児童用ランドセルを主軸に鞄業界に新風を送り込んでいる土屋鞄製造所は2015年、創業50年の節目の年に長野県軽井沢市に工房兼店舗を立ち上げた。「工房の拠点を増やす事で、生産力を上げたかったというのが理由のひとつです」と土屋鞄・販促企画部の山田智子さん。
それまで工房は東京都足立区の本店1ヶ所のみだったが、ランドセルをはじめとした商品の販売が増加したというのが理由だそう。
「元々職人から始まった会社という事もあり、体験型店舗や見せる工房を大事にしていて、本店以外にも職人が作業する姿を見られる工房を作りたかったという理由もあります」

山田智子土屋鞄製造所 販促企画部長

2012年、土屋鞄製造所へ入社。販促企画、広報、商品企画などを経て、現在は、土屋鞄ランドセルや大人向け皮革製品ブランドのプロモーション全般を統括している。コロナ渦では、土屋鞄公式Instagramのインスタライブにて、商品や革製品のお手入れ方法などを定期的に配信中。

職人たちの姿が間近に見られるのが、工房併設店舗の魅力

軽井沢という場所を選択したのは、日本と西洋の文化が融合した土地という歴史的背景もあるという。
「革鞄の起源はヨーロッパですし。ただ私たちは日本のものづくりを誇りに思っている点もあって、そういった和洋の文化が融合した場所は相性が良いと思いました」と語る。
「特にランドセルは一生に一本しか持たない物ですから、軽井沢は家族で遊びに行ける場所としてもぴったりですし、体験の場所としても良いですよね。家族の思い出にして欲しいんです」とも。
さらに「東京とのアクセスの良さも選択のひとつ」と山田さん。
「スタッフは職人も含めて現地採用なんです。だから、当初は長野から東京にスタッフが来て修行して、さらに東京から職人が1〜2年、長くて3年、軽井沢に行って指導するという形をとって、今に至っています。東京から軽井沢に"移住したい"という人も出てきていますよ」と、Iターンの流れも生まれているそうだ。
当初、スタッフは70人くらい在駐していたが、現在は長野県佐久市にも工房ができ、約50人弱だそう。

一点一点、手作りされるランドセル

「とにかく居るだけで癒されます」と軽井澤工房の良さを語る。
「森の中の工房という雰囲気ですので、四季の移り変わりを感じられますし、小さいお子さんが広い庭を駆け回って、親御さんがその写真を撮ったり。そういう四季や成長を感じられるのが、軽井沢という場所ならではないでしょうか」とエピソードを話す。
さらに「日本のブランドの要素のひとつとして持つ"季節の移ろい"を繊細に感じ取れますよね。そういう感性は大事ですし、それを体現できる場所だと思います」と続けた。
とは言うものの、やはり冬のシーズンは集客が厳しい。
「もちろんそれは想定をしていました(笑)。その分、ゆっくりと商品を見られますから」と、冬は店舗でゆっくり過ごしてほしいと希望を語る。

紅葉が彩りを添える
ショールームの窓面がまるで額縁のよう

このコロナ下の2年弱、大きな変化はなかったという。
「軽井沢の街としてはインバンドの影響が減ったと聞いていますが、弊社自体は元々それほどインバンドが無かった事もあり、特に変化はないです。逆に、昨年はコロナの状況下で海外に行かなくなった方が軽井沢に来られるようになって、軽井沢自体の集客が一時的に増えたというポジティブな影響がありました」。
また、働き方に関しても、軽井沢の工房とはリモートでやりとりしていた事もあり、変化はなかったと山田さん。
「ただ、体験型の店舗ですので、リアルなイベントの開催が難しかったというのはあります。2021年からは少しずつ大人向けのワークショップを少人数で始めています。子供向けのワークショップに関しては、今後考えていきたいです」とリアルイベントの方向性を語った。

子供たちが、ミシンを体験する機会もある
イベントやワークショップでは、子供たちの笑顔が溢れる

全面ガラス張りで、工房の中が覗けるようになっている軽井沢工房では、ランドセルが届いた子供やランドセルを使い終わった子供から手紙が来る事もあるそう。
「実際に職人が作っている姿を見ているので、"この人たちが作った"という実感が湧いて送ってくださるのだと思います。でも、手紙をいただくと職人にとっても励みになりますし、背筋が伸びますよね。"一人に届く一本"という点に緊張感が生まれると思います。沢山作っていると、どうしても流れ作業になってしまいますから。お店があって、工房がある場所だからこそ成り立つ事なのだと思います」と「見える工房」が職人のモチベーション維持にも繋がっているという。

一人に一つの大切なものがモチベーション維持に繋がる

現在のところ軽井沢規模の工房併設店の予定はない。
「軽井沢もまだ5年で、認知もこれから。顧客や新規のお客様になられる方に実体験していただく事を続けていきたいです」と山田さん。
「ランドセルは一度きりで終わりますが、革小物や大人向けの革鞄などもありますし、その後、お手入れなどで来ていただいて、買い物をしなくても店舗での思い出が増えていけば良いですよね」と語る。

財布などの革小物からバッグまで幅広いアイテムを展開
ランドセルで培った素材と技術を生かして

さらに2015年から大人向けのランドセルも展開しはじめた土屋鞄製造所。
今後はそちらの方にも力を入れていきたいという。
一人に届く一本のランドセルをつくる土屋鞄製造所 軽井澤工房。
大量生産を否定する時代に入ったいま、そこに答えのひとつがあるのかもしれない。

写真提供/土屋鞄製造所
取材・プロフィール写真/久保雅裕(くぼ まさひろ)
取材・文/カネコヒデシ

土屋鞄製造所 軽井澤工房店

住所:長野県北佐久郡軽井沢町発地200
TEL:0267-44-6081
営業時間:10:00-18:00
定休日:火曜日(臨時休業あり)
※お子様向けランドセルのご来店は、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、来店予約制とさせていただいております。ご不便をおかけいたしますが、ご入店の際はマスクの着用・手指のアルコール消毒・検温へのご協力をお願いいたします。
・ご予約は無料です。予約枠には限りがありますので、あらかじめご了承ください。平日の午後は、比較的ゆとりがあります。
・各回入れ替え制となります。

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授・毎日ファッション大賞推薦委員。
繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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カネコヒデシ

メディアディレクター、エディター&ライター、ジャーナリスト、DJ。編集プロダクション「BonVoyage」主宰。WEBマガジン「TYO magazine」編集長&発行人。ニッポンのいい音楽を紹介するプロジェクト「Japanese Soul」主宰。
そのほか、紙&ネットをふくめるさまざまな媒体での編集やライター、音楽を中心とするイベント企画、アパレルブランドのコンサルタント&アドバイザー、モノづくり、ラジオ番組製作&司会、イベントなどの司会、選曲、クラブやバー、カフェなどでのDJなどなど、活動は多岐にわたる。さまざまなメディアを使用した楽しいモノゴトを提案中。バーチャルとリアル、あらゆるメディアを縦横無尽に掛けめぐる仕掛人。

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