──がらりさんは、小さい頃にピアノを習っていたり、高校生の時は軽音部に入っていて、その後は普通に大学に進学し、就職されたのですか?

「その通りです」

──その頃はアーティストを目指そうとは考えていなかったのでしょうか?

「大学の頃にジャズをやっていて音楽の経験のようなものは蓄積はしていて、多少の憧れとか“カッコいいな”というのはありました。でも、“じゃあ、音楽で食べて行こう”とまでは踏ん切りがついていなくて。そこまでアーティスト志望というタイプではなく、純粋にリスナーやプレイヤーとして楽しんでいたので、その頃はパフォーマーとしてとか“自分のコンテンツを売り出していこう”という気持ちはまだ抱いていませんでした」

──では、何がきっかけでアーティストを目指し始めたんですか?

「コロナ禍の頃、何回かの転職を繰り返して上京していたんですけど、家にいることが増えて時間ができたんです。システムエンジニア歴が何年か経って少し迷いが出たことと、時間ができてTikTokとかを見ているといろんな人が曲を上げていて…。“こういう曲調、こういう歌詞、こういう歌い方だったら、この市場に飛び込んでいけそうな気がする”、 “この感じは自分でもできるかも”、そんな肌感覚的なものがあって挑戦してみました」

──曲作りはその頃から?

「元をたどれば高校時代の軽音楽部の時にもオリジナル曲を少し作ってみたりとか、合唱コンクールの曲をなぜかうちの高校はクラスで自作する慣例があって、高2の時にその曲を作る係になったりとか。ちょくちょく歌モノを作る機会がなぜかありました。なので、種となる基本的な素養は多分、その頃から持っていたと思います」

──ちなみに合唱曲は評価や審査はあったりしたのですか?

「評価ありました。でも、全然評価されませんでした。“どう考えてもいい曲だったのにどうしてなんだろう?”というその時の悔しさはバネになってるかもしれないです」

──アーティスト活動を始めるまでにいろんな経験が堆積していたんですね。

「そうですね。そもそもなんですけど、辿っていくと中学生の頃から音楽を聴いた瞬間に…これはピアノを習っている人あるあるかもしれないですけど、メロディラインをピアノでなぞったりとか、初めて聴いた曲でも“こういう系のメロディだ”というのをなんとなく頭の中で解析していました。“Aメロがこう来たんだったらBメロがこう行くべきで、サビはこう行くべきだろう”みたいなイメージが曲を聴いてる時に出てくるタイプなんです。あるべき展開感のようなものを解析するちょっと意地悪な聴き方をしていたんです。そういう経験を幼い頃から経てきてたからこそ、“自分だったらこうする”というのができるようになったのかもしれないです」

──歌詞を聴くよりもアレンジ聴いちゃう人もいますね。

「僕、楽曲を総体的に聴く方で…歌詞も含めての楽曲はプレゼンテーションだと思っています。言葉の持つ印象ってあるじゃないですか。カタカナだったらカタカナの、和語だったら和語の世界観があって。その使い分けとか、“サビでドン!ってくる言葉がこれなのか”、“語尾で字余りするんだ”とか、“語尾だけこのモチーフなのか?”、そういうのに対してフラストレーションを覚えたりもしていて。なので、楽曲を聴く時はアレンジも歌詞もすべての音楽を構成している要素が描こうとしている対象に対して、全部が誠実なものであって欲しいという気持ちはあります」

──1stアルバム『手のひらの望遠鏡』は、とても若い人が作っているような現実に対する違和感やヒリヒリした表現もあって、一人で作り込んでいる印象だったので“1年ちょっとでこんなところまで来るんだ”と正直、思いました。

「それはつまり、『コントラスト』の世界で描いているものがより成熟していたり、もっと鬱屈したものが冒頭にきていたりとか、そういう印象ですか?」

──それもですし、実際の音像もそうですね。

「なるほど、なるほど」

──しかもタイアップのついた先行配信曲も多い中でアルバムとして成立させています。そこは難しかったのではないでしょうか?

「難しかったですね。順を追って話すと『手のひらの望遠鏡』は1曲目の「さよならは真夜中に」からラストの「パーティーチューン」まで感情として山の稜線を見て行くような、曲線を描いていくような構成のアルバムでした。夜中の孤独がだんだん昇華されていくような雰囲気に最終的にまとめて。で、今年最初の活動の「ガラスの靴」を書いた時点で“次のアルバムはもっと白と黒の対比、明暗の対比が感じられるような曲が交互に来ても面白いよな”というイメージがあって。アルバムの真ん中あたりに「ガラスの靴」とか「透きとおる夏」のような黒が白になっていくような…ピュアリファイと言えばいいのかな? “心の中のもやもやが晴れて行きますよ”みたいなタイプの曲を持って行きつつ、アルバム全体でその明暗のコントラストを描くようなイメージをタイアップ曲も含めて意識しながら制作を進めました」

──アルバム『コントラスト』の収録曲で言うと最初のタイアップシングルは「ステラ」ですね。新社会人の方に向けたWeb CMというそれまでのがらりさんとは違うトーンでした。

「そうですね。この曲はタイアップがなかったら生まれなかった“こんな曲を僕が歌えるなんて”と思える曲、歌詞です。入社式でCMの映像とともに流してくださったらしくて、“いつもずっとそばにいてあげよる”というメッセージがずっと続いていけばいいな…そんな気持ちです」

──元システムエンジニアのがらりさんの体験ベースなのかと思ったのですが、いかがですか?

