プロフェッショナルのクリエイションが融合した「クローゼット」

パリゴとは「パリっ子」を表すフランスの俗語。セレクトショップとしてのパリゴは、若い人も年配の人も年代に関係なくファッションを楽しむパリっ子のフィルターを通して国内外から選び抜いた服や雑貨を提案する。メンズ、ウィメンズともに展開してきたが、2023年11月に麻布台ヒルズにウィメンズの旗艦店となる「ル グランド クローゼット ドゥ パリゴ」を出店。作り込んだリュクスな空間にパリゴが得意とする最新鋭のモード、実に約80ブランドを集積し、「エイジレスにファッションを愉しむパワークローゼット」を体現した。このクローゼット型のメンズ業態が、24年4月6日にギンザ シックスにオープンさせた「ル グランド クローゼット ドゥ パリゴ/マン」だ。メンズの特化型も首都圏への出店も初めて、旗艦店と位置づける。
ショップはギンザ シックスの5階に立地し、店舗面積は約150㎡。ミニマルな空間に整然と商品が並ぶ様子はさながら美術館の収蔵庫のよう。エントランス左の壁面のブランドリストには50余りのブランドが表示されているが、常時約100ブランドを集積しているという。商品量の豊富さはパリゴの特徴であり強みだが、圧迫感を感じない。インテリアデザインはグローバルに活躍する、Wonderwall®の片山正通氏が手掛けた。服と空間の関係が心地良く感じられる環境を試行錯誤し、辿り着いたのが「クローゼット」という考え方だった。コンセプトは「架空のコレクターによるプライベートクローゼット」。マニアックなコレクターというペルソナが蒐集した服や小物を愛でる空間だからこそ、調度や照明、音楽、集積の仕方にもこだわり、愛でる空間に相応しい世界観の表現に加え、選びやすさという機能も追求した。それゆえのミニマル、整然なのだ。

ギンザ シックス5階に出店した「ル グランド クローゼット ドゥ パリゴ/マン」

居心地の良さは、照明や音楽による効果も大きい。例えばラックに注ぐ照明は、生地の表情を見せることはもちろん、その商品に近づいたり、手を伸ばしたときに普通なら被ってくる影が出ないよう緻密に設計されている。ムードを醸成したいゾーンでは、しっかりと商品に光を当てつつ、光源は見えないように処理されていたりもする。
店内に流れる音楽は、日本のクラブカルチャーの礎を築いたUnited Future Organization(U.F.O.)の元メンバーで現在はDJ、音楽プロデューサーとして活動する松浦俊夫氏による。オリジナルの音源をシーズンごと、時間帯ごとに制作した。音響システムは、ワールドワイドなミュージシャンの音響プログラムや、坂本龍一のレコーディングやライブのエンジニアを務めたzAk(ザック)氏が担当。何と28ものスピーカーが仕込まれ、店内のどこにいても音楽がほどよい音量で聞こえ、生地やディテールなど詳しい説明を要する商品が並ぶゾーンでは音量を下げるなど細やかな工夫が施されている。
ショップのロゴデザインは、海外ブランドのアートディレクションなどを手掛けるデザイナーの徳尾隆昌氏が担当した。メインロゴはクローゼットを鍵穴から覗く高揚感を、店名のロゴタイプはトロンプルイユによって個性、知性、好奇心を表現した。
「日本トップクラスのプロフェッショナルが参画し、チームになって隅々まで設計しています」とアクセの髙垣道夫専務。目には見えないところまで居心地が良くなる要素がちりばめられ、服のモード感や商品量の豊富さと融合することで開店後は「パリゴ全店の中で最もお客様の滞留時間が長い店舗となっている」という。

