実を言うと、私が最初に好きになった音楽はソウル・ミュージックでした。60年代アメリカンポップスももちろん好きでしたが、そうした軽やかで快適な白人系サウンドとは一味違う、ダークでちょっとクセのあるオーティス・レディングやらマーヴィン・ゲイの歌声に深く魅了されました。ジャズを聴き始める以前のことです。
ところで「黒いジャズ」というと「ファンキージャズ」を思い浮かべる方が多いと思いますが、私の好みはちょっと違うのです。同じ黒っぽさでも、単にノリの良いだけのファンキーものより、グルーヴ感覚の強い、どちらかというとシブ目のサウンドに惹かれるのです。
代表的なのは冒頭にご紹介するウェス・モンゴメリーの名盤『フル・ハウス』(Riverside)でしょう。ウェスのギターとグリフィンのテナー、そしてケリーのピアノが醸し出す極上のグルーヴ感覚はいつ聴いても最高です。
黒いギターの2番手はケニー・バレルです。『ミッドナイト・ブルー』(Blue Note)は彼の代表作ですが、黒さに的を絞って聴くなら、アナログ時代のB面冒頭に収録された《ウェイヴィー・グレイヴィー》に止めを刺します。下腹に響くベースに先導され、バレルとスタンレイ・タレンタインの絶妙のコンビが、聴き手を黒人音楽ならではのアーシーな世界に誘ってくれます。
そして誰もが認める黒いギターマンがグラント・グリーンでしょう。シンプルなシングルトーンは一聴しただけでグリーンと知れます。
同じサックスでも、グルーヴィーな気分を醸し出してくれるのはやはりテナーのようです。豊かな低音が黒さを倍加させるのです。そしてテンポはゆったりとしている方がグルーヴ感は強くなる。ジョニー・グリフィンの黒い最高傑作が『ザ・ケリー・ダンサーズ』(Riverside)B面なのです。
チャーリー・ラウズはモンクのサイドマンのイメージが強いのですが、彼のリーダー作からはふてぶてしいほどのブラック感覚が漂ってきます。これほど黒い《あなたは恋を知らない》は他では聴けません。
独特のタッチが印象的なホレス・パーランの演奏は、ホーン奏者とやっても、ピアノトリオでもアーシーなグルーヴ感覚に溢れています。『ハッピー・フレーム・オブ・マインド』(Blue Note)の聴きどころは、これも黒いテナー、ブッカー・アーヴィンとグラント・グリーンの参加でしょう。ご存知『アス・スリー』(Blue Note)は、パーランのトリオ演奏の代表作です。
タレンタインのリーダー作『ネヴァー・レット・ミー・ゴー』(Blue Note)は、奥方シャーリー・スコットのオルガンが黒さを際立たせています。そして黒いオルガンの極めつけ、ジミー・スミスの『バック・アット・ザ・チッキン・シャック』(Blue Note)では、タレンタインとバレルがサイドマン。メンバーだけで黒さがわかります。
異色のテナーマン、ローランド・カークがアレサ・フランクリンの名唱《アイ・セイ・ア・リトル・プレイヤー》を熱演している『ボランティアード・スレイヴリー』(Atlantic)は彼の隠れ名盤。そして、これはジャズではありませんが、ジャマイカ出身のモデル兼歌手、グレース・ジョーンズのレゲエ・アルバム『リヴィング・マイ・ライフ』(Polystar)の聴きどころは、なんと言ってもスライ・アンド・ロビーの強力なリズム・セクションでしょう。レゲエの黒さも大好きです。
黒さの源流、アフリカはナイジェリアのテナーマン、フェラ・クティのアルバムは、その名も『ファンキスト・グルーヴVol.1』(Victor)です。これもまたリズムが素晴らしい。最後はまたウェスの名盤『フル・ハウス』に戻り《ブルーン・ブギー》をお聴きください。
文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)
USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」
東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。