いい歌でありさえすれば必ずヒットする。
これが歌の本来あるべき姿です。しかし、現実は強力なタイアップが付いていなければ売れない時代です。いかがなものか?と思います。この風潮に私はあえてアンチテーゼを投げかけたい。いい歌は売れるべきだし、たくさんの人たちに聴いてもらいたい。そんな“音楽愛”が私のポリシーです。
音楽評論家の富澤一誠です。
いい歌を見つけて紹介するのが私の仕事です。声質のことを「声のルックス」と私は呼んでいますが、「声のルックスが美人」なほど注目度は高いという訳です。
「声のルックスが美人」というキャッチコピーは私が考えたものですが、実はこのキャッチコピーは、井上あずみさんのために作ったものです。その意味では、元祖<声のルックスが美人>は井上あずみさんなのです。それは「君をのせて」を聴いていただくと一聴瞭然でしょう。ということで、今回のゲストは<声のルックスが抜群の美人!>井上あずみさんです。
“声のルックス”が抜群に美人!!
まずはこの文章を読んでいただきたい。手前みそで恐縮ですが、これは37年程前に書いた私の評論ですが、我ながら言い得て妙ではないかと自負しています。特に、声の良さを<声のルックスが美人>というキャッチコピーにしたあたりはなかなか斬新だと言っていいでしょう。
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顔のルックスに良し悪しがあるように、声にも良し悪しがある。声の良し悪し――従来はそれを“声質”の良し悪し、という呼び方をしていたが、ぼくは“声質”のことを“声のルックス”と呼ぶことにしている。その方がぴったりとくるからである。
井上あずみの歌を初めて聴いたとき、声のルックスが抜群にいい、とびっくりした。特に哀愁を帯びた伸びのあるハイトーンには背筋がゾクーッとしたほどだ。そのときぼくは、彼女は“声のルックス”がいいという天性の素質を持っている貴重なシンガーである、という判断を下した。
彼女は現在21歳。デビューは18歳のときで“アイドル歌手”だった。1年半ほどの間にシングル3枚とアルバム1枚を出したが、アイドル歌手としてはうまくいかなかった。いうなら“挫折”を彼女は味わってしまったのだ。そのとき彼女は19歳。たった1年半の間で“夢”が現実の前でしぼんでしまった。そして今年の8月に徳間ジャパンから「君をのせて」で再デビューするまでの2年間は彼女にとってイバラの日々だった。
「歌をやめて女優をめざそうと思ったこともありましたが、何か淋しいんですよね。やっぱり私はうたっているときが一番楽しいと感じたとき、本気で歌をやりたいと思いました」
このとき彼女には自分が何者なのか、明確にわかったはずだ。“歌手”としてやりたい、そう思ったとき、彼女は本気で歌が上手くなりたいと思い努力しようと決めた。アイドル歌手時代の彼女はスケジュールをこなすことに精一杯で流されていた。声のルックスがいいという“素質”にだけ頼っていたともいえるだろう。そんな彼女が努力を始めたのだ。素質は努力によって開花し、声のルックスはさらに美人となった。ニュー・シングル「悲しみが許せない」――彼女の将来性を期待させるに足る素晴らしい歌だ。
井上あずみ、彼女の良さはぼくが保証する。
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これは井上あずみが1986年11月25日に発売したシングル「悲しみが許せない」のために書いた推薦文ですが、今から37年程前に書かれたものとは思えないほどのリアリティーがある、と思うのは私だけではないでしょう。
“声のルックス”がいいという“素質”を努力して磨いたからこそ、彼女は今、オンリーワンとして存在しているのです。どう努力したのか? それは今回のロング・インタビューを聴いてほしい。
37年経ってやっと「井上あずみ、彼女の良さはぼくが保証する。」という宣言が本当だったことが証明されました。こんな音楽評論家冥利に尽きることはありません。
これは37年程前に書いた推薦文に対する私のアンサーでもあるのです。
radio encore「富澤一誠のこんないい歌、聴かなきゃ損!」 第14回 「声のルックスが美人」 井上あずみさん
「こんないい歌、聴かなきゃ損!(音声版)」第14回目のゲストには「元祖・声のルックスが美人」井上あずみさんをお迎えしてお送りします。番組中ではデビュー時から現在までの変遷や、歌にかける想いなど、ここでしか聴くことができない貴重なお話が満載です。富澤一誠さんとの軽妙な掛け合いをぜひお楽しみください。
井上あずみ
石川県金沢市出身。83年デビュー。
86年、スタシオジブリ・宮﨑駿監督作品「天空の城ラピュタ」ED挿入歌「君をのせて」に抜擢され、澄み切った歌声と確かな歌唱力で一躍注目を集める。
続く「となりのトトロ」では「さんぽ」「となりのトトロ」「おかあさん」「まいご」など、主題歌・イメージソングを数多く歌い、「魔女の宅急便」でもヴォーカルアルバムに参加、「めぐる季節」や「魔法のぬくもり」などを歌唱する。
毎年全国各地で開催するファミリーコンサートが人気を集め、学校教科書掲載曲「ビリーブ」、NHKみんなのうたテーマ曲「ハーモニー」、ピーターラビット公式イメージソング「キミが大好き」、世界名作劇場「こんにちはアン」テーマ曲、ぎふ清流国体テーマ曲など、家族で楽しめるファミリーソングになくてはならない存在として老若男女問わず幅広い世代に支持を受ける。
2012年2月、当時7才の実娘ゆーゆがNHKみんなのうた「6さいのばらーど」で歌手デビュー。
番組にリクエストか殺到し、異例の7ヶ月連続再放送となり、親子コンサートも話題に。
歌手デビュー30周年を記念して2013年10月に発売されたベストアルバム「セレブレイション」には、さだまさし氏書き下ろしの新曲「愛の本当のこと」を収録、親から子へ綿々と受け継がれてゆく愛情を切々と歌い新境地を見せる。
2015年は中国・北京に始まり、台湾、ロシア・サンクトペテルブルグ、フランス・パリJAPAN EXPOと海外公演にも積極的に取り組み、2015年12月〜1月にかけて初の中国ツアー(ホール10カ所)を開催した。その後もナポリ、ロンドン、ポーランド、サンフランシスコ、バルセロナなど各地のフェスに出演。
2023年、歌手デビュー40周年を迎える。
富澤一誠
1951年、長野県須坂市生まれ。70年、東大文Ⅲ入学。71年、在学中に音楽雑誌への投稿を機に音楽評論家として活動開始し、Jポップ専門の評論家として50年のキャリアを持つ。レコード大賞審査員、同アルバム賞委員長、同常任実行委員、日本作詩大賞審査委員長を歴任し、現在尚美学園大学副学長及び尚美ミュージックカレッジ専門学校客員教授なども務めている。また「わかり易いキャッチコピーを駆使して音楽を語る音楽評論家」としてラジオ・パーソナリティー、テレビ・コメンテーターとしても活躍中。現在FM NACK5〈Age Free Music!〉(毎週木曜日24時から25時オンエア)、InterFM〈富澤一誠のAge Free Music~大人の音楽〉(毎月最終水曜日25時から26時オンエア)パーソナリティー。また「松山千春・さすらいの青春」「さだまさし・終りなき夢」「俺の井上陽水」「フォーク名曲事典300曲」「『こころの旅』を歌いながら」「私の青春四小節~音楽を熱く語る!」など著書多数。