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──当初は昨年7月にアルバムのリリースを予定されていましたが、延期になる前と今とで、作品像に変化はありましたか?
「延期する前には発売できるものが8割から9割ぐらいできていたので、根本にあるものは変わらないんですけど、やはり去年発売していたのか、今年発売するのかで相当変わったんじゃないかなとは思いますね」
──根本にあったもの、今回の『FLASH』というアルバムでやりたかったものというと?
「3年前にリリースした『BI』というアルバムでは、パーソナルで偏愛的なものを書いたんですよね。今しかこういうアルバムは作れないんじゃないかと思っていましたし、書けてよかったなと今でもすごく思っていて。じゃあ次はどんなアルバムにしようかなと思ったときに……FINLANDSを聴いてくれている人って、音楽がすごく好きで、日常に音楽を取り入れていて、探しに探して探し当ててくれたコアなファンの方々が多かったと思うんですよ。私達としてもそういう活動に満足していましたし、ちょっと斜に構えていたところも正直あって、扉をこじ開けてきてくれたら歓迎するという形が多かったと思うんです。でも今回は、自分を俯瞰してみたところから、きちんと伝わるアルバムにしたいなと思ったんですよね。平たく言うと、より多くの人達に聴かれたいなと思いましたし、自分達から少し開いていくことで、消費されるのではなく、きちんと耳に入れてもらえるアルバムにしようというのは決めて作りかかりました」
──多くの人に聴かれる上で、それがその人の中で消化されるのか、それとも消費されるのかで、ニュアンスが全然違いますよね。そこはとても気をつけた部分ではあると。
「そうですね。消費されていくこともしょうがないなとは思うんです。いろんなことが手軽になってきたから仕方ないと思う部分もあるんですけども、決して消費されたくて音楽をやっているわけではないという根本は、やはり変えるべきではないなと思いましたね」
──『BI』が作れたという部分はありつつ、なぜまた扉を開いてみようと思えたんです?
「これまでの活動を振り返ってみると、端から見ても、自分たちからしても訳がわからなかったと思うんですよね(笑)。学生の頃に憧れていたライヴハウスでライヴをして、すごく好きなバンドといっしょにイベントをしてという、今まで憧れていたものには手が届いているけど、その場でずっと楽しみ続けている自分がいるなというのは、薄々気づいていたんです。もちろん、今までライヴハウスシーンから与えていただいたものがあって、それは自分達の中でものすごく大きな財産になっていますし、今のFINLANDSを構築する上ですごく大切な要素になっていて。だけど、楽しさだけで、居心地の良さだけでこの場所で過ごしてしまっていたら、私達はこのシーンに何も還元できないまま終わってしまうし、それってすごくもったいないなと思ったんです。そのためには、新しいことを知る、新しいシーンを見てみるという。それが正しいかどうかはわからないですけど、見てみるというその一歩を踏み出すことが、今ならできるんじゃないかなって思ったことが大きかったです」
──ここまで積み上げてきたものがあるからこそ、今ならやれるんじゃないかと。
「“やれるんじゃないか”というより、やろうっていう気持ちだったかもしれないですね。昔と比べて変化が怖くなくなったとか、変化に対しての恐れが減ってきたことを自分も感じていたので、いろんなところで口に出していたんですけど、変わっていくことが楽しみになってきたんですよね。変わっていくことにワクワクするようになってきて。だから、一大決心というよりも、なんかちょっと新しいところに行ってみれるなら行ってみようという感じでした」
──作品の根本にそういった部分はありつつ、延期になったことで変わったものというとどんな部分がありました?
「入れようと思っていた曲をボツにして、新しく作った曲もたくさんあるので、アルバム全体の構図が変わったところはあるんですが、ここまで時間をかけてフルアルバムを作ったことがなかったんですよ。元々は去年の4月にレコーディングをする予定だったんですけども、12月に変更になったので、こんなに向き合える時間ってあまりないだろうなと思って。だから、できたものを練習して、こういうふうにしたいっていうサポートメンバーと話し合うことは今までもずっとしてきましたけど、その一歩先というか。これは採用しないかもしれないけど、ちょっとやってみようか?って、無駄な道をきちんと通っていけたことで、よりシンプルになったと思うんですよね。いらないものをより排除して、すごくソリッドなものになった。そこが去年出したか、今年出すかで変わっていった点かなと思います」
──ちなみに新しく作った曲というと?
「1曲目の「HOW」とか「Balk」とか。あとは「ラヴソング」も後のほうにできた曲でしたね」
──「HOW」は、鳴った瞬間から扉を開いている印象を受けますね。それこそこれを1曲目にしようと思いながら作ったところもあるんですか?
