高橋大介(たかはし・だいすけ)シップス商品1部 KIDS課 主任

2001年、シップスに入社し、メンズカジュアル部門の布帛企画を担当。14年、「SHIPS Days(シップスデイズ)」の立ち上げに携わり、ウェア全般の仕入れ、オリジナル商品の製作を担当する。19年から「シップスキッズ」のボーイズを担当。小学校1年生の息子の父親として実体験を積み、キッズチーム内のママとパパのアドバイスをもとに日々奮闘中。趣味はバスケットボール、子供と共にキャンプ。今年は息子にスノーボードに挑戦させようと画策中。

三浦香代(みうら・かよ) ビームス こども課 こども/merrierチーム ディレクター

1998年ビームス入社。渋谷ビームスタイムに当時あったルミエール担当。結婚を機に一度退社するものの、その後2007年に再度入社。フェルメリストビームス担当を経て、2011年からこどもビームス代官山店スタッフとなり、その後こどもビームスのVMD、企画担当に。2022年3月からこどもビームスディレクターになり、現在奮闘中。高校2年生の娘がおり、母親目線での商品構成やオリジナルの制作に努めている。幼い頃から赤ちゃんと犬が大好きで、趣味は映画鑑賞。映画に出てくる海外の子供の服装やコーディネート、子供部屋をみて色々イメージを膨らませている。

シップスは1989年、ビームスは2008年にスタート

そもそも両社が子供服を始めたきっかけは何だったのでしょうか

高橋「シップスは1989年に子供服の取り扱いを始めました。私は入社前なので先輩たちに聞いた話によると、シップスは輸入メンズカジュアルのセレクトショップとして創業し、スタッフの結婚とともに奥さんたちに着てほしいウェアとしてレディス服を、やがて子育てをするようになって子供服を導入したのだそうです。その原点が、実にシップスらしいんですけど、"大人と同じ服を子供たちにも着せたい"という思いでした。ボーダーのTシャツやオックスフォードのボタンダウンなどのアイテムを、"スタジアム"というブランドの中で展開したのが始まりと聞いています。翌90年に単独のショップとして"シップスキッズ"を伊勢丹相模原店の子供服売り場に出店し、以降は百貨店をメインに出店してきました。現在は単独店が10店舗、複合型の3店舗でコーナー展開をしています」

シップスキッズ神戸店

三浦「ビームスの子供服への取り組みは、初代こどもビームスディレクターの峯野が育休から復職した2006年に遡ります。ちょうどその年に初めて時短制度が採用され、出産した人も復職して子育てをしながら働けるようになりました。子育てをする中で、シップスにも子供服があるし、ビームスでもこどもの商材を扱う店があればいいのに、という思いが強くなり、会社に提案をしました。しかし、当時は、ファッションの最先端を扱うビームスには合わないという意見もあり、すぐには実現しませんでした。コンセプトや事業計画を練り直し、幾度かプレゼンをするうちに、私を含め、少しずつ子供を持つママさんスタッフたちの賛同の声が広がり、その応援を力に同じ気持ちを持った人たちを募り、2008年にやっと"こどもビームス"を代官山に出店することができました。"マークジェイコブス"や"クロエ"などがキッズラインを始めた頃で、子供服はかっこいいという捉え方に少しずつなってきていたので、世の中の流れにも合っていたのかなと思います。現在は代官山店と今年4月にオープンした軽井沢店があり、複合店では神戸、銀座、立川の各店でコーナー展開しています」

1号店としてスタートしたこどもビームス代官山店
こどもビームス代官山店のベビーコーナー

子供服ならではの安全基準の厳しさ

以来、いずれも事業を継続しています。特にシップスキッズは30年超です

高橋「私は入社して13年間はメンズカジュアルの企画を担当していたのですが、その頃は正直、キッズに目を向けたこともなくて。3年前にキッズに異動し、ボーイズを担当して初めて、シップスキッズの商品にはシップスらしさが凝縮されて残っていると実感したんですね。オックスフォードのボーダーや紺ブレがいまだに主流で売れていたりする。大人服をそのまま小さくしたイメージを追求できる唯一の場だなあ、とすごく感じます。やはりシップスキッズに期待されるイメージを追求し続けてきたことが、事業として継続できている大きな理由ではないかと思います」

