青木カレン 田辺充邦 DUO LIVE@THEGLEE――ライブレポート

神楽坂のにぎやかな通りから、一本脇道に入った路地にある「THEGLEE」。階段を降りた先の扉を開けると、こぢんまりとした親密な空間が広がっていた。ウッディな内装が特徴的な客席と、その奥にはヴィンテージのスタインウェイのピアノが置かれたステージがある。広すぎず、マイクレス、アンプラグドで音楽を届けるにはちょうどいい空間といったところだ。

今夜のアクトは、ジャズシンガーの青木カレン。ギタリストの田辺充邦とのデュオという、非常にミニマムな編成だ。彼らのコラボレーションは随分前から行われているが、一昨年に初めてデュオ編成でレコーディングしたアルバム『mellow』をリリースした。あの作品の雰囲気でライヴが行われるのかと思うと、期待が高まるばかり。客席の後ろからステージへと、にこやかに登場し、颯爽と演奏を始める青木と田辺。

一曲目は「Gee, Baby, Ain’t I Good to You」。ナット・キング・コールがヒットさせたスタンダードだ。ギターと歌というシンプルなアンサンブルによって、楽曲が持つ言葉やメロディの良さが引き立つのがわかる。しっかりと旋律をなぞりながらも、トーンの強弱や微妙なニュアンスによって楽曲に表情を付けていく。歌の合間を縫うように、自在にリズムとハーモニーを織り上げていくギターも見事だ。2曲目の「Crazy He Calls Me」が始まる頃には、すっかり心地よい空間ができあがっていた。

青木カレンはジャズシンガーであるとはいえ、スタンダードばかりではなくオリジナル楽曲のレパートリーも数多い。この日も「幼い頃を思い出して作った」と紹介した「Back In The Days」。そして、その曲とリンクするかのように、カーペンターズで有名な「Close To You」を披露。彼女は歌う楽曲の歌詞の意味を丁寧に説明してくれる。だから、レパートリーが古いスタンダードであっても、最近作ったオリジナルであっても、素直にその世界に自然と引き込まれていくのだ。

また「ラテンダンスの教室に行ってみた」という話からスウィンギンな「Love For Sale」を披露するなど、茶目っ気のあるキャラクターも彼女の意外な一面だ。これまたしゃべり始めると止まらない田辺との、漫才のような掛け合いトークも面白い。時事ネタを挟みつつ、青木が初めて人前でジャズを歌った時に、偶然にも田辺が出くわしたというレアなエピソードも。笑いに満ちたトークだったが、その裏には二人の信頼感を感じ取ることができた。

歌とギターという編成は、シンプルなだけに楽曲によって表情もかなり変化する。「Cry Me A River」のように迫力のあるバラードを熱唱したかと思えば、「Again」では可憐な雰囲気で会場を和やかにさせてくれる。夏らしくボサノヴァの名曲「One Note Samba」を歌うなど、ジャンルやサウンドもヴァラエティに富んでおり、観る者を飽きさせない。歌とギターの阿吽の呼吸で作り上げていくのもスリリングだし、デュオでステージに立つことの必然性もしっかりと感じられる。夏の歌ということで「Summertime」をスタンディング&ハンドマイクでエモーショナルに歌い上げたあと、チャップリンの優しい旋律の名曲「Smile」で、およそ90分のライヴは幕を閉じた。

終演後に、青木カレン、田辺充邦のふたりに少しだけ話を聴くことができたので、ここからはそのインタビューをお届けする。

青木カレン 田辺充邦 DUO LIVE@THEGLEE――ショートインタビュー

――お二人での演奏というとアルバム『mellow』が素敵でしたが、ライヴではさらに息が合っているように感じました。

青木カレン「田辺さんって、私をジャズに立ち返らせてくれる人なんです。いつも自分の声のどの部分が鳴ってるかを考えながら歌っているんですが、ギターもどう弾けばどう響くかということを考えないといけないので、実は同じことをやっているんです。だからお互いの響きや波長を合わせないといけないんだけれど、田辺さんもその感覚が同じなので、そこがぴったりはまるんです」

田辺充邦「ギターとのデュオで歌うってすごく難しいんですけれど、カレンちゃんはそこにしっかりと応えてくれる。昔から一貫して全然ぶれない人ですよね。安定しているからこそ、僕はいつも好き勝手に自由に演奏させてもらってます。今日もかなり即興でアレンジしてしまいましたが、何やっても動じないですからね(笑)」

――THEGLEEでのライヴはどうですか?

青木「何度もお世話になってますが、ここは本当にやりやすいんですよ。お互いの音がよく聴こえるので。生音がとても響くんですよね」

田辺「ギターの音もいい感じに作ってくれるので、気分がすごく乗るんです。気分が乗ると演奏も良くなりますからね。結果的に良いライヴになります」

――今後、デュオとしてどんなライヴをしていきたいと考えていますか?

青木「まだまだ完成されていないと思っているので、もっと新しいトライをしていきたいですね。ライヴの場にいるお客さんひとりでも穏やかな気持ちになってくれたらいいなと思っています」

田辺「カレンちゃんは一緒に演奏する度にどんどん進化しているんですよ。僕にとっても彼女の成長が楽しみです」

(おわり)

取材・文/栗本 斉
写真/柴田ひろあき
編集/高橋 豊

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What's THEGLEE?ーー楽器のサウンドホールのように

神楽坂 THEGLEE。ライブハウスというよりも、音楽堂やレコーディングスタジオといった佇まいは、神楽坂というロケーションも相俟って、そこを訪れるひとびとを――観客のみならず演者もだ――魅了する。ステージと客席の距離感も、精密にデッドニングされたフロアも素晴らしい。

そんな得難い“ハコ”のディティールをTHEGLEEのスタッフに語ってもらった。

「THEGLEEは、マイクレスでも歌い手が気持よく歌えて、聴き手が気持ちよく聴こえるように、1台の楽器――アコースティック・ギターのサウンドホール――のような響きをイメージして設計されています」とTHEGLEEのプロデューサー、中村正美氏。「渡辺香津美さんや阿川泰子さん、野呂一生さん、村上“ポンタ”秀一さんにも出演していただいたことがあります。特にクラシックやジャズじゃなきゃダメということはないのですが、やはりアコースティック系のミュージシャンの方がたに気に入っていただいているようです。今日の青木カレンさんと田辺充邦さんもそうですが、リピートしてくださる演者さんはみんな歌いやすい、演奏しやすいと言ってくれますね」というエピソードに膝を打つ。

THEGLEEホールマネージャー兼ディレクター、そして音響/配信エンジニアでもある長谷川龍兵氏。いわく「レコーディング・スタジオと同等の音響設計はもちろん、ハコの機能として配信に対応した機材とスタッフを常設しているのがTHEGLEEの強みですね」。

THEGLEE(ザ・グリー)

東京都新宿区神楽坂3-4 AYビルB1F
TEL/03-5261-3123

THEGLEEオフィシャルサイト

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