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2020.09.23

saji『花火の詩』インタビュー――曲名がちゃんと記号になるような

季節や情景、人への想い。そうしたリアルを優しいアレンジで昇華してみせるsaji。前身のphatmans after schoolからバンド名を変じて約1年。架空の短編小説集をイメージしたミニアルバム『花火の詩』を聴きながら、sajiのバンド論を紐解く。

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――改名してからほぼ1年ですが、もうsajiってバンドネームは身につきましたか?

ユタニシンヤ「そうですね。MCでも最初の頃はsajiじゃなくて“ファ…”まで言ってたりしましたけど(笑)、最近はもう慣れました」

――sajiってスプーンの匙からきているんですね。

ヨシダタクミ「そうです“銀の匙”のさじです」

――前回が「ハロー、エイプリル」、今回が「花火の詩」。すごく季節感があります。

ヨシダ「時節柄みたいなものを前身バンドのphatmans after schoolのときってやってないんですよ。タイミングに応じたものを意識してなかったんですけど、sajiになってからは結構シーズンカラー的なものも紐づけるようになりましたね」

――曲作りのスタンスは変化しましたか?

ヨシダ「僕が詞曲書くんですけど、書く上での姿勢というか、パフォーマンスの仕方はちょっと変わりましたね。昔って曲がたまったら出してたんですよ。でも今ってそこに合わせて出すっていう方法になったので、ある種、自分の曲ではあるけど書き下ろしにトライしてるので」

――テーマに向けて書く?

ヨシダ「ほんとそうですね。夏の終わりなら花火だろうとか、夏といえば何だろう、じゃあ恋愛がテーマかな……とか」




――前作のインタビューを拝見したんですが、ヨシダさんはsajiになってからミックスを聴かなくなったそうで。

ヨシダ「聴かなくなりました。ほんとに(笑)。今日も裏でミックスしてますよ、別の新曲」

――メンバーみんなそうなんですか?

ユタニ「そうですね、お任せしてます」

ヨシダ「割と言いたくなるじゃないですか、バランスとか。例えば僕は歌だから歌聴かせたいし、ベースのよっしーであれば“ベースこうしたい”とかあると思うんですけど、最終的に届くところってお客さんなんで。最近は僕らのこだわりの領域からは一歩引いた方がいいよねって風にはしてますね」

――今は、いわゆるソングオリエンテッドなものとしてミックスは任せてるんだなと思って。

ヨシダ「ほんとですね。バンドとしてこの発言をしていいのかわかんないですけど、いわゆるバンドサウンドみたいなものをあまり意識はしなくなりましたね。何をやってもバンドであることは変わらないし」




――バンド云々というよりsajiという名前のもとにある音楽になったんじゃないでしょうか。そして季節にちなんだテーマだと思いますけど、今回、夏の終わりというテーマですぐ曲はできましたか?

ヨシダ「今回に関していうと、リードの「三角の恋」なんかは“あ、リード曲にしたいな”と思って、割とすぐ書き下ろしました」

――いわゆる三角関係なんだけど、「三角の恋」っていう語彙が可愛いですね。

ヨシダ「ダサいっすよね。僕、結構ダサいの好きなんです」

――ダサいと言うより三角の恋っていうニュアンスが若い女性にはしっくり来る言葉選びなのでは?

ヨシダ「それでいうとさっきの話にちょっと戻りますけど、phatmans after school時代と今で明確に違うのはタイトルのネーミングをみんなの印象に残りやすいダサさというか、砕けた感じにするようにはしましたね。sajiって名前がシンプルなので。phatmansって読めないから印象に残るタイトルが多かったんですけど、それがいったん抜けて、曲名がちゃんと記号になるようなものにするようにしましたね」

――この「三角の恋」は一人称が“わたし”ですけど、曲が始まる段階では男性か女性かわからないんですよね。

ヨシダ「僕、初めて“わたし”って歌ったんですけど、曲の中で。ま、物語の主人公は女の子なんです。ただ、“わたし”って歌いながらも僕は男なので、男の僕が“わたし”って歌って、違和感のない範囲の歌詞には留めるようにしてますね」




――今回のミニアルバムも複数のアレンジャーが参加していて、ピアノやストリングスが効果的な印象です。それぞれプレーヤーがいるんですか?それともヨシダさんが打ち込んでるんですか?

