──少し遡りますが、入野さんは2025年にアーティストとして再始動しました。まずは再始動したときの気持ちを教えてください。
「歌うことは続けたいと思っていたところに、コロムビアさんが一緒にやってくださることで再始動が決まりました。多少の不安はありましたが、新しい環境ということでワクワクする気持ちもありました」
──“歌うことは続けたい”と思っていたのはどうしてだったのでしょうか?
「歌うことは子供の頃からずっとやってきたことだったので、“やめる”とか“始める”とかそういうことは考えませんでした」
──再始動したタイミングで、これからはどういう活動をしていきたいと考えていましたか?
「そこは以前と変わらないです。そのとき自分がいいと思った曲を歌う。そして、自分がいろんなアンテナを張って見てきたアートワークやライブの演出から“面白そう”と思ったものを、自分を通してアウトプットするとどうなるんだろう?というものを実現していきたいと。それを自分自身もお客さんも楽しめる空間を作りたいと思っています」
──そして、4月から5月にかけて、アーティスト活動再始動後のライブツアー『IRINO MIYU LIVE TOUR2026 “Humor is Human”』を開催しました。ツアーを行って感じたことを教えてください。
「“やっぱりライブは楽しい時間だ”と思いました。準備は大変ですけど、ライブでしか味わえないものがあると思いますし、何より僕を応援してくださっているファンの皆さんが一緒に楽しんでくれている顔を直接見られるので」
──やはりファンの皆さんの前で歌うことは、例えばレコーディングブースで歌うのとは違いますか?
「全然違います。“曲が完成するってこういうことなんだ”と感じます。演劇もそうですけど、やっぱり見てくれる人がそこにいてくれるということで、作品が完成するんです」
──先ほど、活動の中で“自分がいいと思ったライブ演出をアウトプットする”というお話もありましたが、『IRINO MIYU LIVE TOUR2026 “Humor is Human”』で特に印象的だった演出はありますか?
「照明です。ライブの映像を見ましたが、照明を綺麗に作ってくれていて。チームで何度も打ち合わせした甲斐もあり、楽曲のパワーを最大限引き出してくれる照明になっていました」
──では印象的だった楽曲は?
「『超かぐや姫!』の劇中歌「星降る海」のカバーです。まさに「旬」。今だから歌う意味があることだと思いました。そもそも自分自身のライブで、自分が出演しているアニメ楽曲のカバーをするということはやったことがなかったので。あと、何曲か新曲を披露したことです。コロムビアに移籍してからリリースされた曲が少なかったこともあって、ライブでやるために新曲を作っていたので」
──ライブでやるために新曲を作られたんですね。
「はい。ライブに合わせてミニアルバムをリリースしようとも考えたんですが、紆余曲折あってこのタイミングになりました。ライブに向けて曲作りをし、そのうち数曲を先行配信して、ツアータイトル『Humor is Human』と『HUMOR』で繋げたらどうだろう?”ということで、このミニアルバムに至ります」
──ではそのミニアルバム『HUMOR』について伺っていきます。リード曲はゴホウビ提供の「わからない」です。
「数年前に出会ったゴホウビの「ゴキゲンなLOVER」という楽曲が大好きなんです。いつか楽曲提供をお願いしたいと思っていたことが、今回実現しました」
──どのような楽曲にしてほしいとリクエストしたのでしょうか?
「“ゴホウビの新曲みたいな感じで”と、ゴホウビが持っている、底抜けの明るさやポップさ、バンド感を入れてほしいとお伝えしました」
──歌詞もお任せですか?
「歌詞についてはゴホウビのスージーさんと話をしました。今の時代って、何でも最適化されて“わからないもの”は排除されてしまっていますよね。自分の好きなものや見たいものだけが“あなたにはこれがオススメですよ”と差し出されるじゃないですか。以前はそうではなくて、わからないものも目の前に来て、それを受け取って、その上で“つまらなかった”とか“よくわからなかったけど楽しかった”とか、そういう意図しない出会いがあったと思うんですけど、今はそういう出会いがすごく減っていて…その状況に慣れてしまって“わからないものは自分に必要のないもの”となってしまうのがすごくもったいないと思うんです。わからないものにこそ、煌めきや自分を成長させるものがつまっているはずだと僕は思っています。そういう話をスージーさんとして、それをベースに曲にしてもらいました」
──ではそのディスカッションをもとにした「わからない」を最初に聴いた時はどう思いましたか?
