──3年ぶりのフルアルバム『ゆくえ』が完成しました。本作を制作するにあたり“こういうアルバムにしたい”というような構想はあったのでしょうか?
⽥中雅功「前作『改めまして、 さくらしめじと申します。』からの3年の間に、コロナ禍があって、僕らは20歳になって。いろいろあった中で、僕らもだんだんとやりたいことや歌いたいことが見えてきました。だから、ただただ今を歌うんじゃなくて、今を踏まえて、次のステップが感じられる1枚にしたいなと思って作りました」
──“やりたいことや歌いたいことが見えてきた”とのことですが、やりたいこと、歌いたいことというのは?
田中「まだ20年そこらしか生きていないのにあれですが、どう生きていくか?…僕らでいうと、ずっと音楽をやっていたい、死ぬまでずっと2人で音楽をやりたいというのが、漠然とじゃなくて、そのために他を全部無くしてもいいと思えるくらいまでしっかり考えられるようになりました。そういった決意とか、憧れていたものが目標に変わったことへの気持ち。それを歌いたい、見せたいと思いました」
髙⽥彪我「この3年間で自分自身という存在が、ちゃんと認識でき始めたというか…今まではわかっていない部分があったなという感じがしていて。最近ようやく、自分がどういう人間なのかというのをちょっとずつ理解していって。そこから、自分が今どういう気持ちなのかということがわかるようになってきて、それが“この気持ちを曲にしよう”ということにつながってきたのかなと思います」
田中「あー、そうだね」
──先ほど田中さんが“死ぬまで音楽をやりたいという気持ちがはっきりしてきた”とおっしゃっていましたが、それには何かきっかけがあったのでしょうか?
田中「“どれが決定打か?”と言われると、その頃にはもう固まっていたような気もするんですが、印象に残っているのは、彪我と僕とお世話になっているミュージシャンの先輩と3人でご飯を食べたとき。その先輩に“この先、どうしたいんだ?”みたいなことを聞かれた彪我が“雅功と2人で音楽をやりたい”とぽろっと返しているのを聞いて、“あー、確かにな”と思ったんです。別に、他の道に進もうと考えていたわけではないし、他にやりたいことがあったわけでもないし、死ぬまでやるつもりではいたんですけど、急に現実味を帯びたのがそのときだったかなと」
髙田「音楽はずっと好きでやってきているし、音楽に救われた部分もあるから、少しでも恩返しができたらという想いがあって。もらうだけじゃなくて、与える側にもなれたらと思うようになってきました。そのためにも“ずっと続けていきたい”という意志は、僕も最近固まりました」
──そんな強い意志が吹き込まれたアルバム『ゆくえ』。ここからは収録曲について伺います。まずアルバムのリード曲は髙田さん作の「エンディング」。この曲ができた背景から教えてください。
髙田「僕の中での音楽のあり方を書きました。“音楽を聴いている瞬間だけは、日常の嫌なことを忘れてほしい”と思っていて。この曲も、“聴いている間は他のことを忘れられると思えるような歌にしたい”という想いで制作しました」
──「エンディング」という曲名にはどのような想いが?
髙田「アニメやドラマにエンドロールがあると思うんですけど、エンドロールのあとには“To Be Continued”として次回予告があるじゃないですか。だから僕の中では、エンディング=“続いていく”という印象が強くて。その感じを曲に込められたらと思ってこの曲名にしました。日常の中でも学校がちょっと嫌だなとか、仕事が嫌だなって思うことはあると思うんですけど、そういうときに、この曲で違う世界に連れていって、また日常の続きにつないでいけたらと」
──曲調的にも、クラップがあったりして楽しい雰囲気ですよね。
髙田「歌詞では心の奥のほうを歌っているぶん、ちょっとネガティブなところもあるんですけど、さっき言ったようにこの曲では違う世界に連れていってくれる感じを大事にしたかったので、曲調は思わず体を動かしたくなるようなものにしました」
田中「彪我の歌詞って、どこか見て見ぬ振りしているところをサクッと刺すところがあると思っていて。「エンディング」の<「もしも悩んでしまったなら あなたらしく生きなさい」と言う 過ぎ行く小節の中で 僕らしさはどこにある?>という歌詞もすごく皮肉が効いているなと思いました。今の時代、多様な選択肢があって、その中から正解や自分らしさを探すことができますよね。でも逆に言うと、その中から“探さなきゃいけない”と感じる時代でもあると思うんです。でも本当は“僕らしさ”とか“あなたらしさ”と一括りにするなんて到底無理な話なんですよね。これも僕だし、あれも僕だし。この歌詞のその皮肉っぽいところに“確かに!”と納得させられて。このフレーズに限らず、「エンディング」は“髙田彪我”がものすごく出ている曲だなと思いました。持論ですけど、曲とか創作物って、個人的になればなるほど共感を生むことが多い気がしていて。そういう点で、この曲は髙田彪我がすごく出ていてものすごくいいなと思いました。髙田にしか書けない歌詞です」
髙田「ありがとうございます!」
──そうやってお互いの曲を互いにものすごく俯瞰して見ながらも、同時に、さくらしめじとしてそれぞれ自分のものとして落とし込んで歌えることがさくらしめじの良いところですよね。
田中「最近思ったんですけど、僕たちって全然違う人間なんです。趣味も合わないし、着る服の趣味も違うし、なんなら聴いている音楽も違う。だけど思考は通じる部分がある。曲にすることとか、曲への落とし込み方に、通じるところがあるように感じていて。それが、今おっしゃってくれたような“自分として歌える”ところなのかな?と思います」
──そして触れずにはいられないのが「天つ風」です。この曲は田中さんが高校1年生の時に制作し、ファンの間では音源化を待望されていた楽曲の初音源化です。このタイミングで音源化しようと思ったのはどうしてですか?
