──この秋に開催した『清水美依紗 Solo Tour 「Roots」』を終えた感想から聞かせてください。
「自分がどういうきっかけで音楽を身近に感じたか、どういう人のおかげで音楽ができているのか。まさにルーツを辿ったライブだったんですけど、自分のパーソナルな部分をMCで話しながら曲に繋げたりもしたので、とても達成感がありました。「Roots」ツアーを通して、人とのご縁や関わりをより強く感じられました。いつも支えてくれているスタッフさんやファンの方々はもちろん、何よりも、自分が音楽をやるきっかけをくれた家族に改めて感謝の気持ちが生まれました。自分の内に秘めるものをライブにするのはなかなかリスキーだったとは思うんですけど、自分を見つめ直す時間でもあったし、「Roots」ツアーができてよかったです」
──どうして今、このタイミングで自分と向き合い、ルーツを辿ろうと思ったんですか?
「前回、初めてのツアーが「Cherish」っていうタイトルで、“愛”がテーマだったんです。ちょっと抽象的なテーマだったので、そこからさらに一歩進めて、“音楽を通して愛を届けるってなんだろう?”って考えてみて。自分は、どんな愛や音楽に救われたのかを深掘りしたライブにしたくて、自分のルーツを辿るライブにしました」
──ルーツを振り返って、“愛とは何だ?”という問いの答えは見つかりましたか?
「やっぱり縁というものがすごく強いなって感じました。いろんな挑戦をしていく中で、いろんな人と出会って、いろんな人からの言葉をもらって、いろんな人が繋げてくれた縁っていうものがあって。その縁を自分が無意識ですけど大切にしてきたっていうことが、「Roots」ツアーでより明確になりました。これからもっともっと、人との繋がりを持って、“縁を大切にしていきたい”って気持ちになりました」
──人生の最初の縁である家族から受けた影響もセトリには数多く反映されていました。
「そうですね。まさに家族愛が原点と言っても過言ではないです。私は自分で勝手に音楽を聴いて、楽器を始めたわけではなくて…特に、お母さんがいろんなジャンルの音楽を聴かせてくれたのが歌手になる一つのきっかけになっています。お母さんがよく子守唄を歌ってくれていたんです。物心がつく前から音楽を聴いていたし、音楽っていうものに日常で触れていく中で、“自分は音楽をするために生きているんだな”って感じるようになったので」
──お母さんが子守唄で歌ってくれてた曲というのは?
「「Roots」ツアーのオープニングで歌った、ディズニー映画『シンデレラ』の主題歌「A Dream Is A Wish Your Heart Makes(邦題:夢はひそかに)」です。ずっと歌ってくれていたし、今でもお母さんの声で覚えていて。この曲をオープニングにしたのは、やっぱり原点だったからです。お母さんは別に歌手というわけではないんですけど(笑)、ただただ音楽が好きなお母さんが、それを歌うと私がぐっすり寝るからっていう理由で歌ってくれていました。ディズニー音楽を身近に感じさせてくれたきっかけでもありますし、やっぱり影響は大きかったです」
──後に、ディズニープリンセスの祭典『アルティメット・プリンセス・セレブレーション』の日本版オリジナルテーマソング「Starting Now〜新しい私へ〜」を歌うわけですからね。
「あの時はびっくりしました」
──当時、お母さんは何かおっしゃってました?
「“始まるね!”って言ってました。“これからだね。大変なこともあるだろうけど、歌っていれば大丈夫よ”って言ってくれました」
──ちなみにお父さんからの音楽の影響もありました?
「お父さんが歌っている姿を一度も見たことがないんです。ただ、車の中で音楽をよく流していたんです。それもいろんな曲をかけていて。一番よく流れていたのは、「木綿のハンカチーフ」で、次に「涙そうそう」。でも、レディー・ガガを聴いている時もありましたね。(笑)ライブでは「木綿のハンカチーフ」の1番と4番だけのショートカット・バージョンを歌いました。私がやりたいことは“全部好きなようにやったらいい“っていう。それが音楽じゃなかったとしても、絶対にそう言ってくれていましたし、昔からずっしりと構えてる感じがありました」
──そして、そのライブのアンコールで新曲「TipTap」を初披露しました。お客さんはどんな反応でしたか?
