──10月10日に配信リリースされた武藤さんのニューシングル「あなたがくれた今日の日」は、川嶋さんが書き下ろしたバラードナンバーです。川嶋さんから武藤さんへの楽曲提供は2022年4月リリースの『IMAGE BOARD』に収録された「holic」以来になりますが、あらためて2人の出会いを教えてください。
武藤彩未「まず私は、小学6年生からファンでした。お父さんがラジオであいさんを知って、CDを買ってきて、いつも家族に聴かせてくれていたんです。それをきっかけに好きになって、今でも毎年ライブに行かせていただいて、ずっと応援させてもらっています。だから、こうして楽曲を書き下ろしてもらっていることは、お父さんからしたらもう、"何が起こったんだ?"という感じじゃないかなって(笑)。でも、めちゃくちゃ喜んでるし、私的には親孝行できたのかな」
川嶋あい「彩未ちゃんに初めて会ったのは、今から5年前ぐらい前。新しいアーティストの方がうちのレコード会社に所属してくださるということで、事務所で初対面しました。その初対面の前に、彩未ちゃんがライブで「ガラスの心」という私の曲をカバーしてくれていたことをスタッフから聞いていて、びっくりしていたんです。「ガラスの心」は、私が10代のときにストリートライブをしていた時代に歌っていた、すごくマニアックな曲なので」
武藤「あいさんの代表曲はほかにもたくさんあるんですけど、「ガラスの心」が好きすぎるあまり、勝手に歌わせていただきました(笑)」
川嶋「「ガラスの心」はかなりダークな曲なので、それをこんなに凛としたかわいい女の子が(笑)。だから、会う前からすごく興味が湧いて。で、お会いしたら“本当に強い女性”という印象でした。小さい頃から芸能活動をして、この世界で力強く生きている女の子なんだなって、それは出会ったときからずっと感じていますね」
武藤「私は、初めましてのときに"ずっとファンで聴いています!"とお伝えしました。ウザがられたとしても、それは隠せない事実なので、だったらもうアピールしようと(笑)」
──そこから始まった2人の関係ですが、お互いの音楽活動についてはどんな印象を抱いていますか?
武藤「あいさんの曲はとにかくまっすぐで、本当に歌詞がすごく刺さるんですよね。尾崎豊さんの影響を受けたと記事で読んだことがあるんですけど、私のお父さんも尾崎豊さんの大ファンで、そこからあいさんにたどり着いているので、通じるものがあるんだと思います。そんな歌詞と温かいメロディに、私はたくさん励まされてきました」
川嶋「進化が止まらない歌い手であり、自分がやりたいこと、届けたい音楽について明確な意志を持って、それを魂込めて体現して伝えられるアーティストさんだと感じています。すごく華奢な女の子なのに、ライブでステージに立っている姿を見ると、圧倒的なパワー、エネルギーを感じさせるのもすごいです」
武藤「いやもう、必死にやってるだけですよ。本当は、あいさんの曲を聴きながらシクシク泣いたり、励まされたり」
川嶋「そういう姿も絶対あるんだと思うけど、それを見せないし、だから強いなって」
武藤「うれしいです。あいさんに、そう言ってもらえて」
──今回の「あなたがくれた今日の日」については、どんなアプローチで完成に至ったのでしょうか?
武藤「12月10日にリリースされるソロ10周年記念アルバム『Memorial HOTEL』にも収録される楽曲なので、私が1人で10年歌い続けてきた中で絶対に欠かせない方を考えたときに、"川嶋あいさんだ!"と思ってオファーさせていただきました」
川嶋「本当にありがたいです。10周年という大切な節目で楽曲提供のお声がけをしていただいて、これはもう何としても神曲を書きたいと思いました」
武藤「本当にその通りになりました!」
川嶋「マジで本当に神曲です!自分の曲以上に(笑)」
武藤「あいさんの曲は神曲がありすぎるんですけど、「あなたがくれた今日の日」は歌わせていただいた自分としても超自信作というか、関係者の方に聴いていただいたときの反応からもそう思えるんです。みなさん、めっちゃいい!って言ってくださって、そういうときにお世辞じゃないってわかるんですよ。本当に心の底から感動してくださっているなって感じて、私的には大きな手応えがあります」
川嶋「まず、彩未ちゃんから“バラードで両思いのラブソング”というオーダーがあって。そこから彩未ちゃんの歌声を連想しながらメロディを書いて行ったんですけど、今の時代に合わせて構成をすっきりさせたんですよね。だいたいワンコーラス歌って、そこからツーコーラスってやりたくなるんですけど、今回はワンコーラスで終わって大サビに飛んでいって、最後に転調する。そうすることで熱く盛り上がって聴いてもらうバラードを書いたら、彩未ちゃんのバラード曲の中でも新境地になり得るんじゃないかなと思って」
武藤「私にとって新しい挑戦で、歌ってみてすごくいいなって思いました。シンプルだけどすごく濃くて、最後に転調があったりと盛りだくさんの展開なんですけど、何回も繰り返し聴ける軽やかさもあると思います」
──ラブソングの歌詞という部分では、どんなアプローチをされたんでしょうか?