台什器の内部にも照明を仕込み、商品を鮮明に見せる
緻密に設計された照明
店頭のロゴタイプ
店内のミラーに配されたメインロゴ。柔らかな光を放っている

「モードデザイナーズ」「ラグジュアリースポーツ」「クラシコイタリア」

架空のクローゼットは、商品のテイストとカテゴリーでスペースが区分され、それでも光や音を含む空間設計によって緩やかにつながっている。ウェアはテイストごとに「モードデザイナーズ」、「ラグジュアリースポーツ」、「クラシコイタリア」に分類され、来店客は自身の好みや興味に応じて足を運ぶことができる。
店頭と店奥の柱周りはラグジュアリースポーツのアイテムで構成。オープニングの店頭では「STONE ISLAND(ストーンアイランド)」にフィーチャーした。モード、ラグジュアリー、ストリートのミクスチャーによる前衛的なスタイルは日本でもファンが急増中で、「知名度が高く、日本のお客様も海外からのお客様も引き込まれるように入店される」という。その隣に配置したのはノルウェーのジュエリーブランド「TOMWOOD(トムウッド)」。リング、ネックレス、ピアスのカテゴリーごとにバリエーションを見せる。ボリューミーでエッジが効いていながらエレガント、ジェンダーレスでコーディネートしやすいデザインが人気のブランドだ。「ストーンアイランドに興味を持って立ち止まり、トムウッドに気づいてその品揃えにハッとして、店頭に表示されたリストでいろんなブランドがあることを知って店内を回遊するお客様が多い」と髙垣専務。一方、店奥の柱周りでは、「CFCL(シーエフシーエル)」のメンズニットコレクションを展開する。リサイクルポリエステルを使い格子状に編んだプルオーバーや、CFCLのアイコンである「FLUTED(フルーテッド)」シリーズのフーディージャケットなど、ニットの可能性を追求する新たなデザインと出会える。

トムウッドのアクセサリーは充実の品揃え
「ストーンアイランド」をディスプレイした店頭の柱周り
店奥の柱周りには人気の「CFCL」
店頭のブランドリスト
店奥の柱周りには人気の「CFCL」

柱周りに置かれた椅子が気になって尋ねると、「架空のコレクターがここに座って、クローゼットの品々を眺め愛でるという設定」という。その視線の先にあるのは、売り場の約半分を占めるモードデザイナーズのゾーンだ。エントランスを入って右側に5列が並び、「手前から奥へと、きれいめから少しずつカジュアルへ移行していくようなレイアウト」。それぞれのラックでは1スパンに1ブランドのジャケットやコート、シャツなどのアイテムが集約され、ラック上の棚には帽子、下には靴と、テイスト別にコーディネートイメージを描けるディプレイになっている。「Neil Barrett(ニールバレット)」があったかと思えば、「UJOH(ウジョー)」が目に入り、「White Mountaineering(ホワイトマウンテニアリング)」にも興味を惹かれたり。別のラックでは、エッジの効いた「TOGA VIRILIS(トーガ ビリリース)」や「yoshio kubo(ヨシオクボ)」を発見したり。さらにラックを移ると、「08sircus(ゼロエイトサーカス)」や「RAINMAKER(レインメーカー)」……。カジュアルテイストが色濃い5つ目のラックが面した壁面にはスニーカーを陳列し、「OAO(オーエーオー)」や「D.A.T.E(デイト)」など別注を含むスポーツラグジュアリーなプロダクトを提案している。

5列のラックで展開する「モードデザイナーズ」
柱周りに置かれた椅子からクローゼットを愛でる
スポーツラグジュアリーなスニーカーを集積

もう半分の売り場に並ぶ台什器はTシャツとポロシャツに絞り込んだ集積となっている。取り扱いブランドからセレクトしたアイテムと並んで、「少しだけ作っている」というオリジナルもある。オリジナルのポロシャツは「せっかく作るなら最高級の生地を使ったベーシックなアイテムで、価格以上の価値を生み出そう」と、ギザの超長綿で採用した。肌触りがとても滑らかで、弾力性がありながら上品な光沢とハリを備えているのが特徴。ミニマルなデザインだが、襟元の生地の切り替え、脇のスリットがさりげないアクセントになっている。黒とブラウン、ネイビーの3色で、価格は2万5300円。コットンではスムース加工を施したオリジナルのTシャツもあり、ベージュやチャコール、グリーン、ネイビーの4色で大人の印象に仕上げた。価格は1万1000円。これらオリジナルとセレクトのTシャツ、ポロシャツが並ぶ什器には引出しがあり、ソックスやショーツをラインナップしている。

引出しを開けるとソックスとショーツのアイテム群
Tシャツとポロシャツをラインナップする台什器
オリジナルのTシャツ
パリゴのオリジナルのポロシャツ

店内最奥はぐっとムードが変わり、チーク材で囲まれたクラシカルな空間が広がる。クラシコイタリアのゾーンには、「押さえるべきブランドをしっかりと揃えつつ、パーティーシーンに着られるスーツ、ドレスっぽいきれいめなもの、よりカジュアルなオフクラシコと言えるようなもの、そしてデニムのカテゴリーに分けています」と髙垣専務は話す。
高級スーツの代名詞的ファクトリーブランド「Belvest(ベルベスト)」をはじめ、ジャケットではビッグメゾンの縫製を手掛けてきた技術力と革新的なデザインで厚い支持を持つ「LARDINI(ラルディーニ)」、卓越したカッティング技術が生み出す立体的なフォルムや斬新な色使いなどが魅力の「TAGLIATORE(タリアトーレ)」、生地も縫製もイタリアにこだわる「eleventy(イレブンティ)」、アウターブランド「TONELLO(トネッロ)」のカジュアルライン「T-JACKET(ティージャケット)」、スポーツテイストのアウターでは「EMMETI(エンメティ)」や「MooRER(ムーレー)」、ニットでは「JOHN SMEDLEY(ジョンスメドレー)」や「ZANONE(ザノーネ)」、シャツではクチュリエ仕立てを貫く「Finamore(フィナモレ)」……。ネクタイやバッグ、靴なども、それぞれのテイストに合わせたものを揃える。デニムは「PT TORINO(ピーティートリノ)」や「REPLAY(リプレイ)」、「YANUK(ヤヌーク)」、「RED CARD TOKYO(レッドカードトーキョー)」など国・地域を問わずセレクトし、クラシコイタリアのカジュアルスタイルをサポートする。

