──アルバム『Free to Fly』から1年でミニアルバム『Vermillion』をリリースされます。収録されている6曲はこの1年で作った曲なのか、それ以前からあった曲もあるのか。いつ頃作り始めたんですか?

「まとめて6曲という感じではないですけど、そんなに離れた期間で作った曲たちでもないです。去年の大晦日にライブ(<AKi LIVE 2024 New Year's Eve Special>)をしたんですけど、そこに間に合うように1曲作ったのが最初の曲だったので、たぶん去年の10月ぐらいから始まったのかな?」

──となると、最初に作った曲が「Idiots」だったんですね?

「そうです。そのときは今年の6月にツアーをすることが決まっていたので、そこに合わせて何か音源をリリースしたいという話をスタッフとはしていて。シングルにするか、ミニアルバムにするかを考えていて、どうせやるのであればまだ半年以上あるし、ミニアルバムだったら作れるかな?って」

──『Vermillion』に収録されている6曲は、ライブでいい味を出してくれそうな、かつ過去曲といい混じり方をしそうな曲が揃っています。AKiさんは、このミニアルバムをどういったものにしようと考えていましたか?

「基本的にライブハウスがメインになるので、そこで映える曲もそうですけど、自分のやりたいこととファンが聴きたいんじゃないかな?っていう曲が、ここに来てすごくリンクしてきて。“裏切ってやろう”みたいな気がないわけではないんですけど、自分のやりたい曲とファンの聴きたい曲を、より丁寧に作りたかったんです。その2本柱って、いい意味で考えやすかったので、いろんなセットリストに合わせやすい楽曲になっていると思います」

──そのリンクを感じ始めたのは、前作『Free to Fly』を作って以降なんでしょうか?

「どうだったんだろう…アルバムだと収録曲が多いので、全曲それっていう感じでもなかったと思うんです。もうちょっとバラけていたというか。でも、今回は収録曲が6曲で、(SEを除くと)実質5曲なので、ピンポイントで狙いやすかったところはありました。その中でもバリエーションは少し気にしましたけど。ただ、リンクしてきたのがいつだったかっていうのは、正直分からないです。ソロ活動を始めて10年になるんですけど、自然とそうなっていったというか…。“ファンの子と喜びをもっと共有したい”という想いがだんだん芽生えていったのかな?って」

──その中で今作のタイトル曲でもある「Vermillion」は、それこそピンポイントでリード曲を作ろうというところから始まったんでしょうか?

「結局出たとこ勝負なところはどうしてもあるので“リード曲を作ろう”、“リード曲を作らなきゃ”というよりは、“出揃ったぞ。じゃあこの中で1位はどれだ?みたいな選び方だったので、どの曲にしようかかなり悩みました」

──確かに悩みそうですね。どの曲でもタイトルを張れる感じが確実にありますし。

「ありがとうございます。ベクトルが似た曲もあるんですけど、違うものはかなり違うので、どの曲を表題曲にするかによってイメージがかなり変わるなとは思っていました」

──「Vermillion」のような曲はもちろん、例えば「Rasen -螺旋-」のようなダークで怪しい雰囲気の曲を選んで、ビジュアルイメージをちょっと変えてみるという打ち出し方もいけそうですし…。

「本当にその2曲で最後まで迷ったんですよ。「Rasen -螺旋-」は、それこそ僕を応援してくれているファンの子ってこういうの好物だろうなっていうのが、肌感としてあったので。でも、最終的には歌詞とか全部できた後に、「Vermillion」のほうが伝えたいメッセージだと思って、僕としてはそっちに落ち着きました」

──メッセージを伝えたいという想いは元々あったとは思うんですが、今作でより強まっているところもあったりしますか?

「強さで言うと以前と同じ温度感ではいるつもりなんですけど、やっぱり“自分が背中を押されてきた音楽ってこういう曲だったな”っていうのが、どうしてもあって。そういうメッセージを発信し続けることに意味があると思っているんです。「Rasen -螺旋-」はそういうものではなく、どちらかというと音遊びとか音楽的な面白さがある曲なので。そういう曲をリードにしてもいいと思うんですけど、「Vermillion」のほうが自分自身により近い曲になったので、そちらを選びました」

──「Vermillion」はメッセージ同様、サウンドもかなり熱いですが、イントロがやや長めですよね。1曲目のSE「The Story Begins -Vermillion-」から繋がる形になっているのもあって、そこをより感じるというか…。

「イントロで展開が3つぐらいあるので、そうかもしれないですね」

──昨今のトレンド的には、イントロはなるべく短く、なんならもう歌始まりでみたいなことが多いですし、それが別に悪いことだとも思わないんですが、こういった形にした理由ってあったりしますか?