田中「正直、収録しなくてもいいかな?と思っていたんです。個人的にめちゃめちゃ大事な曲ですし、音源にはなっていないけどライブではやる曲として定着もしていましたし。でも『ゆくえ』は、今後を感じさせるアルバムにしたいと思っていたので、ここで一旦10代を清算しておこうかなと思って収録しました」
──改めてこの曲の制作経緯を教えてもらってもいいでしょうか?
田中「えーっと…初恋の歌です(笑)。それまでは『となりのトトロ』のサツキちゃんが初恋だと思っていたんですけどね(笑)。歌詞を読むと、不安めいたことも書いていますが、今読むとやっぱりハッピーなんですよね。“恋してるな〜”って思います(笑)。昔のアルバムを見返しているような気持ちというか…“「こういうときもあったな〜”という気持ちになります」
──初恋をぎゅっと閉じ込めた楽曲が、ストリングスなども加わり、新たに生まれ変わりました。改めてパッケージされた今の心境はどのようなものですか?
田中「アレンジすることもすごく不安だったんです。こういう曲で“アレンジし直す前のほうがよかったんじゃね?”ってなるの、結構あるあるじゃないですか。それも今回アルバムに収録するネックの要素の1つだったんです。2人で弾き語るイメージが強すぎて、僕自身はアレンジも全然思いつかなかったし。だから、神佐澄人さんに“既存のフレーズも全部なかったことにしていいので、好きにやってください”とめちゃくちゃなオファーをしたんですが、想像を超えるアレンジにしてくださって。“さすがです!”の一言に尽きました」
髙田「この曲は、恋愛の曲としてだけでなく、いろいろな見方ができる曲だと思っていて。だからこそ、このアレンジで生まれ変わったことが、「天つ風」にとってもいいことだったんじゃないかと。もちろん弾き語りでやるのもいいんですけど、こうやって生まれ変わることでいろいろな視点で聴いていただけると思うので。素晴らしいアレンジだと思いました」
──「天つ風」は高校生のときの田中さんが作った曲ですが、「なるため」は今の田中さんが作った楽曲。「なるため」はこれまでのさくらしめじのイメージとは少し違う、強気の曲だなと感じました。この曲の背景を教えてください。
田中「この曲は“J-POPの曲を作ろう”と、めちゃくちゃ狙って作った曲です。ボツになるかな?と思いながら、彪我とかスタッフさんに聴いてもらったら、意外にも”これにしよう!“と言われて。ただ…狙って書いたので、最初この曲が全然好きじゃなかったんです」
──自分の気持ちとは違うところから作ったから?
田中「はい。感情が全くない状態で作ったので、“何か嫌だな”という気持ち悪さがあって。だからデモから歌詞を変えたんですけど、そしたらどんどん重たくなっちゃって(笑)。想定外にメッセージソングになっちゃいました。でもその結果、自分の中ですごくバランスが取れて、メロディも納得いくものになって、トントン拍子で良くなりました」
──少し刺々しさを感じたのですが、それはご自身への反骨精神から生まれたものだったんですね。
田中「そうです、そうです。自分に対して“これでいいのか、お前?”という気持ちがありました」
──そもそも“J-POPの曲を作ろう”と思ったのはどうしてだったのでしょう?
田中「気の迷いですかね(笑)。というのは半分冗談で、音楽って厳密にジャンル分けできるものではないし、僕らが今までやってきたものもJ-POPなんですけど、“ど真ん中”をやってみたい気持ちがあったんでしょうね。自分にど真ん中の曲が書けるかどうかを試してみたい気持ちがあったんだと思います」
──そしたら、無心で書いてしまって反省してしまったと。でもその葛藤を曲にするという、また新しい作り方ができたことは収穫ですね。
田中「そうですね。今までだったら、何か気に入らない曲ができてしまったら“何やってるんだ。次行こう”って、その曲はボツにして新しい曲を作っていたので、1曲の中でうねうねしたのは初めてでした」
──髙田さんは、この曲で特に好きなところを挙げるとしたらどこですか?
