──前作「何者」のリリース以降はどういう時期を過ごしてらっしゃっいましたか? 制作とか?
片桐「そうですね…制作ばかりしていた気がします」
ヤスカワアル「制作していたんですけど別にレコーディングするとかはなかったので、デモもちゃんと作ったのは1曲2曲くらいかな? 弾き語りのデモは何曲か作っていたんですけど、バンドでやったのが1曲くらいで、レコーディングもしなかった状態でした」
──具体的なリリースの予定は「KAZE」からですか?
片桐「“「KAZE」と次、何かリリースしたいね”という感じで進んでいました。と言うのも、音楽性的にリリースしていく楽曲にどれだけ意味が持たれてしまうのか?を気にしていたところだったので。リリースするからには意味のあるもの、“今だからこの曲をリリースする”みたいなものがないと…。「何者」もそういうことを考えてのリリースで、気づいたら長いこと寝静まっていたようになっていました(笑)」

──“意味を持たれてしまう”ということでは、「KAZE」がレジェンドジョッキー・武豊騎手の現役40年を記念して制作されたアニメーション、武豊デビュー40年記念ムービー『The Derby Dream Goes On~鳴りやまないダービーの夢』のために書き下ろされた楽曲であることに驚きました。どういう形でオファーが届いたのですか?
片桐「40年記念ムービーを作ることになり、テーマ曲を書いてほしいというお話でした。“1曲の中で武豊騎手が日本ダービーを制した6頭の名馬の軌跡を巡ろう”となって…。“武豊さんとダービー馬の絆の曲を書いてほしい”というお話をいただいて、それはもう“ぜひ!”でした。武豊さんはレジェンドとして、競馬界にあまり触れていなくても知っていたので、即答です」
──意外なオファーではなかったのですか?
片桐「そうですね。びっくりでした!」
ヤスカワ「同じ京都出身というのもあったので驚きました」
──映像はどれくらいの段階のものを見ながら作っていたのでしょうか?
片桐「ゼロです(笑)。“6頭のダービー馬と武豊さんの話をミュージックビデオにします。日本ダービーで勝った順番で実際の映像も入るので、曲中に可能であればそのダービー馬を思わせるようなワードを入れてほしい”という要望はいただいて、“全体的には疾走感のある楽曲をお願いします”という風にオーダーをいただきました。そしてその参考例として「夢の続き」(結成初期の2017年リリース)を挙げてくださっていました」
──どの馬のことをどこで歌詞にしているかは聴く人に想像してもらうのが楽しいと思いますが、競馬を考えた時に馬も騎手も主人公ではあって…どんなイメージから制作したのでしょうか?
ヤスカワ「直近でドラマ『ザ・ロイヤルファミリー』が放送されていたので、レース以外の厩舎の雰囲気だったりレースに臨む裏方のスタッフの方とかは、このドラマづてに分かったりしました。逆にこのドラマを見ていなかったらその辺はあまり分かってなかったかもしれないです」
片桐「“疾走感はあるべきだろう”とは最初に思っていました。でも、私たちにはあまりBPMの速い曲が多いわけではないですし、しかも最近作っていなかったので、それは少し難しかったところではありました」
ヤスカワ「「クロール」とかやっていると言えばやっているんですけど、今回は5分という尺のオーダーがあって、その長さでBPM180で作っていくのはすごく難しかったです」
片桐「ミュージックビデオの映像は長い方がいろんなことに触れられるから、5分という尺にしたんだと思います。でも、最近の楽曲って短いですし、私たちも短くしていっていて、しかもBPMも速いので…」
ヤスカワ「その中に6頭のダービー馬のイメージを入れるとなると…歌詞を書くの超大変そうでした」
片桐「でも最初に頭サビがあって間奏を挟んで一番に入るという流れは、Hakubiの曲で以前からやっていたりしますし、この<信じてるよ>というDメロを大サビのようにする手法もやってきていたので、あまりHakubiからずれていないというか…この5分をうまく使えたと思います」

──ちなみに競馬はテレビとかで見るなり親しみはありましたか?
