渡辺直美が東京ドームでコメディショー『渡辺直美 (20) in 東京ドーム』を開催した。今年2月に芸歴20年目を迎えることから企画された本公演。当日までイベントの内容は全く想像がつかなかったにも関わらず、チケットは即日完売。ピン芸人が東京ドーム公演を完売させたのはこれが初めてだ。なお、この公演で渡辺は女性ソロコメディアンによるコメディショーで販売されたチケットの最多枚数記録を更新。ギネス記録に認定された。

冒頭で渡辺は「今日は私のことを隅から隅まで知ってもらう会になったらいいなと思っています」と話していたが、その言葉通り、渡辺直美の芸人人生20年間はもとより、生まれてからの半生を、笑いと音楽でダイナミックに表現する、渡辺にしか作り上げることのできない一夜となった。

『渡辺直美 (20) in 東京ドーム』レポート

場内が暗転するとカウントダウンが始まり、場内にはちょくみーず(※渡辺直美のファンネーム)のカラフルなペンライトが光る。10秒前からは「10! 9! 8! 7! 6! 5! 4! 3! 2! 1!」と自然とカウントダウンの声が上がる。そしてカウントが0になると、メインステージから伸びた花道でダンサーが勇ましくしなやかなダンスを踊り、高揚感を煽る。メインステージを覆っていたビジョンの映像が消えると、同時にそのビジョンが扉のように大きく開き、階段状のステージが姿を見せる。すると、階段の上からゆっくりと渡辺が登場。大歓声を受け、髪をなびかせた渡辺は「東京ドーム、ぶち上がって行くぞ!」と咆哮し、サイトウジュン率いる11名の生バンドの演奏と、階段に立ち並ぶダンサー72名と共に、ビヨンセの「Crazy in Love」をソウルフルにパフォーマンス。ダンサーに両側から引っ張ってもらう形で真っ白なフリンジの衣装に早着替えすると、花道を進み、センターステージで横になったり回転したりと艶やかなパフォーマンスでも集まった45千人を魅了。これぞ渡辺直美!と言わんばかりのオープニングで沸かせた。

白いワイシャツとネクタイ、プリーツスカートという制服風の衣装にストレートヘアという格好に替えて再登場した渡辺は「すごいね! こんなにたくさんの人々初めて見た」と感動を口に。息を切らしながら「正直、さっきのビヨンセで体力全部使いました(笑)」としっかり笑いも誘い、「今日は私のことを隅から隅まで知ってもらう会になったらいいなと思っています」とこの日の趣旨を説明する。そして「まずは0歳から18歳のお話をしようかなと思っているんですけど、よろしいですか?」と言うと、赤ちゃんの頃のドンハゲの写真を大写しにして、「お父さんはとっても優しい人。唯一の欠点が生粋の女好き、どすけべ。だから離婚しました(笑)。お母さんは破天荒。めっちゃ厳しくて。台湾人だからカタコトで、私のことを『てめえ』って呼んでる」と両親をユニークに解説。そこから、幼少期、小学生、中学生、バイト時代と、18歳までの自身の半生を、写真とエピソードで紹介していく。

幼少期は夏休みのたびに母親の地元である台湾で過ごしており、台湾のテレビで繰り返しオンエアされていた「志村けんのだいじょうぶだぁ」を見てお笑いを学んだと、自身の笑いの原点にも触れる。小学生の頃は母親が働いていたため、家ではテレビを見て寂しさを紛らわせていたと言い、その頃「いつかテレビの向こう側に行って、同じようにテレビの向こうで寂しい思いをしている子どもや大人を元気にしたい」と思ったことや、中学生の頃、クラスでモノマネを披露することになり、帰ろうとしていたヤンキーが笑ってくれた瞬間、芸人になることを決めたことなど、お笑いとの接点も織り交ぜながら、さまざまなエピソードで東京ドームを爆笑の渦に包み込んでいった。

