大人が心地良く滞在できる「もう一つの居場所」

「新業態の開発はトウキョウベースにとって常に使命としてあり、毎年2~3業態のペースでの事業化を目指している」と「キータイムズ」ディレクターの小林陽平さんはいう。特に2020年代に入ってからは活発で、セレクト型コミュニティーストアの「THE TOKYO」やスポーツにフィーチャーした「A+TOKYO(エープラストウキョウ)」、世代・性別・テイストに縛られないミックスMDを展開する「CONZ(コンズ)」、東京ブランドに特化したプロダクトによるスーベニアショップ「JAPAN EDITION(ジャパンエディション)」、ウィメンズブランド「RITAN(リタン)」と、続々と新業態を誕生させてきた。満を持して今年3月に始動させたのが、トウキョウベースとして初めて本格参入するカジュアル市場に向けた新セレクトショップ業態「キータイムズ」だ。

「キータイムズ」ディレクターの小林陽平さん

「トウキョウベースはモードな服を軸に日本ブランドの価値を発信してきました。カジュアルの提案においてもスタンスは同様です。日常に落とし込み過ぎてどこでも買えるものにしてしまっては、取り組む意味がありません。商品や接客、空間も含めて『ここで買ってよかった』『この人から買ってよかった』『こういう服は持っていなかったけど、いいな』と感じてほしい。そういう体験や挑戦ができる場としてキータイムズを構想しました」と小林さん。その考え方から導き出したのが、「日常と特別の境界にある“価値あるひととき”を提案するセレクトショップ」というコンセプトだ。「日々の延長線上にありながら、ほんの少し気持ちが高まる瞬間。その『あいだ』を豊かにするスタイルを提案」へ向け、ショップも服を際立たせるステュディオスなどのモノトーンで統一された空間ではなく、来店客にとっての居心地の良さ、大人が心地良く滞在できる「もう一つの居場所」を目指した。
ショップのデザイン・設計はファッションブランドや宿泊施設、飲食店など多様な空間を手掛けてきたSO,u co.,ltd.(ソウユウ)が担当。都市の喧騒から少しだけ距離を置いた、緩やかな時間が流れる「別荘」のイメージを体現した。

ルミネ新宿2の3階にオープンした「キータイムズ新宿」

3月12日にオープンしたキータイムズ新宿はルミネ新宿2の3階フロアに立地し、売り場面積は約170㎡。ウッドが印象的な空間の正面右がウィメンズ、左がメンズで構成されている。ウィメンズのファサードは前庭のような開放的な空間を備え、それを囲みながら正面左のメンズのファサードへと石を敷き詰めたラインが小川のように伸びていく。随所にグリーンが配置され、自然が身近に感じられる。店内は木の温もりや柔らかな照明がリラックスした空気感を生み、ラックなどの什器も「余白」を生かして配置することで、洗練されていながらゆったりと回遊できる空間に仕上げた。ウィメンズ売り場とメンズ売り場の間にあるレジカウンター前にはソファを設置したサロンスペースもあり、買い物途中にくつろぐこともできる。

ウィメンズ
エントランス右側はウィメンズの売り場
メンズ売り場のエントランス
ウィメンズではジュエリーも揃える
メンズ売り場
メンズ売り場のエントランス
ソファを配置し、くつろげるスペースも用意
メンズ

新宿店と同じ3月にオープンした表参道ヒルズのメンズ店舗とウィメンズ店舗、グランフロント大阪の店舗は別荘をテーマとしながらも、それぞれに売り場面積や立地特性は異なるため、空間表現も変えている。「地域ごとに新たな別荘をデザイン・設計していくイメージ」と小林さん。今夏に出店するなんばパークスや香港ではどんな別荘を出現させるのか、こちらも注目したい。

  • 表参道ヒルズにオープンした「キータイムズ表参道」(メンズ)
  • 「キータイムズ表参道」(ウィメンズ)
  • グランフロント大阪にオープンした「キータイムズ大阪」