デニムなどカジュアルなアイテムも揃う
店奥はナチュラルでクラシカルな趣のある「クラシコイタリア」
フォーマルシーンに合う小物類も充実

12ブランドと協業したエクスクルーシブアイテム

ギンザ シックス店の開店を記念し、限定アイテムもリリースした。気鋭の12ブランドとコラボレートした実に21アイテムが揃う。
「Tamme(タム)」とは「MILITARY POCKET T-SHIRTS(ミリタリーポケットティーシャツ)」を製作。1950~60年代に英国軍のパラシュート空挺隊で着用されていたシャツをベースに、その特徴であるポケットにこだわった。シャツはマットできれいめなコットン100%製、大ぶりのポケットには別布で襠(まち)を付け、ファスナーで開閉できる。エンメティとはシングルライダースジャケットの人気モデル「JURI(ユリ)」でコラボ。身頃に高級な羊革、袖に山羊革のスエードを使った切り替えのデザインでラグジュアリーかつスポーティーな1着に仕上げた。「MARKAWARE(マーカウエア)」とは定番人気のボックスTをブラッシュアップ。シンプルなデザインに、程よく立ち上がったモックネック、両サイドのスリット、袖口と裾のダブルステッチがさりげなくポイントを作っている。超長綿を使い、カジュアル過ぎない大人な印象を生んだ。他にもウェアでは「TATRAS(タトラス)」や「CULLNI(クルニ)」、「marka(マーカ)」、トーガ ビリリース、ホワイトマウンテニアリング、レインメーカー、レザーグッズでは「L’arcobaleno(ラルコーバレノ)」、靴ではPOLPETTA(ポルペッタ)」との別注がある。
これだけのコラボなのだから限定アイテムを集積したコーナーを設けているかと思いきや、架空のコレクターはそれぞれのテイストごとにクローゼット空間に散りばめている。客はクローゼット内で宝探しをするという愉しみを味わえる。

エンメティとはシングルライダースジャケットで協業
タムとコラボしたミリタリーポケットTシャツ
マーカウエアとのボックスT

次の100年へ、セレクトショップの新たなチャレンジ

開店前から話題を呼んでいたル グランド クローゼット ドゥ パリゴ/マン。オープン前日のレセプションには、ブランドのデザイナーやファッション紙誌などの関係者約400人が詰めかけた。セレクトショップの新たな取り組みに対する期待の大きさが感じられる。

  • 400人近くが来場したレセプションの様子

「メンズに関しては17年に買い付けの方針を見直し、一言で言えば自分がお客様になった感じ方でセレクトすることを強化した」と髙垣専務は話す。並行して、なぜこの商品が売れているのか、商品量はどのぐらいあればより満足していただけるのかなど、顧客データも徹底して分析した。「地に足を着けてお客様と向き合い、お客様が満足するものを究極的に選んでいく。その積み重ねによって、一人ひとりのお客様が歳を重ねても、欲しいと思えるものがたくさんあるというMDへと収斂(しゅうれん)されていった。結果として、コロナ禍を含む22年までの5年間で、増店することなく売上高が毎年30%増を続けることになった」。セレクトショップの原点を追求した先に見出したのが、ル グランド クローゼット ドゥ パリゴ/マンという在り方だ。ギンザ シックスには既にウィメンズのパリゴ、国産デニムを提案する「ジャパンデニム」を出店していたことから、メンズのクローゼット業態の出店に際しては館内や界隈の客層やブランドの動向を分析し、「品揃えの99%がセレクト」という自社の強みを生かすMDを実現した。
運営母体のアクセは広島県尾道市で1925年に「髙垣大安店」として創業し、来年は創業100年を迎える。ル グランド クローゼット ドゥ パリゴは、昨年、麻布台ヒルズに出店したウィメンズ店と合わせ、「次の100年に向けた新たな挑戦のスタート」としている。

写真/遠藤純、アクセ提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディターウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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