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――sajiとしてようやくフルアルバムがリリースされます。これまで、タイアップのついた楽曲やミニアルバムはテーマ性が強かったですけど、今回のアルバムはどうでしょう?
ヨシダタクミ「コンセプトをつけずにできたんで、そういう意味では結構フリーテーマでいろいろ書いた感じです。新録、こうやって見ると多いですね……頑張りましたね(笑)」
――ミニアルバムがそれ自体で完結してるから代表曲をアルバムに入れるのも違うのかもしれないし。
ヨシダ「そうですね。ベスト盤っていうよりはちゃんとフルアルバムを作ろうと思いました。ライブ自体はご時世的に出来ていないんですけど、やっぱりバンドなので、ライブを意識した曲が多いのかなと思います」
――ヤマザキさん、ユタニさんはいかがですか?
ヤマザキヨシミツ「曲によって欲求に正直な感じでベースを入れました」
ヨシダ「今ヨッシーが言ったように、意図を持たずに書いた曲もあれば、特に今回、ティーンエイジャーに向けた曲を多く作れたので、こういう時に聴いてくれたらいいなっていう想いも共有しながら書きましたね。特にM1からM4ぐらいまではライブと10代の子に向けて書いたので、その辺はフルアルバムらしく作れたなと思います」
ユタニシンヤ「僕はあんまりアルバムって意識はせず、1曲1曲正面から向かって行った結果、全体を通してsajiらしさが出せたかなと思います」
――1曲目から「After School Party!!」ですが……
ヨシダ「そこもかけたんですよね。前のバンド名を入れて何か作ろうと」
――1曲目にしたのはphatmans after schoolから繋げようって意図があったんですね。
ヨシダ「先にイメージをつけたというよりは、1曲目にふさわしい曲を書こうと思ったんですよね。それでタイトルどうしようかなと思った時に、放課後にわちゃわちゃ楽しんでいる感じを出したいなと思ってタイトルをつけました。このタイトルだったら全員の声を入れなきゃと思い、メンバーはもちろん、スタッフ総出で、強制召集かけて掛け声を録りました(笑)」
――ティーンエイジャーの中でも具体的には高校3年生とかですよね。
ヨシダ「あ、そうです!まさに、そこです」
――そこに向かった動機はありますか?
ヨシダ「僕が音楽をやろうって志したのがその時期でしたし、人生の過渡期ってどこかな?と思うと、17、18なんですよね。この頃に将来どうするかをなんとなく考え始めたし、この時に考えたことの延長上で今生きてるんで、僕ら3人とも。となると人生をいちばん位置付ける時期にこの曲に出会って欲しいなと。包み隠さずに言うと、10代の頃に出会った音楽がやっぱり今の僕の価値観になってるし、みんなそうだと思うんですよね。だから早めに出会いたいです。そしたらずーっといっしょにいてくれるので(笑)」
――ちなみにユタニさんの17歳はどんなでした?
ユタニ「タクミと高校の時バンドをやってて、これからも音楽をやっていきたいなと思ったのが高校の大会とか出てた時期なので、だいたいいっしょですね」
――ヤマザキさんはどうでしたか?
ヤマザキ「17の時にやっていたものの中でバンドがいちばん楽しかったんで、続けたいなって思いはありましたね」
――じゃあ皆さん、その当時やりたかったことを今も続けてるってことですね。
ヨシダ「そうですね。続けてるというか続いていることですよね」
――17歳の高校卒業のタイミングを思わせる感じですね、冒頭の4曲は。
ヨシダ「もう3月にアルバムが出ることが決まっていたので、そこはもう決め打ちしようと」
――「ツバサ」の歌詞のストレートさがすごくて。割と避けがちな慣用句も入っていて、素直に力づけられる感じ。
ヨシダ「大人になって語彙力は上がったんですけど、その分、今おっしゃったように避けがちなワードって多いし、言うのが恥ずかしくなる言葉って増えますよね。でも、10代の頃は案外使ってたんですよね。だとしたら大人っぽい言い方、説教じみた曲を書くぐらいなら、そういう言葉を取捨選択したいなって。卒業式で歌う歌もだいたいそうじゃないですか。“翼広げよう”、“羽ばたこう”みたいな(笑)。でも最初に“羽ばたこう”って比喩的表現を考えた人は偉いですよね。たぶん、大正、昭和あたりの作詞家さんなんでしょうけど。慣用句って言われるぐらいになってるのがすごいですよ」
――一方、「僕らの秘密基地」は自分との対話って感じしませんか?