そして中学卒業後、NSCへ通うためにバイトをしながらお金を貯めていた時期の、破天荒な母親との壮絶なエピソードと共に「このお母さんの話を笑いにするには芸人になるしかないと思ってNSCに履歴書を送ることを決めた」と、いよいよNSCへと歩みを進める様子が語られ、芸人人生へと物語を進める。

ここまでは漫談形式だったのだが、舞台が2006年東京NSC面接会場へ変わり、コントが始まる。

すると「ここは東京〜」「ここから始まる私の物語」と渡辺が歌い始める。突然のミュージカルに思わず笑ってしまうが、歌い始めると歌や楽曲、パフォーマンスのクオリティの高さに魅了され、観客はミュージカル「渡辺直美物語」に引き込まれていく。吉本の同期や先輩役として、ジャングルポケット、パンサー向井慧、シソンヌ、チョコレートプラネット、しずる池田一真、友近、ハリセンボンなどがサプライズ出演しながら、NSCの授業初日やビヨンセのモノマネを始めるきっかけになったオーディション、「いいとも少女隊」の結成、アメリカでの活動開始など、各ターニングポイントでの喜びや葛藤を、オリジナルの楽曲と芝居で描いていく。「わたもち」「フレッシュライム」という渡辺が過去に組んでいたコンビのくだりでは、相方役として朝日奈央が登場。渡辺と朝日で、相方と出会う喜びや相方と見る夢の尊さなどを軽快に歌い上げた。

初めてのテレビ出演となった「さんまのまんま新春SP」や、夢として掲げていた「笑っていいとも!」、念願のコント番組「ピカルの定理」などのくだりでは当時の映像も流れる。「ピカルの定理」では、ピース又吉直樹、平成ノブシコブシ、ハライチ、モンスターエンジンが当時のキャラクターに扮して、13年ぶりの再会を果たした。また西からの刺客・千鳥は、攻め入るように強いラップを歌いながら登場するなど、普段はあまり見ることのできない芸人たちの音楽パフォーマンスでも楽しませていく。コロナ禍を経て、ミュージカル「ヘアスプレー」の練習をしようとする渡辺の元にやってきたのは、同作でリンクを演じた三浦宏規。2人が「You Can't Stop the Beat」をデュエットすると、さらに平間壮一、清水くるみ、田村芽実、上口耕平、エリアンナ、石川禅、瀬奈じゅんも加わり、ステージは一気に豪華な「ヘアスプレー」のステージと化した。アメリカに旅立つ前には千鳥・大悟が見送りに。エモーショナルなデュエットで旅立つ背中を押し、渡辺はいざアメリカへ。華やかなアメリカの街で、ミュージカルの最初に歌った楽曲を再び歌い、アメリカで活躍する直美の姿と希望をたたえた表情で、笑いと感動に満ちた「渡辺直美物語」は幕を下ろした。

大作のあとは、ちょくみーずとの交流を図る。YouTubeチャンネル「NAOMI CLUB」でお馴染みのBGM「ハッスルタイム」に乗せて水色のドレスに着替えた渡辺が登場する。お馴染みの音楽に心を弾ませたちょくみーずの顔を見ると、「東京ドームってトロッコに乗ってうろちょろするんだよね」と渡辺も声を弾ませ、ピンクの色のトロッコに乗り込み客席内へ。質問コーナーをしながらファンと交流する。といっても、トロッコは止まれないため、なかなか質問を受け取ることができない。しかし積極的にファンの声に耳を傾け、「夢は何ですか?」という質問には「おいしいものを一生食べる」と回答したり、「座右の銘は?」という質問には「喜怒哀楽。喜怒哀楽は座右の銘じゃないか!」と答えたりと、うれしそうにちょくみーずとの交流を楽しみ、「みんなの顔をよく見れてうれしかった」「会えてうれしい、本当にありがとう」と感動を口にした。