「僕の大好きなゴホウビの好きな部分が詰まった楽曲だと思いました。スージーさんと打ち合わせのときに、“ゴホウビのこういうところが好きだ”とか“こんな楽曲にしたい”と話をしていたので、それがしっかり具現化されていました」
──念願の1曲ですが、歌ってみていかがでしたか?
「大変でした(笑)。速いしキーは高いし。慣れるまでは全然歌えなくて“ライブで歌えないかもしれない…”と思ったくらいでした」
──特に注目して聴いてほしいパートやお気に入りのフレーズがあれば教えてください。
「お気に入りは2番の<未来なんてないのに あるのは今だけなのに>です。1番のメロディとの変化がいいですよね。最初に聴いたときはドキッとしました」
──大好きなゴホウビと一緒に曲を作ってみていかがですか?
「実際に一緒に作っている時間は短かったですし、楽曲自体はお任せしたんですが、スージーさんが僕に寄り添ってくださったのがとても嬉しかったです。過去のインタビューも読み込んできてくださって、“入野さんってこういうところありますよね”と言ってくださることで自分自身にも新たな発見もあったりしましたし、僕が大事にしていることを的確に曲で表現してくれた気がします。“また一緒にやりましょう”と言ってくださったのもすごく嬉しかったです」
──まさにご褒美のようなお仕事だったんですね。
「はい。すごくいい時間でした」
──「LOVE YA TUESDAY」は入野さんが作詞を手がけた楽曲です。火曜レギュラーMCを担当していたABEMAオリジナル声優レギュラー番組『声優と夜あそび 2025』について綴っているとのことですが、『声優と夜あそび』について書こうと思ったのはどうしてですか?
「最初から『声優と夜あそび』について書こうと思っていたわけではなかったんです。久しぶりに作詞をしてみようと思ってトラックを選ばせてもらって、“この曲で書くとしたら?”と考えながら聴いていたらサビ前に<何してあそぶ>というフレーズがぴたっとハマって。そこから『声優と夜あそび』について書いてみようと思いました」
──ちなみに『声優と夜あそび』という番組は、入野さんにとってどのような時間・場所でしたか?
「他の仕事でうまくいかなかったりして溜まったストレスを全部発散する場所で…すごく楽しい時間でした。最初は頭でいろいろと考えていましたけど、一緒にMCを務めていた下野(紘)さんもすごく大きく構えていてくれたので、途中からは自由にやらせていただきました」
──その思い出を、軽やかな曲調に乗せていながらも、ただ明るくて楽しいだけではなくて、どこかちょっと強さや切なさも含んでいるのが素敵だと思いました。
「そうですね。番組っぽさをただ歌うのではなくて、どこか逆ベクトルがあるほうが面白いと思って。曲がメロウな感じなのがいいですよね」
──久しぶりの作詞とのことですが、書いてみていかがでしたか?
「『声優と夜あそび』を知っている人は番組の2人のことや見ていた時間を思い出せるし、そうではない人もいろいろなことを想像できる余白のある良い歌詞になったと思います」
──下野さんにはこの曲を聴いてもらいましたか?
「下野さん含めて番組スタッフはライブに来てくれたので、初披露に立ち会ってもらっています。ライブを観ていた番組スタッフも“まさか『声優と夜あそび』」をモチーフにした曲を作るなんて!”と喜んでくれていました」
──「こころの置き方」はJYOCHOのだいじろー(中川大二郎)さんが手がけた楽曲です。TVアニメ『神の庭付き楠木邸』ではオープニングテーマを入野さん(「驚きの子」)が、エンディングテーマをJYOCHO(「うたまひ」)が担当していました。
「はい。それをきっかけに、レーベルも同じですし、何より曲が魅力的で、すぐにファンになりました」
──それがきっかけだったんですね! どのような楽曲にするか、だいじろーさんとはお話しされたのでしょうか?
