──まず、エイベックス内に“J STAR RECORD”という音楽レーベルを立ち上げた経緯を聞かせてください。
「インターネットの配信者で歌を歌う人のマネタイズってかなり難しいところがあって…レコーディングするだけじゃなくて、サブスクのサイトで聴けるようにするにはかなり時間と労力がかかるんです。だから、歌うことは好きなんだけど、その時間を取られるくらいなら配信をやった方がいいっていう人が多いんです。そこを変えたいと思っていました。“J STAR RECORD”を通すことで、いろいろと面倒な手続きを簡略化して、配信者たちが自分で動く時間を少なくすることで、配信や動画を作る時間を増やせるように…インターネットの配信者たちが曲をリリースすることに対するハードルを下げたいという想いで始めたのがきっかけです」
──それは、レーベルを始めた理由であり、理念にも繋がりますね。
「そうですね。配信者が配信時間を確保しつつ、音楽をリリースする体制を整えたいというのが一番大きな理念です。そこで、微々たるものかもしれないですけど、みんなの収入を少しでも底上げして、配信活動やクリエイティヴに時間をたくさん使えるようになればと思って。そこで稼いで、また自分の作りたいものを作るっていう循環。それが歌でも配信でも動画でも何でもいいですけど、少しでも後押しをしたいって気持ちです。僕は会社員時代、全く時間がなくて、配信以外はまったく何もできなかったので、兼業の人も増えるといいと思います」
──視聴者さんやリスナーに対してはどんな想いでいますか?
「今、応援してくださっている視聴者さんたちに対しては、いろんなアーティストを世に出して、いろんな人に聴いてもらいたいって気持ちでいます。歌がうまい人が世の中にたくさんいるので、そんな人を見つけてほしいです。あとは、逆に曲がきっかけでファンになって、ゲーム配信を見てくれる人の母数が増えるといいなとも思っています。コロナ禍でゲーム実況界隈には特需みたいなのあったんですよ。今はそれも落ち着いてきて、配信者の収入がまた戻ったりもしています。だから、“J STAR RECORD”という新しいチャンネルを作ることで、インターネットのライブストリーミングを見てくれる人が増えるといいなと思います。どうしても今は配信者自体が好きだから見ている人が多いんですよ。その繋がりは大事ですけど、それだけじゃなくて、音楽からその人を知って、本人の配信を見に行きたくなるような状況を作りたいと思っています」
──ストリーマーとして活動しているファン太さんにとって“歌う”ことというのは?
「自分を表現できる場だと思っています。生配信中に歌うことが一番好きなんですけど、たまにイベントで歌わせてもらうこともあって。それは生配信とはまた全然違うんですよね」
──これまでにパフィシコ横浜や両国国技館でリアルイベントを開催しています。
「会場でみんなが拍手や歓声をくれて、実際に盛り上がっている温度感は生配信ではやっぱり味わえないです。コメントで、一緒に歌ってくれたり、拍手を送ってくれてる人もいますが、肌で感じるライブはやっぱり別物ですね。実際にお客さんの顔を見ながら楽しく歌っていると、どんどんテンションが上がっていきますし、自分のどういったところが評価されているのかも知ることができます。生のライブを経験することでより歌うことが好きになりましたし、自分にとっての歌はやっぱり自己表現の手段の1つだと思います。ただ、今はカバーが主になっていて…もちろん、オリジナルの方がいいんですけど、“自分が歌うとこうなるよ”っていうのが伝わるといいなって思っています」
──ファン太さんは鈴木雅之さんの曲をよく歌っていますね。
「自分が聴いたCDで一番古い記憶に残っているのがマーチンさんの曲なんですよ。ラッツ&スターの「月下美人(ムーンライト・ハニー)」で、リズムが好きで」
──愛人の曲ですよね? いくつくらいの時ですか?
「たぶん、4歳だったと思います。すごく好きになって、親父に“愛人ってどういう意味なの?”って聞いたら、気まずそうに“奥さん以外の好きな人”って回答をもらって…」
──あはははは。
「でも、聴いた瞬間に小さいながらに“すごく好き!”って思ったんです。そこから小学生の時も中学生の時もずっと聴いて育ってきていて…。ラッツ&スターは新曲が出ていないので、ただ繰り返し繰り返してずっと聴いているんです。日本語のドゥーワップって他にないじゃないですか。唯一無二なので、とても好きですし、音楽が好きになったきっかけはマーチンさんだと思います」
──正式に解散はしていないですが、1985年以降は新曲が出てないですからね…。
「もちろん、マーチンさんのソロも好きなんですよ。でも、ドゥーワップのリズムはやっぱ唯一無二。似たようなジャンルで、R&Bやソウルミュージックも好きなんですけど、日本語のドゥーワップはラッツでしか聞けないんですね。だから、中学生の時に周りの友達がオレンジレンジやケツメイシ聴いた時に、僕はラッツ&スターをずっと聴いてたんですよね」

