旗艦店に次ぐ規模の空間に体現した新たなスタイルの世界観

日本に再上陸した2024年秋冬シーズン以降、キャス キッドソンが勢いを増している。コロナ禍でジャパン社が経営破綻し20年に撤退したが、「惜しまれながら」の感は強かった。再上陸してポップアップストアやオンラインストアを展開するや、往年のファンはもとより、新たに興味を持った若い世代など幅広い客層の共感を集めた。翌25年には表参道に旗艦店を出店。その後も関東圏を中心に京都、大阪、福岡と、1年余りでの主要都市に店舗網を拡大した。8店舗目として出店したのが玉川髙島屋S.C.店だ。
店舗は同館の本館2階にあり、売り場面積は137㎡と旗艦店に次ぐ広さを持つ。売り場の全面が通路に沿い、屋外のエスカレーターからのエントランス正面という好立地だ。館は地域の富裕層をはじめとする顧客に加え、近年の大幅改装やエリアの再開発により若年層の流入も増加している。キャス キッドソンもオープン以降、「お客様がとても多く、中心は25~34歳ですがその前後も来店し、世代も幅広い。売り上げが変動しがちな平日も、この店舗は安定している」(スタイリングライフ・ホールディングス キャス キッドソンPRのシモンズ・ティアラさん)と、好調を続けている。

「Cath Kidston玉川髙島屋S.C.店」

店舗空間の設計は、ブランドデザインプロデュースを強みとするクリエイティブ集団で、表参道店も手掛けたジョージクリエイティブカンパニーが担当。「英国で生まれ、お客様と一緒に育んできたキャス キッドソンの魅力をより一層楽しめるワクワク体験が誕生」をテーマに、ブランドの世界観を体現した新たなスタイルの空間を生み出した。
店内には英国のクリエイティブチームが水彩で手描きした「アート」を装飾として用い、キャス キッドソンらしさを前面に打ち出す。壁紙にはアーカイブのアートをアップデートした「Bows & Rose(ボウズアンドローズ)」、可愛らしい苺をネイビーでシックに描いた「Strawberry Garden(ストロベリーガーデン)」、英国でもホームコレクションでしか展開していない英国の伝統的な紋章のデザインをキャス キッドソンらしく現代的にアップデートした「Cath Crest(キャスクレスト)」の3種類をセレクト、天井にはキャス キッドソンを象徴するコントラストの効いたストライプを配した。「キャス キッドソンの他店舗では使っていないキャスクレストのアートを使い、少しだけ異なる雰囲気を演出しています」とシモンズさん。ワクワク感が湧く色柄に溢れた明るい空間ながら、深みのあるブラウンのフローリングや木製の棚、淡いカラーリングの什器などを随所に取り入れることで、キャス キッドソンがテーマとするビンテージモダンなムードを醸し出し、館の客層に合った落ち着きを生んだ。

柱周りには「Strawberry Garden」の壁紙
店舗正面から見て右側は通路に面して伸びる売り場

「ギフトエリア×ギフトラップバー」と「アートマルシェ」を新設

ギフトにフォーカスしたのは、「戦略の一つとして強化していきたい分野で、挑戦する価値のある立地への出店が実現した」ことによる。「大切な人を思いながらギフトを選び、キャス キッドソンのアートに触れて笑顔になれる心豊かなショッピング体験を提案」する観点から、バッグはもとより、アパレルやテーブルウエア、ビューティー、ドッグアイテムなどブランドのフルラインナップ約800種類を揃え、新たに「Cath Kidston GIFT(キャス キッドソ ギフト)エリア」と「Gift Wrap Bar(ギフトラップバー)」、アートの背景に流れる物語を伝える「Cath Kidston Art Marche(キャス キッドソン アートマルシェ)」を設けた。

  • オリジナルのテーブルウエア。「Cath Crest」の壁紙を背景に家具(非売品)と共にライフスタイル提案
  • アートがデザインされたハンドクリームも好評
  • ドッグアイテムも扱い、玉川髙島屋S.C.店でも人気

ギフトエリアとギフトラップバーでは、シーズンごとのギフトセレクションや店舗限定のリボンによるラッピングサービスを提供する。玉川髙島屋S.C.からスタートさせたオリジナルのギフトボックス(600円税込)の購入客は、イニシャルとブランドロゴが入った10種類の「イニシャル&ブランドロゴ入りリボン」と、オーガンジー製やギンガムチェック柄などのリボンから、それぞれ一つずつ選べる。自身のイニシャルが無い場合は、キャス キッドソンのアイコン犬スタンリーとロゴ入りのリボンがある。二重のラッピングでより思いのこもったギフトを演出する。

  • 「Cath Kidston GIFTエリア」
  • ギフトボックスはSとMの2サイズ
  • 2種類のリボンを選んでラッピングできる「Gift Wrap Bar」。背景の壁紙は「Bows & Rose」