ヨシダ「もともと僕が打ち込んでますけど、「三角の恋」に関してはストリングスをリードにしたのもあり、アレンジャーの提案ですね。最初、僕、やだって言ったんです。ギターから始めたいって。ちょっと話が飛びますけど、もともと僕、THE BLUE HEARTSが好きなので、ちょっと「青空」って曲みたいにギターから始めたいですって言ったんですけど、アレンジャーとディレクターが“生のストリングス入れるから。そしたら絶対よくなるからやらせてくれ”って言われて。基本的に相手がすごい熱意を持って言ってくれると譲るんで。そんなに曲に対して真摯に向き合ってくれるんだったらお任せしますと。で、入れてみたらすごくドラマチックになったので、そこはやっぱり委ねて良かったと思いますね」

――大袈裟というかベタなストリングスじゃないですよね?

ヨシダ「これはバイオリンがリードで鳴ってるんですけど、これが例えば小編成でいわゆるみんなが思うオーケストラっぽいのが入っていたら、断ったと思うんですよ。バイオリン・リードって言ってちょっと歌と掛け合うっていうので入ってたんで、それは面白いなと思って」

――内容的にもマッチしてるし。

ヨシダ「バイオリンの独奏の感じが切ないんですよ。いわゆるこの主人公のソロなので」

――なるほど。後半にビートが抜けるところもふっと情景が変わっていいですね。

ヨシダ「掛け合いするけど、この曲って楽器のアンサンブル混ざらないんですよ。だからバイオリン動いてるけど、僕らはついて行かないし、僕のギターもずっとチャラーンって鳴ってるだけ。だから三重奏にならないアプローチなんですよ。それがすごいなと思いましたね」




――確かに。続く「ハナビノウタ」は臨場感がありますね。まさに花火大会。

ヨシダ「これ地元の帯広の歌なんです。歌詞の中に出てくるワードもハルニレの木とか白樺とかで、北海道の木なんです。しかもハルニレは帯広駅っていうところに立ってる木なんで。なんかこのタイミングでちょっと……地元の歌を一回も歌ったことなかったんで、一回書きたいなと思って書きましたね」

――歌詞を聞くとロケーションはピンとくるんですか?

ユタニ「僕も帯広なんですけど、これたぶんあそこだろうなとかわかります」

――こういう歌詞をヨシダさんが書くことに意外性はありました?

ユタニ「そうですね。こう、歌詞入れの時に知らなかったんですけど、“実はこれ帯広の曲だから歌詞ちゃんと見てみて”って感じで言われて、“おお!今回帯広の曲書いたんだ?”みたいな。そういう意味でいうと驚きはありました」

――この楽曲は絶妙な場所で転調するのがポイントで。

ヨシダ「そうですね。サビでポンと上がるので」

――面白い構成ですね。気持ちが転調とともに跳躍する。

ヨシダ「ありがとうございます。これもメンバーに言ったことないですけど、サビ転調にした理由って、花火って打ち上がると早いんですよ。だから花火ってワードが出るタイミングではもう打ち上がりたいなと思って、転調して上がったんですよ。で、そこから先の場面は転調を戻さなくて、転調した後の高さのまま進んでいくんですよ。理由としては花火が上がったのを見た後の話なので。sajiになってからはそういうことを歌詞に沿ってやったりするようになりましたね」

――時間経過とともに自分の気持ちも盛り上がるし。

ヨシダ「花火大会自体が夕方過ぎからなので。最初着いて花火上がる前は席取りしたり、暗い中でざわついて、花火が上がるとみんな気持ちがそこに向くんで」

――上がるまでは現実的なことでバタバタしますからね(笑)。

ヨシダ「“遠いなあ”とか……この花火大会も今年は中止になっちゃいましたけど、人、めちゃくちゃ来るんで。トイレが空いてないんですよ。さすがに歌詞の中に“トイレ待ち”ってワードは書けなかったけど(笑)」

ユタニ「ははは!」

ヨシダ「ほんともうフェスみたいになってて。近所のコンビニもトイレだけすごい長い列になってて」

――そういうめんどくさいことも込みで花火大会にいっしょに行く醍醐味って感じがします。

ヨシダ「確かに冷静になって考えるとしんどいはずなんですけどね(笑)」




――ところで今回のミニアルバムの中でsajiとして新しいことができた楽曲はありますか?

ヨシダ「やっぱりリード曲の「三角の恋」が僕に取ってはいちばんキーになると思いますけどね」

――それは主人公の描き方?

