――音楽好きの金田さんが最近聴いている音楽はどのあたりですか?

金田英治「いまはSpotifyとかで流れてくる曲を聴いてる感じですね」

――それは最近の音楽?それとも昔から聴いていたものを?

金田「自分のライブラリは昔のものばかりになってきちゃいました。でもふだん聴きはいまの音楽ですよ。もっと衝撃くれないかなって思ってる節はあります」

――最近“おっ!”って思ったアーティストや曲はありましたか?

金田「NiZiUですかね(笑)。詳しくは知らないんですけど、彼女たちの楽曲から受ける印象が“いま”だなって感じがするんです。自分から聴きにいってるわけじゃないんですけど、どこで何を開いていても彼女たちの曲は聞こえてくるじゃないですか。そういう意味では、当時のYMOがテレビでもラジオでもかかっていたような、そういう匂いはするんです。じゃあ繰り返し聴くか?っていったらわからないですけど(笑)」

――番組本編の中で金田さんが言っていた「時代との距離感」というのは、言い換えると流行りすぎていてはダメとか、遅れすぎていてはダメとかそういう意味ですか?

金田「たぶんミーハーさと斜に構える感じのバランスなんだと思うんです。ちょうどよく乗っかるという……たとえばSNS関連でいうと、ちょっと前ですが、Clubhouseやってる?ってあったじゃないですか。乗り方として、早めに乗ってる人は乗ってる。でも様子見とかもっと面白くなったら参加したいとか――いわゆるイノベーター理論ですね――っていうのは、人によってだいたい決まってるんですよ。スニーカーも最先端を買う人とちょっとこなれてきてから買う人と。その距離感ってその人のパーソナリティを表していることなので、それが個人だったりブランドだったり……という意味での距離感ですかね」

――いまの10台、20代の「時代との距離感」の取り方って金田さんから見てどうですか?

金田「合理的ですよ。合理的だし目的に到達するのも早い。最短距離のルートを選ぶ」

――20代前半って以外と冷静ですよね。時代背景もあるとは思いますが、あまり浮ついたところがなくて。

金田「たぶん、目的に到達する時間が早ければ、覚めるのも早いんですよ。期待値が自分の中で高まる前に手にしたり耳にしちゃうっていうのは、それがあまり持続しないんですよね。僕らの多感な時代は、ネットもないし十分な情報もないので、目的のモノ、コトにたどり着くまでに時間がかかっていたんですね。だから最終的に“おっ!”っていうものにめぐり逢えたり手に取れたり、その時間の長さの分は楽しめるんですよ。いまの彼らが欲しているのはそれを自分がいくつ達成できるかみたいなところで、SNSの中でバズっているものに手を出したり自分も加わったりという事が楽しさなんじゃないですか」

久保雅裕「いまはITのせいもあって、新品だと買えないようなものがメルカリで買えたりとか、似たようなデザインのものがファストファッションにトレースされていたり、リーチしやすくなったような気がします。世代で違っているんだろうなとは思いますが、ビームスでは、品揃えや接客、商品の見せかたやストーリーは変化していますか?」

金田「大きく変わってはいないんですが、お客様の手に届くまでのプロセスで変わったのは、昔はいろんなブランドを世界中から持ってきてそれを編集して見せますよという場がセレクトショップだったんですよ。いまは世界中から集まったものを、1人のスタッフがその中からアレンジして提供するというプロセスが加わって、そこにお客様が共感してくれるんです。ビームスという大きな集団の提案ではなくて、その中のA君やBさんの再解釈がSNSやブログで支持されてファンになってくれる。これってファッションに限らずいまの世の中の現象なんでしょうけど。ブランドの看板の束ね方なんていうのは、お客様から遠すぎるんですよ。そういうお客様とお店の距離感というのはいまから20年、30年前とは明らかに違っていて。だからブランドというものに共感する事とか、手に入りづらいもの――それは価格であったり希少性だったりしますけど――を買おうという原動力にはなかなかなりづらくて。インフルエンサー的なスタッフのインスタやブログを見て、“あの人の着こなしを真似したい”って響いてくれているんだと思います」

――マスでアピールして一網打尽という商売の仕方はもう通用しないんでしょうね。

金田「ファッションに関しては、マスに到達するメディアがもうないですからね。前置きなしで“あの”という共通項が伝えられるメディアがいまはもう存在していなくて。だから20代の“あの”と、30代の“あの”はもう違うという事は理解しないといけないなと思います」

――僕たち消費者側の目線では、ビームスってもはや洋服屋ではないなと感じるわけですが、当事者たる金田さんたちはどう感じていますか?

金田「そう思ってもらえるといいなと思ってます。言い方を気をつけないとまわりの人に怒られるんですけど(笑)。店をオープンして、お客さんを待って服を売るという事だけでは相当難しくなっていくと思うんです。それはコロナ禍という事象を経て、店に行くっていう事の大変さ――それが繁華街であろうと駅ビルであろうと――服を買うためにシャワー浴びて、メイクして身支度を整えて出かけて行くって、いまや結構な手間じゃないですか。ワンクリックでモノが届く時代に、そういう手間やリスクをとってもらう提案――店に行って得られる体験――をちゃんと用意しないと。“ビームスと接点を持っておいたら楽しそう”とか“なんか得しそう”とかね」

――では、2020年代のビームスのあるべき姿というか、価値観をどこに見出しますか?

