坂倉尚子ファーストハンド商品企画・MD・バイヤー

フリークスストアにて店舗勤務を経てバイイングや企画に携わる。2021年より現職。ファーストハンドの全体のブランディングに加え、バイイング・企画・MDと商品全般の業務を担当。

クリエイティブがあってこそ

ファーストハンドは当初、コンセプトに沿ったハイブランド中心のMDだったが、レイヤードミヤシタパークへの出店に伴い、来街者である若い世代を含む多様な客層にとってより身近に感じるMDへと間口を広げた。

商品構成比率はオリジナルとセレクトが半々。

「クリエイティブが最重視で、ファッション、アート、サステイナブルの3軸がある」とMD・バイイングを担う坂倉尚子さんは話す。

オリジナルラインはリサイクルした生地・付属を使ったアイテムを多く展開しているのが特徴。

23年春夏のウィメンズでは、リサイクルポリエステルのチュールを使ったブラウスやワンピース、リサイクルナイロンで編んだリップストップ生地のパンツなどを揃える。

「フェミニンとマニッシュを掛け合わせたスタイリングを提案していく」。

また、ショップの立ち上げ時から継続する「SHIRT Firsthand by 5525gallery(シャツ ファーストハンド バイ ゴーゴーニーゴーギャラリー)」も注目。

「日本のモノづくりを世界と」をコンセプトに多様なブランドと物作りに取り組む「5525gallery」が監修し、「日常着の可能性を拡張する」をコンセプトに、アップサイクルした生地や付属でシャツを中心に展開している。

  • 23年春夏のリサイクルファブリックチュールブラウス(16,500円)
  • リサイクルファブリックチュールキャミワンピース(14,960円)
  • リサイクルナイロンカーゴ(17,600円)
  • リサイクルナイロンワンピース(19,800円)
  • アップサイクルの生地や付属を使う「SHIRT Firsthand by 5525gallery」

セレクトで好評なのは、今、最も旬なブランドの一つ「CFCL(シーエフシーエル)」だ。

3Dコンピューター・ニッティングを核とする時代に左右されない服作り、さらに機能性、環境への配慮、国内素材、トレーサビリティーの追求により、日本のアパレルブランドで初のB Corp認証を取得した。

生産背景の革新や透明性もあるが、何より支持されているのはそのデザイン。

「新作が入るたびに大反響で、即完売になるアイテムもある」という。

デンマークのブランド「GANNI(ガニー)」は、ベーシックでありながら鮮やかな色使いやプレイフルなプリントが特徴で、ウェアはもとより、バッグやシューズなどトータルでコレクションを展開。

自らはサステイナブルを謳っていないが、環境への負荷を最小化する服作りを追求している。

そんな姿勢もブランドへの評価を高め、SNSを通じて世界にファンが急増中だ。

人気ぶりは「店頭でも肌で感じる」という。

23年春夏は「一番人気でエントリーアイテムとなっているカットソー、ちょっと特別な日に着られるドレス、ガニー独自のプリント物などウェアを充実」させている。

  • 「CFCL」のペプラムトップス(37,400円)
  • 「CFCL」のドレス(53,900円)
  • 「ガニー」のTシャツ(14,300円)
  • 「ガニー」のコットンロープベスト(36,300円)

SNSで共感を広げるブランドとの取り組み

21年以降、強化してきたのが、SNSで共感を得ているブランドの導入だ。

シーズンごとの展開はもとより、ポップアップも積極的に企画している。

「NICK GEAR(ニックギア)」はインスタグラムで人気を博しているブランド。

ユーズドやデッドストックのデニムやワークウェアなどの既存製品をカスタマイズし、新たな価値を作り出す。

ブランドを象徴するのは花の刺繍。

ミリタリーアイテムでもフラワー刺繍を施すことで戦争に対するアンチテーゼを表現するなど、ブランドとしての考え方を表明している。

ファーストハンドでは別注アイテムを展開し、発売日には抽選券を配布するほどの行列ができたことも。

22年秋冬はダウンウェアブランド「FIRSTDOWN(ファーストダウン)」とニックギア、ファーストハンドのトリプルコラボによるアウターも好評だった。

既存製品のカスタマイズとフラワー刺繍が特徴の「ニックギア」

同じくインスタグラムで話題を呼んでいるのが「ch!iii(チー)」。

国内外のメゾンも採用している上質なレザーを使い、東京の職人による完全国内生産にこだわったバッグブランドだ。

「自分たちの目が行き届く範囲で職人さんたちと一緒に物作りをしている。そういう背景に感動して導入し、ものすごく人気です」と坂倉さん。

デザイナーの大谷すず子さんのファッションスタイルに共感する女性も多く、「本当に服が好きなんだということが伝わってくる」ことから、22年春夏ではコラボでデニムのフレアパンツやスカートも開発するなど、取り組みが広がっている。