「もう大いに。“僕が新社会人だった頃に欲しかった言葉は絶対これ”みたいな気持ちはあります。こういうふうに言われたら共感できますし、頑張れそうな気がします。そういうタイプの言葉を大いに詰め込んでいます」

──ドラマ『AKIBA LOST』の主題歌に「Answer Me」、コンセプトソングに「正体不明のLADY」が起用されています。

「実を言うと主題歌という枠、コンセプトソングという言い方は後から決まったんです。僕の作り方で言うと、「正体不明のLADY」はドラマのごくワンシーンに対してフォーカスしたというか…最初の台本の引きが強かったところとかで“ここに流れたら絶対にカッコいいはず”と想定した作り方をして。「Answer Me」はドラマの世界観全体を見て俯瞰するようなタイプの曲として作りました」

──そして今回のアルバムの特徴はプレイヤーの生演奏が増えたことかと思うのですが。

「前作より増えました。「うつろ」はジャズをやってらっしゃる方、そして非常に器用なプレイヤーの方々に弾いて叩いてもらいました」

──どういう意図で増やしたのでしょうか?

「やっぱり自分のデモだけでは表現しきれない…打ち込みの音楽とか自分のプレイ、録音だけではどうにもならない、ミックスでも掬いきれなさそうなところに対してプロの手を借りたくて。その人の手が入ることプラス、スタジオで録るとなるとエンジニアさんが同席してくださいますので、録音する現場でいい具合に意見を出し合いながらディレクションしていけるところがいいので。僕がジャズ出身だからというのもあると思うんですけど、生々しさや勢いみたいなところはDAW上で生み出せないですし、偶然のパワフルさを求めた時はやっぱり生演奏が必要になってくると思います」

──プレイヤーに渡すのはデモ音源だけですか? 楽譜も?

「両方を渡します。例えば「うつろ」の時は僕が編曲したものをお渡ししつつ、コード譜をお渡ししました。加えて“ピアノをこういう感じにして欲しい”、“ベースはこんな感じがいい”、“ドラムソロが実はあるんですけどデモよりもっと荒々しくして欲しいです”というリクエストとともにお渡ししました」

──デビュー当時とは音像の完成度もリッチ感も全然違いますね。

「ありがとうございます」

──特に1曲目が「うつろ」であることが大きいような気がします。

「かなりクリエイティブな方向を作れて“攻めれた”と思っています。まずジャズワルツのような曲って今、歌もの界ではないですよね。しかも、ジャズワルツっていうだけではなくて構成としてもちゃんと新しくて。この曲は途中で五拍子になったり、歌詞がないゾーンでもメロディとしての押しがあったり、最終的にビートが失われて叫びのようなもので曲が終わる…こういうのはあまり思いつかないと思うんです」

──確かにポップスとしては珍しいですね。

「この曲で表現しようとしてるアイデンティティの喪失や心が崩れていくような感覚、そういうものを表現することに対して、この構成やアレンジは絶対に寄与する効果的なものなんですけど、“画材”としてあまり人が認識してなさそうだというところにグッと当てはめれて。アルバム収録曲の14曲の中でも最もパワフルかつ必然性もあって1曲目に持ってこれた気はしています」

──“描こうとする対象に誠実に作る”ということの意味が分かりました。この曲は舞台のプロローグのような感じがします。

「ありがとうございます。まさしく『コントラスト』の世界の幕開けというイメージで作っています」

──だから既発曲があるのに不思議とつながるんですね。

「実はそこを一番言いたくて。前作『手のひらの望遠鏡』も意識はしていたんです。終わった曲のコードに対して気持ちいいコードで次の曲がうまく始まるところに気は使っていました。今回の『コントラスト』は全部の曲の曲間13パターンがすごくいい感じになったと思っていて。「うつろ」から「逃避行」では「うつろ」の最後のピアノのリフの音が呼んでるコードから「逃避行」が始まったり、「逃避行」の終わりのコードから「Answer Me」が始まったり、「Answer Me」の終わりのコードと「Question」のコードの始まりが両方Fマイナーで。そういうところを計算しているので、曲そのものはそれぞれ上下があって明滅明暗が繰り返されながら、でも横軸という全体の流れで見た時に正当な進化を遂げるものでもあるというところを意識しています」

──アルバム先行曲の「Question」はアレンジとサウンドプロデュースがA.G.Oさんです。A.G.Oさんが手がけた作品で、どういう方の作品が好きだとかはありましたか?