定番の三つ釦、中一つ掛けの紺ブレは、長年のベストセラー(シップスキッズ)

三浦「私が出産した頃は、子供服のお店の選択肢があまりありませんでしたが、現在はインターネットも普及して購買環境そのものが変わりましたよね。最近ではお洋服が好きな人でもECで買うことに抵抗が少なくなっているように感じます。販路も買い方も変化する中で、シップスキッズは百貨店を中心に展開してきましたよね。いろいろ大変ではなかったですか」

高橋「まず痛感したのは安全基準の厳しさでした。最初の頃は"何でこれが駄目なの?"ということがよくありました。例えば、ドローストリングの長さ。大人と同じ服を着せたいという思いがあるだけに、端から"これは駄目"となると、それじゃあデザインの意味がなくなるではないかと。でも、自分に子供ができて、日々の行動を見ていると、こんな危険が起こり得るということを体感として理解できてくるんです。最近では百貨店基準があることが、私たちが商品を提供していく時の安心感になっている。制限の中で表現することが、今はむしろ楽しみになっています」

三浦「安全基準については、私は海外の人との意識の差を感じています。この商品は本当に基準を満たしているのかと一生懸命に問うのだけれど、"安全です"と言われるだけだったり。紐に関する規制はヨーロッパもほぼ同じですが、守っていないブランドも多いので見極めなければならないですし、使用している素材などの検査結果を見せてもらうのも難しかったり。直輸入で仕入れている商材は、ホルマリン検査などすべて自社から検査機関に出しており、検査代も高いですが、安全な商品を提供する上では大切なことととらえています。ベビー衣料の場合はホルムアルデヒドの規制などが厳しくあります。日本の基準は吸光度差が0.05以下ですよね。こどもビームスでは、移染の可能性も考慮して、0.03に設定しています。吸光度差がほぼ0でないと販売しない。自分が子供服に携わることで、そういう厳しさが分かりました」

「セレクトもしっかり」(高橋)、「できることを増やしていく」(三浦)

MDはどのように編集していますか。特に百貨店は値入率の差もあり、セレクトよりもオリジナルを増やす傾向がありますよね

高橋「シップスキッズではセレクトもしっかりやっていきたいと考えています。ただ、セレクト商品は粗利が取れないので、次につなげたいブランドや、オリジナルにするにはちょっと怖いなと感じるデザインやテイストのブランドを中心に仕入れています。評判が良ければ、オリジナルに落とし込んでいく。今、セレクト比率は3割ぐらいです」

三浦「セレクトとオリジナルでは、どんなことに気をつけていますか」

高橋「セレクトの商品は大人目線というか、大人が子供に着せてあげたいという思いを基準にしています。他社と被るブランドに関しては、シーズンごとに別注してシップスの色を出しています。オリジナル商品は、子供が着たいと思える服と、大人がこれだったら着せてもいいと思う服のボーダーラインを意識して作っています。例えば、今夏は紫外線で色が変化するUVカットのTシャツを提案しています。これがすごくヒットしているんです。大人の服にはない遊びをどう取り入れていくか、大人の感覚とはまた違うツボをちゃんとつかんでいきたいと常に思っています。このようなオリジナルに加えてセレクトがあることで、ブランド単体のショップにはない面白さを表現できると思うんです。こどもビームスはオリジナルもセレクトもかなりのブランド数で、雑貨もたくさん展開していますよね」

紫外線で恐竜プリントが、写真上から下へと色が変わるUVカットTシャツ(シップスキッズ)

三浦「服だけでなく、赤ちゃんと子供の生活にまつわる商材を揃えるということにこだわっています。立ち上げのときにインテリアショップを運営する"ランドスケーププロダクツ"のファウンダー、中原慎一郎さんに監修していただき、お洋服以外の商品、それこそ歯ブラシやシャンプーから、ベビーベッドや学習机などの家具まで揃えました。100円や1000円未満の商品も置いています。素敵だなって感じたお店に入っても、全部が高価で何も買えないと"私はこのお店にはふさわしくないのかな?"と思ってしまいそうです。出産したばかりの頃はホルモンバランスも崩れているので、そういう思いになってほしくないんです。何かを買って"楽しかった"と感じてもらえたり、スタッフと一言でもお話をして帰れるお店にしたいと思っています」