東京ドームといえば音楽のライブ。ということで、東京ドームでのイベント開催が決まってからの2年間で、渡辺は様々なことを考えてきたという。その一つとして、昨年、正体を明かさずにアーティストデビューしていたことを明かす。その曲をここで披露し「これが渡辺直美でした」と正体を明かして盛り上がることを想定しての企画だったといい、その曲を流すことに。すると……ほとんどの人が知らない曲で、場内の反応は絶妙。渡辺は「知らないでしょう?(笑)」と笑う。その曲はPeach Napというアーティスト名でリリースした楽曲「Mizu」で、MVの再生回数は2390回だったそう。ただ、この曲は英語詞だったため、その後、恋愛をテーマにした日本語詞の楽曲も作った。その曲は「Wasting Time」で、MVの再生回数は41回。「東京ドームで正体を明かしてみんなを驚かせる」という思惑は失敗に終わったが、畳みかけられるPeach Napのエピソードに客席からはどっと笑いが起きる。「母親との壮絶なエピソードを笑いにするにはお笑い芸人になるしかない」と茨城で決意した少女は、今でも、どんな出来事も笑いに変換していたのだった。

ということで、東京ドームで音楽を披露したいという思いは、別の曲に託されることに。渡辺の“最高にリアルでホットな”ラッパーの友達・千葉雄喜を呼び込むと、千葉がスマホのライトで照らされる景色を見てみたいと提案。色とりどりのペンライトに染められていた客席は、一瞬でスマホのライト一色に。圧巻の景色に「なんだこれ!」と感嘆する2人。そして2人は東京ドームやアメリカでの信じられない感動の景色を歌ったコラボ曲「なにこれ?」を披露してみせた。歌い終えると、「なにこれ?」が近日配信リリースされることも発表された。

いよいよショーもフィナーレ。ダンサーがメインステージに集まると、その中心から現れたのは「徹子の部屋」出演時のレディー・ガガを彷彿とさせる衣装に身を包んだ渡辺の姿。そしてレディー・ガガの「Judas」が始まると、ダンサーが踊る中で渡辺は微動だにせず、その対比で笑わせる。かと思いきや、その衣装を脱ぎ捨てると、ダイナミックなダンスで魅了。さらにレディガガよろしくダンサーに抱えられながら花道を進んでまた笑いを誘うも、その直後には円形のステージで艶やかな表情やスキルフルなダンスで観客の視線を釘付けに。世界をうならせるエンターテイナーぶりをこれでもかと見せていった。

最後は再び「ハッスルタイム」に乗せて、改めてちょくみーずへ挨拶をして回る。メインステージに戻ってくると、「すごかった。本当に楽しかったです」と振り返る。続けて「私は結構目標を立てるタイプなんですが、『東京ドームに出る』って目標は人生の中になかった。だから皆さんからのプレゼントというか、皆さんが日頃応援してくださったおかげで素敵なステージに立てたんだなって思いました。私に新たな夢を与えてくれてありがとうございます」と素直な思いを語る。さらに「特別な日になりました。また明日からもどんどん更新していってみんなで最高の人生にしましょう」と思いを昂らせたかと思えば、「勝手に人の人生を語るなっていうね(笑)」と笑い、最後まで笑いの絶えない3時間超のコメディショーは幕引きとなった。

『渡辺直美 (20) in 東京ドーム』ギネス世界記録™ 認定授与式 レポート

終演後には、ギネスの世界記録授与式と、マスコミ向けの囲み取材が行われた。「本当に楽しかったです」と笑顔で登壇した渡辺は、「わぁ、初めてだ、ギネス!」と興奮した様子で認定証を受け取ると、「ギネスを持っていたらいいなと思っていたんですけど、まさかこんな素敵なギネスをいただけるとは。もうとってもハッピーハッピーです。これは私だけではなく、今まで応援してくださった皆さん、この20年間の中で携わってくれたスタッフの皆さん、チーム吉本、みんなと一緒に取ったものだと思っています。この記録をいつか自分で塗り替えられるように今後とも頑張っていきたいと思います。ありがとうございます」と喜びを語った。