川嶋「前回の「holic」は同じラブソングでも、ストレートなキュンキュン系の片思いラブソングだったんですけど、今回は日常に近い感情を切り取って描きたいなと思って、ちょっと大人な世界観になっています。だから、割とこう年月を重ねた2人の中で生まれる、女性側の感情ですよね。毎日毎日訪れる日が実は奇跡であり、それが自分の幸せや喜びにつながっているんじゃないかということを自覚する、そういう女の子の歌。彩未ちゃんも20代後半になって、私自身もいろんな恋愛模様、恋愛風景を書いてきて、自分でも経験してきた中で、ただ恋するとか好きとか、付き合ってハッピーとか、そこで終わりじゃない。その延長線上にいろんな葛藤があって、それをお互いに調整しながら、どう一緒に生きていくかということになっていく。今20代後半で、これから30代になって、もしかしたら家庭を持つかもしれないですし、そういう分かれ道に差し掛かっていくような、またここからお互いに1歩踏み出していけそうな、そんな歌詞の世界観にはなっていると思います」
武藤「正直、この曲で訪れる毎日が奇跡で、それが自分の幸せや喜びだということを学びました。私もこの曲の歌詞のように思えるようになりたいし、未来はこうでありたいという理想像ができたなと思います。毎日が奇跡なんだって思ったことはあんまりなかったんですけど、そう思えたらみんな幸せだな、すごくいいことだなと思えて、そうありたいという思いを込めながら歌えたと思います。なので、みなさんもこの曲を聴いて、"毎日は奇跡なんだな"って思ってもらえたら」
川嶋「恋愛関係が続いていくと、絶対にこういう感情って必要になってくるのかなって思いますね」
武藤「私は、年代関係なく老若男女みんな聴いてほしい楽曲になったなと思います。歌詞もそうですし、メロディにはまっすぐなあいさんらしい魅力があるし、本当に何回も繰り返し聴けるアレンジになっているので、たくさん聴いてほしいです」
川嶋「武藤彩未のアーティスト性、人間性にも通ずるような芯の強い女性を描いてはいるんですけど、楽曲の全体的な世界観としてはすごくあったかいですね。心温まるラブバラードだなって思います。自分の大好きな人、大切な人を連想しながら、恋する過程でぜひお守りのように持っていてもらいたい。そんな1曲だなと思います」
武藤「お守りのようにって、素敵ですね」
川嶋「お守りのように、そっと忍ばせて(笑)」
──せっかくの機会なので、少しプライベートでの関係も聞かせていただけますか?
武藤「2人だけでご飯とか、意外とないんですよね。あいさんのお誕生日会で、スタッフのみなさんとかも一緒にご飯とかはあるんですけど。だから、プライベートのあいさんはあんまり知らなくて。あ、マラソンが好きっていうのは知ってます!」
川嶋「彩未ちゃんは走ったりはしない?」
武藤「高校のとき、ライブに向けた体力作りのために走ってました。行き帰りの通学路を走っていたので、ローファーを履いてたんですけど(笑)」
川嶋「行き帰りにローファーを履いて走ってた?」
武藤「今思うと、本当に何やってるんだろうって(笑)。しかも、家から学校まで走るんで、学校に着く頃には汗をかいてて、教室のクーラーでその汗が冷えて寒いんですよ(笑)。バカだなって思うけど、バカになるほどやりすぎたというか、頑張りすぎちゃって走るのが楽しめなくなって。なので、楽しく走りたいです。あいさんとなら、楽しく走れるかも!」
川嶋「意志が強いから、フルマラソンも平気で走り切りそうだけど」
武藤「ニュージーランドに留学中にハーフマラソンに出場したことがあるんですけど、1度も練習せずに何とか気合いで完走しました(笑)。でも、フルマラソンは練習しないでぶっつけ本番だと、さすがに無理なんじゃないですか?」
川嶋「いや、私はぶっつけ本番でフルを走ったんで、気合いがあれば大丈夫(笑)。気合いでハーフを走り切った彩未ちゃんなら、フルも走れると思う!」
武藤「気合いには自信があります!」
川嶋「私、彩未ちゃんはどんな食べものが好きなのかを聞いてみたかった」
武藤「いろいろ好きですけど、例えばライブのあとに何が食べたいかって、絶対に焼肉です」
川嶋「ライブはすごいエネルギーを使うから、本当にお腹が減ってるからね。私も、ライブ後はめっちゃ食べる。ライブ前もがっつり食べてるんだけど」
武藤「私は、ライブ前は食べないんです。ライブ前の緊張もあるし、あんまり食べるとお腹が痛くなったりするので。あいさんは、好きな食べものは何ですか?」
川嶋「自分へのご褒美ってなると、ラーメンかな」
武藤「私もラーメン好きです!暑い時期はつけ麺を食べてたんですけど、最近は二郎系にもハマってて、いつもニンニクマシマシ!って注文してます(笑)」
川嶋「意外な一面(笑)。じゃあ、今度2人でラーメンを食べに行きましょう!」
──武藤さんは、これまでのライブで川嶋さんの様々な楽曲をカバーされていますが、今後カバーしてみたい楽曲は?