「やっぱりAyumu Imazuさんの作品かな…でも特定の方というより、最近の音像のようなものに対してすごく寄与してらっしゃる方だからですね。あと、コミュニケーションをすごく取りやすそうな雰囲気があってそこが魅力的でした」

──歌詞に関しては、どういうことを書きたかったのでしょうか?

「曖昧さというか…人間関係のすれ違いですね。僕は、どの曲を作るときも割と“こういうシーン”みたいなイメージがあるんですけど、「Question」はこじれた男女のすれ違いを女性目線で“私たちの関係って今、大丈夫なのかな?”という、そこに向かっていく曲にしたくて。でも、このテーマはいろんな人が切り取りがちで、ある界隈ではそれをショッキングな方向でプレゼンテーションなさるので、“その話をするのならもっと繊細に行くべきじゃないのか?”と思っているので、僕なりにもう少し上品な切り口でそれを表現したかったんです。なので僕なりに書く場合はこういう方向になりました」

──単にヒロインが悲劇に浸るとかだけだと、ちょっと…ということですね。

「“それでいいのか?”という気もあるので。“ちょっと何かを生み出せたらいいな“ってところです」

──そしてアルバムが進んでいくとだんだんと明度が変わってくるというか…「透きとおる夏」で季節も変わりますし、「透きとおる夏」の後に「遠い空には」があるのも青春感が際立ちますね。

「この流れは「さあ乾杯!」までで一旦途切れる感じはあります。いい感じの第一部が完。そこに向けての「透きとおる夏」、「遠い空には」です。そのあと、「ZEROの時間旅行」で巻き戻すような音が入って、“待てよ、これでよかったのか人生”みたいな流れになります。「ZEROの時間旅行」は少し難しい話をしていて“曖昧さを許して欲しい”という言い方をすればいいのかな…世の中はどんどんデジタル化していて、イエスかノーか、01か、白か黒かで判断していっていて、これはきっとインド人があの日に0(ZERO)という概念を発明したからかな?という僕の思考実験が入っています。じゃあそれをない状態に戻してよ、ない状態というのは0(ZERO)に戻してよ、0(ZERO)という言葉ができてしまったから“0(ZERO)に戻す”としか言えない。そういうアイロニックな最後の一行で曲は終わるんですけど、1曲目から10曲目の流れに対して“本当にこれで良かったのか?”と立ち返って考え直すような役割を背負わせています」

──そういう0(ZERO)だったんですね。

「ま、どう受け取られてもいいっちゃいいですが、数学上の発見というだけではなくて、本来そこにあったものがない状態を“0である”ということを発見したと捉えています。こういう考え方は、例えば量子力学の“シュレーディンガーの猫”じゃないですけど、哲学的な存在・非存在というものを完全に二分化したことによって失われたものに対して、“もっといい表現がなかったかな?”という言い方をしている曲です。かなり難しいと思います」

──“曖昧さを許容して欲しい”というテーマの裏にそんな仕掛けがあったとは…。音楽的にはボッサソウルなテイストですね。

「僕の中ではこの曲はネオソウル、エリカ・バドゥのつもりで作りました。3コードがループしていく構成になっています」

──シンプルな構成なのもテーマとリンクしますね。

──アルバム『コントラスト』が完成したことでこれまでと全く違う手応えがあると思いますが、どうですか?

「そうですね。『手のひらの望遠鏡』の時は作詞作曲する時に言葉とメロディが同時に生まれてきたものを割と採用していて、それに対して今回は詞先で書いた曲もあれば、曲先で書いたのもありますし、同時に書いた曲もあれば、サウンド感的に組み立ててから言葉としてどうするか?という考え方をした曲もあって…要はすごく幅広くいろんな作り方をした曲がまとまっています。あと、エンジニアさんも増えて、色んなプレイヤーさんにも入ってもらえて、いろんなタイアップとの兼ね合いもまとめることができたことは、ある意味自分の器用さ…器用さという言い方はおこがましいかもしれないですけど、“まとめあげることができた”という自信になりました。ある程度意識していた“コントラスト”というコンセプトに対して寄り添いながらまとめあげられたのはとてもいいことだと思います」

──ちなみにライブはやりたいですか?

「ライブ、やりたいです」

──やるとしたらどんな形態になるでしょうか?

「しっかりと生演奏をしたいです。打ち込みの曲も多いですけど、どの曲もはっきりしたメロディラインとコード感がありますし、そこを活かせる構成で少な目の楽器隊でもいい感じに表現できてしまう曲だと思うので、ライブをやるなら器用なプレイヤーと一緒にやりたいです」

──いつかライブを拝見できることを楽しみにしていますね。

(おわり)

取材・文/石角友香

RELEASE INFROMATION

がらり『コントラスト』

2026年116日(金)配信

がらり『コントラスト』

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