──TV アニメ『黒猫と魔女の教室』オープニングテーマのオファーを受けた時の率直な心境から聞かせてください。
「今まではアクションものやシリアスなムードの作品を担当させていただく機会が多かったのですが、個人的にこういうポップで明るくて笑えるような作品の物語がもすごく好きなので、私にオープニングテーマを任せてもらえたことが嬉しかったです」
──原作コミックを読んでどう感じましたか?
「お話をいただいて、最初にあらすじを見た時は、主人公のスピカと先生役のクロード、二人の学園ラブコメみたいなお話なのかな?って印象を持っていたんです。でも、読み始めたら…とんでもない!(笑)。“こんなに笑わせてもらえるんだ!”と思ってしまったくらい、すごく秀逸で。シュールなお笑い要素が満載で、ぶっ刺ささりました」
──(笑)。冒頭から呪いを解くためには黒猫のお尻の穴にキスをしないといけないという設定ですしね。
「その設定も面白いですけど、かなりの頻度でボケを畳み掛けてくるんです。想像していたものとは全く内容が違いましたけど、私はこういう作品が大好きですし、お笑い要素を忘れずに、物語もすごく緻密に描かれていて。そのバランスが私はすごく大好きです」
──その物語をどう楽曲に落とし込もうと考えていましたか?
「人生を歩んできて、自分自身が一番重なる部分はどこだろう?…と、探しながら読んでいたんですけど、彼女は“魔術師になりたい”という軸を持っていて、その軸を叶えるために旅をしていくお話になっていて。私自身も旅をしてきましたし、これからも旅は続いていく。そういうところで、作詞家さんには“自分の軸があることの大切さ”をテーマとしてお願いしました。世の中にはいろんな情報が溢れていて、人生を歩んでいくと関わっていく人もどんどん増えてきます。いろんな意見や声が自分の中に入ってきてしまっても、そこに惑わされずに、自分の軸に向かって歩いていけば大丈夫なんだという…その大切さを歌詞に入れてほしいとお伝えしました。」
──ASCAさんにとっての軸とは何ですか?
「“歌うことが好き”ということです。そして、私が歌えば喜んでくれる人がいることです。原点を振り返ると、私が歌いたいと思ったきっかけは、周りの人が喜んでくれたことでした。その軸は自分自身、唯一ブレていないところだと思います」
──だから、“夢”ではなく“軸”という表現を使ったんですね。夢は叶えたら終わるけど、軸はずっと変わらないから。
「そうですね。ただ、私は一時期、独りよがりになってしまって、自分のためだけに歌っていた時期があって…。歌手になるという夢を叶えてから、聴いてくれる人たちのことよりも、自分がどう表現したいか?ということを中心に考えてしまう時期がありました。でも、最近はそこから少しずつ抜けてきて。自分のためだけではなく、周りの人ありきじゃないと歌えないということに改めて気づきました」

──自分のためだけではなく、みんなのために歌いたいと思うようになったきっかけは何かあったんですか?
「明確なのは、やっぱり喉を壊したことです。どんどん自信を失くしていった時に、手を差し伸べてくれた人たちがいたり、そんな状況下でも応援してくださる方たちがいました。どんな自分であったとしても信じてくれたんです。ライブでもきっと、お客さんは気づいていたと思います。“歌いづらそうだな”とか、“以前は歌えた曲が歌えなくなっているな”とか。でも、とにかく応援してくれました。そこに対する感謝は今もとてもあって。そばで支えてくれている人たちがいるのであれば、ずっと歌い続けたいです」
──歌詞にはそんな迷いや葛藤も描かれていますが、ご自身の心境と重なっている部分はたくさんありましたか?