──ちなみに“J STAR RECORD”ですが、どうしてこのレーベル名にしたのでしょうか?
「ラッツ&スターが好きっていう…」
──その“STAR”なんですね(笑)。
「はい。あと、“J”には今まで関わりが深くて。趣味で柔道をやっていて、今でも大会に出たりもしています。あと、レーベルとして考えた時に、“まず日本で”っていうところがあって。海外で仲の良い人もいるので、そういうアーティストがいてもいいんですけど、まずは日本で星になってほしい。日本のスターになるという意味も入っています。ただ、JAPANを背負うにはちょっとでかすぎるなと思って(笑)、いろんな意味を込めた“J”にしています。僕は、もともと名前が“ファン太”だけでなく、“ファン太ジスタ”だったんです。今は“ジスタ”を取っちゃったんですけど、“ジスタ”も大事な要素なので、(本来の綴りはfantasistaでSだけども)“J”を入れたいと思いました」
──JAPAN、JUDO、JISTAの“J”。
「今まででいろいろあったな…と思って、自分の核の部分に“J”が多かったので、“J”に落ち着きました」

──先ほど“いろんなアーティストを世に出したい”とおっしゃっていましたが、現在は“J STAR RECORD”に9アーティストが所属されています。ストリーマーやVTuberとして活動しているそれぞれの所属アーティストを紹介していただけますか?
「はい。では、SUGAROCKから。海外生活が長い日本人なので英語の発音も音感もすごい良くて。間違いなく爆発的な歌唱力がある、自信を持ってお勧めできるアーティストです。ロックが好きなんですけど、安定した歌唱力があるので、いろんなジャンルを歌うことができます。自分を表現することが得意で、“J STAR RECORD”が必要ないくらいの行動力があるんですけど、他のことにも時間を使ってほしいという想いで参加してもらいました」
──続いて、m-flo「miss you」のカバーでファン太さん、SUGAROCKとコラボしている瀬戸あさひさんは?
「すごい若くてラップが上手です。作詞作曲も全部できるんですけど、「miss you」では歌詞を変えて歌ってくれました。SUGAROCKと同じく、m-flo世代ではないんですけど、“一緒にやろう!”って言ったら喜んでやってくれるタイプで、女性にすごく人気です。いろんなジャンルができる若い子なので、今後も期待している新人です」
──月夜見レオさんはどんなアーティストですか?
「カバーもたくさんできるんですけど、すでにオリジナル曲を200曲くらい作っているシンガーソングライターです。僕がやっているゲームの中のイベントでラーメン屋さんに協賛してもらったことがあって…その時に、“ラーメンの歌を作って”ってお願いしたんです」
──それがコンピレーションアルバム『vol.ZERO』に収録されている「家系ラーメンの歌」ですか?
「そうです。“家系ラーメン屋さんに協賛してもらうから、宣伝も兼ねて作ってほしい“って言ったら、やってくれました。僕が好きなメロディーラインで作ってくれているんですよ。活動歴はもう14年ぐらいで、結構長いですし、昔から賞をもらったりしてたんですけど、脚光を浴びることがあまりなくて…。活動したりしなかったりの時期もあったんですけど、今は歌に力を入れてやっています。やっぱり自分で曲を作れるのは素晴らしいですよね。他のアーティストからも”一緒に作ろうよ“って誘われています。キャラクターとしても可愛いやつなので、みんなから好かれてる存在です」

「続いて、煌イヴちゃん。煌イヴちゃんは本当は後ろでアーティストを支えたい、マネージャータイプの配信者なんです」
──そうなんですか!?
「本当は歌いたいんだけど、周りには自分より歌がうまい人がたくさんいて。だから。みんなの前で表現するのは恐れ多いって感じているような、ちょっと控えめな子なんです。歌以外のどんなお願い事を投げても完璧にこなしてくれる、すごくいい子です。でも、ある日、“本当は歌いたいんじゃないの?”って訊いたら、“歌いたい気持ちはあります”って返ってきて。“じゃあ、一緒にやろうか!”ということで、すごく練習をして、どんどん歌がうまくなっていって。今後もリリース予定があると思うんですけど、それに向けて日々努力をしていて、今、歌が上手になっていってるっていう状態です。彼女もオリジナルソングをリリースするタイプで、最近、作詞力も上がってきています。ジャンルを問わず、いろんな曲を歌えるアーティストです」
──VTuberとしては牛のキャラクターですが、「やっぱりハラミ」とハラミの曲を歌っていますね。
「ひどい話なんですけど(笑)、“ハラミが好きだから歌にしたい”って言ってきて。その発想力もいいなと思います。先日、レバーが美味しいお店に一緒に行ったんです。そのレバーが好きになって、「マイレバー」という曲を作ってくれました。面白いアーティストです」
──(笑)PENKOさんと宙星ぱるさんのお二人はトリッキーというか電波系というか…。
「所属アーティストの中で一番、いい意味で頭がいかれてるのがPENKOさんです。それは実生活の部分が多いんですけど…。ライブでも、他の子はみんなが分かる曲を歌うんですよ。僕もラッツ&スターの曲でも「め組のひと」を歌います。ある程度、みんなが分かるような曲を歌うんですけど、PENKOは「フライディ・チャイナタウン」を踊りながら歌ったりするんです。でも、それがすごく面白くて。歌唱力があるけど、歌の中に笑いを入れてくれるアーティストです。どちらかというと“楽しんでもらいたい”という想いで歌っていて、一番笑いながら聴けると思います。ぱるさんはVtuberとしてデビューしてもう何年か経っているんですけど、その時に固めてしまったキャラ設定に今、苦しんでいます(笑)」
──あはははは。
「元気があって可愛い、みんなから愛されるキャラなんですけど、一番身近に感じるというか…親しみやすいです。いい意味でみんなに手の届きやすいところで活動している子で、歌に対してすごく精力的に取り組んでいるってわけじゃないんですけど、不思議な求心力があって。いろんな人を巻き込んだ歌をこれからやってくれると思います。そして、鴉紋ゆうくは、ずば抜けて歌がうまいです。カバーを歌う時って、例えば、キーを下げると、どうしてもカバー感が強くなっちゃうんですけど、ゆうく君はどんな曲でも自分の歌のようなテンショ感で歌えます。そのくらい、歌唱力がずば抜けています。一番上手だし、一番聴いてほしいアーティストです」