ヤスカワ「そうですね。僕は車とかバイクとか速さを競う系のコンテンツが大好きなので。それってある種、機械の面白さなんですけど、競馬は人馬一体となって機械ではない感情の部分で人の気持ちが揺さぶられているんだというのはすごく思って、1回ハマってしまうとのめり込んでしまうんだろうとは思います。馬も可愛いじゃないですか。人の気持ちとかを理解していると思いますし、ジョッキーとのストーリーもあって、馬のストーリーもあって。名馬の血を引いた馬たちが走っていたりと、代々継承されていくものもあったりして、他の競い合うレースにはない感情にさせられるのは競馬だけだとは思いました」
──片桐さんは競馬に接点はありましたか?
片桐「自分自身は接点はなかったですけど、家族がディープインパクトに熱狂していたのですごく覚えていました。そういうのはあったりしたんですけど、今回、ちゃんと初めて触れました。武豊さんの歴史を巡る曲なので、これは絶対に知らないと駄目だと思って武さんについてすごく調べていたんです。もちろん通算4600勝はすごいですし、それを40年間やっているのもすごかったんですけど、さらに武さんの言葉が良くて! 「KAZE」の歌詞にもところどころ入っているんですけど、名言集として残っていたりインタビューで話していることがポジティブですごく強いんです。私はとてもネガティブでどんどん物事を悪い方向、悪い方向に考えてしまうタイプですけど、真逆の人でした。うまくいっていないときも“跳ねのけるのはもう勝つしかないので”と言えるのもすごくカッコよくて、そういうところで動かされたことで、この曲を強い曲に進ませてもらえました。結局、それは私たちの曲になっていくわけですし。武さんの40年間の重みを受け取れてよかったと思いました」
──“雑音を消す方法はたった一つ、レースで勝つしかない”という武さんの言葉に共感したと資料にもあります。それって、ステージパフォーマーにも近いところはあるのではないでしょうか?
片桐「この“雑音”というのは武さんにとってはいろんな人からのネガティブな声だったりするのかもしれないですけど、私にとっては自分の中の不安や迷いでした。それを消してくれるのは"いい歌を歌えた" "いい曲が書けた"という実感で。ライブの時は"今ここでいい歌を歌うしかない"、制作時は"今いい曲を書くしかない"と自分自身との戦いをしていて。武さんとはやることや戦う場所は違いますけど、"結果で雑音を消していく"という感覚は重なる部分があって、武さんの言葉を自分のものとして受け取れた感じがしました」
──踏み出す勇気とかも?
片桐「そうですね。一緒に音を鳴らしているバンドの一体感と、馬とジョッキーの方の一体感はとても近しいと思っていて。一気に“ドン!”って出た時の“それ!”みたいな感じが、多分、レースでスタートした時の一歩目だったり、ここから追い抜いていくぞ!という息の合うタイミングだったりするのかもしれないと思っています。だからこそのこのDメロができたと思いますし、つながっていった感覚はありました」
──武さんに「KAZE」の感想はもらったりしましたか?
片桐「完成試写会で私たちも登壇させていただいて、“こういう気持ちで書きました”というお話をさせていただいた時に、武さんも一緒にアニメーションPVを見ていただきました。“感動しました。曲も疾走感があって今までのことを思い出しました”と言ってくださって…でも、歌詞をどれだけ拾えて聴いていただけたかは分からなかったりするので、ぜひ一言一句をもう1回、聴いてほしいです(笑)」
──新しいタイプの書き下ろしだと思いますが、Hakubiにとってどういう経験になりましたか?
片桐「追い風になりそうな曲ですね」
ヤスカワ「追い風にはなりそう。超レジェンドすぎて、僕たちなんて足元にも及ばないくらいすごい方なので自信にはなるかもしれないですね、これからどうして行くのか?という意味でも」
片桐「私、この2年間くらいはこういうBPMが速くてキャッチーな感じの楽曲を避けていました。「夢の続き」でみんなに知ってもらう機会が最初の頃にあって、“でも、これじゃない”みたいな“もっと暗い部分を曲にしたいんだ”という気持ちがすごくあったので、こういう楽曲は作ってはいたんですけど“世に出したくない”と思うことが多くて。「KAZE」のデモを出すのも、“これで本当にいいのかな?"という不安がすごく大きかったです。この一年半くらい、よりオルタナティブな音像を目指したり、以前より大人らしくを意識したり、ずっとやってきていたので、ちゃんとHakubiの曲になりましたし、改めてBPMが速くて、自分の青さが出てしまっている曲もいいかもと今だから思えます。サポートメンバーの秋好さんとホリエさんがさらに曲を良くしてくれたというのも、さらなる自信になりました。一人で作った曲が、スタジオで合わせてドンでバンドの曲になっていく感じを、久しぶりに感じました。“いいじゃん。何でも出来るやん”みたいな気持ちにさせてくれたのはこの曲のおかげかだと思ったので、“真っ暗じゃないとHakubiじゃない!”というような気持ちはなくなったので、自分のために良かったと思います」
──現体制になってからの『27』以降、徐々に作品が世に出ていっていますよね。今もいろいろ試行している最中ではあると思いますが、二人体制の軸が出来てきた実感はあるんじゃないですか?