「あります! 自分がやりたいことがあるはずなのに、いろんな声がノイズのように邪魔に思えたり、少し惑わされてしまっている時があって。だから、冒頭の<心の誓い 邪魔させない>というのはまさに“わかる! 惑わされないことが大事だよね!”って一致していますし、ラスサビ前の落ちサビの歌詞もそうです」
──<誰もが皆 孤独にWondering/海を越え ひとつに繋がる>という…。
「私はライブでたくさん海外に行かせていただいているので、現地に行って歌うたびに、どれだけアニメ作品やアニメソングが愛されているかということを身をもって知っていて。どこに行っても本当に熱く温かく迎え入れてくれますし、いつも“本当に平和な世界だな”って思うんです。文化や言葉は違っても、好きなものに対する情熱や愛というのはどこでも尊いものですし、“奇跡だな”って思います。だから、そんな気持ちでいつも歌っています。海外に行かせてもらっているからこそ、見てきた景色が浮かぶ歌詞です」

──アニメ『黒猫と魔女の教室』の主人公、スピカの視点も含まれていますか?
「スピカの精神性というか…ひたむきに一生懸命に夢を叶えていくところを私は抽出して、テーマとして投げさせてもらったので、“スピカの人生”と言ってもらっても全然相違ないです。もはや同志みたいな気持ちです」
──スピカは乙女座魔法を使いますし。
「私も乙女座なので、シンパシーを感じてしまいます。私、年々“素直でありたい”と思うんです。難しいじゃないですか、素直であるって」
──そうですね。
「カッコつけないとか、誰に対しても心を開くとか…。素直であることにはたくさんの壁があって、私は素直な人に憧れますし、“カッコいいな”って思うんです。自分というものがわかっているから、どこに出て行っても怖くないというか、素直な人は無敵だと思います。それをスピカにも感じて。スピカの素直で、しかも、ポジティブな部分には憧れつつ、シンパシーもすごく感じます。だから、いろいろと影響を受けて、衣装もスピカカラーのピンクにさせてもらいましたし、スピカがいてくれたおかげで作れたアートワークだと思います」
──タイトルの「Cusp」=「カスプ」とはどんな意味なんですか?
「星座の境界線という意味です。私とスピカは乙女座ですけど、皆さんも自分の星座をお持ちですよね? その星座によって特性や性格がいろいろあって。例えば、乙女座だったら、几帳面や完璧主義と言われたりします。でも、その前や後の星座の影響も受けたりするとも言われていて。乙女座の前は獅子座で、12星座の中で一番自信満々で、すごく責任感があると言われているんです。しかも、人間というのは、いろんな面を持ち合わせていて、それが相反する時もあると思うんです」
──仕事の面ではすごく几帳面だけど、プライベートではルーズだったりとか。
「そうやって矛盾しながら生きているのが人間だと思います。自分自身もそこに苦しんだ時がありました。でも、そこを肯定できたらいいなっていう想いもあります。乙女座だけど、獅子座の自分もいて、天秤座の自分もいて…“自分はこういう人間です”と決めなくてもいい、いろんな側面があっていい、っていう」
──境界線がないってことでしょうか?
「いろんな星座の要素が自分の中にはあって、それぞれの量が少し違うのかな?って。私は乙女座の要素が多いかもしれない…そういう、グラデーションのイメージを持っています」
──歌入れにはどんなアプローチで臨みましたか?
「“自分の声を信じたい”ということを念頭に置きながらレコーディングしました。今までだと、楽曲によって声色をいろいろ変えられるのが自分の武器だと思っていました。曲ごとに表現を研究してやってきたんですけど、自分がイメージしている表現ができなくなった時があって。そこを超えられた時に、改めて、ちゃんと自分の声と向き合って…料理で言うと、こってり料理じゃなくて、塩だけで出す!ってくらいシンプルな味付けの自分の声を聴いてもらいたいと思えたんです。つまり、“自分の声を信じる”ということになるんですけど、そんなレコーディングでした」
──伸び伸びと歌っていますね。
「いつもは、“次の一文字目はエッジを立てて”とか、“ゆっくりしゃくってみよう”とか、技術的な譜面が頭にある感覚でした。でも今回はそういうのを置いて、映像を頭に浮かべてみて…広い大地や海、猫が背伸びしているところとか。譜面ではなくて、情景を思い浮かべながら、ただただ音を感じながら歌えたんです。それがすごく楽しかったです。いろんなものを削ぎ落としたシンプルな歌を届けられるメロディですし、私の“素の声”をたくさん楽しんでもらえる曲だと思います」
──アニメの絵についたものをご覧になってどう感じましたか?