「そうですね。絶対に1曲目だなと思いながら作っていたし、「HOW」は去年発売していたら100%入っていなかったです。歌詞に関しても、このアルバム全体の答えみたいなところもありますし、去年だったらこの答えがまだ出ていなかったと思うんですよね。問いかけるだけで終わっていたと思うんですけど」
──確かにそういった自問自答の果てに辿り着いたものを感じさせる歌詞です。
「自分自身に“どう?”って聞くことって、大人になるとなくなるし、“どう?”って言われても、自分自身でもうまく答えられない名前のない気持ちのほうが多いと思うんです。でも、こういうことなんじゃないかなって、自分の中で少しずつ噛み砕いていくと、生きづらさの原因がわかってくるというか。不愉快な気持ちが溜まりに溜まっているけど、その原因は何なんだろうなって、ちょっとずつ光を当てることができるんじゃないかなと思ったんですよね。だから「HOW」というタイトルは、自分に向けたものですね」
──扉を開けるにあたって、歌詞について改めて考えたりすることもありました?
「今まで自分の中で使うことを良しとしていなかったものも、今回は自然と自分に許可を出せたというか。伝わらないよりは伝わったほうがいいだろうという気持ちを、やっと素直に無理せず持てたかなという感じはありましたね」
──良しとしていなかった言葉というと?
「私はストレートな言葉をあまり好んで使ってこなかったんですよ。いろんな解釈があるほうが言葉は楽しいと思いますし、日本語って組み合わせ方ひとつで、ときめいたり、すごく嫌な聞こえ方をしたりする言葉がたくさんあると思うんです。その捉え方も人それぞれだから、自分の意図しないところで大炎上が起きたりして、それって良くも悪くも日本語だなと思うんですけど。だからこそ、私はストレートな言葉を使うことをあまり良しとしてなかったんです。だから、たとえば「ナイトハイ」に出てくる<ごめんね 好きだよ 行かないで>というワードも、今まではそれを違う言葉に言い換えて歌っていたんです。でも、いちばん伝えたいのはその気持ちですし、それが根本にあるのであれば、この言葉を言わないときちんと伝えられないなと思って。だから、自分に良い提案をした気持ちになれたんですよね。無理矢理そういう言葉を使ったというよりは、いいタイミングで解禁できた感じがします」
──それこそ「ナイトハイ」ってどんなところから作り出したんですか? すごく優しい雰囲気のあるミディアムナンバーですけども、
「この曲は自分の祖母に宛てて書いたんです。もう年なので痴呆が始まっていて、自分のことも、私のことも、私の母のこともわからなくなってしまっていて。昔、祖父が亡くなったときに、死んでしまったら会えなくなるんだなということを深く思ったんですけど、亡くならずとも会えなくなることもあるんだなと思ったんですよね。それは私の中ですごく大きな経験だったし、こういう経験って、生きていてあまりしないと思うんです。だから、自分の中にある懺悔と祈りの気持ちを、絶対に曲にしたほうがいいと思って。歌詞はどれもそのときの情景を切り取っていたり、今まで確実にあった時間を言葉にしたりしているので、「ナイトハイ」はすごく現実的な歌だなと思います」
──お話を聞いていて、<どんなことが起きても あなたが与えてくれた日々が わたしの名前だ>という歌詞が改めて胸にきました。
「祖母には今まですごく大切にしてもらっていたと思いますし、愛情をすごくかけてもらっていたと思うんですが、思春期のときにすごく傷つけてしまったな、冷たくしてしまっていたなって思うこともあるんです。でも、今更それを後悔しても綺麗事でしかないと思って。それならどうできるんだろうと思ったときに、これからいろんなことを忘れてしまうけれど、今まで生きてきてつらかったことは忘れてしまってもいいから、今日のご飯が美味しかったとか、身近にあった少しでも楽しいことだけ覚えて生きていってくれればいいなって。そういった祈りと、私は今まで大切にしてもらってきた家族の命の続きで生きているんだなってすごく思ったんですよね。だから、私自身が生きていく中で、誰かから無条件に傷つけられていいわけがないし、悲しまされていいわけがない。そうやって自分を大切にしていくことで、誰かの命を受け継いでいくことができるんだな、そうすることでしか私が今後償えることはできないんだなって。そういう気持ちを込めました」
──本当に素敵な曲だと思います。自分を大切にするというお話がありましたが、他の曲でもそういうメッセージを感じる瞬間があって。「ラヴソング」もそうですよね。別れた恋人を非難しているようにも見えるけど、決して闇雲に別れを推奨しているのではなく、そういう考え方もあるんじゃない?っていう、ひとつの考えを提案しているような感じになっていて。
「「ラヴソング」はわりと異質というか、おもしろがって書いたところもあるんですよ。自分を大切にすることは大事ですけど、自己愛が強くて自分を守りすぎてもよくないと思ったんです。だから、歌詞の<さよならさ つまらない人>も、相手だけじゃなく、自分にも言っていて。あなたも私も自己愛が強すぎて、相手に興味を持てなかったからつまらない時間しか生まれなかったんだよっていう。そういうことに、書いている最中に気づいたんですよね」
──書いていて気づくことも、これまであまりない経験でしたか?
