木型にこだわり、デザインと履き心地を両立

ペリーコが拠点を置くパドヴァはヴェニスからも近く、中世に建設された教会や大学などの建築物も遺る歴史ある町。ファッション業界では高級婦人靴の産地として知られ、靴作りの技術や素材などが集積された地域だ。このパドヴァで1963年、ペリーコは靴の工房として創業。靴作りのノウハウを蓄積して80年にPELLICO S.r.l. がスタート。日本市場にフィットするラインナップやサイズ展開、それらを可能にする生産プロセスの改善などに取り組み、2004年の日本上陸以来、ファンを獲得し続けている。

ペリーコのオーナー兼デザイナーを務めるルカ・パンパニン氏

ペリーコの靴の魅力は、女性の気持ちに寄り添い、内面から豊かになることを意識したフェミニンでエレガントなデザイン、そしてイタリアらしい鮮やかなカラーリングだ。1足1足のデザインに応じて上質な素材を選び、熟練職人の技術により靴が生み出されている。デザインが気に入っても足に合わなければ足に痛みが出てしまうため、ペリーコでは様々な足の形にフィットするよう、靴の土台となる木型を特に重視し、1シーズンに20もの木型を製作している。ルカ・パンパニン氏がプロトタイプを製作し、ミリ単位で修正を繰り返して完成した木型は、靴ごとにデザインと履き心地を両立させるという役割を担い、それぞれに個性を備えている。一つひとつの木型に付けられた名前は、1足1足に対する作り手の思いを感じさせるだけでなく、履く人にとっては靴への愛着につながっていくのではないだろうか。

例えば、「ANDREA(アンドレア)」はやや広めのワイズに縦長のシルエットが上品なポインテッドトゥ木型、「ANIMA(アニマ)」はつま先の捨て寸を長く、履き口を浅くすることで横幅を細くすることなく足をスリムに見せる。アンドレアは12年秋冬にリリースした木型で、その履き心地の良さは「走れるパンプス」として人気を呼び、ブランドへの認知を一気に広めた。ヒールもまた木型に最も合うサイズや形状を試行錯誤し、履いたときの重心のかかり方を考え抜き、最適なバランスを設計している。さらにサイズは34(21cm)~39(26cm)をハーフピッチで展開し、定番モデルは33(20cm)と40(27cm)も揃える。自分の足に合う木型が分かれば、ハイヒールもフラットシューズも上質でエレガントなスタイルと快適な履き心地を楽しめるということだ。

足をスリムに見せる「アニマ」
「走れるパンプス」と呼ばれた「アンドレア」

こだわりが凝縮されていながら、パンプスで6万~7万円台というプライスレンジも魅力。2万~3万円の一般的な輸入靴の購買層にとっては手を伸ばせば届く価格帯で、ラグジュアリーブランドの靴と比べれば買いやすい。ミドルプライスのブランドが少ない中、価格を上回るクオリティーを備えたペリーコの靴はセレクトショップや百貨店に販路を増やし、幅広い客層を獲得することとなった。

ギャラリーのようにブランドの世界観を体感

直営店を出店したのは14年のこと。現在は東京ミッドタウン日比谷、伊勢丹新宿店、阪急うめだ本店に3店舗を展開している。ペリーコの世界観を最も体現しているのが、18年に出店した東京ミッドタウン日比谷店だ。
日比谷店が立地するのは館の顔となるエントランスフロア。前面を覆うウィンドーにはアイコンモデル「ANELLI(アネッリ)」のホールカットデザインを模したオーバルフレームを配し、象徴的なファサードを構成している。店内は、フロアの建築構造を活かし、曲線を何層にも重ねたインテリアデザインが特徴的だ。2カ所の入り口から入ると、曲線に沿って「ギャラリーを歩くようにPELLICOを体感できる空間」が広がる。売り場中央には壁面に向かってソファが設けられ、来店客は通路からの視線を気にすることなく寛ぎながら、ディスプレイされたプロダクトを絵画を観るように眺めたり、試着することができる。

曲線が印象的なインテリアデザイン
ペリーコ東京ミッドタウン日比谷店

日比谷店のもう一つの特徴は、靴の修理にも対応していることだ。恵比寿を拠点とするリペアショップ「EARTH(アース)」と提携し、靴の修理工房「Atelier PELLICO da EARTH(アトリエ ペリーコ ダ アース)」を売り場に併設。ペリーコの靴はもとより、それ以外にも街中のリペアショップと同様、ウィメンズやメンズを問わず来店客が持参した靴の修理に応じている。特にペリーコの靴は木型からこだわって作られているため、「そのモデルの木型に合ったインソールやヒールなどの交換が最も相応しく、日本の工房に無いパーツは本国の工場と確認し合って取り寄せ、プロの技術で靴を蘇らせることができるのが強み」と、アマンのリテール課 MDセールスマネージャー足立芙弥子さん。顧客はもとより、近隣のビジネスパーソンなど様々な人が相談に訪れ、リピートも多いという。