高橋「子供服に関してはビームスの他業態でも扱っていますが、ブランドのバッティングとかはないのですか」

三浦「子供服は、こどもビームスとビーミング・バイ・ビームスとビームスミニで展開しています。それぞれが違う部署だったのですが、昨年9月に"こども課"に統合したんですね。これに伴い、こどもビームスは魅せるレーベル、ビーミングとビームスミニはそれぞれの販路にあった商品をつくり、しっかりと実需をとるレーベルという位置づけになりました。こども課として売り上げを見ていく体制になったので、MD面では挑戦しやすくなりましたね。被っているブランドもありましたが、無駄な仕入れを無くす方向で調整しています。"できることを増やしていこう"ということが、こども課の共通認識です。例えば別注に関しては、こどもビームスだけでは現実的ではないロットも、ビーミングも展開するのであれば可能になります。共通の生地でオリジナル商品を作ることも考えられます。ただ、子供服は大人服ほど価格の幅が広くないですよね。しかも1、2年でサイズアウトしてしまうので、いくら上質な商品でもこのラインを越えたら絶対に売れないということがあります。上限が無いぐらいに購入されるお客様がいる大人服とは大きく異なる点であり、苦労するところではありますね」

ニーズ、思いに寄り添うものを「まじめに」提供

高橋「こどもビームスは、ベビーにすごく力を入れているなあと感じます」

三浦「私自身、ベビーが大好きなんです。ビジネス的には、こども課でビームスボーイにいくまでの世代をカバーしたいと思っています。その第一歩として大切になるのが、妊娠・出産に伴うニーズへの対応です。妊娠したら頼ってもらえるお店にしたいので、妊娠期に必要になる肌着なども置いています。最近は高齢出産も増え、とても小さく産まれる赤ちゃんもいます。そうした子が着るお洋服が無いという声が店頭に寄せられるようになりました。そこで商品開発をして、45センチからサイズ展開しています。商品に関しては自分自身、"こんな服を着せたいのに無い"という経験をしました。シンプルで、着るとかわいいという意味での"普通"が、"なぜベビー服には少ないのだろうと"ずっと思っていました。お客様はもちろん、社内にも沢山のパパママがいるので話を聞いて、"こういうものが欲しい"という思いに沿った商品をセレクトやオリジナルで揃えています」

店頭、ECともに強化しているリンクコーデ。スヌーピー、MLBとの三者コラボ(シップスキッズ)

高橋「シップスキッズでは今、親子のコーディネート提案に力を入れているんです。売り場ではお父さんと、ECではあえてお母さんと男の子のリンクコーデを提案したりしています。こどもビームスでも取り組まれていますか」

三浦「お問い合わせはたくさんいただくんですけど、リンクコーデはビーミングで対応しています。こどもビームスとしては、その時々の身体の大きさに似合うもの、普遍的に子供が着てかわいいもの、服にこだわりのある大人がときめくようなお洋服を揃えて、よい服を着る心地良さや楽しさを体得していってもらえると良いなという考え方です。店づくりでは男性が一人でも入りやすい事にもこだわっています。そして最近では、長くビームスをご愛顧くださっているお客様がお孫さんを授かられるケースも増えてきており、三世代で来店されて楽しんでいただけるお店になっていけばと思っています」

高橋「軽井沢に出店したのも、そういう思いからですか」

三浦「もともと現在の売り場にはビームスの鞄のお店があったんですね。そのスタッフから"こどもビームスのことをよく尋ねられる"と聞いて、ポップアップショップを1年半ほど展開しました。手応えも感じられて、今年4月に屋号を"こどもビームス"に変えてスタートしたんです。軽井沢店はまさに三世代に向けた商品構成をしています。"パタゴニア"や"ザ・ノース・フェイス"などのアウトドアブランドやキャンプグッズも置いています。ビーミングの商品も初めてミックスしました。社内改変でできるようになったことの第1弾と言えます。たくさんお店を作って目が届かなくなって中身が薄くなるのは絶対に嫌なので、スタッフにもちゃんと思いを伝え、まじめにジワジワと大きくなっていきたい。"まじめにやろう"が、こども課の合言葉です。物を作ることも、お店を広げることもまじめに。子供が相手なのだから、まじめじゃないと駄目だねってみんなと話しています」