「私が今まで歌わせてもらってきたオープニング楽曲のトーンとは全く違っていました。青空や草原だったり、学生の子たちが出てくるので、ポップな仕上がりになっています。爽やかでしたし、やっぱり新鮮でした。そして、すごく楽曲に合っていました。自分自身が青春時代に戻れるような感覚になれる映像だと思いました」
──サウンド的にも少し青春パンクを感じました。ご自身のMVはどんなイメージで制作されましたか?
「今回のアートワークは、原作を読んで受けたインスピレーションを一から提案させてもらいました。例えば、スピカは植物魔法を使っている人なので、植物の中に身を置きたかったですし、魔法がキーワードだったりするので、ファンタジー感も出したくて。後ろには一枚絵の壁紙がぶら下げられているんですけど、その手前には人工物の星がぶら下がっていたりとか、下に置いているお花も生花と造花が混ざっていたりとかしています。少し異質感があることで、ファンタジーとか魔法の要素が伝わると嬉しいです」
──旅がテーマになっていましたね。
「トレンチコートを着て、ヴィンテージの大きいスーツケースを持っています。最後、新たな旅に出かけるのか、はたまた旅の続きを始めるのかっていうところで終わるんですけど、だんだん笑顔が増えていって、気持ちも前向きになっていくのが伝わるように、表情を作ってみました」
──あのASCAはどこに向かうんでしょう?
「次なる旅に出るわけですけど、幸先は良さそうですよね」
──目的地はイメージしていますか?
「人のいる場所です。そして、自然の中かな? 年々、自然から得られるものがたくさんあると思って。自然の中によく行きますし、やっぱり私は人が好きなので、未来を想像した時に、いろんな人と出会っていたいと思いますし、繋がり続けていたいです」
──人のいる場所も、自然のある場所もどちらも必要ですか?
「人がいて、自然があって、どちらもあるから、元気に生きていられるんだと思います。一人の時間もなく、自然もないまま、人とずっといても息苦しくなってしまいますし、誰もいないところで一人で自然のなかにいても、人と喋りたいと思ってしまう。私にとって人も自然も、薬みたいなもので元気をもらえることができるので。どちらもあるから、歌い続けられているんだと思います」
──カップリング曲についても聞かせてください。ASCAさんが作詞した「パキラ」は植物がタイトルになっていますが、これは救いようのない恋愛というか…。
「スタッフさんに“絶望のまま終わる歌詞を書いてみてよ”と言ってもらったので、“それ、楽しそうだな〜。いいの?”って、解決しない絶望を書きました」
──あははは。目がキラキラ輝いています。
「私は希望や哲学的な歌で人を勇気づけてきたので、“絶望なんて書いていいの?”と思ったんです。それに、“私、絶望なんて持っていたっけ?”と思って、過去に書いた日記を見返してみたら、すごく絶望していて(笑)。ASCAとして書かないようにしていたこととか、消化しきれていなかったから書けなかったことを、すごくいいタイミングで“書いてほしい”と言ってもらえたので、ウキウキしながら…」
──ウキウキしながら絶望を書いたんですね。
「人はウキウキしていても、絶望の歌を書けるんですね」
──(笑)。「パキラ」の<ふたり>は、どんな二人と言えばいいですか?
