──活動5周年を記念し、今年4月に配信された「BEGINNING - EP」と、10月に配信された「IN WONDER - EP」を文字通り合体させた『TENDRE / 5th Anniversary Album ~ IN WONDER & BEGINNING ~』ですが、こういう形にしようと思ったのは?
「実は、構想自体は去年くらいからなんとなく構想を練っていました。この2年の間にまとまった音源を1年に1枚ずつ継続して出し続けてきたTENDREですが、なかでも「BEGINNING - EP」は初期曲の再録という形で過去と向き合い、「IN WONDER - EP」は“いま”と“まだ見ぬ未来”に思いを馳せるような作品でした。それをこのタイミングで合体させることによって、5年間の活動を集約させることができるのではないかと思ったんです」
──そもそも「BEGINNING - EP」で、過去曲を再録しようと思った理由を改めて聞かせてください。
「TENDREは僕が一人で始めたプロジェクトで、それこそ最初の頃はほとんどの楽器を自分で演奏し、多重録音した楽曲が多かったんです。それをサポートメンバーとともにライブで表現していくなかで、アレンジがどんどん変わってきていて、なので「BEGINNING - EP」では、特にライブでの定番曲を最新バージョンのアレンジでレコーディングし直してみたくなったんですよね」
──確かに、今作のレコーディングに参加しているのはライブでお馴染みのメンバーです。みなさん、それぞれ対バンしたことがきっかけで交流を深めるなど現場で出会うべくして出会ったような、そんな自然なつながりを見ていて感じるのですが?
「確かに、引き寄せ合うものがやっぱりあるのでしょうね。ドラムの松浦大樹(saccharin)は、TENDREを始める前にとあるミュージシャンのサポートベースを担当していた頃に会いました。その次に参加してくれたサックスの小西 遼(象眠舎)とは、彼のバンド、CRCK/LCKSとAmpel時代に対バンしたのがきっかけで仲良くなったし。AAAMYYYとはRyohuの、高木祥太とはCHARAのライブサポートを一緒にやって意気投合しました。ギャラさんこと松井 泉さんは、僕らよりちょっと先輩ではあるんですけど、やはりVIDEOTAPEMUSICとのツーマンがきっかけで仲良くなりました。確かに彼らとは、出会った時からしっくりきていましたね。それを必然と言ってしまうとちょっと堅苦しい気持ちもあるんですけど(笑)。やっぱり自然なつながりだったのかなとも思います」
──しかもこの5年間で、皆さんそれぞれが今の音楽シーンの中でとても重要なポジションにいるのも感慨深いものがあります。
「他にもサポートしてくれたミュージシャンはたくさんいるのですが、やはりバンドではないからこそ、お互いを尊重する場面というのがよりこの数年で増えてきました。松浦がsaccharinというソロプロジェクトを始めたり、高木祥太のバンド、BREIMENが注目されるようになったり。それぞれが、音楽家としての本領をどんどん発揮している印象がありますよね。お互いを刺激し合っているのは、すごく幸せなことだと思うんですよ。ある意味、HIP HOPのクルーに近い感覚がありますね。お互いのフィールドの中で、自分がどういう佇まいでいたら面白いかとか、どういうスタンスで臨んだら、お互いの現場を楽しく盛り上げられるかとか、そういったことをみんなで考えながら、楽しみながら形作ることができたかなと思っています」
──そんなメンバーと再録した3曲は、オリジナルと比べてどう変わったと思いますか?
「どれも初期曲だからこそ、手探りで作っていたところは今聞き返してみても思います。“今だったらこう作れるのに”というのも、反省ではなく発見としてありますけどね。作り始めたばかりの頃は、それこそ箱庭音楽に近いというか……だからこそ今聴くと新鮮でいいなと思うことも多いです。一方ライブアレンジともなると、いろんな人が関わることで世界がより広がっていくわけですよね。例えば、「hanashi」という曲はTENDREを始める前に作ったんです。そこに深い意味は込めておらずシンプルに“話したい”ということを歌ったんですけど、再録することで、そこに新しいストーリーも結びつけられる。仲間と一緒に奏でてきたからこそ、“話したい”といったときい思い浮かべる顔も増えていきますし。同じ歌であっても、そこに乗るストーリーは時間と共に変わっていく。僕自身の人間味も、今回のアレンジによってこれまで以上に反映された気がします」
──「IN WONDER - EP」収録曲の「COLORS」は、それぞれ違う色を持つ者が混じり合ったり、理解し合ったりすることの難しさ、楽しさについて歌った曲です。まさにTENDREというアーティストをチームで作り上げてきたからこそ、できた曲と言えるのではないでしょうか。
「おっしゃる通りです。僕一人のプロジェクトであるTENDREを、その活動を支えてくれたり、音楽を共に作り上げてくれたりしたチームがあってこそ続けられたことでもあるので。いずれにしても、チームを存続させること、長く続けていくことってそんなに容易いことではない。そのことを、この5年間で痛感しました。たとえば赤という色ひとつとっても、頭の中で思い描く赤の色が、全員同じとは限らないわけですよね。そうすると、全てを理解し合い完璧に噛み合って進むことなどあり得ない。すれ違ったり、ディスカッションしたりすることによって出てくる答えも当然あります。そうやって、各々の色を出し合い織り交ぜて出てきた新しい色――答えと言ってもいいかもしれません――を、みんなで認め合えることが理想なのかなと。簡単なことではないけど、まずはそういうマインドを持っておくことが大事なんでしょうね」
──河原さんは、バンドメンバーにしてもスタッフにしても、その関係性を大事に長く続けている印象です。人との関係性を継続させていくときに気をつけていることはありますか?