髙田「表現方法に田中さんらしさが出ているなと思いました。<ゴミ箱に今日を捨てるの?>とか」
田中「へー、そこなんだ!」
髙田「重いことを重く描かないというか。その表現方法は“やられたな!”と思いました。あとは、田中さんの反骨精神がもろに出ていて面白い曲だなと思います」
田中「本当はおとなしい人間なんですけどね(笑)」
──ここまで新録の楽曲について伺ってきましたが、そのほかの収録曲で、特に成長につながったなと思う楽曲やクリエティブの面で刺激になったなと思う楽曲を挙げるとしたらどの曲ですか?
髙田「やっぱり「辛夷のつぼみ」かな。この曲は2人でちゃんと向き合って作った曲で。これをきっかけにお互いのことをもっと知ることができたと思うので。この曲は大きいんじゃないかな?」
──“2人で向き合って作った”というのはどういうことなのか、改めて教えてもらえますか?
髙田「「辛夷のつぼみ」は2人で作曲した曲ですが、それまでは2人で1曲を作るという機会があまりなくて。それぞれが曲を作りながらお互いにいろいろチャレンジをして、それを踏まえて再集合したという感じがこの曲にはありました。だから、お互いに自分が今どう思っているのかをこの曲で再確認できたんじゃないかなと思います」
田中「確かに。僕も「辛夷のつぼみ」ですね」
──その点でいくと「花びら、始まりを告げて」は「辛夷のつぼみ」を経てまた2人で作った楽曲だと思いますが、「辛夷のつぼみ」を経たからこそできたことや引き出された部分のようなものはありますか?
田中「「辛夷のつぼみ」を作ったからこそ、お互いにいろいろ言えるようになりましたね。“これはこっちのほうが良くない?”とか。お互いがお互いの作ったものに対して意見できるようになったので、それは「辛夷のつぼみ」からの良い流れかなと思います」
髙田「より深く2人で話し合って作った曲が「花びら、始まりを告げて」なので、僕たちの心の奥の…闇をあらわにして光を作った感じというか…」
──2人の感情がむき出しに?
髙田「そうですね」
田中「「辛夷のつぼみ」「花びら、始まりを告げて」の2曲は特にそうかもしれないです。2人で作った分、むき出しになっているところが2人分だからということもあるのかな?…1人で作るよりも倍になっているから、余計むき出しに感じるのかもしれないですね。あと、チャンレンジという点でいうと、この曲は初めての8分の6拍子の曲なんです。“86の曲ないよね?”、“作っちゃおうか?”みたいな感じで作ったんですが、いろいろ発見もあったし、それで1曲完成させられたのは結構大きかったですね」
──8分の6拍子の曲はさくらしめじに合うなと思いました。
田中「本当ですか!?うれしいです。8分の6拍子って、軽快だけど力強さがあるので、それをどう乗りこなすかを考えるのがすごく面白かったです」
──今まで使っていなかった8分の6拍子の曲を作ってみたり、J-POPの曲を作ってみようと挑戦してみたり、M!LKに楽曲提供(「コトノハ」)をしたりと、ソングライターとして挑戦的な3年間だったのかな?と感じましたが、さくらしめじとしては新たな挑戦をしていきたいという気持ちがあったのでしょうか?
田中「というよりは、やりたいことが増えた結果、挑戦することになったという感じなんじゃないかなと思います。新しいことに対して苦行とか修行とは思ってないですし…」
──やりたいことや作りたい曲があって、それを実現させるためには新しいことを手に入れていかないといけない?
田中「そうです。全部が新しいおもちゃのような感じです」
──お二人の挑戦と成長の感じられる『ゆくえ』が完成しましたが、さくらしめじとしては、このアルバムはどんな1枚になったと思いますか?
田中「もちろん“届けたい!”とかいろいろな気持ちはありますが、自分に向けて書いている曲がいっぱいあるので、まずは自分たちにもっと届けばいいなと思っています。自分たちが迷ったときにここに帰ってこられるような、“ああ、そうだ。僕たちはこういうことがしたいんだった”と思えるような、本当に“ゆくえ”を探し出すコンパスのような1枚になっていけたらいいなと思っています」
髙田「“コンパス”って表現っていいね。確かにそうだね。今のさくらしめじが詰まっているので、このアルバムを聴いて、今のさくらしめじを知っていただいて、ファンの皆さんと一緒にこの先の“ゆくえ”を探っていけたらいいなと思います」
──さくらしめじが目指す、この先の“ゆくえ”は?
田中「まずは誰もが“おっ!”と思うような1曲を、世間に叩きつけることですかね」
髙田「まずはそこだね」
田中「しかもそれを、狙って作るんじゃなくて、自分たちのものとして自然と生み出せたらいいなって思います。そのために自分たちをもっともっと磨いていきたいです」
──では最後に、12月に控えるツアー“さくらしめじ QUATTRO TOUR 2023「ゆくえ」”への意気込みをお願いします。
髙田「ひさしぶりのQUATTROツアーなので楽しみです。とにかくアルバム『ゆくえ』の良さを味わってもらうために、僕たちもその良さをより引き出して皆さんにお届けしようと思っていますので、ぜひお楽しみに!」
(おわり)
取材・文/小林千絵
写真/野﨑 慧嗣