――なんだかもう日本語でインタビューできてしまいそうな雰囲気ですけど(笑/さすがにそれは無理)、まず、今回の来日の目的は?

「アルバムのプロモーションと、ふぐ鍋を食べること(笑)。日本食には好きなものが多いんだけど、なかでもふぐは大好物でね。昨夜は美味しい焼き鳥をいただいたよ」

――ふぐでヤバい目に遭ったことはないわけですね。

「うん。幸い、ポジティヴなふぐ体験しかしたことがない(笑)。今こうして僕がここにいるってことで、身をもってそれを証明できてると思う(笑)」

――確かに。さて、この「encore」の読者には“大人の音楽ファン”も多いんですけど、2016年にはあなたもついに50代に突入するんですよね。僕はあなたよりも5つほど年上なので「ようこそ!」と言いたくなります。

「ありがとう。長いことやってきたけど、正直、年齢のこととかあんまり考えてこなかった。30歳になる時はちょっと意識しちゃってたけどね。それを何かの締切りのように感じてしまってたんだ。30代になるまでに何か成し遂げなくちゃいけない、みたいな。だけど実際、幸運にも僕は、それまでにもいろんなところに到達することができた。MR.BIGでの大成功もあれば、武道館公演も体験できたしね。だから、30代になるのも悪くないと思えるようになっていた。40代になってからは、年齢ってものについて無自覚であろうとするようなった。それについてあまり考えないようにしよう、とね。誕生日が近付くと、わざとその日にスタジオの予約を入れたりフォト・セッションの予定を入れたりして、自分を忙しくさせるんだ。すると、自分がいくつになるのかなんて考える暇がなくなるからね(笑)」

――でも50回目のバースデーは盛大に祝ったほうがいいんじゃないですか。

「かもね。今年はその日にあれこれ予定を入れないようにするよ(笑)」

――そして、49歳のあなたが発表したのが『ブッこわせるぜ!』と題されたアルバム。これまで個人名義でもたくさんの作品を発表してきたわけですけど、今作のわかりやすい特徴は、インストゥルメンタル主体ではなく、ヴォーカルがフィーチュアされたバンド・サウンドの作品だということ。

「うん。こうなったのには2つの理由があってね。まず最初に、歌詞がたくさんあったということ。アイデアの大半はイタリアから持ち帰ったんだ。向こうでギター・クリニック・ツアーをやったんだけど、ずっと車移動だったから空き時間が結構あってね。B.B.キングのCDをかけながら窓の外のイタリアの風景を楽しんで、いいムードになってきたところでiPhoneに歌詞を綴っていって。そのツアーから戻ってくる頃には50曲分ほどの歌詞のアイデアが溜まっていた。それを書き上げることからこのアルバムの作業は始まったんだ」

――歌詞先行だった、と。そしてもうひとつの理由は?

「第2の理由は、グレイトなバンドとプロデューサーに囲まれた状態にあったということ。つまり、いいチームがあったというわけ。ちょっとした歌詞のアイデアをフルの状態の楽曲へと膨らませていける環境が整っていたんだよ。だから今回のレコーディングに関わってくれたメンバーたちには感謝しなくちゃいけないし、プロデューサーのケヴィン・シャーリーについてもそれは同じ。なにしろ僕のiPhoneに詰まっていたラフなアイデアを、みんなの協力によってこうして完成形に至らしめることができたわけだから。もちろん歌詞ばかりじゃなく、曲も大半は自分で書き上げたよ。ただ、自分の原案に対して仲間たちからのフィードバックを得られることが、それを完成させていくうえで重要だった。具体的に言うとかつての僕は、アルバム制作に臨むにあたり、毎回すごく精密なデモを作っていた。自分ですべて演奏して、プログラミングもして、デモ制作にすごく時間をかけていた。だけど今回はデモ制作についてもっと“辛抱弱く”あろうとしたんだ(笑)。みんなデモを聴くんじゃなくプレイしたいわけだし、その作業に没頭するのは時間の無駄だと思えたしね。だからアイデアの原型をそのままスタジオに持ち込んで、そこで演奏しながら膨らませていった。バンドがいてくれるということが、デモ制作のプロセスをスキップさせてくれたんだ。ちなみにアルバムの1曲目に入っている“ガッデム・ターン・シグナル”は、まさに人の“辛抱弱さ”について歌っている曲。ロサンゼルスの半端なく酷い渋滞がなければ、あの歌詞は生まれ得なかったよ。そして、あれは僕にとっての“ロサンゼルスへのさよならソング”にもなった。いつもあの渋滞にはイラつかされていたけど、結果、僕はオレゴン州ポートランドに引っ越しちゃったからね(笑)」

文/増田勇一

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