今年4月に業態転換でオープンしたこどもビームス軽井沢店

子供たちの職業体験やクリーン活動に取り組む

日本の出生数は直近の2021年が84万人となり、少子化が進んでいます。また環境への配慮も今や必須です。社会的な課題に対しては何か取り組まれていますか

三浦「代官山店では、渋谷区の中学生の職業体験を受け入れています。区に申請すると、こどもビームスを希望してくれる子供たちが毎年いて、お店に来てくれるんですね。店頭に立って陳列や接客をしてくれます」

高橋「シップスとしては、下田の各ビーチで開催される"セーフ&クリーンキャンペーン"に参画しています。地元の下田ライフセービングクラブが主催する活動で、今年で27年目です。夏休みに子供たちと一緒に海での安全な遊び方や応急処置などを体験し、浜辺の清掃も行います。今後は下田ライフセービングクラブと下田市と繊維商社の豊島とシップスで、ビーチクリーン活動で拾ったごみを生かし、製品化することにも取り組む計画です。ビーチクリーン活動は湘南でも毎月実施し、ペットボトルを繊維にして製品へとアップサイクルしています。SDGsの取り組みが求められている中で、子供服は大人服よりはるかに着用期間が短いという事実があります。弟妹や友達などに譲ることもできますが、他にも二次運用の仕組みが必要だと思うんです。リサイクルやアップサイクルなど、多角的な観点で対応していきたいと考えています。二次運用を前提としたプランを2023年春夏から提案する予定です」

27年目を迎える下田のビーチクリーン活動と海浜回収ペットボトルリサイクルプロジェクト

三浦「回収・リサイクルについては全社で進めています。こどもビームスでは、お直しにも注目しています。ワンピースの袖を取ってノースリーブにしたら、もっと着られるとか。お直しをしながら1枚の服をずっと着て、大人になったときに"あのワンピース、ずっと着ていた"みたいな。そういうSDGsもあるのではないかと思うんです。また、着古したTシャツを使ってクッションにしたり。そうした提案に向けて今、サンプルを製作中です」

築いてきた基盤を生かし、新たな魅力作り

最後に、こどもビームス、シップスキッズのこれからについて聞かせてください

三浦「世界はどんどん変化して出生率も年々低くなっていますが、どの赤ちゃんもこの世に生まれて周りの人たちの愛を沢山浴びながら健やかに成長する。それはどんな時代も大切なことだし、こどもビームスとして、ただ物を売るだけでなく、ご家族と共にお子様の成長を見守っていくようなお店にしていきたいです。こどもビームスができて14年になります。その経験を大事にしつつも、今の時代の子育て世代の人たちの意見やアイデアをいただいて、新しいことにも挑戦していきたい。守っていくこととチャレンジすること、そのバランスを見極めることが大切だと思っています」

自身の子育ての話もふんだんに飛び出し、終始和やかな雰囲気で行われた対談

高橋「シップスキッズもまた30年以上にわたり継続してきた基盤をさらに強め、これからも続けていけるだけの可能性を拓くことが一番のミッションだと思っています。シップスという本体があって、シップスキッズというカテゴリーがあるのですが、今後はシップスキッズの洋服を経験した子供たちが、シップスへと育っていけるようにしていきたい。そのためにもシップスの原点をしっかりと継承し、新たな子供服の表現へと昇華させていきたいと思っています。キッズは売り場がコンパクトで、やれることが制限されてくるので、その中でいかに表現していくかを追求していきたいですね」

写真/遠藤純、シップス・ビームス提供
取材・文/久保雅裕

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

Journal Cubocci

関連リンク

一覧へ戻る