「はい。『神の庭付き楠木邸』のエンディングテーマ「うたまひ」の他にもいろいろとJYOCHOの曲を聴いて、JYOCHOの曲には“社会と自分”を感じたんです。そういうお話をだいじろーさんにさせていただきました。僕からテーマをお渡しするのか、お任せするのか、どちらがいいかを聞いたら“任せてください”ということだったので、内容はお任せしました」
──お任せして出来上がった曲を受け取ったときはどう感じましたか?
「“また難しい曲が来たな…”と思いました。事前に“変拍子でもいいですか?”って確認されたんですけど、“そこも自由に作ってください”とお願いしたら…すごい曲が上がってきました(笑)」
──その他、『HUMOR』収録曲で、印象的な楽曲やお気に入りの曲があれば教えてください。
「10年くらいに前に佐伯youthKくんのデモ曲をたくさん聴かせてもらったことがあって、その中に今回収録している「ネコジタ」があったんですよ。佐伯くんが“これは自由に合うんじゃない?”と言ってくれたので、“じゃあもらうね”なんて言ったままずっと放置していたんですが(笑)、5年前の35歳のバースデーイベントでワンコーラスだけ歌うことになって。そこからずっとワンコーラスだけある状態だったので、今回ようやくフルで出来上がって収録出来ました」
──フルで改めて作ったということですか?
「そうです。だから聴いてくださる方がどう感じるかはわからないですが、僕としては前半部分は若い頃の感性が入っていて、後半部分はまた全然違う感性が入っている感じがしています。当初、Bメロの<君が作ったコーヒーは>のあたりは、最初はもっとシンプルでした。でも、“ちょっと変化が欲しいよね”という話をしたり、最後の<あぁ じっとコーヒーを、冷ました>のあとに環境音を入れてもらって、環境音で始まって環境音で終わったらどうなるか?を試したりして。佐伯くんとはやりとりを細かくできる仲なので、いろいろと試しながらフルが完成しました」
──そんな多彩な楽曲が収録されたミニアルバム『HUMOR』ですが、出来上がってみていかがですか?
「完成したミニアルバムが皆さんのもとに届くのが楽しみです。リリースされるのは夏の終わりですが、まだまだ暑いと思うので暑い中で聴くにはぴったりな曲もありますし、いろんな状況に合う曲があると思います。「ネコジタ」はずっと応援してくださっていた人たちにとっては待望の音源化だと思いますし、「こころの置き方」とかはどういうふうに届くんだろう?…ワクワクします。いつも、どう届くのか楽しみなんです」

──それこそ届いた反応を直接受けることもできそうなイベント『入野自由 納涼祭2026』が、『HUMOR』リリース後に控えています。どのようなイベントになりそうですか?
「これから打ち合わせなのでまだわからないですが(※取材は7月中旬に実施)、歌は歌います。あとは当日のお楽しみということで!」
──ではミニアルバム『HUMOR』のタイトルにちなんで、入野さんが“この人ユーモアがあるな”と感じる人や、最近感じたユーモアを教えてください。
「ユーモアがある人と訊かれたら、最初に浮かぶのは浅野和之さん。役者としても人間性も、とても魅力的な先輩です。ユーモアたっぷりな会話が楽しくて、いつまでも話していたくなるんです」
──舞台での共演が多いと思いますが、浅野さんとはどういった会話をされるんですか?
「ずっと適当な会話をしています(笑)。この間は楽屋がそれぞれ1人1部屋だったんですが、部屋に浅野さんがいないときはメイクさんや衣装さんが必ず僕の楽屋に探しに来ていました。若輩者の僕にもフラットでいてくれるところも大好きです」
──では最後に。「わからない」に<わからないから ワクワクするんだ>、<わからないから ときめけるんだ>という歌詞がありますが、最近入野さんがときめいたものや出来事を教えてください。
「この間ひさしぶりにフットサルをやったんですが、なでしこジャパンの方々とご一緒したんです。カッコよくてときめきました」
──すごい! それはときめきますね。
「はい、プロの技術にもときめきました。ただ…僕は“あんなに走ったのは何年ぶり!?”というくらいぜいぜい走って気を失うかと思いました(笑)」
(おわり)
取材・文/小林千絵