店内には靴の修理工房を併設
店内には靴の修理工房を併設

25年春夏は8.5cmヒールが登場、新素材も注目

品揃えは、春夏コレクションは12月から2月にかけて毎月、新作が投入され、2月末にはラインナップが出揃う。秋冬物は6月に立ち上がり、8月末には商品が入れ替わる。取材時は25年春夏コレクションが展開されていた。23年に創業60年、24年に日本上陸20年を迎えたことから、ブランドの原点を見直し新たなスタートに臨むという思いを込めて、ペリーコが歴史を刻んできたパドヴァの街にフォーカスしたコレクションとなっている。
25年春夏のテーマは「Riviera del Brenta(リビエラ デル ブレンタ)」。パドヴァの街中を流れるブレンタ川のことだ。伝統的な建築物や季節を彩る花々、晴れた日の澄み渡る空、そしてヴェネツィアへと流れていくブレンタ川……。ペリーコの靴が生み出される土地からインスピレーションを得たコレクションが揃う。

ペリーコの靴が生み出されるパドヴァの街並み

今季の注目は8.5cmヒールのサンダルとパンプス。数シーズン、ペリーコでは高寸ヒールでも8cmまでだったが、より女性を美しく見せる観点から新たな領域を拓いた。華奢なサンダルの美しさが際立つ木型「SUPER(スーパー)」は、足幅を広く、甲を高めにすることで履き心地を確保し、レザーに美しい発色のトマト(赤)カラーのパテント素材を使うことで洗練されたデザインながらコーディネートにアクセントを生む。パンプスならではの美しさが際立つアーモンドトゥの木型「NICLA(ニクラ)」は、クラシカルな表情が印象的。ベーシックなデザインに新しい季節を予感させるミモザなどのカラーが新鮮で、スーパー木型と同様に足幅を広く、甲を高めの作りにすることで重心を安定させ、履き心地の良い一品に仕上げた。

「SUPER サンダル 8.5cm」は3カラーで展開
「SUPER サンダル 8.5cm」は3カラーで展開

毎シーズン提案している「ニューマテリアルコレクション」では今季、3つの新たな素材が登場。「RIGA(リガ)」は、ピッチの狭いモノトーンのストライプがシャープな印象を与え、靴を軽く涼しげに演出する。アイコンモデル「ANELLI FIBBIA(アネッリ フィッビア)」を合わせた「BETA(ベータ)」はアーモンド形のオープントゥ木型で、爽やかさと上品さを感じさせる。ウェッジソールにすることでフラットシューズを履いているような安定感を生む。もう一つは、つま先のシルエットが細身のセミスクエアトゥ木型「VENERE(ベネレ)」。アッパーはモノトーンストライプのリガと艶やかなエナメルのブラックを組み合わせ、上品でフェミニンな表情を生んだ。

「BETA アネッリフィッビア ウェッジソール 4.0cm BLACK/WHITE」。写真奥は「VENERE バックスリング パンプス 1.0cm BLACK」

ブレンタ川からのインスピレーションと呼応したのはデニム素材。カジュアルでありながら大人の女性の洗練された上品さを感じさせる「DENIM VINTAGE(デニムビンテージ)」素材に着目し、8cmヒールのサンダルとパンプスを作り込んだ。サンダルにはクールな印象を演出するポインテッドトゥの「MARINE(マリーネ)」、パンプスには足を美しく見せるポンテッドトゥの「ANIMA(アニマ)」を選んだ。デニムと融合することで、カジュアルにもモードなスタイルにも対応する春夏らしいプロダクトに昇華させている。
「BEL FIORE(ベルフィオーレ)」はイタリア語で美しい花を意味し、パドヴァの街に咲く花々をイメージさせる柄をジャカード織で表現した素材。甲が美しく見える木型「ANIMA(アニマ)」にはバックルをモチーフにした「ANELLI FIBBIA(アネッリフィッビア)」を配し、アーバンな印象のポインテッドトゥ木型「CUORE(クオーレ)」には甲にハートを連想させるカッティングを配した遊び心あふれるデザインを取り入れた。

  • 写真上は「ANIMA アネッリフィッビア パンプス 1.0cm DENIM VINTAGE」、下は「MARINE サンダル 8.0cm DENIM VINTAGE」
  • 「CUORE ミュール 3.5cm FLOWER」
  • 写真上はベルフィオーレの「ANIMA アネッリフィッビア パンプス 1.0cm FLOWER」。左は「BETA アネッリフィッビア ウェッジソール パンプス 4.0cm」、右は「CUORE スウェード ミュール 3.5cm」