ヨシダ「そうですね。歌詞の中身もストーリーをちゃんと織り込みましたし、さっき言ったように、楽曲のサウンドアプローチを歌詞に寄り添ってやっていくっていうのが自分たちの中で非常に画期的だったし」

――6曲目の「STAR LIGHT」は全体のアンビエンスが新しい。

ヨシダ「ちょっと他の5曲とは雰囲気が違って、アンビエントな感じにしたんですよ。空気感をすごく強調しながら、歌詞の中身も今回のアルバムでいちばん好きなのは「STAR LIGHT」なので。決してテンションの高い終わり方ではないし。言ってしまえばじんわりと終わるような曲ではあるんですけど、それはすごき好きですね」

――他の曲が夏のいろんな場面であるのに対して、「STAR LIGHT」はこれからも続いていく感じがあります。

ヨシダ「これプロポーズの曲なんです。でもこの主人公は好きって言わないんですよ」

――日々の積み重ねや気配で伝えようと?

ヨシダ「そうです。言葉で自分の思いを示すタイプではなくて、君とこうやって僕が一日一日いるということはそれはとりも直さず、君のことが好きだからだよ、もう日々の積み重ねで体現しているよ、と。この主人公はほんとにそういうこと言えないタイプなんだろうなと思うんですけどね。でも主人公にとっては最大限のプロポーズなんですよ。この歌が。“ずっといっしょに長生きしようぜ”みたいな」

――歌詞にあるように“今日という日を一緒に描こう”っていうので精一杯みたいな?

ヨシダ「ほんとにそうです。他の5曲の主人公とは全然違うんです」




――お二人はいかがですか?

ユタニ「僕も「三角の恋」ですかね。ストリングスのアレンジだったり、よりドラマチックな表現ができたんじゃないかなと」

――ギターやベースがすごく鳴ってるというわけでもなく、どの曲も効果的に入ってる感じですね。ヤマザキさんはいかがですか?

ヤマザキヨシミツ「アルバムの中にこんなにスローテンポの曲が並ぶってあんまなくて。そのスローテンポの中でも飽きないじゃないですけど1曲ごとに違う色にしたいなって意識してやりましたね。こういう曲だったらやらないだろうなってことも敢えて――ここにベースがふだんいないけど入れてみたりとか――そういったチャレンジはしましたね。「三角の恋」とか、「アサガオ」のAメロとか」

――こうしてsajiの今の曲を聴いていると、バンドって最初に組んだ頃と同じことを続けてればいいというものでもないなと感じます。

ヨシダ「難しいですね。正直、それは聴く人の受け取りようで。同じことをずっとやってて欲しいファンもいるだろうし。こんなことインタビューでいう話ではないんですけど、僕はいろんな曲、外の仕事も含めて、書かせていただく機会が多い分、器用貧乏みたいな人っていちばん受け入れづらいんです。何でも食えるお店って行きたいタイミングないじゃないですか」

――ああ、何が売りなのかわからないから?

ヨシダ「そうなんです。だから僕は寿司が食べたければ寿司が美味しい店に行きたいし、焼肉が食べたければ、牛タンが美味い店に行きたいんだけど、自分が仕事の中でやってることは果たしてどうなんだろうか?ってことはずっとジレンマであって。sajiになってからいわゆる恋愛であったり、ひとつのテーマが軸で出させてもらう機会が多くて。前の作品もそうだし、今回もバラードだし、それが僕の中でメインの鍵になってくれればいいなと思いますね」

――それでこそちゃんと暖簾を出せる店になる?

ヨシダ「ほんとそうです。何が食べたくて来るのか?っていうのを占いたい。いろいろ考えながらやってるんです。でも“昔の方が良かったな”って言われて、合わせて“じゃあこういう曲書きました”って言って売れた人知らないですからね。やっぱ無理なんでしょうね」



――今、徐々にsajiの音楽に気づいて、その人たちが聴きたい時間、聴きたい場所で聴くという風に新たに広がりつつあるんじゃないですか?

ヨシダ「そうだと思います。全員が幸せになることなんてありえないですから。この人が救えるのはこの人だけっていう時代だと思うんです。僕はまだ誰も救ってないんで、誰かを救えるようになってから、初めて“僕ら”になるんじゃないでしょうか」

――そこでヨシダさんの今の鍵がバンドsajiの存在意義にもなると。

ヨシダ「前の「シュガーオレンジ」が街鳴りでたくさん流していただいて、いろんな人に届いて。それは僕らの知りえないところで今も届いているし。今はもっといい曲を書くってことをバンドとしては考えてますね」

(おわり)

取材・文/石角友香
写真/いのうえようへい




■「saji 2nd Mini Album『花火の詩』発売記念生放送特番@SHOWROOM」
9月23日(水)19:00配信開始




saji
saji『花火の詩』
2020年9月23日(水)発売
KICS-3950/2,000円(税別)
キングレコード




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