「ある人はメチャクチャ好き、ある人には全く興味が無い」MDを目指す

ファーストシーズンのMDは老舗や気鋭、新進、ファクトリー、アウトドアなど30~40ブランドから店舗の立地に応じてセレクトし、例えば新宿店ではメンズ・ウィメンズとも約20ブランドで構成した。「オープニングなので仮説に基づいたMDではあるのですが、マーケットに寄せ過ぎないことを基本姿勢にしています。万人に刺さるのではなく、ある人はこのラックの服がメチャクチャ好きだけど、別の誰かにとっては全く興味が無い。ブランドごとに個性が際立ち、お客様の反応が明確に出るMDを各店で組んでいきたい」と小林さんは話す。
オープン以降、最も動いているのは「MOMOTARO JEANS(モモタロウジーンズ)」。デニムというと洗いや加工にこだわったものやビンテージがトレンドだが、キータイムズではオリジナルを含め多様なデニムを提案しつつ、メンズでは今春、リジッド(未洗い)に焦点を当てた。「#400 STANDARD WIDE 14.7oz(#400スタンダードワイド14.7オンス)」は太もも部にゆとりを持たせ、膝下にかけて緩やかにテーパードを効かせたオーセンティックなワイドフィットモデルで、深いインディゴと独特な風合いを持つ「特濃 TOKUNO BLUE」、緯糸と経糸に黒糸を使うことでより深みを増したブラックの2色を揃えた。「インディゴもブラックもこんなに濃く作れるんだと思うぐらい濃く、きれいで上品。お客様も『こんなデニムがあるんですね』と驚いていました」と小林さん。4月に新宿店と表参道店でポップアップストアを開催し、同ブランドが持参したミシンで裾直しを提供するサービスも好評を集めた。

「モモタロウジーンズ」(ブラック)
「モモタロウジーンズ」(特濃 TOKUNO BLUE)

ウィメンズでもデニムはカジュアルスタイルのキーアイテムとして重視し、「YANUK(ヤヌーク)」や「TANAKA(タナカ)」などのデニムブランドや気鋭ブランド、キータイムズのオリジナルラインを提案している。今春はヤヌークの動きが活発で、「現代の女性の日常に寄り添って作られたデニムをシルエットもカラーも多様に揃え、一人ひとりのお客様のスタイルアップに向けたサイズピックが共感を得ている」。

ウィメンズもデニムは売れ筋

アメカジスタイルではスーベニアジャケットの老舗、テーラー東洋のスカジャンやベトジャンが人気。「特に表参道店で好調で、日本人のお客様にも海外から来られたお客様にも売れている」という。また、ポーターが17年から展開するカジュアルライン「PORTER CRAG(ポーター クラッグ)」は、ポーターの直営店でも取り扱う店舗は限られ、現在、卸先はキータイムズのみ。ナイロンとコットンの混紡糸を高密度に織り上げたバックサテン製で、製品染めによる深みのある色合いやシワ感、染色後の乾燥工程で生まれるハリのある独特の触感を特徴し、軽量かつ高い収納力も魅力だ。キータイムズではリュックサックやメッセンジャーバッグを展開し、ファッション好きな30~40代の男性客を中心に動いている。「ポーターのバッグを愛用していても『知らなかった』というお客様がいて、その出会いの場になれることに小売業の意義を感じる」と小林さん。

  • テーラー東洋のスカジャン
  • 「ポーター クラッグ」のメッセンジャーバッグ(L)
  • 「ポーター クラッグ」のメッセンジャーバッグ(M)とリュックサック