──そして、CDには未収録ですが、配信リリースされているのが、かんせるさんとよしぴさんですね。
「僕は活動歴が15年くらいと長いんですけど、初期に一番参考にした配信者がかんせるなんです。もともとはお笑い系の配信者なんですけど、歌にシフトしてやっていて。当時から歌も人気があったんですけど、ラップも歌も上手で、唯一無二の声質を持っているアーティストです。よしぴは今はまだカバー中心で歌っているんですが、ギャップが魅力です。普段のキャラはふわふわな感じだですけど、歌うときはバッチリ決まっていて。カバーはしっとり系が多いんですけど、オリジナル曲は激しいテンポの曲が多いです。今後、リリースされると思うので楽しみにしていてください」
──エイベックスとメジャー契約したアーティストとしてのファン太さんは?
「僕は1980年代〜1990年代の曲が好きなんですけど、自分の視聴者さんに、自分がいいと思った当時の音楽を押し付けたいっていうタイプです(笑)。だから、今はカバーが多めになっいてるんですけど、今後はオリジナル曲に挑戦していきたいですね」
──これからの展望はどう考えていますか?
「今後、このメンバーでツアーをやることも決まっています。そこで、自信をつけてもらったり、新しい可能性を見つけてもらったりしながら、新しい曲をリリースしていきたいです。ライブと連動してリリースしつつ、それがある程度落ち着いたら、配信者以外も所属してもらいたいと思っていて。今はゲーム系の配信者が多いんですけど、動画だけの人も所属してもらって、曲をリリースしてもらいたいです。そのためにオーディション企画のようなものも考えています。僕の配信にゲストの方を呼んで、歌を歌ってもらって…その中で評判がいい人にリリースしてもらおうかな?って考えています。ゲーム系とゲーム以外のコンテンツを充実させていって、裾野をどんどん広げていきたいです」
──レーベルの門戸は広く開けていくのでしょうか?
「そうですね。もちろん、音楽的な面で才能のある人に参加してもらいたいですし、できれば“ライブをしたい”という人に参加してほしいです。あとは、クリエイティビティがある人。自分を世にどんどん発信していきたい、“自分を表現したいんだ!”っていう人が一番かな? 敷居は下げるんですけど、もちろん半端なものをリリースするつもりはないですし、どんどんリリースするのは体力も必要ですし。だから、作るものには情熱をかけてくれる人。自分なりにこだわりを持って、クリエイティブに活動できる方がいいです。しっかりと汗かいて、悩んで取り組んでくれる人の作品を世に出したいですね」
──何か将来的な野望はありますか?
「うーん…レーベルとしての目標みたいなのはあまりなくて。テンション感で言うと、“いい曲ができたな”というときに、すごく軽い気持ちでリリースできるような立ち位置のレーベルにしたいと思っています。まずは敷居を下げたいという理念を達成したいので。…あと、個人的には、いつか大リスペクトしているマーチンさんとお会いすることが目標ですね」
──デュエットではなく?
「はい! マーチンさんとおしゃべりすることを目標に頑張りたいです(笑)」

(おわり)
取材・文/永堀アツオ
写真/野﨑 慧嗣
RELEASE INFORMATION
LIVE INFORMATION

初のライブツアー「SPARK TO DO」
2025年4月12日・13日、両国国技館で行われた「超激動 -SUPER GEKIDO-」にて発表された新レーベル「J STAR RECORD」が主催となり音楽ライブを中心とした全国ツアーの開催が決定!
■開催スケジュール
2025年9月15日(月・祝) 愛知 Lives NAGOYA
2025年9月20日(土) 福岡 DRUM LOGOS
2025年9月28日(日) 東京 LINE CUBE SHIBUYA