「新鮮な空気が漂っていました。私にとっては初のジャズナンバーなので、曲が終わった後の歓声で、“新境地だな”と感じた方が多かったんじゃないかなって思いました。ジャズは元々聴いてはいたんですけど、自分では歌ったことがなくて…。それこそお母さんがいろんなジャンルの曲を聴かせてくれていたので、その中にジャズもあったんですけど。サラ・ヴォーンやエラ・フィッツジェラルドとかのジャズヴォーカルだけじゃなくて、歌がないピアノトリオとかも聴いていました」
──お母さんは本当にジャンルの幅が広いですね。初のジャズナンバーとなる新曲「TipTap」がドラマ『全領域異常解決室(略:全決)』のオープニングテーマに決まった時はどう感じましたか?
「本当に急ピッチで、突然、“決まりました!”って聞いたんです。主演が、藤原竜也さんと広瀬アリスさんでって聞いて、“すごい。やばいな…”って、言語力がなくなっちゃうぐらい驚きしました(笑)。その後で、ミステリー、オカルト、超常現象にちなんだドラマのオープニングで、“パーン!とドアが開かれるような、始まるっていう感じのジャジーな曲を作ってほしい”っていう要望をドラマ側からいただいて。今回、作詞作曲に私は入っていないんですけど、私のオリジナルの曲をたくさん書いてくださっているMitsu.Jさんと、「Sugar」や「Message」を書いてくれたSHOWさんに素晴らしい曲を書いていただきました。「TipTap」が届いたときは、満場一致でみんなが“これだ!”ってなったくらい、ビビっときた曲でした」
──初のジャズナンバーにはどのようなアプローチで臨みましか?
「身近にはあったんですけど、自分のオリジナル曲として歌うことがなかったので、この曲をどうやったら私らしく歌えるのか…歌詞も自分が日々思っている、二面性、表と裏の部分がすごく言語化されていたので、より自分にこの曲を近づけるための作業が必要だなって感じました。この歌詞を歌うためにどうリズムに乗ればいいのか、ちょっと後乗りにならないように、スイングに乗りながら、この言葉数をどうやって歌い回せばいいのか。そういう部分に限られた時間の中で、一番時間をかけました」
──本当に急ピッチだったんですね。
「はい。かなり怒涛の制作だったんですよ。プリプロで仮で歌ってから、本番のレコーディングまでこんな短いの?っていうくらい時間がなくて。しかも。ウッドベースとドラム、ブラスが生音なので、それも大変でした。楽器隊のレコーディングをした直後、同じ日にボーカルのレコーディングをしたので、録ったばかりの状態の音を聴いてレコーディングしていて…」
──ピアノとギターと、ビブラフォンは打ち込みなんですね、
「そうです。“華やかな感じのブラスは生音でいきたいよね”って話をしていて。ウッドベースもイントロがかなり特徴的で、ドラムのカチカチした音は元々の打ち込みにはなかった音なので、“天才!”って思いました。そのおかげで、プリプロの時点から歌が変わったんです。生音になっただけこれだけ変わるんだって思いました。たくさん準備はしてきたんですけど、本番のレコーディングのときは、自分が感じたままに歌いました」
──こういうジャズナンバーはこれからも歌っていきますか?
