、それを叶えることができたことがまずいちばんの出来事です。日本だけでなく、ロンドンやロサンゼルス、ストックホルム、そしてソウルにも行けたことも印象深いですし、来年もまたいろんな国々を回ることができたらいいなと思っています。今、ちょうどアルバム制作に入っているところなんですよ。それを完成させて、日本をはじめ世界中の国々に届けに行きたいと思っています」

(おわり)

取材・文/黒田隆憲
写真/平野哲郎



ミイナ・オカベ 「Flashback EP」DISC INFO

2023年11月10日(金)発売
UICO-1335/1,980円(税込)
ユニバーサルミュージック

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