ブランドをクルーズする感覚で服作りの可能性を体感

「ISSEY MIYAKE GINZA/442(以下、442)」は地下1階から地上3階の4層で構成され、総売り場面積は約450㎡。空間デザインは吉岡徳仁氏が担当した。

三宅一生氏のもとでデザインを学び、独立後はプロダクトデザインや建築、現代美術と多様な領域で活躍する吉岡氏は、これまでもイッセイ ミヤケの店舗を手掛けてきた。

今回は「革新と再生」がテーマ。革新的な服作りを続けるイッセイ ミヤケのフィロソフィーを体現し、未来的なイメージのミニマルな空間を創出した。

特徴は外壁や店内の壁、什器などに配されたリサイクルアルミニウム。環境に配慮された再生素材で、特殊技術により成形されたものを使っている。

白を基調とした店内にはこのアルミニウムによる壁が帯状に張りめぐらされ、縦横斜めに空間を突き抜けていくデザインが未来を感じさせる。

その空間には、外から大きなウインドー越しに見ると色とりどりの服が浮遊しているかのよう。店内に入ると、それぞれの服の表情、質感が実感される。

カラフルなプリーツアイテムや小物を展開する1階

1階で展開しているのは、イッセイ ミヤケを象徴する「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE(プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケ)」。

糸から素材開発を行い、縫製後にプリーツをかける独自の「製品プリーツ」によるプロダクトはデビュー以来、進化を続けてきた。その最新スタイルと出会える場だ。

三角形のピースの組み合わせで自由自在なフォルムを表現する「BAO BAO ISSEY MIYAKE(バオ バオ イッセイ ミヤケ)」や、いいものを探求し個性あふれる様々なプロダクトを

開発するプロジェクト「GOOD GOODS ISSEY MIYAKE(グッド グッズ イッセイ ミヤケ)」のバッグも提案する。

  • 「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE(プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケ)」
  • 「BAO BAO ISSEY MIYAKE(バオ バオ イッセイ ミヤケ)」
  • 「GOOD GOODS ISSEY MIYAKE(グッド グッズ イッセイ ミヤケ)」

2階は「ISSEY MIYAKE(イッセイ ミヤケ)」。オープンに際しては2023年春夏コレクションを揃えた。

「A Form That Breathes-呼吸するかたち」をテーマに、デザインチームが土で思い思いの彫刻を作り、その過程で得たフォルムやテクスチャーなどに関するアイデアを服に落とし込み、新しい服の「かたち」を生み出した。

一枚の布でトルソーのフォルムを表現したドレスは象徴的。人が身にまとったときの立体感、動作に伴って生まれる弾むような生地の躍動が新鮮だ。

円形のプリーツが特徴的なセットアップは、生地を折った状態で部分的に円形のハンドプリーツ加工を施した。着用すると波紋のように連なるプリーツ模様が表れる。生地は原料が100%植物由来のポリエステル繊維を使用し、サステイナビリティーの面でも注目される。

フロア中央には、コロナ禍のため2年半ぶりの参加となった22年9月のパリコレクションのステージに配置されたスカルプチャーを据え、「呼吸するかたち」を体現している。

2階では香水ブランド「ISSEY MIYAKE PARFUMS(イッセイ ミヤケ パルファム)」も展開されている。

「ISSEY MIYAKE PARFUMS(イッセイ ミヤケ パルファム)」の香水
「ISSEY MIYAKE(イッセイ ミヤケ)」のトルソーシリーズと、シーズンテーマ「呼吸するかたち」のスカルプチャー

服作りの未来を感じさせてくれるのは、3階の「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE(エイポック エイブル イッセイ ミヤケ)」。

一枚の布(A Piece Of Cloth=A-POC)から服を生み出すプロセスを革新し、着る人がデザインに参加し、服が完成するという「A-POC」(98年デビュー)の服作りを進化させ、さらに可能性を引き出すことに取り組んできた。

そのプロダクト名は「TYPE」とアルファベットで表記され、現在は無縫製ニットのTYPE-A、形状記憶素材のTYPE-U、スチームストレッチのTYPE-Oのシリーズ、さらにスチームストレッチを機能面にあしらったTYPE-Sなどがある。

スチームストレッチは、熱で縮む特性のある糸を他の糸と織り込んだ1枚の生地に1着分のパーツを描き、各パーツを切り出して高温の蒸気を当て、意図した部分だけが収縮することで立体的な模様と独自の伸縮性を生み出す。服の意匠がそのまま伸縮性を生み出す機能になるという製法だ。

23年春夏では、グラフィックデザイナーの小林一毅氏と協業した唐草のデザインをプリントした「TYPE-A Ikki Kobayashi edition(タイプ・エー イッキ コバヤシ エディション)」、スチームストレッチによる立体的な幾何学模様のユニセックスのブルゾンなどを発表した。

スチームストレッチで模様ができ伸縮性も生む
「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE(エイポック エイブル イッセイ ミヤケ)」のTYPE-O
「TYPE-A Ikki Kobayashi edition(タイプ・エー イッキ コバヤシ エディション)」
TYPE-Sのジャケットと、パーツを描いた生地
小林一毅氏による唐草の原画