注目は、上質な生地と確かな縫製技術に定評のあるメンズブランド「CAPTAIN SUNSHINE(キャプテンサンシャイン)」から25年秋冬シーズンにデビューしたウィメンズブランド「TOURNON.(トゥルノン)」。大手セレクトショップでメンズ・ウィメンズのバイヤー、MD、ディレクターを経験した谷口りさがデザインし、自らパターン設計から生地開発にまで関わる妥協の無い服作りによるコレクションを展開する。トラッドをベースにフレンチワークや民族衣装の装飾などから着装を得たディテールを特徴とし、身体を強調しすぎないシルエットや余白のある仕立てによって抜け感と軽やかさを表現。自然体に滲む女性らしさを提案している。コットン100%の強撚糸を使った「COTTON GEORGETTE OVER SHIRTS(コットンジョーゼットオーバーシャツ)」は、シアーな素材感で、軽く、肌触りが良く、アウターとしても着用できるジャケットのような仕立て。ボリュームのある袖が特徴的で、袖口にたっぷり寄せたギャザーにゴムを入れることで、袖丈を調節して半袖シルエットでも着こなせる。低めに配置された大きめのポケットが醸し出す抜け感も魅力だ。

「トゥルノン」

キータイムズのオリジナルレーベルもローンチした。「オリジナルはブランドを作るというよりは、お客様が『この店、いいじゃん』と感じるきっかけになるラインという位置づけ。トウキョウベースが培ってきた国内の生産背景を生かし、素材や縫製など細部にまでこだわって、国内の優れた工場や職人と共に製作しています」と小林さん。「選ぶ目を持つ大人」に向け、「過度な装飾ではなく、本質的な美しさと着心地を追求し、普遍的なデザインと確かな品質を重視」したアイテムをラインナップ。ジャケットやブルゾン、シャツ、ブラウス、ニット、Tシャツ、スエットなど、メンズ・ウィメンズとも15型ほどを展開する。例えば「ロープインディゴオンブレCPOシャツ」は、ロープ染色のインディゴ糸を使用し、オンブレチェックを表現。細かなステッチワークによりカジュアルさを抑え、フラップポケットでアクセントを効かせた。シャツアウターのように羽織れるボックスシルエットも特徴。糸はデニムと同様に中白に染めることで縦落ちによる経年変化を楽しめ、デニムのように自分だけの一着へと育てていけるアイテムだ。

キータイムズオリジナルの「ロープインディゴオンブレCPOシャツ」

ステュディオスを超える100億円規模の事業へ

セレクトもオリジナルも「語り」によって買い物体験をより豊かにするアイテム揃えが強く意識されていることが伺える。店舗によって取り扱うブランドやアイテムは異なるが、先行出店した3店舗は主要ターゲット層の30~40代を中心に幅広い世代を集客している。
新宿店では嬉しい誤算もあった。「CITY TOKYO(シティトウキョウ)」と「PUBLIC TOKYO(パブリックトウキョウ)」が隣接し、小林さんはこれらのMDをキータイムズの立ち上げ前まで担ってきた。「ターミナル立地にあるルミネ新宿2には様々なファッション感度を持ったお客様が来られます。その中で、キータイムズには既存業態に来なかったタイプのお客様が来店されるんですね。おしゃれで、服はいつも自分で選んで買っているという人も多い。接客を通じて一人ひとりに対してブランドやアイテムの背景をしっかりと伝え、コミュニケーションを育んでいくことの大切さを改めて実感しました」という。

パーソナルな関係構築に向けて重視しているのが、実店舗での接客はもとより、トウキョウベース全体で取り組むLINE WORKSによるワン・トゥ・ワンのコミュニケーションだ。「購入した服のコーディネートアドバイス、入荷商品やイベントのお知らせなど様々な情報を提供しながら、関係性を築き、顧客様化を進めていきたい。購入していただけなかった理由を考えることも大切ですが、購入していただけたときこそ、なぜ買ってくださったのか、どんなタイミングで、どう着こなしたいのかなどを考え、そのお客様に相応しいサービスを提供していく。そうしたコミュニケーションができるお客様を増やし、キータイムズの基盤を培っていきたいと考えています」。今後も出店を計画し、将来的にはステュディオスを超える100億円規模の事業へと成長させる考えだ。

写真/遠藤純、トウキョウベース提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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