──前作『The Legacy EP』から約2年ぶりとなるアルバム『NOSTALGIA』が9月にリリースされました。

「ファンからの反響も含めて、すごく手応えを感じています。全体的にアコースティックなテイストのアルバムになっているんですけど、以前からそういうアルバムを作りたいという気持ちがありました。作りたいという思いがありつつ、いざ作ろうと決意したのは今年1月に開催したライブ『Rihwa Hall Concert Tour SING〜』がきっかけです。このライブのバンドは9人編成だったんですけど、アンコールで披露した「フレ!」という曲だけ1人で弾き語りをしたんです。しかも、完全オフマイクの生音で。その空気感がとても良くて、もともとアコースティックギターの弾き語りを1人でずっとやってきた自分のスタイルとして、すごくしっくりきた瞬間、記憶に残る瞬間でした。その経験をきっかけに、“自分の声をシンプルに届けよう”って改めて思いました」

──それが、今回のアルバム『NOSTALGIA』につながっていった?

「はい。“次の作品では、もっと肩の力を抜いて歌おう”って。それくらい、1月のライブで歌った「フレ!」は今回のアルバムにつながる大きなきっかけでした。そこからアコースティックサウンドをベースに、私のルーツであるカントリーミュージックをしっかり感じさせつつ、ポップスの要素を盛り込んだ楽曲を作っていきました。最初は、もっと土臭くカントリーミュージックに振り切るつもりでいたんですけど、私の中にあるポップスの要素が“出たいよー!”って感じでメロディににじんでくるんですよ。だから、そこは素直に入れていこうというか、そういうキラッとしたポップさがあるのが、“Rihwaのカントリーミュージック”なんだろうなって思います。そういう意味では、これから自分がしていきたい音楽表現の新たな第一歩、その足掛かりになるアルバムになったのかな?って思います」

──『NOSTALGIA』というアルバムタイトルの由来を教えてください。

「今回、初めてアルバムタイトルを最初に決めて制作に臨みました。“どんなアルバムを作りたいのか?”を考えたとき、私は音楽を作る上でも聴く上でも、懐かしさだったり、過去の切ない思いを思い出してぎゅっとなる気持ちを大事にしてきたなって気づいたんです。今年でもうデビュー12周年なんですけど、自分の10周年を経て、過去を振り返る時間が多かったのかな…。でも、そこで過去を振り返ることもすごく大事だと再確認しました。大事なことをしっかり思い出して、悲しかったことも自分の中で改めて理解して、新しく評価することで、次に進むための力になるって思って。それは、アルバムを作る前にも感じていたことだし、作っている間にも思っていたことです。その結果、自分の中にあるものをそのまま歌にした作品ができました。今までで一番、自分のことを包み隠さずさらけ出しているアルバムだなって思います。自分的には、やっと本当の意味で“シンガーソングライター”になれたなって。今回のアルバムは、自分でしかない感じがします」

──いただいたアルバムの資料にRihwaさん自身が書かれた文章が掲載されていますが、その中の“特に「別れ」はノスタルジアの扉となっていて”という一節が印象に残りました。

「最初の大きな別れは、15歳でカナダに留学するときの家族との別れでした。それからはもう、空港に行くたびにノスタルジックな気持ちになるんです。その後にはおじいちゃんやおばあちゃんとの別れも経験しましたけど、その度に私が感じるのは“強い心のつながり”です。強い心のつながりがあればあるほど別れは辛くなるんですけど、別れによって心の強いつながりを感じることは、私にとって喜びでもあります。例えこの世にいなくても、心が強くつながっていることを感じられるなら、それは一緒にいること、会っていることと一緒だな、だとしたらそれは喜びだなって思うんです。そういう強い心のつながりを感じられる人間関係を作っていくことが、自分の人生を豊かにしてくれる。それを、私はいろんな別れから学びました。だから、自分の家族や友だちとは、次元や時間軸を超えたつながりが存在するって、私は思っています」

──『NOSTALGIA』は前事務所から独立して最初のアルバムでもありますが、そういった環境の変化もいい方向に作用した部分はありますか?

「独立して1人でやることで、今まで以上に自分がやりたいことをストレートにできているとは思います。生活環境を変えたことも、自分に良い影響を与えていると思います。車を買って都心から少し離れた星が見える町に引っ越したんです。音楽により真摯に向き合いたくてその生活に変えたんですけど、私は北海道育ちなので、やっぱり自然が多い場所のほうが落ち着きます。引っ越した今は、鳥のさえずりで目覚めるんですよ(笑)」

──すごくいいですね。

「周りが静かなのもいいです。私は声が大きいので、家で歌うと近所に迷惑をかけてしまって。でも、今の家はどれだけ声を出してもいい環境なので、思い切り歌ってノーストレスで楽曲制作ができています」

──前回のencoreでのインタビューでは、11年目以降の活動について、“普通に生きていたら出会わないような人たちに出会いたいので、そのために積極的に行動したい”と語っていました。