「歌いたいですね。今までの曲と違って、ちょっと遊び心があるんです。これまでは強い思いを力強く歌うことが多かったんですけど、この曲は別のベクトルの力強さというか、別のアプローチで歌っていて。言葉にしづらいんですけど、斜め上から自分を俯瞰しながら歌っている感じなんです。それがすごく、自分で自分を転がしているみたいで面白いんです。かなり体感では違うなって思っているし、こういうちょっとブラックな感じはどんどん出していきたいです」
──先ほど、“日々思っていることが言語化された”とありましたが、どんな部分ですか。
「全部です。特に“ここだ”っていうものがあるとしたら…でも、本当に全部なんですよね(笑)。例えば、<電脳煩悩洗脳/窮屈なんて退屈>とか。今の現代社会に対しての皮肉や自分自身への皮肉、それと同時に、期待も込められている楽曲でもあって。今って、若干、生きにくい世の中じゃないですか。人との関わりや心のあり方の部分で、ちょっと窮屈に感じることって、ぶっちゃけ多くて。いろんなしがらみがあるし、SNSでも人それぞれの正しさが見える。その後の<移ろう時代に>もうそうです。どんどん流行が変わっていく今の時代で、やっぱりちょっと窮屈になっていっている感じがするし、自由になりたいって思います。だから、この歌詞を読んでいて、自分の中で“本当にそうだな”って思うんです。<薔薇色の真実なんてマジないわ>とか。一見、私が言わなさそうな言葉ですけど、実際に思っていることで。人との関わりにおいて、期待することで落ち込んだりすることもあったりしますし。本当に細かい部分で共感ができる歌詞です」
──人生は<蜉蝣(カゲロウ)>で、<奇想天外>で、<素晴らしい>と歌っていますが、ご自身だったらどんな言葉が続きますか。<人生は〇〇>に清水美依紗が作詞するとしたら何が入りますか?
「…難しいですねぇ(笑)。みんなそれぞれの人生があるし、私の人生は私の人生だしっていう感じです。だから、なるべくコントロール下に置かれないようにしたくて。いろんな人が、いろんなふうに、いろんなことを言っているけど、自分は流されないようにしなきゃならない。“自分はどう思う?”って、自分で自分の心に聞くようにしていて。今を生き抜くためにすごく必要なことなので、<私の人生は私の人生だし>になるかな?」
──ありがとうございます。あと、歌詞カードを見ると、<奇想天外やいやいや>や<素晴らしいなんなんて>と歌っているところは、<奇想天外や>や<素晴らしいなんて>になっているんですよね。その後の<マジないわ>や<要らないわ>と韻を踏むようになっていますが、これは歌ってみて変えたんですか?
「いえ、元々こういうふうになっていました。でも、歌ってみるとかなり難しいんですよ。<やいやいや>って母音が変わるので、音程がとりにくいんですけど、本当にリズムに乗って、音もハマったときに、スイングしている感じとバチっと合うんです。“すごい天才的な曲を書いている”って思いました。ただ、<マジないわ>はプリプロの時点でちょっと変えた部分です。本当に私が喋っているような感じを出したくて、私の年齢の子たちが使うような現代的な言葉を入れたりしています」
──<超奇々怪界>もそうですけど、現代的なワードと昔からある言葉の組み合わせは、妖怪や幽霊とYouTuberや地下アイドルが交錯するドラマともリンクしていますね。ドラマを見てどう感じましたか?
「贅沢なオープニングだったなって感じました。タイトルがバンって出て、<Ah!! 人生は>って始まるので、鳥肌が立ちました。しかも、藤原竜也さんのセリフの後に流れるっていうのが嬉しかったです。ドラマ自体も実力派の俳優さんたちばかりだったので、お芝居を見ていても面白かったですし、これから放送のたびにどんなふうにオープニングが始まっていくかも楽しみにしています」
──ちなみにご自身はオカルトとかミステリーとか超常現象は?
「大好きです! 本を読むのはミステリー系が多いですし、オカルトとか、都市伝説とかも大好きで。人々が信じなさそうなことを想像したりするのが好きなんです。いるのかいないのか、その狭間が好きですし、わくわくするんです。宇宙や深海もそうなんですけど、わからないことが多いじゃないですか。刑事ドラマも好きなので、まさに、『全決』には全部が詰まっていて、私が大好きな題材なので改めて嬉しいです」
──脚本は先までは読んでないんですか?
「読んでないんですよ。全く新しいオリジナル作品なので、どういうふうに物語が進んでいくのか知らなくて。原作がないから本当に未知の状態で、毎週水曜日をすごく楽しみにしています」
──主題歌としてはどう楽しんでほしいと思いますか?
「1曲としてもいろんな捉え方で聴いていただきたい気持ちはもちろんあるんですけど、何といってもドラマが考えさせられるような題材だと思っていて。そんな作品のオープニングを飾るということなので、まずはドラマと一緒に聴いていただいて、オープニングを楽しんでいただきたいです。その後で、フルでも聴いていただきたいですし、ライブではきっとまた歌い方が変わると思うんです。配信のときの音源と絶対に変わっていくので、ライブでもたくさん歌っていきたいですね」
──そして、エポニーヌとして12月に幕が上がる東宝ミュージカル『レ・ミゼラブル』の稽古がもうすぐ始まるのでしょうか?