「今までは、最初から引き分けみたいな感じで書いていくことが多かったんですよ。あなたも私もどっちもよくなかったって。自分の経験としても、誰かから話を聞いても、そう思うことが多かったんですけど。それでこの曲は、1から10まで全部相手のことを書いていたんですけど、裏返したら全部自分のことを歌っているから、自分で自分にめちゃくちゃ悪口を言っているみたいで、ちょっとつらかったです(笑)」
──(笑)。「ランデヴー」のような、リズムセクションや譜割りにヒップホップ的なニュアンスを感じる曲も新鮮でした。
「この曲は元々あって、どこで出そうかなっていう感じではあったんですよね。いつもサポートしてくれているメンバーって、私と全然違う音楽畑で育っているから、曲は私が作るけど、演奏は一旦みんなの好きにやってみてくださいっていう曲を、フルアルバムにいつも1曲入れるんですよ。こういうことをFINLANDSでやってみてもおもしろいなっていう発見できる部分もあるので。そういう曲のポジションに今回は「ランデヴー」が入りました。私としては、ノスタルジーな感じの歌詞を書きたいと思っていたので、そういうものにハマるものを採用していく感じでしたね。いろんな案を出してくれて、その中から選ばせてくれるというか」
──ノスタルジーを描きたかったんですね。
「私の二十歳ぐらいの頃の思い出ですね。免許取り立てで、夜中に半同棲中の彼氏と行くドン・キホーテっていう(笑)」
──なるほど、絵がすごく浮かびます(笑)。“ベッドもソフトもおいてある店ってどこだよ?”って。ドンキだったんですね。
「そうそう。夜中にゲームとか買いに行っちゃうんですよ。お金ないのに(笑)。ドン・キホーテって、昔は<要らないもの>を買うために行っていたんですよ。でも、いまは洗剤とか生活品を買いに行っていて。自分の中で、いつのまにかあのお店が生活に便利なディスカウントショップになっているなって気づいたときに、結構ショックだったんです。だからなんというか、あの頃って本当にろくでもなかったなあ。とは思うんですけど、めちゃくちゃ大事だったなっていう曲です」
──確かに、深夜のドンキにノスタルジーを感じてしまうの、よくわかります(笑)。
「安い香水が混ざった匂いがするあの感じが、なんか本当にいいんですよね。新宿駅の南口とドンキはいまだにその匂いがして、すごく好きなんです」
──でも、なぜまたノスタルジーを書きたいと思ったんです?
「この歌詞を書いたのは後のほうで、最初は自分の記憶にあるノスタルジーだけだったんです。でも、コロナ禍で家から出れなくなった人達が多かったじゃないですか。学生であれば、学校が休校になったり、授業がリモートになったり、高い学費を払っているのに行けないとか、本当に大変な状況だとは思うんですけど。でも、もし私が高校生だったら、親も昼間は家にいないわけじゃないですか。たぶん、彼氏とめっちゃいっしょにいるだろうなって思ったんですよね(笑)。確かに今は本当に大変かもしれないけど、あのとき学校にも行かないで、ずっと家で2人でゲームしてたよね、映画を観てたよねっていう思い出のほうが絶対にいいなって思ったんです。周りのことなんか何も気にしないで、家で遊んでたほうがいいよって。その気持ちをどうにか伝えたくて」
──確かに、そういったどうしようもない時間ほど、自分の中に大きく残るというか、それがものすごく大切だったんだなって、後から気付きますよね。その当時は絶対にわからないけど。
「そうそう。この部屋の中が世界のすべてだと思うような感じというか、まるで映画の世界になったみたいに、この6畳1間が自分達の世界で、外は異世界みたいな感覚って、持てる時期と持てない時期が絶対にあるんですよ。だから、そういうことをやったほうがいい!って私はすごく思ったんです。そういう世界、自分達だけの世界を作れる時間があったら、すごく楽しいよ?って。途中からそういうふうにちょっとずつ書き足していきましたね」
──あとは「Balk」のような激情的な楽曲もいいなと思いました。
「この曲はとにかく重くしたかったんですよね。遠隔で作ろうっていう話になったんですけど、これだけ重厚感のある曲となると、生でノイズを録りたいなっていう気持ちが出てきて。だから、出来上がっているといえば出来上がっているんだけど、ちゃんと生で録れるときまで待ったんです。機械の中だけではなく、空気の含みとか、キリキリした重みのあるノイズを乗せたくて。それが叶って満足していますね」
──歌詞は、ここ昨今の世の中であったり、インターネットの穏やかではない空気を切り取りとっていて。