店舗右側には通路に沿ってキャス キッドソンのシグネチャーストライプを施したテントがずらりと並ぶアートマルシェが展開する。「英国のクリエイティブチームは日々楽しみながら水彩でアートを生み出し、その愛情いっぱいのアートを生かして様々なアイテムがデザインされています。手描きのアートが誕生したストーリーと共に、それが施されたアイテムをゆっくりと楽しんでいただけるのがアートマルシェ」とシモンズさん。同じアートを使っていても、アイテムや切り取られた部分の違いによって変化する表情を楽しめる。オープニングでは、26年春夏コレクションやアーカイブからセレクトした3つのアートにフォーカスした。

通路に面して広がる「Art Marche」

「Queenie’s London(クイニーズロンドン)」は今季の新作アート。ブランドが誕生したロンドンを舞台に、スタンリーをはじめとする犬や猫の仲間たちとロンドンバスや衛兵などをリズミカルに配置した総柄のデザインで、ブランドの歩みを象徴する一作だ。「発売するやすごい人気の柄。クイニーズロンドン柄のミディアムとスモールサイズのブックバッグは今季、ブランド全体で最も売れている」という。
ブックバッグは軽量かつ丈夫なコットン生地をコーティングしたアイコンアイテムで、スモールとラージ、ミディアムの3サイズがある。スモールとラージが圧倒的人気だが、急速に売り上げを伸ばしているのがミディアムサイズだ。「スモールは肩掛けができないのですが、ミディアムはできるんです。また程よい収納量があり、ラージほどかさばらない。肩に掛ければ両手が空いてベビーカーを押せて、マザーバッグとして使いやすいとSNSで紹介され、大変好評です」。
「Hackney Rose(ハックニーローズ)」は、大切な思い出を詰め込んだメモリーボックスの中の宝物にインスピレーションを得たアート。咲き誇るバラにハートを添え、クラシカルでロマンチックなムードを漂わせる。「Hackney Dogs(ハックニードッグス)」は、キャス キッドソンで愛されているキャラクター、ウィペットのバイオレットとコーギーのクイニーがおめかしをしてクッションや椅子の上にちょこんと座る姿が、優しく柔らかなトーンで描かれている。

  • 「Queenie’s London」
  • 「Hackney rose」
  • 「Hackney Dogs」

ブランドの強みを生かし、アートを軸としたVMDを強化へ

玉川髙島屋S.C.店限定の2アイテムも展開する。一つはコットン製のトートバッグ。シグネチャーアートの一つである「Scallop Rose(スカラップローズ)」をアップデートし、淡く上品なグリーンをベースにディテールやロゴにラベンダーを差すことで甘さを抑えつつもフェミニンかつモダンで、「幅広い世代が来店される館で、往年のファンの方々に響き、若い女性も気軽に持てるデザインに仕上げた」。もう一つは同じくコットン製のタオルハンカチ。こちらはピンクをアクセントカラーに使い、より優しい印象だ。店頭では店舗限定のプリザーブドフラワーも展開し、「ギフトに何かもう一点添えたいときのアイテムとして提案している」。

「Scallop Rose」のタオルハンカチ(玉川髙島屋S.C.店限定)
「Scallop Rose」のトートバッグ(玉川髙島屋S.C.店限定)

明るい水色に赤のスカラップが特徴の「Dreamer(ドリーマー)」も推し。昨年、トートバッグとポーチを販売してすぐに完売した人気ぶりから、今年も生産し、店舗限定アイテムと共にメインで打ち出した。ノスタルジックなタッチで描かれた動物たちのアートをスカーフのように表現したデザインは今年も好評で、取材時にはすでにECは完売となっていた。また、26年夏のテーマ「Cath Hotel(キャス ホテル)」を表現したアイテムのコーナーも興味を引く。「架空の島にある架空のホテルで、キャス キッドソンのアートに登場してきた動物たちが遊んでいるというイメージ」がブックバッグやトートバッグなどに体現され、ドラマチックな世界が展開されている。

26年夏のテーマ「Cath Hotel」のアイテム集積
「Dreamer」のトートバッグ

ブランドとしては今後も店舗が無い主要都市への出店を続々と計画している。それと並行して、「ブランドの強みであるアートを軸とした商品展開に力を入れていく」とシモンズさん。アイテムを見ればキャス キッドソンと分かっても、その愛らしいデザインが手描きのアートから生まれていることを知らない人も多くいるからだ。「接客を通じて手描きであることを知るお客様も多いので、8月以降は全店舗でアートを前面に出したVMDを強化します。インポートも日本企画も連動して、その月の推しとなるアートをセレクトし、アイテムを集積して提案していきます。ほぼ毎月、アートを軸に売り場がガラリと変わる。お客様が次はどんなアートが現れるのか楽しみなる空間を作っていきたい」としている。


写真/遠藤純、スタイリングライフ・ホールディングス提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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