「二人ともずっと満たされていないんですよ。自分の愛を注いでも、注いでも、その相手の器には穴が開いていて、漏れてしまっています。“きっと愛し方が違うんだろうな”と思った経験があって…それは結局、解決しないまま終わってしまいましたし、その時に育てていた植物も自分の気持ちが疲れてきた時にちょうど枯れてしまいました。“ああ、もう潮時なのかな”って。“もうここら辺で終止符をつけないといけないのかな”と思った時があって」
──パキラが枯れてしまったんですね。
「“もっと愛してほしい”と求められ続けて、注ぎ続けて、どれだけ注いでも、その愛をなかったものにされるという虚しさ。うん、この歌詞は虚しさがキーワードかもしれないです。だって、“こんなに一生懸命に行動や言葉を尽くしているじゃないか”って。“何をこれ以上欲しがるの?”っていう。私としてはそういう気持ちがあるのに、相手は“もっとちょうだい、もっとちょうだい”と求めてきて…」
──どうしてそうなるんでしょうね。
「それも考えたんですけど、そもそも一生懸命に注いでいたものが愛じゃなかった説もあって。独り善がりな愛だったのかもしれないですし、向こうも、愛し方の種類が違う人だったから、受け入れる方法を知らなかったのかもしれないです。相手は底のない鉢植えで、こっちは底のない水差しだったっていう平行線で、二人の穴は塞がることもなくて」
──どうしようもないんですね、この恋愛は。
「どうしようもないですよね。でも、どうしようもない恋愛をしている人って、たくさんいますよね。いろんな人から恋愛話を聞きますけど、あえて報われない恋愛に走ってしまう人もいれば、絶対に幸せになれないことが分かっていても、その方が情熱的になる人ともいて。そういう意味では、どこにでもある話だと思うんです。だから、より情景が浮かびやすい言葉で書いています。“わかる。自分もそういうことあった”って、その人たちの記憶を呼び起こしたり、今、渦中にいる人の苦しみに寄り添うというか…。“同じ人がいる”と思うと安心するじゃないですか」
──同じ悩みを持っている人がいるとわかるだけで気持ちが少し楽になりことがあります。
「そういう立ち位置にこの「パキラ」がなればいいなって思います。自分自身、音楽を聴く時って、やっぱり悲しかったり、絶望していたりする時が多かったので。その時に音楽で代弁してくれる人がいて。もう既にその経験をしている人がいて、それを曲にしてくれていて、それにどれだけ救われただろうって思うんです。だから、「パキラ」はそういった存在になれたら嬉しいですし、「Cusp」は、テレビアニメのオープニングテーマですけど、人生において自分が大事にしてきたことが軸になっている曲なので、今、一生懸命に夢や目標を追いかけてる人に聴いてほしいです。もしくは、自分が何をしたいのかがわからなかったり、葛藤や迷いの中にいる人にも聴いてほしいです。さっき、旅って言っていましたけど、私たちも人生を歩いている旅人なので、その旅の BGMのように、旅をしている時のお供にしてもらえたら嬉しいです」
──これから先はどう考えていますか?
「どんどん余計なものを手放していきたいと思っています。いろんな人と出会ったり、いろんな情報がある中で、いろいろやりたくなったり、欲張ってしまったりしてきた自分がいて。でも、私はそこまで器用な人間ではなくて。自分が“好き”と思ったこととか、“楽しい”と思ったことをやり続けていきたいです。それは私にとっては歌を歌うことしかなくて」
──今年11月でデビュー9周年を迎えます。
「歌っていくことで、どんどんいろんな人とつながっていきたいです。歌っていなかったら、出会えなかった人がとてつもなくたくさんいます。日本だけではなくて海外にも。私はそうやって、人とのつながりをすごく大事にしてきたので、そこはこれからも続けていきたいです。あと、私が苦しんで、葛藤していた時期をファンの皆さんはずっと見てきてくれて、応援してきてくれているから…そんな皆さんに対して、“こんなに私は幸せだよ”って、“歌っていることが楽しいんだよ”というのを目一杯表現したいです。そして、今度は私の歌を受け取ってくれる皆さんが幸せになるような活動していきたいです!」
(おわり)
取材・文/永堀アツオ
写真/中村功