金田「ビームスは160店舗ありますっていうだけじゃ意味がないと思うんです。たとえば、JAXA×BEAMSのプロジェクトで野口聡一さんにISS用のウェアを提供しましたが、“ビームスってそんなのに関わってるんだ!”とか“宇宙で着る服ってどういう繊維ですか?”って想像が膨らむじゃないですか。いまは“パリコレで話題になったあれね”っていうようりも、宇宙というみんなが知っている共通項を打ち出したほうが興味を持ってもらえるんですよ。ただ一方では、パリコレで何が話題になっている、というのを知って欲しいというアプローチもしなければいけないと思っているんです。それはさきほどの音楽の話題だったり、アートやカルチャーと同等にファッションに対するクリエーションってこんなに素晴らしいんだ、ということを伝えていくということです。そうじゃなくちゃ“リモートワークだし、もう部屋着だけでいいじゃん”っていう世界になるし、人と会うときに着る喜びっていうのもファッションとして提案し続けなければいけないので。自分が良く見えるというよりも、会った人を喜ばせるためのファッションは絶対必要だと思うんですよ。いまはなかなかそういう目線で見れていないので、コロナの揺り戻しというか、取り組みは必要かな」

――そういうリアルワールドの取り組みのひとつに、新宿ゴールデン街の看板の架け替えがありました。

金田「あれはBEAMS JAPANのプロジェクトですが、もともとは「いいちこ」の三和酒類さん、「白岳」の高橋酒造さん、「白波」の薩摩酒造さんという焼酎3社とのコラボをやろうとなっていて。BEAMS JAPANの店舗が新宿だったので、じゃあゴールデン街でしょうと。ただあの界隈って3つくらい協会があって、商店街も分かれていて」

久保雅裕「あれって通りとか筋ごとになってるんでしょ?本当はゴールデン街って名前じゃなかったんだよね」

金田「そうそう、○○商店街だったりして。それをビームスの担当が熱心に時間をかけてお願いしていくことで、じゃあひとつの束になろうよって、うちのグラフィックデザイナーが看板を作らせていただいたという……奇跡みたいな出来事ですね」

――そういった事を広告代理店ではなくビームスがやった事がすごいなと思っています。今後もこういった取り組みは出てきたりするんでしょうか。

金田「はい、2021年だけで見てもいろんなメニューが控えてます。「銭湯のススメ。」という牛乳石鹸さんとの協業で、“石鹸を持って銭湯へ行こう”というプロジェクトです。1年前に暖簾をつくるプロジェクトをやって、それの第2弾なんです。銭湯絵をビームスがディレクションしてアーティストに描いてもらったりとか。そういう生活文化の領域にやりたい事、やれる事はたくさんあるな、ということですよね。もうひとつは、消費財といわれているもの、もしくは家電業界とか、安さというところで価値を決められてしまっているところに、ファッションの視点を持ち込める領域はすごくたくさんあって。それは変におしゃれにして儲けるという事ではなくて、生活者として使い勝手がいいねとか、いま自分たちが住んでいるところに馴染むとか。新しいブランドを立ち上げるわけではなく、その道のプロと手を取り合えるプロジェクトはいくつもあるなと思っていて。逆に、宇宙とかマンションとか車みたいな大きなものは減っていって、もっと身近な生活の場にビームスが関わっていくんだと思います」

――ますます楽しいことが起こりそうですね。

金田「いまは日常のなかで、どのメディアと接点を持っているかっていうペルソナってあると思うんですよ。YouTubeを見る/見ない、TikTokを見る/見ない、っていうのは結構分かれてくると思うんですよね。その先のニーズって何かというのを考えるのが僕はすごく好きなんですよ」

――以前、USENの季刊誌で、金田さんにインタビューさせていただいたんですが、そのときの見出しが「我々は生活者のプロである」でした。そういった志はいまも変わっていないんですね。

金田「そんなこと言いましたっけ(笑)。いや、でもその気持ちは変わってないです。ファッションのプロではありますが、全方位にすごいプロにはならなくて良いと思っていて……隣町の訳知りみたいな人ってどの時代も重宝されると思うんですよね。そのためには生活のなかでいろいろインプットをし続けなければいけないんですけど、その中でいるもといらないものを分けられるのが“時代との距離”かな。“何でもアリだけど、どうでもいいわけじゃない”というフレーズが、ここ30年くらいビームス社内の慣用句になっていて、そういうバランスの取り方が上手いブランド集団でありたいですね。それが“生活者のプロ”って事なんだと思います」

(おわり)

協力/株式会社ビームス
取材・文/高橋 豊(encore)
写真/柴田ひろあき

※「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」2021年4月の番組収録後インタビューより

金田英治(かねだ えいじ)

株式会社ビームスクリエイティブ 執行役員本部長。フォーマルウエアメーカー、デザイナーズブランドを経て、1989年、株式会社ビームス入社。PR担当を経て、2003年から総合企画室で新規事業や異業種コラボレーションを手掛ける。社長室室長、広報部長などを歴任し、2020年より現職。

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター/ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長

杉野服飾大学特任教授。ファッションジャーナリスト、コンサルタント、マーケター。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任。現在はフリー。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)

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