「そこはあまり考えてないかもしれないです。“良い曲を作りたい”、“かっこいいものを作りたい”、それだけなので。今の時代って“サビ15秒説とかもあるじゃないですか。そういった理屈でいくと、歌始まり以外ありえなくなっちゃうと思うので。でも、その辺は抜き出すところ次第なのかな?って思いますけど。僕が好きな曲は、やっぱりバンドサウンドで、バンドの深みが分かる曲なんです。イントロとかギターソロとか歌のないところは、バンドならではというか…バンドにしかないものだと思うので、そこはバンドをやっている以上、大切にしていきたいポイントです」

──「Vermillion」の次に置かれているのが、先ほどお話に出てきた「Rasen -螺旋-」です。この曲は、それこそこういった空気感の曲を作ろうというところから始めたんでしょうか?

「この曲はどこの部分からというよりは、全体像から捉えていった感じですね。楽器を触っていて自然と出てきたところもあったし、“サビはこうしたいな”、“Bメロはこうしたいな”というのがちょっとずつ出てきて。なんとなくぼんやりと見えているところから始まって、部分部分がクリアになっていって出来た曲です」

──そうやって作っていったものが、自然とファンの方々の好物であろう部分とリンクしていったんですね。

「そうですね」

──ヴォーカルに関しても、曲の雰囲気を煽る感じになっていて。活動を続けてきた中で、歌でもいろいろな表現をできるようになってきている実感もありますか?

「ないです(笑)」

──即答でした(笑)。ないんですか?

「なんか、自分がこういうふうに歌いたいと思ったときに誤差がなくなってきた感じはあります。でも、“俺、上手くなったなぁ”っていうのは思ったことないですね」

──できるようにはなって来ているところはあるんだけど…みたいな?

「いや、できるようになったって言うのはおこがましいです(笑)。というよりは、やりたいと思った表現と、結果、歌ったときに誤差が少なくなってきたっていう言い方が多分一番近しいかな?」

──人によってはそれを“上手くなった”って言うと思います(笑)。

「そこは嬉しいですけどね…。でも、ヴォーカリストとして“どうだ!”っていう感じは全然ないです(笑)。それは別に、そう言うことが恥ずかしいからとか、そういうことではなくて。そこはベースもそうなんですけど、技術で見せて色気がある人ってたくさんいらっしゃると思うんですけど、僕はそういうタイプというよりは、バンドの中のベーシストとして魅力的なほうが好きなんです。単体で色気がある人よりも、アンサンブルの中で“このベーシストかっこいいな”、“ギターの後ろで鳴っているあのフレーズかっこいいな”ってところに魅力を感じるタイプなので。ヴォーカルってどうしてもセンターの立ち位置になるから、そうはいかない気もするんです。だから、ちょっと矛盾はしつつも、根底にあるマインドは変わらないので、ヴォーカルに対しても同じようなイメージを持っています」

──なるほど。

──3曲目の「Idiots」は、それこそライブに向けて作っていたのでしょうか?

「ライブに向けてというのはもちろんなんですけど、それよりも先に、僕の楽曲ってメロディアスな展開が多い気がしていて。でも、“サビって別にメロディアスじゃなくてもいいよね?”って。そういうメロディがないもの…僕らは“メロメロしない”ってよく言うんですけど(笑)。そういう曲が欲しくて作りました。元々歌うことは好きなんですけど、シャウトとか低く唸るような声は結構苦手なんです。だからやっていなかったんですけど、ちょっとやってみようかな?と思って、サビの前半もメロディというよりは叫ぶようなニュアンスで歌ってみたりとか。そういうトライはしています」

──歌詞はそういった“メロメロしない”ところから出てきた部分もあるんでしょうか? 皮肉的なところもある内容ですけど。

「今、『Resonants』というオンラインサロンをやっていて、ラジオとか配信を通して、会員の皆さんと触れ合ったり喋ったりしているんですけど、そこで悩み事を聞いたりすることがやっぱり多いんです。“そりが合わない人がいる”とか、“自己肯定感が下がるようなことを言ってくる人がいる”とか。やっぱり人間関係に疲れている方が少なくない気がしていて…。でも、どう足掻いても自分と馬の合わない人っているじゃないですか。だからそこはもう気にせずに、わざわざそこで悩まなくてもいいんじゃないの?ってメッセージが自然と出てきたんです。馬の合わない人に対して、“どうぞ好きな世界でお幸せに生きてください、私は関係ないんで”みたいな(笑)」