「もう8月から始まっています! まだお芝居の稽古には入っていないんですけど、歌稽古は始まっていて。でも、まだ本当に全然実感がなくて…。歌稽古をしている中で、帰りに録音を聴いて、“あ、エポニーヌやってるな”って、そこでちょっとだけ実感する、みたいな感じです。やっぱり実際に舞台に立ってみないと本当にわからないです…。役作りの部分でもまだまだ研究段階というか、もっともっと突き詰められる部分はあるので、現状ではまだ…もちろん嬉しいんですけど、“本当にやるんだ!?”っていう感覚で止まっています」
──『レ・ミゼラブル』もルーツの一つですよね。『歌唱王 2017』でエポニーヌのソロ歌唱曲「On My Own」を歌っています。
「まさにそうなんです。『歌唱王』のファイナルステージで歌った曲でもあるんですけど、もともと歌手を目指したきっかけになったのも「On My Own」だったんです。小学生の時にワークショップに通っていたことがあって。『レ・ミゼラブル』は知っていたんですけど、ちょうどそのころに映画も公開されて、ホットな状態だったときに、ワークショップの先生から「On My Own」を歌ってほしいって言われたんです。マイクを持って、「On My Own」を歌ったときに、“私がやりたいのはこれかもしれない!”って感じました。高校卒業後にニューヨーク・アカデミー・ミュージカル・シアターに留学して、ミュージカルを学びに行った時も、あくまでも歌手を目指す過程として、原点に戻ってミュージカルを学ぼうと思ったからだったんです。ライブでも言ったんですけど、本当に人生のピースがはまったような感じですし、すごく感慨深いです」
──レミゼのエポニーヌ役が決まった時はどんな反応だったんですか?
「腰抜けてました(笑)。インスタにもあげているんですけど、ブワッて泣いた後に、“え?”って驚いた表情のままで本当に腰が抜けてしまって。もちろん、オーディションに受かりたいって気持ちはあったんですけど、過度に期待しすぎず、“ま、落ちるだろう”っていう気持ちでリラックスして受けたんです。いざ受かったってなると、体温がすごく上がって、目も熱くなって、“現実?”って信じられないくらいびっくりして。そこから解禁までが長かったので、それこそ全然実感できなくて。解禁してから今、稽古が始まって、少しずつ実感してきている感じです」
──毎年、ミュージカル作品にも出演していますが、ご自身の歌手としての活動にはどんな影響を与えてますか?
「相乗効果ですよね。ミュージカルをする上で必要な歌唱の技術があるんです。私は英語の曲を歌うことが多かったので、ミュージカル作品で日本語で歌うことに不自由さを感じるんですけど、歌詞の立て方とか、どうビブラートをかけるかとか、どんな感情表現ができるかとか、すごく有効な歌い方がいろいろとあって。今まで歌手を目指す過程の中で培ってきた技術もあるし、ずっと技術だけを磨いていた時期に、表現力が足りなくて、お芝居をやることで、歌詞を喋るように、より明確に届けられるようにもなりました。技術と感情の表現という意味で、本当に相乗効果で差し引きしながらできているなって思います」
──最後に今後の目標も聞かせてください。これからどうしていきたいですか?
「ここまで忙しくさせてもらったことがなかったので、今は、ミュージカルと歌手活動の両立は本当に大変だなって思っています。でも、私には幕張メッセに立ちたいっていう夢があって。初めてライブに行ったアーティストがアリアナ・グランデで、彼女が日本にツアーに来て立ったステージが幕張メッセだったんです。いつか彼女が立った幕張に立ってみたい。その夢に向かうために、今、目の前のことを一つ一つ大切に妥協せずにこなしていきたいと思いますし、「TipTap」をたくさんの人に聴いていただきたいので、いろんな場所で歌っていきたいです」
(おわり)
取材・文/永堀アツオ
写真/野﨑 慧嗣