どちらかというと黒っぽいジャズに惹かれる私ですが、もちろん白人ミュージシャンの演奏も好きです。今回は私好みの白人ジャズの数々をご紹介いたしましょう。まず最初は1950年代にはマイルスを凌ぐ人気を得たこともあるトランペッター、チェット・ベイカーです。その頃の演奏ももちろん素晴らしいのですが、私はむしろ晩年になってからの枯れた味わいが好みです。『チェットズ・チョイス』(Criss Cross)はしみじみと心に染み渡るような名演です。サイドのギター、フィリップ・カテリーンも好演しています。

白人アルト奏者のナンバーワンはリー・コニッツでしょう。切れの良いアドリブ、抑制された感情表現はちょっとわかり難いところもあるのですが、一度好きになると心底惚れ込むことが出来るホンモノのミュージシャンです。『インサイド・ハイファイ』(Atlantic)は彼の油が乗り切った時期の名盤です。

白人テナーの雄はいわずと知れたスタン・ゲッツですね。やはりこの人は凄い。剃刀のようなアドリブが光るクールな演奏から、熱気に満ちた迫力満点の吹きまくりまで、思いの他表現の幅が広いのも特徴です。そんなゲッツの数多い名盤の中で、『スタン・ゲッツ・プレイズ』(Verve)はアドリブの面白さと暖かい音色うまくバランスしており、日常的に心地よく聴ける私の愛聴盤です。

有名なデイブ・ブルーベック・カルテットの聴きどころは、むしろサイドのアルト奏者、ポール・デスモンドではないでしょうか。音色がソフトなので軽いと思われがちですが、よく聴くと隅々まで繊細な神経が感じられる素晴らしい演奏です。『タイム・アウト』(Columbia)は名曲《テイク・ファイヴ》で有名ですが、私はアナログ時代にB面に収録された《スリー・トゥ・ゲット・レディ》以下のトラックが好きです。

ハル・マクジックをご存知の方は相当マニアックなジャズファンでしょう。白人ジャズというとウエスト・コースト・ジャズが有名ですが、もちろん東海岸にも有能な白人ジャズマンは居たわけで、マクジックはその代表格とも言うべきアルト奏者です。コニッツをもっと渋くしたような芸風は地味なのであまり知名度は高くありませんが、彼のストイックでありながら情感豊かなアルト・サウンドはけっこう病み付きになります。『イースト・コースト・ジャズ#8(Bethlehem)はマニア好みの名盤です。

バリトン・サックス奏者として、また優れたバンド・リーダーとして名高いジェリー・マリガンは数多くの名演を残していますが、私はズート・シムスを従えた『ジェリー・マリガン・セクステット』(EmArcy)が好きです。4管アンサンブルの厚みと、それぞれのソロがうまい具合にバランスした名盤だと思います。

白人ジャズマンと言えば、アート・ペッパーを外すわけには行きません。情緒纏綿とした中にもキラリと光るアドリブの冴えはペッパーならではのものです。中でも哀感に満ちたメロディが泣かせる『マーティ・ペイチ・カルテット・フィーチャリング・アート・ペッパー』(Tampa)はペッパーの最高傑作のひとつに数え上げられる名演です。

トロンボーンとギターのみを従えた変則編成でクラリネットを吹くジミー・ジフリーもあまり知られていないジャズマンですが『ウエスタン・スイート』(Atlantic)に収録された《トプシー》は親しみやすい演奏なので、彼に最初にするに最適ではないでしょうか。

そして最後はやはり白人ジャズマンの王者、ビル・エヴァンスに登場願います。彼のアルバム中では『アット・ザ・シェリーズ・マン・ホール』(Riverside)はあまり有名とは言えませんが、なんというか聴いていると心が安らぐような穏やかな感触が好きで、ほんとうによく聴いています。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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