「その思いは、今も変わっていないです。去年の6月、キャンピングカーでアメリカをぐるっと周ってきました。そのときに立ち寄ったキャンプ場で、おじさんが1人でバーベキューをしていたんです。話していたら、私が持っていた肉もその方の網で焼かせていただくことになって、一緒に食事をさせていただいて。いろいろお世話になったので、最後に私から“歌をプレゼントさせて”って言って、「カントリー・ロード」(アメリカの有名なポピュラーソング。1971年にジョン・デンバーが発表した楽曲がオリジナルだが、多くのミュージシャンにカバーされている。日本語でカバーされる際、「故郷へ帰りたい」という邦題がつけられる場合もある。映画『耳をすませば』のエンディング主題歌でもカバーされた)を歌ったんです。ギターも持っていたので。そしたら、空を見上げて一緒に歌ってくれて。夕暮れ時で、空がピンク色でした」

──心に沁みるエピソードですね。

「その方はテキサスの出身なんですけど、ラスベガスのSphere20239月に開業した、球体型の最新複合エンターテインメントアリーナ)の建設に携わっているという話でした。「カントリー・ロード」を聴いて、歌って、空を見上げて、故郷と家族のことを思っていたんだと思います。その方との出会いは、すごくいい時間でした。自分の音楽をたくさんの人に届けたい思いも当然ありますけど、こうやって1人の人にしっかり届く歌を歌うことが大切で、私はそういう歌を歌いたいんだって感じました」

──出会いという意味では、『NOSTALGIA』のジャケットを手がけているアルゼンチンのビジュアルアーティスト/ミュージシャンのマリアーノ・ペッチネッティとの出会いも大きかったと思います。

「“すごくいいな!”と思って、自分のインスタグラムのDMで連絡しました。ザ・ルミニアーズというアメリカのバンドのジャケットを手がけたり、GUCCIなどのブランドともお仕事をされているアーティストなんですけど、彼のアートワークが大好きになって、“絶対にお願いしたい!”って。メッセージを送ったらすぐに返事が届いて、“実はずっと日本の仕事をしたかったんだ”って言ってくれました。そこからいろんなやりとりをして、今回のジャケットが完成しました。イメージ通りで、最高の仕上がりになったと思います。韓国で個展を開いたりはしているみたいなんですけど、まだ日本には来たことがないそうなので、マリアーノが来たときにはどこでも案内するし、個展を開くなら全力で協力するって話をしました。そんな話もするぐらい、今回の仕事を通してお友だちになれたかな?と思っています。まだ実際には会えてないんですけど(笑)」

──それが今の時代ならではですよね(笑)。ところで、まだ終わってはいないですが、2024年も残りわずか。振り返ってみると、どんな1年になったと感じていますか?

「6月までの前半はほぼライブをせずにアルバム制作に打ち込んでいて、後半はライブしまくりで動き回っていた、あっという間の1年でした。いろいろやりたいことがやれているけど、まだまだ追いついてなくって、本当はファンクラブももっと動かしたかったんです。今まで自分で作って年に1回していたビーズアクセサリーの販売も、今年はできなかったりして…。そのあたりももうちょっと頑張りたかったという思いは残っているんですけど、また来年、計画的に進めたいです」

──今、来年という言葉がありましたが、2025年はどんな1年にしたいですか?

「今年は独立もあってがむしゃらに活動した感じがあるので、いろいろ整理してメンテナンスしたり、作戦を練ったりして、ファンとのつながりもより強くできるような企画も実現させる1年にしたいです。例えば、『NOSTALGIA』を最高の音響でみんなに聴いてもらいたいという思いがあるので、いい音で聴けるスペースでリスニングパーティーを開くとか。あと、キャンプ好きなので、バスツアーでキャンプイベントもいいですよね。それと、カントリーミュージックに特化したカバーライブイベントも、私が中心になって開催したいと思っています。そうやって、若い世代からカントリーミュージックを盛り上げられたらいいですよね。年上のカントリーミュージックマニアの方から、いろんなお話を聞くイベントもいいかもしれないです。そういう活動を続けて、将来的にはナッシュビルからアーティストを呼んでライブを開催するのが夢です」

──2025年を迎える目前、12月2日の東京 I’M A SHOWを皮切りに、広島・大阪・名古屋・札幌で『Rihwa ‘NOSTALGIA’ Tour 2024』が開催されます。

「一緒にやるメンバーはもう決まっているんですけど、愉快なライブになるのは確定してます(笑)。倉井夏樹さんというブルースハープ奏者の方が参加してくれるんですけど、ブルースハープでイルカの声を表現したり、本物の汽車のような音を出したりとか、みんなが釘付けになるぐらいすごいプレイをするんです。パーカッションの松下ぱなおもコミカルなこともしてくれるメンバーですし、曲ごとに空気感が変わる楽しいライブになりそうです!」

──12月のライブは、アルバム『NOSTALGIA』の新たな魅力を発見する機会にもなりますね!

12月のライブもそうですし、『NOSTALGIA』は何年後に聴いても絶対にいいアルバムだって自信があるので、時間をかけてみなさんに知っていただいて、じっくり届けていきたいです!」

(おわり)

取材・文/大久保和則
写真/中村功

RELEASE INFORMATION

Rihwa『NOSTALGIA』

2024年910日(火)発売
TAC-0010/4,000円(税込)

Rihwa『NOSTALGIA』

LIVE INFORMATION

Rihwa ‘NOSTALGIA’ Tour 2024

2024年122日(月) 東京 IM A SHOW
2024年125日(木) 広島 Live Juke
2024年126日(金) 大阪 Music Club JANUS
2024年1213日(金) 名古屋 SPADE BOX
2024年1216日(月) 札幌 PENNY LANE24

Rihwa ‘NOSTALGIA’ Tour 2024

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