「まず、嘘をつかないというのは大前提なのかなと思いますね。どちらかというと、僕は人に気を使いすぎてしまうタイプなのですが、そのことで自分の気持ちを抑え込み過ぎてしまうのは良くない。思ったことはなるべく率直に伝えるようにしたいと思っています。それに、偏った感情に任せた行動をしないようには心がけています。例えば何かに対して怒りを覚えた時に、その怒りに身を任せるのではなく、なぜそういった感情になったのかちゃんと考える。怒りの対象は、ある意味、鏡だったりもするじゃないですか。自分の負の感情を他者に投影してしまうこともあるだろうし……」
──確かにそうですね。
「逆に、自分の言動が相手にどんな感情を引き起こすか想像力を働かせることも大事なことです。幸い、僕のチームには想像力を持った人たちばかりですし、そこに対しては大きな信頼を寄せています。そして、理解するための努力を惜しまないことも大切です。“いやいや、それは違うだろ”みたいに最初から否定したり、拒絶したりしてしまうのはもったいない。他にも大事にしていることは色々ありますが、今あげたことは僕がずっと心に留めていることです」
──「HEAVENLY」は歪んだギターサウンドと、クリアなシンセサウンドのコントラストが印象的で、TENDREさんにとって新境地とも言える楽曲だと思いました。
「人間生きていると、天国に思える時もあれば地獄に感じる時もあるじゃないですか(笑)。もっと言えば、自分にとって心地いい状態が天国とは限らないし、自分が見えていないところに地獄があるかもしれない。例えば、自分たちの住む場所から遠く離れたところで戦争が起きていることもそうだと思うんですよね。逆に地獄と思うような現実の中だからこそ見出せる、自分の中の純粋な感情というものだってある。そういった物事の二面性を、サウンドで表現しようと思ったんです。歌詞もシリアスなことを歌っているようで、ちょっと笑えるような表現にしてみるなど、我ながら面白い曲になったと思っていますね」
──河原さんのそういうバランス感覚はどうやって培われたのでしょうか。
「どうやってなんでしょうね(笑)。思えば母親や友人とはそういう話をよくしますし、何事にも問題意識や危機意識を持つことが大事なのかなと常々思っています。ただ、あまりにも持ちすぎると身を滅ぼしてしまうというか、疲弊してしまうじゃないですか。とにかく俯瞰的に物事を考えるよう心がけています。目の前の出来事や、感情に囚われてしまうことって誰しもあると思うのだけど、そういう時こそ自分を俯瞰する癖をつけることが、少しでも自分自身を生きやすくするコツなんじゃないかなと。ある意味、自己プロデュースですよね(笑)。それと、人に対してリスペクトを持つのは良いことだと思うのですが、憧れを持つのは気をつけるようにしていますね、誰に対しても。憧れは、度を越すと崇拝みたいになってしまうような気がするんですよ。そうすると自分の軸みたいなものがブレるというか、思い出せなくなってしまう。特に、同じミュージシャンやアーティストに対しての崇拝は、自分の作品はもちろん考え方にも影響を及ぼすことになりますし。そうならないようにしようと決めてから、少し楽になったところはあります」
──「DON'T KNOW WHY」は、答えをすぐに出さないことの大切さや難しさを歌っている。そういう意味では「BEGINNING - EP」に収録されていた「YOUTH」にも通じるテーマなのかなと。
「確かに。作品を作る時って、ある意味では正解を求めたり求められたりするというか。例えば年に1枚アルバムを出すとなると、その時に自分なりの解答を出さないといけないのかな? と思ってしまう時期があったんです。スタンスとしてはそれもありなのかも知れないけど、ずっと続けているとやっぱり疲れちゃうなって(笑)。そのことを、特に今年は考えさせられるような出来事がプライベートであったんですよね。必ずしも正解を出すことが全てじゃない、それもひとつの答えなのかな、とか(笑)。いつだったか、どこかからの帰り道にいろいろ考えを巡らせながら作った曲です」
──そして本作は、LPではA面が「BEGINNING - EP」収録曲、B面が「IN WONDER - EP」収録曲と明確に分けてあるのに対し、CDでは曲順がシャッフルされていますよね。これは何か理由があるのですか?
「CDの曲順は、ライブのセットリストみたいに並べてみたかったんです。ライブではセットリストを通して自分のストーリーを伝えるみたいな感覚が強くあって。どんなふうにTENDREが始まり、どのようなターニングポイントが活動の中にあって、どんな紆余曲折を経て今に至るのか?みたいな……別にこうあるべき、というこだわりがあったわけではないですが、2枚それぞれ作ったストーリーもまた別であるので、そこをLPでは順当に伝えようと。それぞれの並び替えで聴こえ方の違いを楽しんでもらえたらいいかなと思っています」
(おわり)
取材・文/黒田隆憲
写真/Takao Iwasawa
TENDRE『TENDRE / 5th Anniversary Album ~ IN WONDER & BEGINNING ~』DISC INFO
2023年12月13日(水)発売
CD/UPCH-20662/3,080円(税込)
2024年1月3日(水)発売
LP/PRON-7013/3,630円(税込)
ユニバーサルミュージック