地下1階はメンズの「HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE(オム プリッセ イッセイ ミヤケ)」と「IM MEN(アイム メン)」を軸に、「ISSEY MIYAKE WATCH(イッセイ ミヤケ ウオッチ)」、「ISSEY MIYAKE EYES(イッセイ ミヤケ アイズ)」で構成している。

オム プリッセ イッセイ ミヤケはブランドの特徴でもある幅目が規則的なプリーツ素材を用いたアイテムを展開。アイム メンはテキスタイルを研究したアイテムや、簡単に折りたためるパッカブルなアイテムなど、ベーシックながら着る人にとっての実用性を備えた、新しい日常着を提案するものが目を引く。

腕時計は水をテーマにした透明なバングルタイプの「O(オー)」シリーズが揃う。吉岡徳仁氏、深澤直人氏、ジャスパー・モリソン氏らによるモデルが注目だ。

  • 「HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE(オム プリッセ イッセイ ミヤケ)」
  • 「IM MEN(アイム メン)」の紙糸とポリエステル糸による無縫製ニット
  • 「O(オー)」シリーズの腕時計

新たなアート&カルチャーの発信地へ

既存店から刷新した445は442からビル2棟を挟んで立地し、まさに目と鼻の先。グラフィックデザイナーの佐藤卓氏によるデザインで、ニュートラルな白を基調としたミニマルな2層の空間だ。

1階は、展示やイベントのスペース「CUBE(キューブ)」を新設した。オープニングを飾ったのは、グラフィックデザイナーの田中一光氏の作品をモチーフとしたコレクション「IKKO TANAKA ISSEY MIYAKE No.6」。

田中氏への尊敬と感謝を込め、その作品の魅力を時代を超えて広く伝えるため2016年にスタートさせ、6回目。今回は田中氏が描き遺した「植物」に焦点を当て、服作りの多様な技術や素材使いによって作品のモチーフや色彩などを忠実に再現し、その構図そのものを服に溶け合わせた。

「赤と白のつばき」のロングシャツや「紫のかきつばた」のワンピース、「ぼたん-B」「ぼたん-C」のグラフィックをプリーツで表現したワンピースやロングカーディガン、傘などのアイテムに昇華されている。

  • 展示やイベントでアートや文化を発信する「CUBE(キューブ)」
  • 田中一光氏が描いた植物をモチーフにしたウェア
  • 傘にはぼたんの花のグラフィック

これらコレクションをモノとして説明的に展示するのではなく、見る人によって様々な思考や解釈を生むインスタレーションのモチーフとして融合し、空間を構成している。

田中氏のグラフィック、イッセイ ミヤケの服に通う生命感と呼応するようないくつもの牡丹色のステージ、そこには円形の牡丹色の小さな紙がランダムに置かれ、まるで囁いているかのように密やかに微かに動いている。ディレクションしたのは、日本デザインセンター三澤デザイン研究室の三澤遥氏。動く紙を見ていると、静かに生命が湧き立ってくるようでワクワクしてくる。

音楽家のNoah(ノア)氏が本展のために創作したサウンドトラックは、過去と未来が溶け合うローファイなサウンドで、タイムレスな空間の旅へと誘う。今回の展示は3月下旬まで、6月上旬に開催予定の次回「ピラミッド」シリーズもチェックしたい。

サウンドトラックを担当したNoah氏
インスタレーションの中の「動紙」

2階では「HaaT(ハート)」、「me ISSEY MIYAKE(ミー イッセイ ミヤケ)」、「132 5. ISSEY MIYAKE(イチ サン ニ ゴ イッセイ ミヤケ)」を展開している。

テキスタイルから発想するブランドとして2000年から継続するハートは、オープン時にはインドのクラフツマンシップによる刺し子シリーズをクローズアップ。白のコットンに手仕事で一針一針、刺して作り上げたアイテムに潔さを感じる。

Tシャツ感覚で着られる独自素材のトップスを中心に展開するミー イッセイ ミヤケは、美しい海の中の世界を水彩画タッチやグラデーションなどで表現したストレッチプリーツのトップスやバッグをラインナップ。

132 5.イッセイ ミヤケでは新しいモチーフに取り組んだ再生ポリエステル製のトップスやパンツなどが並ぶ。一本の糸(1次元)から立体造形(3次元)が生まれ、折りたたむと平面(2次元)になり、身にまとうことで時間や次元を超えた存在(5次元)になるという服作りの研究開発を継続し、発展させている。

  • 「HaaT(ハート)」が提案するインドの刺し子を使ったウェア
  • 海の中の世界を表現した「me ISSEY MIYAKE(ミー イッセイ ミヤケ)」
  • 1次元から5次元への服作りを行う「132 5.ISSEY MIYAKE(イチ サン ニ ゴ イッセイ ミヤケ)」

多様なブランド、アート、カルチャーとクリエイティブが凝縮した銀座の新たな2拠点で、進化と深化を続けるイッセイ ミヤケの「今」を体感されたい。

ISSEY MIYAKE GINZA/442
東京都中央区銀座4-4-2
Tel.03-6263-0705
営業時間:11:00-20:00

ISSEY MIYAKE GINZA/445
東京都中央区銀座4-4-5
Tel.03-3566-5225
営業時間:11:00-20:00

写真/遠藤純、ISSEY MIYAKE INC.提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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