──“そっちはそっちでご自由にどうぞ。私はこっちに行きますので”、みたいな。

「そうそう。環境も含めて、逃げられないことってやっぱりあると思うんです。明日から急に上司とか部下を変えられるわけじゃないですし(笑)。そういう中でどう立ち回るのか?って、カードが限られていて。だから、そういったものと真っ向からケンカするだけじゃなくて、“別に相手にしなくていいよね”、みたいな。自分がそことどう向き合うのか…逃げることも含めてどう戦っていくのかというのは、考え方ひとつだよなってよく思うので」

──次の曲が「Sadness」です。サウンドこそヘヴィですけど、メロディにはかなり哀愁があって。ご自身が作りたい曲とファンの皆さんが聴きたい曲がリンクしてきたというお話をされていましたが、個人的には「Rasen -螺旋-」と、この「Sadness」がパっと頭に浮かびました。

「この曲はサウンドに呼ばれて作っていった部分もかなりあって。“もう消えてしまいたい”と思うことってあると思うんですけど、そういった深い孤独感だったり、やり場のない悲しさを歌っています。でも、そういう中でも光を失わないでほしいっていう自分の想いも少し混ざっているようなイメージです」

──やはり光は歌いたかったんですか? そのまま孤独に沈んでいくというわけではなく。

「ああ…確かに、落ちっぱなしで投げっぱなしの歌は、やってないかもしれないです。最近、後ろ向きになることがあまりなくて。どんなに辛くても、寂しくても、厳しくても、でも大概は“なんとかなるよな”って思っているので、こういう歌詞になるのかな?」

──後ろ向きにあまりならなくなってきたのは結構最近なんですか?

「ここ45年くらいで変わってきた気がします。なぜかと言われると分からないですけど(笑)」

──いろんな経験をしていく中でそうなっていったんでしょうか?

「いや…そんなたいした経験もしてないですけど…」

──いや、めちゃめちゃしてるかと(笑)。

「でも、日々のストレスがあまりないっていうか。そこは良くも悪くもですけど(笑)」

──そういったモードになれたことによって、「Idiots」でストレスを抱えてる人たちに向けての言葉が自然に出てきたところもあるんでしょうか? なぜそういった言葉をかけられるようになったんだと思います?

「そこは自分もそういう経験をしたことあるからかな? 振り返ってみると、もう少しうまく立ち回れたなって思うこともあるんですよ。自分が辛いときってどうしても視野が狭くなってしまいますけど、もう少し冷静にというか…。“誰かに相談して違う意見を取り入れていたら変わっていたかもしれない”とか、“捉え方をもう少し多角的に見られればラクだったかもしれないな”とか。でも、難しいんですけどね、当事者になってしまうと。ただ、そういうことはやっぱり経験値として残りますよね。だからかけることができた言葉だったのかもしれないです」

──あまり俯かなくなったことによって、その気持ちが行動に出てきた部分ってあったりします?

「どうだろう…普段の生活にどう影響したかは分からないですけど、曲を書くときに今までになかった引き出しが増えたような気はします。ただただ“頑張れよ”って応援歌が多かったと思うんですけど、そうではなく、もっと自分が相手に入り込んで歌詞が書けるようになったかもしれないです。それこそ悩み事から歌詞ができたというのはそういうことだと思いますし」

──リンクしてきた部分もあるし、いい意味でファンの方と距離感が近くなっている感覚もあるのでしょうか。

「オンラインサロンができたおかげで、距離感は変わってきたと思います。近くにいるときもあると思いますし、変わらずステージの中で生きている自分もいますし。いろんな面をより届けられるようになった気がします」

──作品を締め括るのが「Ordinary Days」です。ここまでハードでヘヴィなサウンドが続いてきたのですが、この曲はパワフルながらも、肩の力が抜けている感じです。