ヨシダ「そうですね。セルフライナー的なことを言うと主人公に兄弟がいて、お兄ちゃん死んじゃって、お兄ちゃんの年齢を追い越した時に昔を思い出す弟みたいな曲を書きたくて。ちなみに、タイトルの「僕らの秘密基地」は、僕が高校生の頃に友達と作ってたホームページの名前なんです(笑)」
ユタニ「エモいね(笑)」
――ホムペとかプロフとか言ってましたね。
ヨシダ「ははは!ホムペ!ヤバいですね」
――なるほど、友達とやってた個人ホームページの名前でもあると。
ヨシダ「中身的には少年時代みたいな意味の曲なんで」
――ネタバラシするとちょっと重い曲になっちゃいますけども。
ヨシダ「昨年、ステイホームの時期に、今、会いたいけど会えない人への手紙を代わりに唄いますといった企画で手紙を募集したんですよ。「クラスメート」がまさにその時に出来た楽曲なんですが、いただいた手紙の中にM4「僕らの秘密基地」、M5「なんてさ。」に近いエピソードのお手紙があって、それを覚えていたので曲を書きました」
――これぐらいポップな曲になって良かったかもしれないですね。
ヨシダ「残酷なこと言う時に残酷な曲になっちゃうのが嫌なんですよね。暗いことを暗く歌いたくなくて。切なさって明るいから逆に切なかったりするじゃないですか」
――今回のアルバムに関していうと、10代の子に対して将来がどうこうというより、今、大丈夫だよって言ってあげてる感じがします。
ヨシダ「こうしろああしろというより、とりあえずなりたいものを探してみたら?っていう歌が多いんですよね。僕でいうと、音楽は向いてるなと漠然と思ってて。当時は漠然としてたんですけど、いろいろ楽しいことがあって、このままやれたらいいなって思いが実ってプロになれました。それがちょうど17、18の頃でした。だからなんか“夢ないんだよね”って子がいたとしたら、夢はなくてもいいけど、夢を探すところからとりあえず始めておいた方がいい。大人になるとちょっと不利になるんで」
――夢とか希望が救ってくれるって、そういう意味ですよね。夢って言い方じゃなくても、やりたいことがないってはなから決めることはないというか。
ヨシダ「結構、SNSで質問募集すると、そういう子いるんですよ」
――それって防御というか。成功したい欲求よりも失敗したくない欲求が強いというか。
ヨシダ「悟ってる子いますよね。傷つきたくない気持ちが強いんですかね」
――今回すごく前向きだし、カタルシスの連続というか、現実には難しいことでも音楽では爽快な方がいいって印象があって。
ヨシダ「ほんとそうですよ。バッドエンドが嫌いなんで。これずっと言ってると思うんですけど。マンガ読んで現実感じて落ち込みたくないないですよ。今、例えば辛い時に読んでもっと辛くなりたくないじゃないですか。ほんとに嫌な時ってたぶん、音が入ってこないんで。余裕のある時に余裕なくすことはしたくないとは思います」
――ほんとにそう思います。そしてリード的に先行配信されている「アルカシア」ですが、これsajiの今の武器を結集した感じで。
ヨシダ「ははは!確かにそうですね。これはミニアルバムの系譜を辿りつつ、ミニアルバムほどのラブバラードにもなってないっていう。よくよく歌詞をフルで見てもらうとミディアムバラードのチューンのではあるんですけど、バンド色もありつつ、という曲にもなってるし、結構、これは自然に作れましたね。アレンジもほぼ第一稿のデモから変わってないんで」
――ミニアルバムからの流れもありながら、アレンジに厚みがありますね。ストリングスもリッチな感じだし。
ヨシダ「いわゆる泣きみたいな部分でのシンセの構成とか、ギターの入りはすごく考えて作りましたね」
――結構、アレンジとが豪華な感じの曲ですが、演奏面で気にしたところはありますか?