武藤「大好きで最近も聴いているのは、「オネスティ」です。大好きなので、いつか歌っていると思います。そのときは、ぜひ聴いてください!」
川嶋「彩未ちゃんが歌う「オネスティ」は、確かに聴いてみたいですね」
武藤「ほかにもいっぱいあるんですけど、今の気分で答えるなら「オネスティ」になります」
──武藤さんはYouTubeチャンネルで80年代の楽曲をカバーした動画を公開していますが、今後はどんな曲をカバーしたいですか?
武藤「80年代に限定せず、80年代以前の曲も勉強して幅広いタイプの曲を歌ってみたいなと思っています」
川嶋「弘田三枝子さんの「人形の家」とか、奥村チヨさんの「恋の奴隷」とか、歌ってみてほしいなー。キャッチーなメロディだけど、本当に昭和の歌謡曲ならではのディープさもある曲なので」
──12月10日にはソロ10周年記念アルバム『Memorial HOTEL』がリリースされます。
武藤「あいさんを含め、私の10年に縁のある、欠かせない人たちに作っていただいた10曲なので、ファンの方たちとこの10年を振り返りながら楽しめる1枚になったと思っています。レトロポップという私のコンセプトはどの曲も共通してるんですけど、10曲それぞれに違う色があって、飽きずにたくさん聴いてもらえる1枚です。そんな『Memorial HOTEL』を通して、みなさんに感謝を伝えられたらなと思っています。正直、10年はあっという間すぎて、もうそんなに経つんだって、10年やっていた感覚はないんですけど、この10年で本当にいろんな方に出会いましたし、その中の誰1人が欠けても今の私はいないと思うので、本当に1人で多くの方に届けばいいなと願っています」
──ソロ10周年を迎えた先には、11周年、12周年と未来が続いていきます。20年以上歌い続ける川嶋さんから、10周年以降に向けて武藤さんにメッセージを送るとしたら?
川嶋「私はえらそうなことを言える立場じゃないので、どういう言葉を届けていいのかむずかしいんですけど、彩未ちゃんは小さい頃から自分を確立していて、自分を信じる気持ちがすごく強い人なんじゃないかと思うんですよね。それって何かを表現するとき、人前に立つときにすごく大事なことなんです。失敗を恐れたり、うまくいかなかったときはどしようとか、余計ななんきとを考えちゃうとそのすべてが邪念になる。そうなると、それが歌にダイレクトに表現されちゃうんです。でも、彩未ちゃんはいつも自分を信じて人前に立ち、歌を歌ってきた人だと思うんですよ。その心はこれからも持ち続けて、そのままでいてほしいなって思いが、すごくあります。あとは、彩未ちゃんが紡いでいく世界というか、その時々の彩未ちゃんがリアルに感じていることが、歌声と音楽で表現される世界観の中でどんなふうに広がっていくんだろうって。私は、過去に自分が体験したことが今の歌になってるな、声で表現できているなって感じる場面があったりして、それが次の創作意欲につながっていったりするんです。なので、これからの彩未ちゃんも、彩未ちゃんが実際に体験したことが10周年以降、20周年、30周年につながっていってほしいし、それをファンの方も見たいでしょうし、私もどんなふうに彩未ちゃんが花開いていくのかを見たいなと思っています」
武藤「確かに、今回の「あなたがくれた今日の日」も、私がこれからいろんな経験を吸うことで歌い方が変わってくるかもしれません。そう考えると、これからもっと人生経験を積みながら歌い続けることで、また進化した私の歌を届けられるのかなと思います。そういう意味でも、ずっと歌っていたいですね」
(おわり)
取材・文/大久保和則
写真/藤村聖那
DISC INFO武藤彩未『Memorial HOTEL』
2024年12月10日(火)発売
通常盤/TRNW-0188/5,500円(税込)
TSUBASA RECORDS