Aimerと書いてエメと読むシンガーは、昨今稀に見るユニークな存在だ。まず、一体何者なのかということがよくわからない。詳細なプロフィールは公表されていないし、メディアに出てくることもめったにない。顔出しもしていないので、歌声以外から人物像を想像することができない。そもそも、実在しているのかなと思わせてしまうほど、神秘的なのだ。それだけに、彼女の歌の世界も、ポップでありながらどこか崇高で近寄りがたい。とにかく、不思議な存在であることは確かだ。

数少ない資料からバイオグラフィーを紐解くと、小学生でピアノを始め、中学の時にアヴリル・ラヴィーンに憧れてギターを始めたそうだ。そしてほどなく歌い始めるが、喉を酷使したことで15歳の時に声帯を痛め、沈黙療法で半年間しゃべらないという生活を経験。その後、今の声や歌い方が確立したというから、まさに逆境がAimerを生み出したと言っていいだろう。

2011年から、agehaspringsとの共同作業によってAimerは本格的な歌手活動を始める。元気ロケッツの作品にフィーチャーされた後、洋邦のヒット曲をジャズ・アレンジでカヴァーしたアルバム『Your favorite things』を、iTunes Store限定で発表。そして、2011年9月にはシングル「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」でメジャー・デビューを果たした。数々のヒット・シングルをリリースした後の2012年の10月に、満を持して初のオリジナル・アルバム『Sleepless Nights』を発表。以来、2作目の『Midnight Sun』(2014年)、3作目の『DAWN』(2015年)とコンスタントにアルバム・リリースを行うと同時に、ミニ・アルバムやカヴァー・アルバムなども含めて、精力的にリリースを続けている。

彼女の特徴というと、なんといってもその声だ。エモーショナルな情感を込めた歌い方や、ハスキーで独特の癒やし効果を持つ響きに関しては、他に類を見ない存在といっていいだろう。また、オルタナティヴなロック・サウンドを巧妙に取り入れたバックトラックや、ストーリー性の高い自作の歌詞に関しても評価が高く、熱狂的なファンを多数生み出しカリスマ的な人気を誇っている。しかし、マニアックに陥るのではなく、あくまでもポップな感性を持ちあわせていることは、数々のタイアップを獲得していることでも証明できる。とくに、『BLEACH』(「Re:pray」)や『機動戦士ガンダムUC』(「StarRingChild」)といった人気アニメのタイアップが多いのは、彼女が映像を喚起させる声を持っているが故だ。
そのため、これまでに制作されたビデオクリップもAimerの世界観が現れている。前述の通り、基本的に顔を出さないため、映像も本人不在のストーリー仕立てが多い。女子高生同士の危うい関係を描いた「あなたに出会わなければ ~夏雪冬花~」や、近未来を舞台にした映画のような「Brave Shine」などで大きな評価を得ており、Aimerの音楽にもさらに広がりを与えている。

また、ライヴに関しても独自のスタンスを貫いている。デビュー直後から“Live at anywhere”と題されたインターネットライヴを定期的に行ってきたが、公の場に出ることは稀で、本格的に観客の前でパフォーマンスするのは、2014年以降だ。そんなことからも、3月にビルボードライブで行われるツアーは、ファンの間で大きな話題になっている。めったにない至近距離のステージで、彼女はどんな歌声を聞かせてくれるのか。そして、想像を超える世界が待っているのではないかという予感がしている。

文/栗本斉

<Aimer>
公演日:2016年3月27日(日)、28日(月)
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USENには、ビルボードライブTOKYOに出演が予定されているアーティストの作品などを放送するチャンネル「B-69 Billboard Live TOKYO」があります。

栗本 斉(くりもと ひとし)
文筆家/選曲家/ライヴ・プランナー
著書に『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、『ブエノスアイレス 雑貨と文化の旅手帖』(マイナビ)などがある。
⇒ ブログ「...旅とリズム...旅の日記」

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