ヤマザキ「絶妙なテンポだったんで、淡々としすぎないようにはしました」
ユタニ「僕はいい意味でリズムに合わせようと思いましたね」
――これだけ楽器が入ってる割には自然に聴こえるんですよ。
ヨシダ「今、ヨッシーとかユタニ君が言ったとおりで、全部の楽器が歌心がないと成立しないというか。結構みんな弾き語りっぽいリズム域なんですよね。だから愚直に8分で刻んじゃうと浮いちゃうし。ほんと全員が弾き語りのみたいな気持ちで楽器が入ってる曲だと思いますね」
――アルバムならではなのかなと思ったのが「Maybe It’s In Your genes.」。これは最近の社会的にネガティブな話題にも合致するような。
ヨシダ「これ和訳すると“君の遺伝子に問題がある”って意味ですからね。どうでもいいやつに相談された時のブラックジョークみたいなやつらしいんですよ」
――ああ、“原因はお前にあるんじゃないの”的な?
ヨシダ「そうなんです、皮肉なんですよ。僕はコンセプト書いてる時はシニカルな歌詞が書きづらくて。でも僕らの武器の一つとして、誰かを罵倒してるわけじゃなくて、ある意味自分を卑下しながらちょっと「笑えよ」みたいな曲を書くことが多かったんですよ。でもsajiになってからそれがまだできてなかったんで、入れようと思ったのが一つ。あと、人間って本質的にこういう面もあると思うんですよね。どんなにいいやつも心の中にある闇というか。人にぶつけることはなくてもちょっと黒い部分って見えたり見えなかったりするんで」
――展開がすごかったのが「雨と踊る」で。これ、頭から最後までずーっとピアノ入ってません?
ヨシダ「そうですね。これもデモからそんなに変わってないんですけど。これ書いた時も、なんか1曲、これまでとサウンドが違うものを入れたいなっていうので。で、たまたまこれ作ってた時に深夜ドラマ見てて。これも僕の中のほんとに刷り込みのイメージで、深夜ドラマっぽい曲ってあるじゃないですか。例えば「ライアーゲーム」とか。ちょっとそういう音が鳴ってくる、謎解きっぽい音」
――サスペンス調の?
ヨシダ「そうです。この曲を書いていた時、リファレンスで、ちょっとサスペンスなドラマの主題歌っぽいの書こうと思って。次回予告行く前の、クレジットが流れる時にピアノから入ったら、ぽいじゃないですか。なんか謎のやつから電話かかってきて“実は生きていた!”みたいなイメージで書きました」
――なるほど。かなりエクストリームなピアノで。なかなか怖いです。そしてラストに「明日の空へ」のこのアルバムバージョンはストリングスバージョンと言っていいんでしょうか。
ヨシダ「そうですね。これもアニメ尺バージョンはずっとUSENで流れていましたね。あのドラムレスのイメージが強かったんで、アルバムに入れるに際してやっぱりガッツリ、バンドサウンドというよりは歌に寄り添った、シンセストリングスだったりとか、ギターも入り方がシンセっぽいですよね」
――ライブやりたいというモチベーションもあるアルバムだと思いますが、全体通して青臭い部分もあったり。
ヨシダ「でも怖い部分もありますね。青臭さって昔は狙ってなかったですけど、狙っても出なくなる日が来るのが怖い。昔は狙わずに出す無邪気さが、アーティストの良さだと思ってたんですけど、僕がそう思って聴いてた先輩たちと話してると頭使ってるんですよね。もちろん、全部が計算づくじゃないけど。こういう風な人間だと思われてるからそれに応えたいって気持ちは結構みんな持ってて。そういう話を聞くと、やっぱり思考停止して曲を書いちゃいけないというのはsajiになってからは思いますね」
(おわり)
取材・文/石角友香
- saji『populars popless』
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