片桐「そうですね。現在の2人体制になって変な話、選べるようになったというか…曲によって“この人と一緒にやりたい”みたいな、作品性によって、“こういう風にして欲しいからこの人がいい”というふうに選んでいくことによって曲をさらに良くできますし、ビジョンに合ったものができるというのをすごく感じているので、それはいいところだとは思います」
ヤスカワ「今、思い出したんですけど、最初に“「何者」からの空白期間をどうしていたのか?”という話がありましたよね? その時、Hakubiにドラマーを入れようとしていたんです」
──「何者」インタビューの時に“もっとバンドになりたい”と話していたのは具体的なことでもあったんですね。
ヤスカワ「ドラマーを正式に入れてみようとして、何人かとスタジオに入ってみたり、それこそライブを一緒にしてみたりと、動いてはいました。ただあまりそれがうまくいかなかったので、今回の「KAZE」の編成に至ったというのも経緯としてはありました」
──バンドアレンジもしているギタリストの秋好佑紀さん(yeti let you notice、えんどあ。、キタニタツヤのサポートなど)とドラマーのホリエマム(yonige、syudouのサポートなど)さんの編成ですね。
ヤスカワ「でもその時期はドラマーを加入させることにかなり夢中でした。でも、結果的にはうまくいかなくて、改めて2人の方がやりやすいことに気づきました。そこからこの「KAZE」の制作に入った感じです」
──そういう時期があったんですね。因みに今年もHakubi主催の『京都藝劇』が開催されます。ラインナップもかなり決まってきましたね。
片桐「そうですね。昔からの仲間がみんな集まってくれました」
ヤスカワ「2日目はサーキット形式なのですが、初日は京都MUSEでワンマンもするので、それにも来て欲しいです。今、京都はホテル代がすごく安くなっているので泊まりで京都へ来て欲しいですね。そこから後のことを考えるのは8月が終わってからですね」
片桐「10周年イヤーに向けて、ね」
──ライブもですが、EPやアルバムを制作して、リリースしたりする予定は?
片桐「来年がHakubiを結成して10年になるので、そのタイミングにはなにかリリースしたいです。アルバム…EPとかはリリースしたいと思っていたりします。この「KAZE」もCDになっていないので」
ヤスカワ「「何者」もCDに入っていないし」
──「何者」も「KAZE」も収録されるEPとなると、枠としては大きいイメージになりますね。
ヤスカワ「共存できるのかな?」
片桐「2人で話をしていたんですけど、Hakubiのアルバムっていろんな私たちを見て欲しいから、暗い部分、明るい部分とか速い曲、遅い曲を詰め込みすぎて、“この曲は好きだけど、この曲は違う”みたいな感じになりがちというか…。一つのコンセプティブなものをリリースしていないので、“それってどうだったんだろう?”という話をしていて」
ヤスカワ「逆もしかり」
片桐「どっちもあるよね。「KAZE」と「何者」を収録したら、どうなるんだろう(笑)」
ヤスカワ「クッションの役目をする曲が3曲くらいないと…って言うか、EPの梱包材として仕事をしてくれる曲という考え方にどうしてもなるのが“どうなんだろう?”とも思ってしまうし」
──なるほど…。
ヤスカワ「デモはたくさんあるんです。だから「KAZE」が評価されるのであれば「KAZE」みたいな曲を書いても良いし、リリースする度に“どういう反応があるんだろう?”とか自分たちの今のテンションで曲は左右されるので」
片桐「ありがたいです、客観的な視点のアル君がいて、私は感情観点というか。どちらかにちゃんと振れるのがありがたいことかもしれないです」
──10周年がいいきっかけになりそうですね。いい風が吹くでしょうし。
片桐「はい。ちゃんと風に乗って頑張ります(笑)」
(おわり)
取材・文/石角友香
写真/中田智章