取材時にポップアップを行っていたのは、中目黒のビンテージショップ「olsen vintage(オルセン ヴィンテージ)」。

海外で買い付けたビンテージファッションを、オンラインと不定期開店のショップで販売している。

そのセレクトが「古着だけどモードな着こなしをすごく大切にしていて、今を感じさせる」と21年に取り組みを開始し、今回はクリスマスに合わせたツリーの装飾など演出も共に企画した。

常設やポップアップにより各ブランドからの発信もあり、ファーストハンドを知らなかった人にも認知が広がってきている。

  • 完全国内生産による「チー」のバッグ
  • 「チー」のデザイナー大谷すず子さんとコラボしたデニム
  • 「オルセン ヴィンテージ」のポップアップ

サステイナビリティーの深掘りを

このようなMDを展開する売り場は、空間そのものがサステイナブルを考えるきっかけとなるメッセージを発信している。

服を売る店であることは外観からも分かるが、一緒に視野に入るのが工事現場か製作所にあるようなクレーンやリフト。

中古のハンドリフトやエンジンクレーンにハンガーバーや円形パイプを組み合わせ、什器としての新たな用途とデザインへとアップサイクルした。

売り場の随所には透明のショーケースが配され、中には家電製品や服、鉄骨などの廃棄物がぎっしり。

ケースの側面には、それらに使用されている素材名が英語で記されている。

大量生産・大量廃棄に対する問題提起だ。

そのメッセージに一人ひとりが何を感じるのか。

感じることからサステイナブルにつながる体験をクリエイティブによって生んでいる。

「解体と再構築」をコンセプトに、ハンドワークによる立体造形グループ「ゲルチョップ」が手掛けた。

  • レイヤード ミヤシタパーク2階にある店舗。服とともにクレーンが垣間見える
  • 日用品の廃棄物を使ったオブジェを什器に
  • ソファも廃材をアップサイクル

「什器を念入りにご覧になるお客様や、興味を持って質問をされるお客様が多い」と坂倉さん。

来店客との会話を通じて、「サステイナビリティーへの意識がこの3年間で普及浸透し、当たり前になったと実感しています。だからこそ、より深掘りした取り組みが必要になってきている」と見る。

その一つとして、MDの定番になっているデニムに関しては、生産時のCO2排出量の削減に向けた取り組みをスタートさせた。

「まずはどれだけのCO2を排出しているのか、量を計測している段階。正しく排出量を把握することで、最適な脱炭素へのアプローチを考え、次の商品企画へつなげます。その先に、どこで素材が作られ、縫われ、加工され、どういう経路で店頭に並んでいるのか、トレーサビリティーを追跡できるようにします。そこが今後、業界の一番の課題になっていくと思う」

トレーサビリティーに関しては、ブロックチェーンを活用した仕組みを、フリークスストアが取り組む再生可能エネルギー事業「フリークス電気」の運営者アップデーターと共に構築中だ。

グリーンウォッシュに対する目が厳しくなっている中で、「サステイナブルであることをきちんと証明できるよう、これからの芯になるものを作っていく」と言う。

また、オリジナルのレザーバッグシリーズでは、売り上げの一部を生産国のバングラデシュに寄付してきた。

23年春夏からはより具体的に、現地の教育現場に充てられる応援金として用途を定め、その金額もボールペンの本数に換算して報告する仕組みを整えた。

オリジナルのレザーバッグシリーズ

22年9月のSDGs週間には、日頃から展開しているサステイナブルなモノやコトを凝縮したイベントを実施。

前述のCFCLはもとより、既存の服から新たな服を作るという概念が浸透していなかった00年代初期からアップサイクルによる服作りで世界的に注目される「A LOVE MOVEMENT(ア ラブ ムーブメント)」、廃ガラスをアップサイクルしたプロダクトを展開する「HACOMIDORI(ハコミドリ)」、有害物質を一切使わないシャンプーやハンドソープなどのオーガニックブランド「AUSTIN AUSTIN(オースティンオースティン)」など、衣食住の観点から選りすぐった。

地域に根差した循環型経済の実現を目指す「élab(エラボ)」による、無農薬素材や未使用食材などを使ったお菓子のケータリングも好評で、「食への関心は高く、素材に関する質問が飛び交った」という。

SDGs週間に開催したイベント

コロナ禍でなかなか海外でのバイイングができない中、マーケットとの接点を店のスタッフと試行錯誤してきた。

だからこそ、「国内での物作りを見つめ直す機会にもなった。もっと日本の技術を深掘りして商品企画に載せることはできないか、そこに今、興味がある」と坂倉さん。

22年秋冬ではデニムを大胆に切り替えたツートーンのテーパードパンツを国内の工場と共に作り、好調だ。

今後に向けては、「私にとってファッション業界は子供の頃から憧れて入った世界。今の子供たちも憧れを抱ける業界にしていきたいという思いがあります。ファッションがクリエーションによって人や社会にもたらすエモーショナルな力と、地球環境に優しいサステイナブルな力を兼ね備えたブランドとして、次代につないでいきたい」と思いを話す。

写真/遠藤純、デイトナ・インターナショナル提供
取材・文/久保雅裕

大胆な切り替えと、ほどよいテーパードのシルエットが特徴のデニムパンツ

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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