「もともと私は、社会的なことや政治的なことを歌にしたくなかったから、自分の手に届くこととか、半径何メートルのことを歌ってきたんですよね。たとえば、すごく遠くにいる人を、大きな括りで“応援してます”って言っても、やっぱり嘘だなって思ってしまうんです。だから、自分が近くで感じたこと、近くの人が経験したことを聞いて自分が思ったことを書き記しておきたいと思ってきたんですけど。でも、インターネットやSNSで問題になっている誹謗中傷や炎上って、実際に誰がやってるのかわからないじゃないですか。もしかしたら、今まさに自分の隣に座っている人が、加害者の可能性も、被害者の可能性もあって。そう考えると、そういったことはもう自分からは遠いものではなく、身近なものになってしまったんだなと思って。だから書きたいと思いました」
──なるほど。『FLASH』を聴いていると、いろいろな気付きを与えてくれますし、「USE」のように、その気付きから足を踏み出すことを肯定してくれる感じもありました。
「FINLANDSにはもうひとりメンバーがいたんですけど、2019年に脱退して、そこから私ひとりになったんですよね。それで、毎年2デイズワンマンライヴを開催しているんですが、毎回エンディングソングを作っているんですよ。3年前のエンディングソングが「BI」で、その翌年に作ったのが「USE」なんです。今まで弾いてもらっていたベースも自分で弾いて、全編自分で作っていて」
──となると、現体制になってから最初に作った曲になるんですか?
「そうですね。最初の曲です」
──それこそ、ここからひとりで足を踏み出していく上での心境を歌ったものなんですか?
「いま聴き直してみると、そういう気持ちもきっとあったんだろうなと思いますね。これは恋人にも、やめちゃったバンドメンバーにも、家族や友達にも思うことなんですけど、自分が見据えているもの、<お気に入りの未来>があったとして、もしいっしょにいることでその道に進めないのであれば、それは寂しくても離れたほうがいいなって思うんです。でも、別々になったとしても、次に会えたときに、お互いがそれぞれの道で得られたものを話せたら、それはすごく楽しい時間になると思うんですよね。だから、別れてしまうことって、楽しいことが2個分生まれるんだっていう気持ちを、最後には書いてますね。自分を励ます気持ちもあるし、誰かが聴いたときに、お別れすることや別々の道を行くことって、悲しいだけじゃないんだなって思ってもらえたらいいなって」
──お気に入りの未来に進んでいくことって、いわば自分を大切にすることでもありますし、そういったメッセージがアルバム1枚通して綴られていて。そう思うと、そういった気持ちは「USE」から始まっていたのかもしれないですね。
「私もそれを思いました。確かに「USE」のときに感じた気持ちが、「HOW」まできちんと繋がっているなと思います」
──そんなアルバムに『FLASH』というタイトルをつけたのは?
「「Stranger」を作っているときに、このアルバムを一言で表したら何だろうなと思って。それが“閃きと繰り返し”だったんですよね。人間って、ずっと同じことを繰り返していると思うんです。普通に生きていたら、すごくロマンティックなこととか、人生を一変させるような出来事って、そうそうなくて。それはわかっているんですけど、それを求めてしまう、期待してしまう部分ってあるじゃないですか。だけど、毎日繰り返していく中で見つけられる小さな閃きで、私達は徐々に変わってきているんだなって思うんですよね。ずっと同じことをしているようでも、私達は閃き続けているんだろうなと思ったので、タイトルは『FLASH』にしました」
──そんな1枚を完成させてみて、いま改めてどんなことを思いますか?
「自分がいちばん大好きだと思えるアルバムができたことがすごく嬉しいですね。初期衝動というか、高校生の頃みたいに、もう音楽が聴きたくて聴きたくて、我慢できないから授業中も聴いちゃうみたいな気持ちって、正直、今の私は持っていないなと思って。たぶん、我慢しなくていい時間が多いからだと思うんですけどね。聴きたいと思ったらすぐに聴けてしまうから」
──ああ、なるほど。
「やっぱり最後の曲まで終わったら、またすぐ1曲目に戻ってリピートするのをずっと繰り返してきたこと、それぐらい聴きたいと思えたアルバムと出会えたこと、今聴いても当時を思い出せることってすごく幸せなことだと思うんです。だから、自分が音楽を作っているのであれば、私がそう思えるアルバムを作ったらいいんじゃないかなと思ったんですよね。実際に出来上がってみて、何度リピートして聴いてもすごくかっこいいと思えるアルバムができたので、大満足ですね」
(おわり)
取材・文/山口哲生
- FINLANDS『FLASH』
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2021年3月24日(水)発売
FU-022/2,750円(税込)
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