「1ヶ月前くらいから眠れなかった」と相当な緊張を抱えて迎えたというこの日。ショーの脚本も渡辺が手がけたため、「東京ドームキャパのボケがまったく浮かばなかった」と、東京ドームならではの苦悩があったことも明かす。「ずっと800人キャパくらいのボケをやっていたから、打ち合わせでも『いや、それは800人のボケだな』『それは100人だな』という会話をしていて。キャパのことを考えてネタを作ることにめちゃくちゃ緊張していた」と言うも、「今日舞台に立ったら、始まりのビヨンセからお客さんがすごく盛り上げて受け入れたから、あっという間でした。すごく楽しかったです」と笑顔を見せた。東京ドームのキャパシティに戦いていたのは、渡辺だけではなかったようで。リハーサルで千鳥の大悟や平成ノブシコブシの吉村にも「これはやめよう」「キャンセルしよう」と言われたと明かし、「だけどみんな舞台に立ったら楽しくやれていたんじゃないかなと思います」と、自ら電話をかけてオファーをしたサプライズゲストたちの様子も振り返った。

ギネス記録を樹立した際「この記録をいつか自分で塗り替えたい」と語った渡辺。「その記録は東京ドームで塗り替えたいか、別の場所か」と聞かれると「東京ドームでもう一回できたらいいなと思うし、もう一回東京ドームで塗り替えたい気持ちもありますけど、もっともっと大きいところでやってみるのもアリかなと思う」と意欲を燃やすも、「その代わり、また20年後にやるとしたら、もうビヨンセできないと思うんですよ。58歳ですから。だからそれまでに体を鍛えてもっと大きなところでやりたいと思っています」と、ここでもしっかりと笑いを取りながら展望を語った。

千葉雄喜とのコラボ曲のリリースも決定したことから、音楽活動の今後の意欲や展望を聞かれると「Peach Nap見てましたよね?(笑) いけると思います?」と切なく返すと「そもそも歌ったりするのが意外と恥ずかしくて」と素顔を見せる。今回のコラボ曲「なにこれ?」も、千葉にラップを教わって実現したものだと言い、「今後、企画以外で歌うことはないと思いますけど、コラボとかで楽しいことができたらいいなとは思っています」と、お笑い芸人としての矜持を覗かせて囲み取材をしめくくった。

すべてを笑いに変えて、自分を信じて進み続けたことで綴られた“渡辺直美物語”。そんな彼女の姿勢は、クラスメイトや部活の後輩、芸人仲間や芸人の先輩、そしてちょくみーずなど、多くの人々を魅了してきた。その結果が、この日、東京ドームにあふれたたくさんの笑いだ。「いつまでできるのかわからないけど」と添えながらも、「これからの20年も」と、この日何度も口にしていた渡辺。無限大ホール、さらに遡れば茨城から始まった“渡辺直美物語”は、これからも、ときにダンサブルに、ときに恨み節で、ときにポップにと、たくさんの笑いと様々な音楽で染められていくことだろう。

取材・文/小林千絵

配信チケット情報

『渡辺直美 (20) in 東京ドーム』

【日時】 2026年2月11日(水・祝) 15:30開場/17:30開演
【会場】 東京ドーム (東京都文京区後楽1丁目3-61)
【出演】 渡辺直美
【主催】 吉本興業株式会社/株式会社東京ドーム

■視聴チケット料金:4,000円(税込)
■販売期間:2月25日(水)21:00まで
※見逃し配信期間:2月11日(水・祝)生配信終了後、準備が整い次第~2月25日(水)23:59
※権利の都合上、会場の東京ドームと配信ではコンテンツの内容が一部異なる可能性があります。
※見逃し配信期間内は何度でも繰り返し視聴できます。

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