春夏の定番モデルも今季は新たなスタイルを提案する。
「CANALE(カナーレ)」は、運河に架かる橋をイメージしたサンダルのシリーズ。甲を包む華奢なデザインはそのままに、今季は広めのワイズで楽に履けるスクエアトゥ木型「SILVER(シルバー)」を採用し、5cmヒールで長時間のお出掛けでも安心の安定感を生んだ。水面から陽光が反射したように優しく輝く素材「RAMONES JEANS(ラモーンズジーンズ)」を使ったものなどにアップデートしている。
イタリア語で線を意味する「LINEA(リネア)」は甲のラインを美しく見せる。流れるようなアッパーの曲線デザインが特徴。セミスクエアトゥのモダンなシルエットと履きやすさで人気を続けている。今季は初めてフラットタイプを導入。オーソドックスなクレイカラーのサンダルは多様なコーディネートにフィットし、暑い時期が長期化している中で新定番になりそうな気配だ。

*画像:リネア ⑥リネア 25年春夏で初めてリリースした「リネア」のフラットタイプ
「SILVER カナーレ サンダル 5.0cm」。写真左はラモーンズジーンズ素材

イタリア語で「小さくて可愛い鍵」の意がある「GANCETTO(ガンチェット)」は今季注目の新たなデザイン。8cmヒールのサンダルに施した上品なゴールドのガンチェットは、ホワイトのレザーとデニムの2タイプで魅せる。

「RIOPEN ガンチェット バックストラップ サンダル」

過去の素材を今に生かすアーカイブコレクションも開始

今後は、過去に人気のあった素材を使い、新たなデザインで生まれ変わらせた「アーカイブコレクション」(数量限定)を展開する。SDGsの取り組みの一つとして、「生産過程でどうしても残ってしまう素材を生かし、新しいコレクションへと生まれ変わらせ、未来へつないでいく」。4月1日からスタートする第1弾では、チェック柄の2タイプとスパンコールタイプをピックアップ。木型は前述の「CUORE(クオーレ)」と、バレエシューズのような丸みを持ったクラシカルなフォルムのラウンドトゥ木型「GOLD(ゴールド)」の2型ずつを揃える。購入客にはミラノ発のスカーフブランド「Dieffe Kinloch(ディエッフェ キンロック)」とのコラボレーションハンカチを進呈する。

スパンコールタイプの「アーカイブコレクション」
今年4月からスタートさせる「アーカイブコレクション」

ディエッフェ キンロックは13年にデビュー。イタリアをはじめ世界各地の都市をモチーフにしたアートなデザインと、イタリアの熟練職人の技術を融合したスカーフやハンカチで高い評価を得ている。ペリーコとのコラボでは2タイプのハンカチを製作した。パドヴァの街並みやペリーコのショップをルカ・パンパニン氏と愛犬、アイコンモデルのアネッリとともに描いたもので、イエローで縁取られた昼間の風景を描いたハンカチは25年春夏コレクションの購入客に先着で進呈し、ベージュの夕方バージョンはアーカイブコレクションの購入客全員へ進呈する。

昼間のパドヴァを描いた「ディエッフェ キンロック」とのコラボレーションハンカチ
昼間のパドヴァを描いた「ディエッフェ キンロック」とのコラボレーションハンカチ
夕方のパドヴァを描いたハンカチはアーカイブコレクションの購入客にプレゼント
夕方のパドヴァを描いたハンカチはアーカイブコレクションの購入客にプレゼント

また、イタリアの老舗スニーカーブランド「SUPERGA(スペルガ)」とのコラボレーションスニーカー第3弾を3月下旬にリリースする。今回のコラボレーションではボリュームソールにアップデート。スペルガの定番モデル「2750」をベースに、履き口などのディテールにジグザグの波打つカットを施し、通常はキャンバス素材が使用される甲の部分には、雨季にも活躍するよう撥水素材を採用。オールホワイトのボディにゴールドハトメを添えたペリーコらしいエレガントなカラーに加え、オールブラックの新色が登場。シルバーのハトメでエッジを効かせている。

スペルガコラボレーション第3弾(ブラック)
スペルガコラボレーション第3弾(ホワイト)

4月中旬以降はペリーコのカジュアルライン「PELLICO SUNNY(ペリーコ サニー)」の新作も入荷予定。10年に始まり、21年からはメンズも展開。シンプルなデザインでスタイリングの汎用性も高いプロダクトが揃う。

「ペリーコ サニー」のメンズシューズ(2024年秋冬)

ウィメンズシューズを軸とするペリーコだが、メンズも加わり、また日比谷店では修理にも対応することで世代やジェンダーを問わず多様な客層を獲得している。ウィメンズにおいてはスニーカートレンドの流れはあるものの、「今、改めてお客様が『ヒールを履きたい』という気持ちを取り戻しつつある」と足立さん。その気持ちに寄り添い、「靴を履く人が内面から輝き、自信につながるようPELLICOを通じてご提案をし続けていきたい」としている。

写真/野﨑慧司、アマン提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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