2023年の3月に惜しくも亡くなったテナー、ソプラノ・サックス奏者、ウエイン・ショーターは、名グループ、アート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズでファンの注目を集める存在となった。アート・ブレイキー『パリのジャム・セッション』(Fontana)は、パリ・ツアーでのライヴで、ショーターと共に人気を集めたトランペッター、リー・モーガンとの華々しい共演が聴ける。

『セカンド・ジェネシス』(Vee Jay)はショーターにとって2枚目のリーダー作で、50年代ハードバッパーとは一線を画す、不思議なメロディ感覚の興味深い作品。ジャズ・メッセンジャーズ時代の同僚、リー・モーガンをサイドに従えた『ナイト・ドリーマー』はブルーノート初リーダー作で、同じ2管でもメッセンジャーズ時代とは明らかに響きが違う。60年代新主流派の先駆けともなった斬新な演奏。

ウエイン・ショーターはブレイキー・バンド在籍中からマイルス・デイヴィスの誘いを受けていた。マイルスの『E.S.P(Columbia)は、ショーターが晴れてマイルス・グループに加わって吹き込んだスタジオ録音盤。参加して半年も経たないのに、完全にマイルスの音楽に溶け込んでいるのはさすが。

60年代、ショーターはマイルスバンドに在籍しつつ、独自のリーダー・アルバムをブルノートに吹き込んでいた。面白いのは、自作品ではマイルスのサイドの時とは異なった面を見せているところ。『アダムス・アップル』は黒魔術的とも言われたショーターのユニークなフレージングが興味を引く。

そうしたオカルト風サウンドが、ジェームス・スポルディングのアルトにカーティス・フラーを加えた3管で迫るのが『スキゾフェレーニア』(Blue Note)だ。スポルディングのアルトサウンドが、ショーターのアレンジによって絶妙の隠し味となっている。

マイルスが歴史的作品といわれた『ビッチェス・ブリュー』(Columbia)を吹き込んだ69年、ショーターもそれまでのジャズの概念を覆すような先鋭的な作品を出した。全編ソプラノ・サックスで吹き通した『スーパー・ノヴァ』(Blue Note)は、その後のショーターの原点となったアルバム。

そしてコンポーザーとしてのショーターの集大成とも言うべき作品が『オデッセイ・オブ・イスカ』(Blue Note)で、「風」をテーマにした組曲が素晴らしい。緻密に構成されていながら、まさに風が吹き抜けるような柔軟なサウンドはショーターならではの世界だ。

71年、ショーターはジョー・ザヴィヌル、ミロスラフ・ヴィトゥスらとウエザー・リポートを結成する。多くの傑作が生まれたが、ショーターのソロに注目すると『スィートナイター』(Columbia)が浮かび上がってくる。ザヴィヌルの構成力が喧伝されがちなウエザーの隠れ名盤がこれである。

ショーターがブラジル音楽に目を向けた傑作が『ネイティヴ・ダンサー』(Columbia)で、ミルトン・ナシメントの明るい歌声が聴く者を南の国へと誘う、楽しいアルバムだ。ショーターはこの作品を最後にリーダー作が途絶えてしまうが、11年ぶりに『アトランティス』(Columbia)を出し、翌86年録音のリーダー作復帰第2弾が、今回最後にご紹介する『ファントム・ナヴィゲイター』(Columbia)だ。ダイナミックな女性ヴォイスで始まる《Yamanja》がカッコよい。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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