――まずはラフォーレ、森ビルグループが考えるウィズコロナ時代の商業施設の在り方、出店者へのアプローチについて教えてください。

荒川信雄「まず、森ビルグループは虎ノ門、麻布台エリアをはじめ新しい商業施設を2023年にオープンさせますが、新しいリテールの在り方を考えなきゃいけない。ただ単純にお店を作る、誘致するだけではなく、出店者候補様ともいっしょに新しいリテールの在り方を学んでいっしょにお客様へ提案していこうということを進めています。たとえば、虎ノ門、麻布台ではテーマのひとつとして“ウェルネス”というテーマを掲げており、時代感を含め、テーマに沿ったアイデアをどうやってお客様に届けようかっていうことなんですね。そこには、予防医学的な要素も組み込みたいと思っていて、洋服も健康を意識したものを選んでもらうとか、選ぶ際にもストレスを感じさせない方が良いよねとか。さらに、こういう取り組みに各ブランド様が興味を持ってくれたとして、ツテが無くて立ち止まりそうな局面に陥っていれば、我々が間を取り持つ。そうしてブランド×ブランドというハイブリッド化が進んでいけばいいし、そういった出店社様をお招きしたいなと思っています」

――ウェルネスというのは、健全な人間関係やライフスタイルという意味あいですか?それとも企業としての健全性と捉えた方がいいでしょうか?

荒川「前者の方に近いです。あとは予防医学的なかたちも取っていて、もちろん病気を治すというアフターケアだけじゃなくて、病気にならないようにしましょうと。ならないようにするためには、お洋服だってこんなものが良いよねとか、ストレスがない方が良いよねとか、そういう事にも繋がるので、そういうアイデアを出すようにしようと。たとえば、あるブランドさんが今までやってきた業態では叶わないある事を、こんな人やブランドとタッグを組んで実現したいんだという提案があれば、やりましょうと答えていく。そういうふうに業態をマッシュアップした提案や企画を我々も待ち望んでいます」

――企業としての考え方がすごくウェットというか、感性に訴えかけるカルチャーが根付いているんですね。

荒川「そうですね。我々も新しい事をやっていかないとしょうがないよね、と。僕の言葉でいうと、自己否定していかなきゃいけない。今までやってきた事だけじゃダメ。だけど変わらないものもあります。それは何かというと、ヒューマンスケール……人との交流だったりするので、リアル店舗の大切さを軸にしながら新しい取り組みをしていかなければいけないという危機感を持っていますし、それこそが森ビルとしてのテーマでもあります。この考え方に沿って課題解決していかなければならないと思っています」

――番組の中で「建物に魂を入れる仕事なんだ」という象徴的な言葉がありました。すごくいい言葉だなと思います。

荒川「ありがとうございます」

――この時代、この状況下におけるラフォーレの魂とは?

荒川「やっぱり店舗さんです。前を向いて元気になっていく事に尽きるので。ラフォーレに入っておられる130の店舗のみなさんが“しょうがないよね”と現状に甘んじる事の無いように、我々はときに励ましたり、ときにチャンスを作ったり、いっしょにこういう事やりませんか?という提案をしたり……できるだけ店舗さんに、我々が考えることに乗っかっていただけるチャンスメイクをする事。背負ってあげるのではなく、背中を押して上げるというスタンスで一生懸命やっていきたいです。これが僕たちの任務ですね」

――先ほどラフォーレ原宿のフロアをいっしょにまわっていただきましたが、荒川さんとテナントのスタッフさんが交わしている言葉のなかに、みんなでいっしょに頑張ろうという前向きな雰囲気を感じました。

荒川「そうですか(笑)」

――いまはワンクリックで買い物ができる時代ですが、むしろお店に足を運んで買い物をするという体験には価値がありますよね。

荒川「そうですね。原宿に足を運んで、ラフォーレという場所に立ち寄ってくれて、わざわざ買い物をしてくださるわけですから、これはすごい事だと思います。もしかしたら、ネットで買い物をするほうが便利なのかもしれませんが、何故か森ビルグループって、やった事がないこと、マーケティング的には良くないような場所をなんとかしようという精神が根付いているので(笑)。そういった楽しさはあります。わざわざお客様が来てくださっているということへの喜びというかね」

――アパレル産業全般は――もちろん商業施設にとっても――難しい時期ですが、ラフォーレという館がどう変化してゆくのか興味深いですね。

(おわり)

取材・文/高橋 豊(encore)
写真/柴田ひろあき
取材協力/ラフォーレ原宿

荒川信雄(あらかわ のぶお)

株式会社ラフォーレ原宿代表取締役社長、森ビル株式会社特任執行役員。1964年生まれ、慶応義塾大学卒。1987年、森ビル株式会社入社。1989年、ラフォーレ原宿へ配属、2006年、表参道ヒルズ初代館長就任。2014年から現職。趣味はサッカーでシニア50東京代表として東アジア大会にも出場している。

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター/ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長

杉野服飾大学特任教授。ファッションジャーナリスト、コンサルタント、マーケター。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任。現在はフリー。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)

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