「まさにそういうイメージでした。“何気ない喜び”とか、“普通のことって結構忘れがちになっちゃってたんだな”っていうことに気付いたときがあって。“何かをしていなきゃいけない”、“何かをしてないと幸せを感じられない”、“これがないといけない”、いろいろあると思うんですけど、そういうことじゃなくて。もっとラクにというか…普通のことに感謝するじゃないですけど、そういう気持ちが一番大切だよなって最近よく思うんです。普段の日々の中にいろんな幸せが紛れていて、すぐ目の前にあるんだけど意外と見つけられないということを、思い出したというよりは強く感じたんです。そういうときに曲を聴いたら、歌詞の題材に合っていると思って。そこから作っていきました」

──歌詞は全編英詞ですね。

「最初は日本語で書いてたんですけど、だんだん説明文みたいになってきちゃって(笑)、“なんかちょっと違うんだよな”って。サウンド的には、元々洋楽のハードロックを聴いて育ってきたので、それでこういう形にどんどんなっていった感じです。このあたりは1stアルバム『ARISE』の流れもちょっとあるなって思います」

──このミニアルバムを持ってのツアー<AKi Tour 2025 『Vermillion』>が決定しています。どういう気持ちで臨もうと考えていますか?

「気負いせず、楽しく自由にロックを謳歌したいですね。せっかくのソロなので、自由であれ、もっと開放的であれと思っていますし、イメージを毎回壊せるのがソロ活動ならではだと思っているので。守らなくていいというか。ちょっと語弊がある言い方かもしれないですけど…」

──活動を始めた頃は模索していた部分もあったでしょうし、ご自身としてもなりたいソロアーティスト像があったと思います。そこからいろいろと活動していく中で、変わったものと変わらないものがあると思うんですが、そちらはいかがでしょうか。

「変わったところは…“これはなし”っていうのがあまりなくなったかな。厳密に言うとあるけど、そこを自分なりに変えていける発想になってきたかもしれないです。昔は“こんなの嫌だよ”っていう選り好みが激しいほうだったので。でも、仕事もそうですけど、好きなことをやり続けるためにはやらなきゃいけないこともあるじゃないですか。“どうせやらなきゃいけないなら、好きになったほうが早いよな”っていう考え方になれたときに、切り替えられるようになったところは変わった部分です。変わらないものは“バンドマンである楽しさ”です。いろんなことを実現してきましたけど、シドをやっているおかげでバンドマンとして続けられているし、いろんなことに挑戦できたり、経験できたりしているので。やっぱりバンドあっての今の自分の人生なので、そこにはすごく感謝しているのと、それが楽しいと思える気持ちはずっと変わらないです」

──考え方が広くなっていったというか…。

「キャパシティが変わったというよりは、障害物が取れた感じですね。そんなにね、なんでもかんでも許容できるような、できた人間になったわけではないですから(笑)。だから、水が流れていくのを止めていた弁が取れたような感じというか…」

──腫瘍みたいなものが取れて?

「そうそう。それも必要なことだったんですけどね、自分の見せ方として。昔の自分もすごく好きではあるんですよ。分からないながらも、激流の中で、流されながら、揉まれながら、必死に泳いでいた自分がいたからこそ今があると思うので。“それも意味があったことだったんだな”って思っています」

(おわり)

取材・文/山口哲生
ライブ写真/h

RELEASE INFORMATION

AKi Mini Album『Vermillion』

2025年6月11日(水)発売
受注生産限定盤(CD+DLCカード)/DCCA-152~3/4,070円(税込)
通常盤(CDのみ)/DCCA-154/2,970円(税込)

AKi Mini Album『Vermillion』

LIVE INFORMATION

AKi Tour 2025 『Vermillion』

2025年6月21日(土) 神奈川県 Thunder Snake ATSUGI
~オフィシャルオンラインサロン「Resonants」・ID-S BASIC・ID-S LIGHT・SID MOBILE限定VIP ONLY~
OPEN 16:30 / START 17:00
2025年6月25日(水) 埼玉県 HEAVEN'S ROCKさいたま新都心VJ-3
OPEN 18:30 / START 19:00
2025年6月28日(土) 愛知県 名古屋ell. FITS ALL
OPEN 16:30 / START 17:00
2025年6月29日(日) 大阪府 梅田Shangri-La
OPEN 16:30 / START 17:00
2025年7月13日(日) 東京都 渋谷WWW
OPEN 16:30 / START 17:00

【チケット料金】
スタンディング ¥6,600(税込・ドリンク代別)
※4歳以上有料

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